帰り道。結衣に奉仕部に戻ってきてもらうことになった。
「で、どうしよっか?」
「俺が聞きてぇよ」
八幡と千尋はいつも通り一緒に帰っていた。
「どう?この後、どっかで作戦会議とか」
「作戦って、戦うのかよ」
「いいじゃん。デートしようぜ☆」
「そういうこと言われるとホント勘違いしそうになるからやめろ」
「勘違い、ねぇ……」
少し意味深に千尋は呟いた。そういう所でこいつ結衣とすれ違い起こしたんだろうなぁ、みたいな。
「……なんだよその目」
「べっつにー?ほら、それより早くどっか行こうよ」
「どっかってどこだよ」
「サイゼとか?」
「分かった」
さっそく自転車にまたがって出発しようとした時だ。
「八幡?あ、やっぱり八幡だ」
キラキラと輝く笑顔で戸塚が声を掛けてきた。
「戸塚くん?」
「あ、早川さん」
「ね、戸塚くん。私の事も『ちーちゃん』って呼んでくれない?」
「えっ?な、なんで?」
「いいから!」
強いられたので、戸塚は若干顔を赤らめながら言った。
「ち、ちーちゃん?」
「グハァッ!」
「ち、ちーちゃん⁉︎」
後ろにぶっ倒れた千尋に心配そうに駆け寄る戸塚。その戸塚に八幡が言った。
「ほっとけ。それより戸塚、部活帰りか?」
「まだ終わってないんだけど、夜はテニススクールがあるから……ちょっと先に抜けたんだ」
「スクール?」
「未元物質?」
千尋の台詞には誰もツッコまなかった。
「うーんとね、テニススクール。部活だと基礎的な練習がメインになっちゃうから」
「へぇ……結構本格的にやってるんだな」
「そ、そんな大したことないよ……でも、好きだから」
「え?悪い、もう一回言ってくれ」
「えっと……そんな大したことないよ?」
「じゃなくて、その次」
「……す、好きだから」
「オッケ、今度こそ聞き取れた」
八幡が心のXボタンを押して、今の言葉を心に深く刻み込んでると、耳元で音がした。
『……す、好きだから』
千尋が録音機を再生していた。
「………いくら?」
「後で」
「何してるの?」
「「なんでもない」」
口を揃えて否定すると、「あっ」と戸塚が思い出したように言った。
「そういえば、ちーちゃんってさ、」
「ち、ちーちゃん呼び⁉︎」
「えっ?ダメだった?」
「ううん⁉︎全然!むしろこれからそれで!」
「う、うん……。それで、ちーちゃんってさ。テニス上手いよね」
「え?そ、そう?」
「ああ、そうだな。前のテニス勝負の時にお前一人で頑張ってたしな」
八幡にも褒められ、少し嬉しそうに千尋は微笑んだ。
「中学でテニスとかやってたの?」
「ううん。1人で練習してたんだ。……1人で」
最後の方は聞こえないように言った。事情を知ってる八幡は同情気味に顔を伏せた。
「へー、どんな練習してたの?」
「どんな……」
「戸塚、やめてやれ」
八幡が途中で止めた。
「って、これから戸塚くんはテニスか。ごめんね引き止めて」
「ああ、そうだったな。じゃあな」
と、挨拶して2人は別れようとした。だが、その2人に戸塚は声を掛ける。
「あ、あの……スクール、夜からなんだ。だから、始まるまでちょっと時間があって……、駅の近くなんだけど……歩いてすぐのところで……じゃなくて、少し、遊びに行かない?」
「え……」
「暇ならでいいんだけど……」
「行く」
千尋が即答した。
「おい、お前作戦会議は?」
「可愛いは正義だよ。八幡」
「いや全然意味分かんないんだが……」
八幡はそう呟いたものの、千尋は戸塚とさっさと出掛けてしまった。