翌日、千尋は自分の部屋の窓を全開にして、ゴロゴロしながら漫画を読んでいた。すると、その窓からピョーンと何かが入って来た。
「むっ?」
漫画を自分の前から退かして見ると、猫がゴロゴロいいながら千尋のお腹の上にモッサリと乗り、寝転がった。
「………えっ、何?」
やだ可愛い……。とか思いながら猫の喉をちょこちょこと撫でる。すると、窓の外から「すいませーん」と聞き慣れた声がした。直後、お腹の上から猫は退いた。
はいはい何事?と思いながら窓の外を見ると、小町がいた。
「あ、小町ちゃん」
「あ、千尋さん!うちの猫そっちに行きませんでしたか?」
「あ、この子小町ちゃん家の猫だったんだ」
言いながら千尋は猫を抱き上げた。
「はい。カーくんおいでー」
呼ぶと、カマクラは千尋の胸を蹴って小町の家へ飛び込んだ。
「見た目より身軽だねー」
「そうなんですよねー。家じゃゴロゴロしてて丸まってるのに」
「名前はカーくんでいいの?」
「本名はカマクラですよ」
「あーそれでカーくん」
なんて猫トークをしてると、「あ、そだ」と小町は声を上げた。
「そういえば、今日兄と東京わんにゃんショーに行くんですけど、良かったら一緒にいきませんか?」
「え?いいの?」
「はい。人数多い方が楽しいですし」
「うーん、でもお邪魔じゃない?」
「いえいえ。小町も学校での兄のこと知りたいですし」
そこまで言われては行かないわけにもいかなくなった。
「分かった。じゃあ家の前で待ってるね」
「はい」
そんなわけで、千尋は準備を始めた。
×××
小町と八幡が家を出て、千尋と合流してようやく出発。バスに乗ってしばらく進むと、幕張メッセに到着。
「来るって言っといてアレだけどさ、東京わんにゃんショーって何?」
「知らずに来たのかよ……」
千尋の疑問に八幡は思わず呆れてしまった。
「まぁアレですよザックリ説明すると、動物ふれあいコーナーです」
「ふーん……どんな動物がいるの?」
「色々ですよ。さぁ、行きましょう」
ザックリ過ぎる説明を受けて三人は中へ。直後、小町がはしゃぎながら指差した。
「わー、お兄ちゃん!ペンギン!ペンギンがたくさん歩いてるよ!可愛いー!」
「ああ、そういやペンギンの語源ってラテン語で肥満って意味らしいぞ。そう考えるとあれだな、メタボサラリーマンが営業で外回りしてるみたいだな」
「わ、わー。急に可愛く思えなくなってきた……」
あからさまにテンションが下がる小町。腕を下ろし、げんなりとした表情で八幡を睨んだ。
「お兄ちゃんの無駄な知識のおかげでこれからペンギン見るたびに肥満の二文字が浮かぶようになったよ……。ねぇ?千尋さん?」
「え?あー別に私は良いと思うけどな。そういう知識、というか雑学?って面白いじゃん?」
「千尋さん、超ポジティブですね……。はっ、これは兄とセットでプラマイ0なのでは⁉︎」
「バッカお前俺超ポジティブだろうが。専業主夫志望とかポジティブシンキングだろ」
「プラマイ以前の問題でしょ……」
「うっせ、お嫁さんに言われたくねぇんだよ」
「えっ、お嫁さんって、誰が?」
「ああ、小町は知らないのか。早川は職場見学希望調査書にお嫁さんだから平塚先生の家に行きたいって言ったんだよ」
「……………うわあ」
「そんな目で見ないで小町ちゃん!」
「千尋さんを見る目が180度変わったわ」
「小町ちゃーん!」
「叫ぶな。行くぞ」
と、いうわけでペンギンコーナーから離れて、今度は鳥ゾーンに向かった。が、そこで見覚えのある影が見えた。
「あれ、雪乃?」
「……ぽいね」
雪乃が歩き回っていた。何度かパンフレットに視線を落としては、周囲を見回し、またパンフレットを見る。明らかに迷っていた。
樹海とか密林とか森丘の上位やG級のクエストを受けているハンターってまさにあんな感じなのかなぁと思いながらも千尋は雪乃の方へ向かって行った。
「雪乃ー」
「あら、早川さん?」
「迷ったの?」
思わずニヤニヤしながら意地悪そうに聞いてしまった。すると雪乃はふいっと顔を背ける。
「まぁ、その通りなのだけれど」
「ふぅーん?あっちに八幡と小町ちゃ……八幡の妹いるから一緒に回ろうよ」
「そ、そう?」
「うん。あの2人ならOKしてくれるだろうし」
「そう、ね……。そうさせてもらうわ」
で、千尋は雪乃を比企谷兄妹の所に連れてきた。
「と、いうわけで、一緒に回ることになりました」
「まぁ俺は別に構わねぇけど」
「小町も大丈夫ですよー?雪乃さんと一緒にお出かけなんて、初めてで嬉しいです」
仲間が1人増えた。