翌日の放課後の職員室。
「ひーらつーかせーんせい!」
「……何の用だ。早川」
「入部届け下さい!」
「入部届け?何か部活に入るのか?今から?」
「はい!奉仕部に!」
「………何があった」
「いやー比企谷くんに助けてもらいましてね。私も、人助けがしたいなーって」
「ふむ……まぁ生徒が進んで部活に入るのは私は止められんさ。ほら、これだ」
「ありがとうございまーす、これ誰に出せばいいですか?」
「雪ノ下か私に出してくれればいい」
「りょーかいでーす。じゃあこれ私からお返し」
「ん、なんだ?」
言いながら千尋は婚姻届を渡した。
「早く結婚しなよ♪」
「余計なお世話だ☆」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」
明るい口調でアイアンクローを決めて来たので、とりあえず全力で謝った。
×××
で、周りより一足遅れて部室へ向かうと、なんか騒がしい声が聞こえた。
「ムハハハ、とんと失念しておった。時に八幡よ。奉仕部とはここでいいのか?」
聞き覚えのある声に、部室の中を覗くと同じクラスの材木座義輝がいた。
「こんにちはー」
「あ、ちーちゃん!」
結衣が千尋の元へ駆け寄った。と、思ったら背中に隠れた。
「結衣?どしたの?」
「ちょっと……」
結衣の嫌そうな視線の先には材木座がいる。よく見れば、雪乃も八幡も嫌そうな顔をしていた。
「あら、早川さん。何かご用?」
「えーっと、平塚先生に入部届け出しに行ってたんだ。奉仕部の」
「ここの?」
「うん。これからよろしくね、雪ノ下さん……いや、雪乃って呼んでもいいかな?」
「それは構わないのだけれど、それなら早速仕事をお願いしてもいいかしら?」
「ん?何?」
「アレの相手をお願い」
雪乃の視線の先にはやはり材木座がいる。
「お前……スゲェな、新入部員にサラッと面倒くさい仕事押し付けやがった……」
「押し付けたのではないわ。一任したのよ」
「それ同じだろ……」
その一任された千尋は、背中の結衣を置いて材木座に近付いた。
「えーっと、材木座くんだよね?同じクラスの早川千尋です」
「……い、いかにも!我こそが剣豪将軍、材木座義輝であろう!」
名前を覚えられていて、少し嬉しかったのか、材木座の声のトーンは少し上がった。
「……………」
それを見てしばらく黙り込む千尋。しばらく悩むような顔をしたあと、決心した顔になり、バッ!と構えを取った。
「私の名は千魔の魔女……サウザンド・ウィッチ」
「」
「」
「」
雪乃、八幡、結衣が黙り込む中、若干顔を赤らめながら千尋は続けた。
「剣豪将軍、貴様がここへ来た理由を述べよ」
すると、材木座はスッゴイ嬉しそうな顔で言った。
「ふむん、実は……貴様らに頼みがあってやって来た」
「つまり、我ら『峯死武』に依頼に来たと?」
「その通りだ。………ちょっとこれ拾うの手伝ってください」
素に戻って材木座は床に散らばってる原稿用紙を集めた。それを手伝う千尋。で、トントンと整えると、材木座はブアッ!と紙を宙に投げ捨てた。
「我は今度、とある新人賞に……」
「もう私拾わないからね」
「アッハイ」
急に素に戻られ、演出の意味をキャンセルされたものの、材木座は続けた。
「とある新人賞にこれを応募しようと思うのだが、友達がいないので感想が聞けぬ。読んでくれ」
「なんか今、とても悲しいことをさらりと言われた気がしたわ……」
頭痛を抑えるようにこめかみを抑える雪乃。
「でも感想欲しいだけなら、投稿サイトとか投稿スレに晒せばいいんじゃねぇの?」
八幡が言うも、材木座は眼鏡を中指で抑えながら言った。
「ふん、それは無理だ。奴らは容赦ないからな。酷評されたら我は死を選ぶぞ」
「心弱ぇー……」
思わず呆れる八幡。そして、ちらりと雪乃を見た。
「でも、多分投稿サイトより雪ノ下の方が容赦ないよ?」
「ふむ、構わんよ。では、よろしく頼むぞ。さらばだ!」
材木座はシュバッ!と口で言いながら去って行った。静かになった部室で、雪乃、八幡、結衣は千尋を見た。千尋は顔をじわじわと真っ赤にして手で抑え、しゃがみ込んだ。
「………もう、お嫁に行けない」
「お前……材木座と話をするためにわざわざあんなことしたのか?」
「仕方ないじゃん!中二の相手をするには自分が中二になるのが手っ取り早いかなーって思ったんだもん!」
「だからってお前……なんだよ千魔の魔女って……若干、自分の名前と掛けてるし……」
「言わないで!」
「だ、大丈夫だよちーちゃん!あたしはちゃんと分かってるから!」
話に入った結衣の方をガバッと見る千尋。
「何を⁉︎今ので何を分かったの⁉︎」
「そ、それはー……ち、ちーちゃんとアレが同類だってことを……」
「うわあああん!」
膝を抱えて悲鳴を上げた。
「お前、トドメ刺してんじゃねぇよ……」
「あ、あはは……」
八幡に言われて頬を掻いて目を逸らす結衣。今度は雪乃が千尋の肩に手を置いた。
「泣かないで、あなたは頑張ったわ早川さん」
「雪乃……」
「だからこれからはサウザンド・ウィッチさんと呼ばせてくれるかしら?」
「いっそ殺してえええええ!」
余計に泣き出した。