遊戯部部室前。
「で、こいつら全員殴り殺せばそこのデヴ殺しても良いんだよね?」
「おい、さっきから早川の荒み方ハンパないんだけど。誰かなんとかしてくれ」
「いっそ、今彼を早川さんが殺せば依頼も消えて一石二鳥なのだけれどね……」
「おい雪ノ下、怖いこと言うなよ……」
「だってさー、せっかくさー、重たい空気和らげてさぁー、みんなノリが軽くなってさー、全部解決すると思ったらさー、あのクソたぬき……」
大きく千尋はため息をついた。
「なんだ、お前でも空気重いって感じることあるのか」
「そりゃあるよ。でもその空気に流されるのは嫌いだからさ。何かしないと始まらないじゃん」
「ちーちゃん……!ちーちゃーん!」
「結衣ー!」
感動しました!みたいな感じで結衣と千尋は抱き合った。
八幡がノックをすると、「はいー」と気だるげな声が返ってきた。扉を開ける。中はうず高く積まれた箱、本、パッケージがあった。
「はぁ?ここユーギ部じゃないの?なんかゲームっぽくない」
「そうかしら?私はこちらの方がしっくりくるけれど。由比ヶ浜さんがイメージしてるのはピコピコの方よね」
「ピコピコってwww雪乃可愛い!お婆ちゃんみたい!」
「ッ……!だ、だってピコピコ言うじゃない……!」
「ピコピコwww言い方可愛い」
「その辺でやめとけよ早川。
「八幡はどんなゲームやるの?」
「あ?俺は……まぁ、一人でやるゲームだな。ドラクエとか」
「ラブプラスとか?」
「あーそうそ……いややらねぇから」
「いや遅いから。一回バラしたから今」
「ちーちゃんはどんなゲームやるの?」
「私?アプリだとパズドラとか白猫とかシャドウバースとか……それ以外だとジージェネとか艦これとか……最近はpso2とか」
「何、お前ボッチの癖にオンゲやってんの?」
「分かってないなぁ。オンゲでの協力プレイ中の仲間は体育のチームメイトよりよっぽど信頼できるよ。死んでも蘇生してくれるし、全体にパワーアップ魔法みたいなの掛けてくれるし。何より、共通の目的を持ってるから裏切るとか無いしね」
「なるほど……」
そんな話をしてると、雪乃が呆れたようにため息をついた。
「ゲームね……私には理解できそうにないわ」
「そうでもないって。確か、パンさんのゲームとかも出てるぞ」
「へ?パンさん?どしたん急に?」
「へ?あーいやそれは……」
雪乃がパンさん好きなことを話そうとした直後、雪乃が割り込んだ。
「比企谷くん、何の話をしているの?」
「はぁ?お前何って」
「比企谷くんの言うことはよく分からないわね……だから、後で詳しく」
目がマジだった。どうやら、周りにはあまり知られたくないらしい。
で、いい加減話を進めるために、雪乃は話題をそらした。
「ところで、部員はどこにいるのかしら」
「あー確かに、さっき声はしたのにね」
「ふむぅ、積みゲーや積読は最も多く時間を過ごす場所ほど高く積まれる。ゆえに、一番高いところを目指せばおのずと居場所はわかる」
「おお、材木座、すげぇな。でもそういういいことはせっかくだから俺以外にもちゃんと言おうぜ」
そこを注意しておきつつ、材木座のアドバイス通り一番高く積まれているタワーを目指した。すると、本や箱が邪魔で見えないが、確かに声が聞こえてきた。男子が二人、そこにいる。
「邪魔して悪い。ちょっと話があんだけど」
八幡がそう言うと、遊戯部の二人はコクッと頷き返した。
すると、材木座がとあることに気付いた。
「む、貴様ら一年坊主か!」
相手が年下と分かるといなや、材木座の態度はすぐに大きくなった。
「おい、お前ら。材木座さんになめたクチ聞いたみたいじゃねぇか。いいぞ、もっと言ってやれ」
「言うどころかサンドバックにしていいから。格ゲーじゃなくてリアルで」
「あ、あれー?ハチえもん⁉︎サウザンド・ウィッ……」
直後、本気で殺しに掛かった千尋を雪乃と結衣がなんとか止めた。このやり取り何回目だよ。
「あー。君らこの男に用あんだよな?」
八幡がそう言うと、材木座がずいっと前に出た。
「ふはははは!久しいな。昨日は随分と大きな口を叩いてくれたが、いまさら後悔しても遅いぞ!人生の先輩として、そして高校の先輩として我が灸をすえてやろう!」
「……おい、さっき話してたのってこの人?うはー痛え」
「だろ?マジないよな」
ぷっくすくす、とでも言うべき嘲笑に材木座が動揺するが、一々八幡は反応しなかった。
「俺ら奉仕部っつー、要はお悩み相談室なんだけど、材木座が君らともめたっていうからその解決に来たんだが……えーっと、もめたのはどっち?」
「あ、俺です。一年の秦野です。こっちは……」
「一年の相模です……」
「よし、じゃあ包丁なりなんなりでそこのデブ好きなように刺していいから、私もそれに参加してもいいってことで手を打たない?」
「はっ……?」
「早川、今日はお前はマジで黙っててくれ」
冗談抜きで荒れるに荒れている早川を黙らせると、八幡は続けた。
「で、こいつとゲームで対決するって話なんだけどさ、君、格ゲー強いんだろ?それだとやる前から勝負見えてるし、他のことにしないか?」
我ながらむちゃくちゃな提案をしているとは思ったが、そういう依頼なのだから仕方ない。
「んな、まだるっこしいことしないでよぉ、君達はバズーカなりマシンガンなり何でも持っていいから、あいつと殺し合いしてくれや」
「雪ノ下」
「早川さん、一度外に出ましょう?落ち着きましょう?」
そんなやり取りはともかく、八幡は交渉を続けた。
「せめて、他のゲームにするとか。こんだけあるんだし」
「それなら……まぁ」
「いいですけど……」
「けど、変える以上何か見返りがないと……」
「じゃあ、材木座の土下座でいいか?負けたら責任持って【調子に乗ってすいません】って謝らせるから」
「え?俺が?」
「まあ、いいですけど……」
「じゃあ、やるゲームは任せる。あんま難しいのはやめてくれ。一見さんにハードル高いゲームは新規が入れないから格ゲーと変わんなくなる」
「なら……みんなが知ってるゲームをちょっとだけアレンジします」
「ふむ、して。そのゲームの名は?」
「ダブル大富豪ってゲームをやろうと思います」
言うと、一年生二人は、眼鏡をくいっと上げた。