私の青春ラブコメも間違っている   作:アリオス@反撃

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葉山と玉砕と大人しめ

 

メイドカフェへ行った翌日、部室には最多の人数がいた。部長の雪ノ下、ぼっちの比企谷、アホの由比ヶ浜、いじめられっ子の早川はいつもの面子にしても、残り三人いた。可愛いの戸塚、剣豪将軍兼ラノベ作家志望の材木座、そして何故かイケメンの葉山だ。

 

「なんで葉山がここにいんの?」

 

八幡がそう尋ねると、葉山は爽やかに微笑んで、やぁ!と手を振った。

 

「いやぁ、俺も結衣に呼ばれてきたんだけど……」

 

「由比ヶ浜に?」

 

八幡が結衣の方を見ると、得意そうに胸を張っていた。

 

「や、あたし考えたんだけどさ、川崎さんが変わっちゃったのって何か原因があるわけじゃない?だから原因を取り除くっていうのはあってると思うんだけど、ああやって人の話聞いてくれないんじゃそれも難しいじゃん」

 

「ん、まぁそうだな」

 

「でしょ⁉︎だから逆転の発想が必要なわけよ。変わって悪くなっちゃったなら、もう一回変えれば今度はよくなるはずじゃん」

 

「で、なぜ葉山君を呼ぶ必要があったのかしら?」

 

雪乃が、若干棘のある言い方で聞いた。

 

「嫌だなーゆきのん。女の子が変わる理由なんて一つじゃん」

 

「女の子が変わる理由……。経年劣化、とかかしら?」

 

「ああ、確かに。女の子から女に変わるってことか。平塚先生みたいに」

 

「違うよ!ちーちゃん納得しちゃダメ!平塚先生に殺されるよ⁉︎ていうか2人とも女子力低過ぎるよ!」

 

「またそれ……」

 

雪乃が呆れたようにため息をついた。その雪乃に千尋は横から聞いた。

 

「私って、女子力低いの?」

 

「私に聞かれても知らないわ。まずその女子力とやらが分からないもの」

 

「いやー、というか私も女子力ってイマイチ分かんないんだよね。多分、割と曖昧な意味なんだろうけど……」

 

「い、いいから話聞いてよ!」

 

女子力とは何か、について辞書引きしそうな2人に結衣が言った。で、顔を赤らめながらもじもじしつつ言った。

 

「女の子が変わる理由は……こ、恋、とか」

 

「ぶはっ!」

 

思わず千尋は笑ってしまった。

 

「ち、ちょっと!何で笑うのよちーちゃん!」

 

「いやだって……恋って……ぷふっ」

 

「と、とにかくっ!気になる人ができたら色々変わるものなのっ!だから、そのきっかけを作ればいいんじゃないかと……。で、隼人くんを呼んだわけ」

 

「い、いやそこで何で俺なのかよくわからないんだけど」

 

葉山が苦笑い混じりで結衣に言うと、クワッとした表情で材木座と八幡が葉山を睨んだ。

 

「待った!それなら戸塚くんにやってもらいたいんだけど!」

 

「うえっ⁉︎」

 

千尋が手を挙げた。

 

「んー。さいちゃんもモテるとは思うけど、川崎さんのタイプとは合わないと思う」

 

「川崎さんに合う合わないはどうでもいいの!私は途中でテンパってしまうであろう可愛い戸塚くんを見たい!」

 

「は、早川さん……」

 

困ったように顔を赤らめる戸塚。

 

「川崎さんの好みに合わせないとこの作戦は無理だわ」

 

雪乃にそう言われて仕舞えば諦めるしかなかった。

そんなわけで、葉山が川崎に声をかけることになった。早速、作戦開始のため、全員で駐輪場に移動。ここで川崎を待ち、葉山が声を掛けるのを全員で陰から見守る事になった。バラエティ番組みたいだな。

すると、川崎が現れた。あれが川崎さんかーと思いながら千尋はその様子を見つめる。

 

「お疲れ、眠そうだね」

 

早速、葉山が声を掛けた。

 

「バイトか何か?あんまり根詰めないほうがいいよ?」

 

「お気遣いどーも。じゃあ、帰るから」

 

葉山の台詞を面倒臭そうに受け流し、自転車を押して去ろうとする。

 

「あのさ」

 

それに後ろから葉山は声をかけた。足を止める川崎。そして、素敵イケメンスマイル全開で葉山が言った。

 

「そんなに強がらなくても、いいんじゃないかな?」

 

「あ、そういうのいらないんで」

 

そのまま川崎は去って行った。葉山はしばらく固まったあと、照れたように微笑みながら、陰で見守っていた八幡達の元へ戻って来る。

 

「なんか、俺、ふられちゃったみたい」

 

「あ、いやご苦くっ……くくっ」

 

「ぷっ、ぷぷっ、グラーッハハハバババ!ふ、ふられとる!ふられとるげ!あんなにかっこつけたのにふられとるげ!ぶふぅはっははっ!」

 

「やめとけ材もくぅっくく……」

 

「ふ、2人とも!笑っちゃダメだよ!」

 

戸塚が2人に怒る。ちなみにその2人の陰に隠れて千尋も笑いを堪えていた。

 

「ま、まぁ。別に気にしてないからいいよ、戸塚」

 

葉山が苦笑交じりに言った。だが、

 

「葉山某……、そんなに強がらなくてもブー!いいんじゃないかなーっはっはっは!」

 

「ばかっ!やめろ材木座!笑わせんな!」

 

「〜〜〜ッ‼︎」

 

爆笑する八幡と材木座と、横で必死に笑いをこらえる千尋。それを見て結衣は顔を引きつらせた。

 

「こいつら最低だ……」

 

「これも失敗、と。仕方ないわ。今夜もう一軒のお店に行ってみましょう」

 

「そだね……」

 

そんなわけで、二軒目のお店に行くことになった。

 

 

 

×××

 

 

 

二軒目の店はホテル・ロイヤルオークラの最上階に位置するバー『エンジェル・ラダー天使の階』。朝方まで営業している「エンジェル」とつく最後の店。

八幡達はその近くの海浜幕張駅の前にPM8:30に集合することになっていた。

で、今はPM8:20。比企谷家の前で八幡と千尋は待ち合わせしていた。雪乃に「大人しめた格好」と言われたので準備に時間が掛かっているようだ。

 

「お待たせ!八幡」

 

「や、マジ待ったわ」

 

「ごめんごめん……」

 

八幡の格好は黒い立ち襟のカラーシャツにジーンズ、靴はロングノーズの革靴。髪型も前髪を上に上げていた。

 

「うわっ……誰?」

 

「俺だよ」

 

「小町ちゃんでしょ、それ決めたの」

 

「ああ、まぁな」

 

そう言う千尋の格好も、家中から引っ張り出した服装のようで、茶色い襟付きのジャケットに黒いジーンズと、ジャケットの色以外は八幡と変わらない格好をしていた。

 

「………お前こそ誰って言われそうだな」

 

「へ?なんで?」

 

「男っぽい格好だな」

 

「普段の私服もよく男っぽいねーって言われるんだよね。……家族に」

 

「最後の情報いらねぇ……」

 

どんよりしながら2人は待ち合わせ場所の海浜幕張駅へ向かった。

で、待ち合わせ場所。2人は意外にも一番乗りだった。

 

「ごめん、待った?」

 

「今来たところだ」

 

戸塚が現れた。隣でラーメン屋の大将のような格好をしたやつがいたが無視。

 

「って、八幡。そちらの方は?」

 

「へっ?」

 

「早川だが……」

 

「は、早川さん⁉︎お、男の人かと思った……」

 

戸塚が割と本気で驚いたように言った。

 

「んーそう?」

 

「ふむ、性転換すら可能にしてみせるとは……さすがは千魔の魔女といったところか……」

 

材木座の言葉は無視された。

 

「いやー。大人しめな格好でって言われたから。私、あまり女の子っぽい服持ってないし」

 

「つか、材木座。お前の格好、何?何で頭にタオル巻いてんの?」

 

「ふぅ、やれやれ。大人らしい格好と言ったのは貴様達ではないか。故に働く大人のスタイル、作務衣という奴であろう」

 

「八幡、置いて行けばいいよ」

 

「そうだな」

 

一つの結論が出たと同時に、コツコツと地面を鳴らす音がした。結衣がやってきた。

 

「結衣ー」

 

「んっ?ちーちゃん?……って、どこ?」

 

「いやここだけど……」

 

「えっ⁉︎ちーちゃん⁉︎……ほえー、大人の男の人みたい……」

 

「いやノーメイクなんだけど……」

 

笑顔が引き攣る千尋。

 

「てか他の人は?」

 

「あとは雪乃だけだよ。一応言っとくけど、あそこの髪上げが八幡、可愛いのが戸塚くん、ラーメン屋は材木座くんね」

 

「へぇー……って、これヒッキー⁉︎」

 

「これってなんだこれって」

 

八幡が静かに反論した時だ。

 

「ごめんなさい。遅れたかしら?」

 

今度は雪乃が現れた。

 

「時間通りね」

 

「あ、ああ……」

 

来るなり雪乃は全員の服装を見回した。

 

「ふむ……」

 

そして、材木座から戸塚、結衣、千尋、八幡と指を差した。

 

「不合格」

 

「ぬぅ?」

 

「不合格」

 

「……え?」

 

「不合格」

 

「へ?」

 

「不性別」

 

「いやっ…」

 

「不適格」

 

「おい……」

 

何故か合否判定がされていた。しかも若干2名評価が違った。

 

「あなた達、ちゃんと大人しめな格好でって言ったでしょう」

 

「待って、不性別って何」

 

「これから行くところはそれなりの服装をしていないと入れないわよ。男性は襟付き、ジャケット着用が常識」

 

「そ、そういうものなの……?」

 

戸塚が恐る恐る聞いた。

 

「そこそこいいお値段のホテルやレストランはそういうお店が多いの。覚えておいたほうがいいわ」

 

「あ、あたしもダメ?」

 

結衣が確認すると、雪乃は困ったような顔になる。

 

「女性の場合、そこまで小うるさくはないけど……。早川さんを男性役にすれば……」

 

「おーい雪乃?私、女の子だよー?」

 

「念の為、私の家で着替えたほうがいいわ」

 

「え、ゆきのんの家行けるの⁉︎行く行く!」

 

「じゃあ行きましょうか」

 

「待って、私本当に男役させられるの?」

 

しつこく聞くと、雪乃はジロリと千尋を見た。

 

「そんな格好しているものだから、男役をやりたいものなのだと思ったのだけれど」

 

「私の家、あまり女の子用の服無いんだよ。大人しめた格好って言われたからこうするしかなくて……」

 

「……でも、流石に比企谷くん一人に女性が三人付くのはアレなのだけれど」

 

どうやら雪乃の頭の中では自分と八幡と結衣が行くことは確定しているようだ。

 

「つまり、私は男役か行かないかって事になるの?」

 

「そうなるわね」

 

「……分かった。男役でいいよ」

 

「分かったわ。では由比ヶ浜さん、行きましょう」

 

「うん」

 

で、最後に雪乃は戸塚を見た。

 

「戸塚くん、せっかく来てもらって申し訳ないけれど……」

 

「ううん、全然いいよ。みんなの私服見られて少し楽しかったし」

 

「じゃあ、由比ヶ浜が着替えてる間、俺たちは飯食ってるからさ。終わったら適当に連絡くれ」

 

「うん、そうするー」

 

雪乃と結衣と別れ、男三人と千尋は腹の減り具合を確認するように黙った。

 

「して、何を食す?」

 

材木座に聞かれ、戸塚と八幡と千尋は顔を見合わせる。

 

「ラーメンだよね」

 

「ラーメンだよな」

 

「ラーメンだね」

 

 


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