私の青春ラブコメも間違っている   作:アリオス@反撃

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中二病とライトノベルとその感想

「じゃ、帰ろっか」

 

4人は材木座から受け取った原稿をそれぞれ持ち帰り、家で読み返すことになった。

 

「あたしバスだから」

 

「私は電車」

 

「私チャリ」

 

「俺も」

 

結衣と雪乃と別れ、八幡と千尋は自転車を取りに行った。

 

「比企谷、途中まで一緒に帰ろ?」

 

「お、おう」

 

「? 何を緊張してるの?」

 

「いや、別にしてない」

 

「そう?まぁこれから同じ部活でやっていくんだし、仲良くしようよ」

 

「お、おう……」

 

微笑まれて八幡は目を逸らす。

 

「さて、じゃあ帰ろうか」

 

2人は自転車に跨りながら家に向かう。偶然にも同じ方向だった。

 

「比企谷は好き物とかあるの?」

 

「……あーそうだな。MAXコーヒーとかだな」

 

「うえー……甘ったるい奴じゃん……」

 

「バッカお前あの甘さがいいんだよ」

 

「BOSSのとろけるカフェオレのが好きだなー」

 

「はっ、あんな偽MAXコーヒーを好きなんてわかってねぇな」

 

「そう?美味しければなんでも良くない?」

 

「いや、まぁ確かにその通りなんだけど……というか早川も甘党なんだな」

 

「え?うん。甘いものがないと生きていけないんだよね〜。あと去年は糖尿寸前だった」

 

「ダメじゃねぇか……」

 

「好きな物食べて死ねるんなら本望!」

 

「アホなことを大声で叫ぶな。一緒にいるこっちが恥ずかしい」

 

「………それ、少し前にクラスの子に言われた台詞と酷似してるからやめて……」

 

「………すまん」

 

そのまま2人で帰宅。

 

「あ、私ここ家だから。またね」

 

「えっ」

 

「えっ?」

 

「隣、俺ん家」

 

「えっ」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

「こ、これから宜しくお願いします」

 

「こ、こちらこそ……」

 

2人はお互いの家に入った。

 

 

 

×××

 

 

 

千尋の自室。父親は仕事、母親も、仕事。共働きという奴だ。

 

「さーて、材木座くんの小説はどんなのかなー」

 

意気揚々に読み始めたが、段々と表情が曇る。

 

「なんこれ……えっと、どゆこと?」

 

ワケがわからなかった。何がどうなってどうなるのか分からない。色んな意味で先が読めない展開だった。

 

「………雪乃とかのアドレスもらっとけばよかった……」

 

そう呟くと、原稿を持って部屋を出た。

 

 

 

×××

 

 

 

比企谷家。

 

「………なんだこりゃ」

 

原稿を読みながら八幡はそう呟いた。すると、元気良くドアが開かれた。

 

「お兄ちゃーん!」

 

「あのね、小町ちゃん?ノックしようね?」

 

「お客さんだよー!」

 

「話聞いてた?ていうか、嫌味のつもり?俺に客なんてこないでしょ」

 

「いや本当に。お兄ちゃん、洗脳でもしたの?」

 

「してねぇよ。俺のことなんだと思ってるの?」

 

「いいから早く」

 

「分かったよ……」

 

八幡は緊張気味に一階に降りた。自分に客が来るなんてハレー彗星並みの頻度だからだ。

 

「……あ、比企谷ー」

 

「……早川。お前何しに来たの」

 

「ちょっと……これのことで……」

 

言いながら材木座の原稿を見せた。

 

「………ああ、なるほどな。上がってくれ」

 

「どーもー」

 

許可が出て千尋は靴を脱いで八幡に続いた。すると、ピョコンと小町が飛び出てきた。

 

「兄がいつもお世話になってます。妹の小町です」

 

「あ、私は早川千尋です。ひき……八幡くんとは同じ部活です」

 

「可愛い方ですね。お兄ちゃんにはもったいないです!」

 

「そんなことないよ。八幡くんだってカッコいい顔してるじゃん」

 

「………あの、失礼ですが、千尋さんの目は節穴ですか?」

 

「ちょっと、小町ちゃん?どういう意味?」

 

後ろから八幡が声を上げる。

 

「兄の何処がカッコいいんですか?目がとんでもないことになってますよ?」

 

「と、とんでもないことになっちゃってるの?どうなってるの俺の目?」

 

八幡がまた呟いた。

 

「うーん……目は確かにアレかもしれないけど、顔は整ってるんじゃないかな?」

 

(目はアレなのか……というかアレってなんなんだ?写輪眼?)

 

「それで、何処でやるの?」

 

「えっ、あーえっと……じゃあ俺の部屋でやるか」

 

「うん。お邪魔します」

 

2人は八幡の部屋へ向かった。

 

 

 

×××

 

 

 

(まさか、俺の人生で女の子を部屋の中に入れるようなことがあるとは……)

 

ほんのり感動しながら八幡は「適当にかけてくれ」と、言った。

 

「へぇー……わたし、男の子の部屋に入るの初めてなんだー。意外と綺麗なんだね」

 

「お、おう……」←緊張して上手く話せない。

 

「なんか面白いものないの?エロ本とか」

 

「ねぇよ。あー飲み物何がいい?」

 

「へ?あ、あーえっと……いや、いいよ。ちょっと話聞きたかっただけだし」

 

「えっ?い、いいの?」

 

「えっ?やっぱいる」

 

「お、おう?」

 

「や、でも……」

 

話がまったく進まなかった。

 

「………じゃあ、お茶で」

 

「了解……」

 

八幡は部屋を出た。で、お茶を淹れて戻って来た。

 

「はい、お茶」

 

「あ、ありがと」

 

「それで、何を聞きたいって?」

 

「この支離滅裂な文章の事なんだけど……読んだ?」

 

「ああ、読んだよ。冒頭だけな」

 

「これ、どうすればいいの?面白いつまらない以前に完結すらしてないんだけど……」

 

「まぁ、その辺の指摘は雪ノ下がしてくれるさ。俺たちは一通り読んで思ったことを言ってやればいいだろ」

 

「………そっか。なるほど、ありがと。帰るね」

 

「まさか、それを聞くためだけに来たのか?」

 

「うん。家が隣でよかったよ。まだ結衣と雪乃のアドレスもらってないし……。あ、丁度いいや。比企谷のアドレス教えてよ」

 

「えっおう」

 

戸惑いながらも八幡はスマホを千尋に渡した。

 

「わ、私が打つんだ……。勝手に中見ていい?」

 

「別に。見られて困るモンもないし」

 

「了解。……えーっと……」

 

と、自分のスマホにアドレスを入力し始める千尋。

 

「あ、ついでにLINEも交換していい?」

 

「そんなもんやってない」

 

「あ、そう……。ようやく公式アカウントと家族以外の友達が追加されると思ったんだけど……」

 

「お、おう。すまん……」

 

気まずい沈黙。

 

「インストールするから貸せ」

 

八幡からその沈黙を破った。

 

「な、なんかごめんね……」

 

「別にいい」

 

「あっ、ついでにパズドラもやろうよ!」

 

「ああ、そっちなら俺もやってる。ていうか、女子もパズドラってやるのか?」

 

「ランク250くらいまであげたけど、クラスの子誰もやってなくてドン引きされたよ」

 

「お、おう……。なんか悪い」

 

「ううん。過去のトラウマなんて気にしてたらキリないよ」

 

で、LINEを登録してパズドラも登録した。

 

 

 

×××

 

 

 

翌日の昼休み。

 

「ちょっ、千尋。あんた顔色ヤバくない?」

 

飯を食ってる時に、優美子に声を掛けられた。

 

「うん……昨日は夜更かししちゃって……」

 

「女の子が徹夜とかよくないっしょそういうの。肌とか荒れるんしょ?」

 

「確か、髪にもよくないって聞くよね」

 

海老名さんも頷きながら言った。

 

「1日くらい平気だよ……。親父も髪の毛もっさもさしてるし」

 

「そういえば、早川さんってその茶髪は染めてるの?」

 

葉山に聞かれた。

 

「ううん。地毛だよ」

 

「地毛ぇ⁉︎」

 

結衣が過剰に反応した。

 

「何それズルい!染めなくても髪の毛茶色いとか!」

 

「別に茶色くてもいいことないよ……。虐めの的になるだけだし……」

 

「へっ?い、虐められてるの?」

 

海老名さんがその言葉に反応し、優美子と葉山も眉をピクッと動かした。が、当の本人は気にした様子なく欠伸をする。

 

「ううん。少し前にそういうことあっただけ。先生には目を付けられるし、散々だよ……」

 

「あ、ああ、そゆことか……」

 

「ビックリしたよ……」

 

その会話を聞きながら結衣はホッと胸を撫で下ろした。

 

 

 

×××

 

 

 

で、放課後。部室に行こうと千尋が荷物をまとめてると、目の前に材木座が立った。

 

「ん、何?材木座くん。これから部室行くから感想なら……」

 

「千魔の魔女よ」

 

「」

 

顔が真っ青になる千尋。周りも材木座が誰かと話してるのが珍しいのか、2人に注目するが、構わず材木座は続けた。

 

「我と契約し、政府を転覆しようではないか」

 

「」

 

「どうした?サウザンド・ウィッチ」

 

別称を言われて顔が青から白くなった後、赤くなる千尋。どうやら、完全に同類と見られてしまったようだ。周りの騒めきに追い討ちをかけられる。

千尋は涙目で、壁をも走れそうな勢いで、部室に逃げ込んだ。その千尋に、すでに部室にいた八幡、結衣、雪乃はビクッとしつつ視線を集めた。

 

「な、何?」

 

「お、落ち着いて入ってきてくれるかしら。サウザンド・ウィッチさん」

 

「それが落ち着かせるつもりのある台詞かぁ!」

 

雪乃の台詞にビシィッ!とツッコミを入れる千尋。

 

「な、何かあったの……?」

 

引き気味の苦笑いで結衣が聞いた。

 

「材木座くんが私のことを教室で千魔の魔女って言っちゃったの!お陰で明日から私は虐められっ子から痛い子に……」

 

それに八幡は少なからず同情した。

 

「確かに……中学の頃は生まれつき茶髪だったし……何か能力がある気がしないでもなかったけど……今は違うもん……」

 

(中学の頃の引用だったのか……サウザンド・ウィッチ)

 

「そういえば、クラスメイトには『略してサンドイッチ』ってバカにされてたっけなぁ……」

 

しみじみそんな自分の黒歴史を思い出してると、材木座が一足遅れて入ってきた。

 

「頼もう」

 

そして、椅子に脚を広げて座った。

 

「さて、では感想を聞かせてもらおうか」

 

なんであれで自信満々なんだろう……と、千尋と八幡が思う中、雪乃が最初に語り始めた。

 

「ごめんなさい。私にはこういうのよくわからないのだけれど……」

 

「構わぬ。凡俗の意見も聞きたいところだったのでな。好きに言ってくれたまへ」

 

そう、と一息つくと、雪乃は言った。

 

「つまらなかった。読むのが苦痛ですらあったわ。想像を絶するつまらなさ」

 

「げふぅっ!」

 

その一言を聞いた瞬間、千尋は耳を塞いで目を閉じた。聞くと材木座に全力で同情してしまうからだ。しばらく頭の中で寿限無(銀魂ver)を唱えていたが、バタン!という耳を塞いでても聞こえてきた音に思わず目を開けた。

 

「な、何⁉︎」

 

見れば、材木座が大の字に倒れていた。肩がビクンビクンと痙攣していて、目は白目を剥いている。

 

「………雪乃、何したの?」

 

「率直な感想を述べただけよ。じゃあ次、由比ヶ浜さん」

 

「え⁉︎あ、あたし⁉︎」

 

驚きと共に結衣は材木座を見た。涙目だったので、どうにか褒める部分を探し出し、自分の中に浮かんだ言葉をそのまま発した。

 

「え、えーっと……。む、難しい言葉をたくさん知ってるね」

 

「ひでぶっ!」

 

「トドメ刺してんじゃねぇよ……」

 

比企谷が結衣を引き気味に見た。

 

「ち、ちーちゃんお願い!」

 

逃げるように千尋に言った。すると、材木座は千尋にすがるような視線を向ける。同類同士、分かり合えるとでも思ったのだろう。だが、千尋はさっきの教室での一件をまだ根に持っていた。

 

「自分を主人公のモデルにするの、やめたら?」

 

「ィギャアァアッ‼︎」

 

さらに床を転がる。そして、その転がった先には八幡が立っていた。

 

「ぐ、ぐぬぅ。は、八幡。お前なら理解できるな?我の描いた世界、ライトノベルの地平がお前ならわかるな?愚物どもでは誰1人理解することができぬ深遠なる物語が」

 

「……あの2人って知り合いなの?」

 

その台詞を聞いて千尋は隣の結衣に聞いた。

 

「なんか体育でペア組んでるらしいよ」

 

「へぇ〜……待って。じゃあ昨日、別に私が材木座くんの相手する必要なかったんじゃないの?」

 

ジロリと雪乃を睨んだが、雪乃は目をそらした。後でじっくり問い詰めてやると思ってると、八幡から声がした。

 

「で、あれって何のパクリ?」

 

「ぶふっ⁉︎ぶ、ぶひ……ぶひひ」

 

床をゴロゴロとのたうちまわり、壁に激突して動きを止める材木座。それを見ながら雪乃は八幡に言った。

 

「……あなた容赦ないわね。私よりよほど酷薄じゃない」

 

本当にその通りだと千尋が思ってると、結衣が千尋の袖を引っ張った。

 

「ちょっと、何とかしてあげなよ」

 

「絶対に嫌。比企谷」

 

押し付けると、八幡は言った。

 

「まぁ、大事なのはイラストだから。中身なんてあんまり気にすんなよ」

 

 

 

×××

 

 

しばらくの間、ひっひっふぅーと心を落ち着かせると、材木座は立ち上がった。

 

「………また、読んでくれるか」

 

「お前……」

 

「ドMなの?」

 

「いやそういうんじゃないでしょ」

 

材木座の台詞に、八幡、結衣、千尋と言った。

 

「お前、あんだけ言われてまだやるのかよ」

 

「無論だ。確かに酷評されはした。もう死んじゃおっかなーどうせ生きててもモテないし友達いないし、とも思った。むしろ我以外みんな死ねと思った」

 

「そりゃそうだよね。アレだけ言われたら私でも死にたくなるよ」

 

「だが、それでも嬉しかったのだ。自分が好きで書いたものを誰かに読んでもらえて、感想を言ってもらえるというのはいいものだな。……読んでもらえるとやっぱり嬉しいよ」

 

それを聞いて千尋はなんとなく感動した。誰かに伝えたかったことがあるから書き、それで誰かを動かせたのなら、さらに嬉しい。その嬉しさがあるから、何度だって書きたくなる。

 

「ああ、読むよ」

 

「私も、暇だったら読む。ラノベは好きだし」

 

八幡と千尋はそう頷いた。すると材木座は笑顔で返した。

 

「また新作が書けたら持ってくる」

 

そう言い残して材木座は部室から去って行った。

 

 


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