とある中佐の悪あがき 作:銀峰
結果から言おう。逃走成功しました。
無理させすぎて輸送船のエンジンが壊れ、煙吹きっぱなしになって焦ったぐらい・・・というか今も吹いてる。
追いかけようとはしていたみたいだが、ぶっちぎりでした。やっぱりジオン軍の船は早かった(実証済み)
でもこれ以上は流石に、輸送船を引っ張ってはちょっとやばそうだったのでチベ級に移ってもらうことにする。さっきのこともあるし、今にも爆発しそうだ。
こっちの船に来てもらうよう言ってはいるのだが、なかなか来てくれないのだ。
それで今はなにか輸送船の中にあるのか、確認と交渉の意味をこめて船に行く小型船の中だ。
「なにがあるんだろうな・・・」
お宝冒険に行く探検者の気分だ。
まだあの輸送船の中身は見ていないし、先の戦闘のいざこざで聞けてもいない。
別に損得勘定だけで助けたわけじゃ無いが、あんだけの事があったのだから別に少しぐらい良い物が入っていてもいいんじゃないだろうか。
別に輸送船に美人が乗っていて、キャー!ユーセル様ー!みたいなことがあっても良いけど。
・・・むしろそっちの展開希望です。
「べつに何も無いよ」
「・・・やっぱり?」
俺の呟きが聞こえたのか、隣の座席からそんな言葉が帰ってきた。
そちらに視線を向けると、中学生ぐらいの年齢の少女が行儀良くちょこんと座席に収まっている。
行くついでになにかこの少女のことが聞けないかと思い連れてきたのだ。
その少女は無表情で、かすかな報酬を期待していたユーセルの少年心を砕いていった。
いや・・・
「きれいな女の人はいるかい?」
「いるといえばいるかな。研究主任のたしか・・・って言う人」
よっし!
まだ希望はあるのだ。その一言で、下がっていたテンションがやや右肩上がりである。
いまいちきこえづらかったがまぁいい。
その女研究主任と出会って、
「助けてもらったご恩もありますしぃ。今晩研究室でどうです?お酒でも一緒に飲みませんかぁ」
そう酔った主任がしだれかかってきて、…ちゃったりして、
それで酔った二人はベットの上で組んず解れつ・・・みたいな!
いい、いいなぁ。
「・・・・・・」
「・・・・?」
急に、にこにこ始めたユーセルを見て少女は不思議そうな顔をするが、なにもできないのでただ眺めるだけしかできない。
どうせ会ってもテンパってまともに話せないと思うが、妄想するのはただなのである。
少年心は砕かれたが、少年心とは遠く離れた気持ちが顔に出ている。
中学生ぐらいの少女の隣でニコニコ笑顔の男、けっこう危ない図である。
部下になめられている要因の一つでもある。
尊敬してもらいたかったら、そういうところから直して出直してきてください。
どこかから嘲るようなオペ子の声が聞こえた気がした。
なぜか震えが…
機から聞こえてきた到着の合図で意識が戻る。
座席から立ち上がり、シャトルから出ようとして隣の少女に声を掛ける。
少女の名前を呼び、立ち上がるのを手伝おうとして、ふと気づく。
「・・・・そういや、名前聞いて無かったな」
「どうしたんだい?」
「いや名前聞いてなかったと思ってな」
「ああそういえば言ってなかったね。私の名前は、・・・クーディ」
「クーディね。知ってるとは思うけど俺はユーセル・ツヴァイ、ユーでもツヴァイでも好きに呼んでくれ」
「知らなかったよ。違う人が呼んでるのは聞こえたけど、中佐って呼んでたから」
「ん。そうか、じゃあ降りようかクーディ」
「ああツバャ・・ツリャ・・・・ツヴァイさん」
「・・・言いにくいならツヴァイじゃ無くてもいいぞ」
別に言いにくいわけじゃないと思うんだけどな。
というか何で俺は数字の二というツヴァイにしたんだろうな。
誰もツヴァイさんと呼んでくれないし、大体が軍隊にはいってから階級何だよなぁ。中佐とか司令とか。
名前も訳したら二三だし・・・
・・・子供時代は、親もいないし、友人も作らないで働きまくってたからなぁ。あれもしかして俺、名前…まともに呼ばれたことない…?ソンナバカナ
「・・・ごめんなさい。じゃあユーさん」
「・・・・何か久しぶりの感覚だなぁ」
「なんだい?」
「いやなんでもない・・・まぁいいか」
「?」
足が軽くなったような気分だ。
今度こそ手を引いてシャトルから降りる。
少し時間が掛かってしまった。
「なんで降りなきゃいけないのよ!」
「ですからここは危ないんですって…」
「そんなの知らないわよ!」
突然の大声に、さっきまで上がっていたテンションが大幅に下がるのをかんじつつ、声がしたほうを振り返る。
先に操縦士が降りて説得を試みているようだ。
タラップを伝ってブリッチに降りる。
「だから・・・!」
「そうは言われましても・・・」
大小の荷物を背負っている人々のなか、如何にも研究員といった、30前後の白衣を着た女が家のクルーに食い掛かっている。
どうやらあの女性が癇癪を起こして、避難するのを嫌がっているようだ。
嫌な予感がする。まさか・・・・
「なぁまさかとは、万が一つ、違うとは思うけど、あれがいってた人?」
「・・・そうだけど?」
オウゥ!ジーザス!神は死んだ・・・
密かに楽しみにしていたあれこれの妄想が、ガラガラと音を立てて崩れていく。
「はぁぁぁぁ」
ああゆうのをみると少し厳しい…正直苦手です。
周りに他の女性がいないか見てみたが、あの人以外にいないようだ。想像してたような色気はないが十分に美人の部類にはいるだろう。あんな風に顔を怒らせて怒鳴ってなければ、はぁ。
もう女性とのあれこれは期待しないから、せめてありがとうございます!的な声援を貰いたいです…
腰の当たりを引っ張られる感覚。
視線をおろすとクーディがくっついていた。よく見ると小さく手が震えていた。
「・・・クーディどうした?」
「いや、なんでも」
「なんでもってことは…ああ」
未だに怒鳴っている方を見て納得する。
引き返す訳にもいかないしなぁ。丁度タラップの中央で言い合いをしている男女がじゃまで通れん、ため息をつく。クーディをシャトルにのこすと万が一説得されて鉢合わせ!なんてことになったらやっかいだ。
クーディを背に隠しつつ、通せんぼしている二人に近づいていく。
「どうしたんだ」
「あっ中佐それがですね。この人がなかなか降りてくれなくて、他の人はいつでも降りてくださるそうですけど」
「ふうん」
説得に当たっているやつの肩を叩いて、事情を聞く。
まあ大体予想どうりだ。
問題はどうして降りてくれないかだが・・・
荷物か?
「この船はもう危険な状態です。避難してもらわないと。荷物を持ち出せるだけの猶予はつくりますが」
「それじゃないのよ!荷物はそんなに無いからこれだけでいいけど!あれは持ち出せないの!」
「あれとは?」
「うっ・・・それは、どうでもいいじゃない。それよりあのチベでこの船を引っ張っていけばいいだけじゃない」
女性は一瞬言いよどみ、後ろに数歩下がる。
それを好機と見たのか、すかさずさっきまで説得に当たっていたやつが割り込んでくる。
「ですからもうこの船は危険な状態なんです。避難してもらわないと」
「それを__」
埒があかない。
この言いようから察するに個人レベルの荷ではなく、大きい研究資材かモビルスーツモビルアーマーの類ではないだろうか。
その程度ならできるだけ運び込めばいいだけだ。
面倒くさい。頭を少し掻く。
ともかく実物を見せてもらう、そうで無ければ判断がつかない。
それがあるのは格納庫かこの人の個室か、個室はたぶん無い。
大型のものは入らないし、持ち込めないだろう。
さっきの攻防のお陰で人二人分の道があいた。
というわけで格納庫に行くことにする。
「おい説得頼むぞ」
「えっちょっと中佐・・・」
「よろ」
「いやよろじゃなくて・・・あーもうなにしに来たんですかあなた!」
後ろから悲鳴が聞こえるが、あれは嬉しい悲鳴だろう、美人と一緒に話せてよかったね。
変わりたいとは思わないけど。
格納庫らしき方向にあるドアを開き、クーディを連れてここからでる。
見たところ狭い艦内だし直ぐに着けるだろう。
「なんで私まで?」
「いやあそこに残しといたら、めんどくさいことに成りそうだったし、連れてきたほうが良いかと思ってな。後案内役」
「ふうん。でも艦内のことならユーさんより多少詳しいから案内も多分できるよ。こっち」
「ああ頼む」
研究員から離れて少しは落ち着いたらしい、俺の背から離れ艦後方の方角を指す。
彼女の向かう方向に従って、可動式の手すりを掴んで移動した。
「ここだよ」
格納庫に着き、何か大きいものが鎮座しているのが見える。
シルエットはチューリップかなにかだろうか?
暗くてよく見えない。
「電源は?」
「たしかそこの近くに・・・」
二人で電源を探して付ける。
緑色の機体、モビルアーマーだ。
アニメでは一機しかでてないから、あの人の専用機と思っていたのだが・・・
「ほうこれは」
「っ・・・!」
機体前面はパイロット保護のため厚い装甲板で覆われている。
さらに長距離射撃用メガ粒子砲が2門装備してあるはずだが、取り外されたのだろう。
あるべき物が無く空白である。
機体全体に中から破裂したような後が数箇所見られ、まともに動きそうな状態ではない。
だがこの機体自体はビットの運用目的に特化したもの。
本体はバーニアなどの推進器などで占められてあるはずだ。
最悪ビットが無事なら本体はいらないともいえる。
たぶん・・・
「・・・」
あんまり傷ついていない装甲板に近づいて、形式番号を探してみる。
全体的に、ぼろぼろすぎて見つからない。
探すのは諦めて、そばにあるモニターを操作して検索する。
幸いなことにつけっ放しでロックが掛かっていない。
ヒット。
詳細なデータが出てきた。
型式番号;MAN-08(MAN-X8)
所属;ジオン公国軍
操縦士;未定
全高;47.7m
全長;8__
___
__
我がフラナガン機関のニュータイプ搭乗を前提とし、本機をブラウ・ブロの思想を更に押し進め、完全なるニュータイプ専用機として開発する。
1基のメインバーニアと無数に配置された姿勢制御バーニアにより高い機動性を実現。
ミノフスキー粒子格子の振動波をサイコミュで制御。
ミノフスキー通信によりビットを無線誘導し、長距離からの攻撃もしくは攻撃対象に対して予期せぬ方向からの攻撃を目的に計画されたものである。
なお本機は一号機であり、後に建設中の二号機三号機のテスト機である。
テストベースといってもほぼほぼ完成体であるので実戦投入には問題無いと思われる。
パイロットはやや高いニュータイプ能力を持つクーディ・アルミスト曹長を搭乗させ、最終実験を実施する。
最終テストは本日一一○○に開始予定である___
「ふーむ」
最後の一文で読むのを止め額を押さえる。日付けは半月前ぐらいか?
大体知ってることばかりだった性能云々だろう。
原作に出てきたエルメスの試作機なのだろうというのは分るが、なんでこんな状態になってるんだ?
しかもクーディって・・・
ちらりと隣に立っている少女を盗み見る。
彼女は無表情でただ突っ立っていて、何を考えているのか分らない。
「なぁ・・・これってお前のことなのか」
「・・・そうだよ」
このままじゃ埒が明かないと、思い切って切り込んでみる。
彼女はすこし驚いたようだったが、ゆっくりとうなずく。
「私はこれに乗った」
「・・・続きいいか。駄目とかだったら別にいいが」
「いや大丈夫だよ。むしろ聞いて欲しいかな」
「・・・そうか」
クーディは俯きぽつりぽつりと話し始めた。
「私ニュータイプって言うんだって」