その日の帰り道。千尋は八幡、小町とともに帰宅していた。
「いやー楽しかったねー。ありがとね誘ってくれて」
ニコッと八幡と小町に微笑みかける千尋。
「いえいえ、小町も楽しかったですよ」
結局、あの後は雪乃八幡組と千尋小町組と別れて周ることになり、集合したのは出口となった。
「ねー、ここ意外とたくさん動物いたね」
「そうなんですよ。小町も最初来た時驚いたんですよねー」
「まぁ、うちの猫と会ったのもあそこだからな」
「え?あそこって買えるの?」
「ああ、小町が飼いたいと言ったから即決だったな」
「え?そうなの?」
「ああ、特にウチの親父は小町に激甘だからな」
「え、なんで?」
「………察しろ」
「………ごめん」
悲しげに目を伏せた。
×××
家に着いて、千尋が携帯を見ると、メールが来ていた。結衣からだ。
『明日暇⁇』
との事だ。
『暇だよ』
『なら、少し相談があるんだけど……いいかな( ? _ ? )』
「……何その顔文字」
そう呟きながらも返信した。
『いいよ。何処に行くの?』
『駅前のスタバに13:00でいいかな?』
『はーい。じゃあおやすみ』
『おやすみ(( _ _ ))..zzzZZ』
そんなわけで、明日は結衣とお出掛けである。
×××
翌日の13:00。千尋は駅前のスタバに行くと、何処かで見たことあるお団子髪が待機していた。
「お待たせ〜結衣」
「あ、ちーちゃん。やっはろー」
結衣の前にカップが置かれてるのを見て、千尋は「先になんか買って来ちゃうね」と言って、買いに行った。
戻ってから、結衣のお向かいの椅子に座る。
「どしたの?相談って」
早速、本題をブチ込む千尋。それを聞いて、若干表情を変える結衣。言いにくいことなのか、中々話そうとしなかったが、ようやく口を開いた。
「実は、さ。ヒッキーの事なんだけど……」
「恋の悩みって奴?」
「は、はぁ⁉︎ち、ちがうし!ありえないし!……いや、ありえないってことはないんだけど……い、今は違うし!」
いつかその相談するんだ……と、心の中で思いながらも結衣の話に耳を傾けた。
「その……ヒッキーとゆきのんが付き合ってる、みたいなの……」
「…………は?」
何言ってんの?みたいな顔をする千尋。
「ちーちゃんは、知ってるかな。東京わんにゃんショー」
「あ、うん。知ってるよ。昨日、八幡と小町ちゃんと雪乃と行ったから」
「………へ?き、昨日ちーちゃんもいたの?」
「え?うん。元々、八幡と小町ちゃんと私で行ってたんだけど、途中で雪乃とも会ったから四人で回ってたんだよ。途中で小町ちゃんと私がふれあいコーナーで二人と別れたんだけどね」
「………………」
しばらく黙り込んだ後、カァーッと顔を赤くする結衣。それを見て、ニヤニヤ笑いながら千尋は言った。
「ふぅーん?もしかして、八幡の事好きだったから早とちりしたんだ?」
「は、はぁ⁉︎そんな……ヒッキーの事なんて好きじゃないし!」
「ふぅーん?じゃあ、私、八幡の事平塚せんせーにプレゼントしちゃおっかなーなんて……」
「だ、ダメだよ!怒られるよ!ちーちゃんが!」
「……………」
カマの掛け方が下手くそな千尋であった。
「……でも、良かった。悩みとか、無くなっちゃった。ありがとね、ちーちゃん」
結衣が微笑みながら千尋に言う。
「ううん。あ、じゃあ私も結衣に聞いていいかな?」
「ん?何?」
「最近、どうして部活に来ないの?」
どストレートに聞いた。もちろん、結衣の様に遠回りに探るということを知らないわけではない。ただ、遠回しに言っても結衣には通じないだろうと判断したのだ。
「それは……」
急に困ったように俯く結衣。
「……八幡絡みで、だよね?」
「あー……うん。まぁ、ね」
「話してよ。最近、部活で雪乃元気なくてさ。結衣が来ないから」
「……………」
考えてるようだ。話すか話さないか。俯きながら飲み物を一口飲む結衣。千尋もそれを見ながら一口飲み物を飲んだ。
「実は、さ。高校の入学式の日にね。あたしの犬をヒッキーが助けて、くれたの。だけど、ヒッキーはそれで車に跳ねられて、骨折しちゃってさ……。そのことであたしがヒッキーに気を使ってるって思われてるみたいで……」
「うわー………」
八幡ならそう考えそー……的な顔をする千尋。
「あたしはね、別にその事で気を使ってるわけでもないのに……」
「うんうん。分かるよ。結衣はただ八幡に一途なだけだもんね」
「だ、だから違うってばぁ!」
「でも、いつまでも逃げてはいられないんじゃない?」
「………それは、分かってるけど……」
バツの悪そうな顔で結衣は俯いた。千尋は一度ため息をつくと、言った。
「人の絆なんて簡単なものだよ。ひょんなことからすぐ簡単に崩れる、アレだ、ドミノみたいなものなんだよ」
自分の過去に経験があったかのように千尋は続ける。
「でも、それは修復可能ってことだよ。ただし、逃げないで一から組み直せば、ね。今、結衣が八幡から逃げちゃうと、雪乃との縁も切れちゃうんじゃないの?」
「そ、そんなことないもん!」
「あるよ。『友達』になれたのは部活のお陰でしょ?その部活で出来た縁を切ってしまえば、結衣と雪乃が会う機会なんてなくなる。クラスも違うしね」
「……………」
「いつまでも会わなくなると、その人の中の結衣はいずれ、『友達』から『友達だった人』になっちゃうんだよ。雪乃とも八幡とも、そうなる前に修復した方がいいんじゃない?」
あたしが言うと、結衣はしばらく考え込んだ後言った。
「………うん」
「良かった。結衣には、私みたいになって欲しくないからね」
「…………え?」
「さて、この後どうする?せっかくだから、遊んで行く?」
「う、うん。じゃあとりあえず、何か買い物に行こっか」
二人は飲み物を飲み干すと、スタバを出てお出掛けした。