体育の時間。3クラス合同の体育で、さらにそこから陸上とバレーに別れている。千尋はバレーを選択していたが、陸上にすれば良かったと、心底後悔していた。なぜなら、
「では、4人組を作れー」
これだ。陸上にしとけば個人種目なのでこんな事にはならなかったはず……と、後悔していた。まぁ種目を選択した時はまだ友達作りたいとか思っていたし、仕方ないといえば仕方なかった。
で、案の定というかなんというか、C組の女子は千尋を残して全員組んでしまっている。また先生に言って何処かに混ぜてもらおう……と、思ってたら肩に手を置かれた。
「ちーちゃん、おいで?」
「へっ?」
結衣だった。
「あたし達、優美子と姫菜と三人だけだから組まない?」
「でも、他のクラスじゃ……」
「そんなの関係ないって優美子が……」
「あ、あ〜……じゃあ、混ぜてもらおっかな」
「うん、おいでおいで」
仲良くやっていた。
×××
放課後。掃除当番で少し遅れた千尋が部室に入ると、少し意外な光景が見えた。
「無理ね」
「いや無理って。お前さー」
「無理なものは無理よ」
バッサリ切り捨てる雪乃。
「何が無理なの?」
「あら、早川さん。こんにちは」
「こんにちは」
「この男が2-F組の子にテニス部に入らないか?と誘われたみたいなのよ。その場合、この奉仕部は辞めることになると思うから、その可能性をバッサリ切り捨ててあげただけ」
「えっ、比企谷。辞めちゃうの……?」
「うっ……」
少し寂しそうな顔をした千尋に八幡は少し罪悪感に追われた。
「……いや、話を聞いた限りだと辞めさせてもらえないそうだ」
「そっか。良かった」
微笑まれて、顔をそらす八幡。
(こいつの考えてることはよく分からん……)
そう思いつつも、八幡は雪乃に何か言われる前に会話を逸らした。
「戸塚のためにもなんとかテニス部強くならんもんかね」
「……珍しいこともあるのね。あなた、人の心配するような人だったかしら?」
「まぁ、人に相談されたの初めてだったんで、ついな……」
八幡は頬をぽりぽりと掻いた。
「雪乃だったらどうする?」
「そうね。全員死ぬまで走らせてから死ぬまで素振り、死ぬまで練習、かな」
微笑と共に言われて、八幡も千尋も半分くらい本気で引いてると、ガラッと部室の戸が開けられた。
「やっはろー」
「やっ……えっ?」
「気にするな早川。ガハマ民族の挨拶だ」
「ちょっ、勝手に民族作るなし!」
結衣がそう言うと、後ろから1人の少年が顔を出したを
「あ……比企谷くんっ!」
「戸塚か……」
戸塚だった。戸塚はとててっと八幡の前に駆け寄ると、パァッと明るい笑顔で言った。
「比企谷くん、ここで何してるの?」
「いや、俺は部活だけど……お前こそ、なんで?」
「今日は依頼人を連れてきてあげたのよ、ふふん」
自分が聞かれたわけでもないのに、得意げに胸をそらす結衣。無駄にでかい胸を横目で見ながら、千尋はため息をついた。そんな千尋の気も知らずに結衣は得意げに言う。
「やー、ほらなんてーの?あたしも奉仕部の一員じゃん?だから、ちょっとは働こうと思ってたのよ。そしたらさいちゃんが悩んでる風だったから連れてきたの」
「由比ヶ浜さん」
「ゆきのん、お礼とかそういうの全然いいから。部員として当たり前のことしただけだから」
「由比ヶ浜さん、別にあなたは部員ではないのだけれど……」
「違うんだっ⁉︎」
「違うのっ⁉︎」
千尋も反応した。
「ええ。入部届をもらっていないし、顧問の承認もないから部員ではないわね」
「ちーちゃんは⁉︎」
「ちーちゃ……早川さんからは平塚先生が預かったと聞いたわ」
「そんなぁ!」
絶望的な声を上げる結衣を無視して千尋は雪乃の後ろに回った。
「ねぇ、今ちーちゃんって言いかけた?言いかけたよね?」
「気の所為よ」
「呼びたかったらそう呼んでくれていいんだよ?」
「やめとけ早川。10倍返しくらいされるぞ」
八幡に止められたのでやめた。
「で、戸塚彩加くん、だったかしら?何かご用かしら?」
「あ、あの……テニスを強く、してくれる、んだよ、ね?」
途切れ途切れにそう戸塚は言った。
「由比ヶ浜さんがどんな説明をしたのかは知らないけれど、奉仕部は便利屋ではないわ。あなたの手伝いをしら自立を促すだけ。強くなるもならないもあなた次第よ」
「そう、なんだ……」
それを聞いて、「そうだったのか……」と千尋は呟いた。
「由比ヶ浜さん」
「何?」
「何、ではないわ。あなたの無責任な発言で1人の少年の淡い希望が打ち砕かれたのよ」
「ん?んんっ?でもさー、ゆきのんとヒッキーならなんとかできるでしょ?」
あっけらかんと結衣はそういった。それを聞いて、雪乃は挑戦的な笑みを浮かべた。
「……ふぅん、あなたも言うようになったわね、由比ヶ浜さん。そこの男はともかく、私を試すような発言をするなんて」
そんなわけで、依頼を受けることになった。