私の青春ラブコメも間違っている   作:アリオス@反撃

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職場見学と八幡のメール

 

職場見学希望調査書

総武高等学校 2年C組 早川千尋

1.希望する職業:お嫁さん

2.希望する職場:平塚せんせーの自宅

3.理由を以下に記せ

女の子がお嫁さんになるのに理由はいらないと思います。

 

 

と、いう職場見学希望調査書を提出したら、八幡と一緒に千尋は職員室の応接室に呼び出された。

千尋も八幡も居心地悪そうにソワソワしている。理由は、目の前の千尋にとっては羨ましい完璧なボンッキュッボンッスタイルの女教師、平塚静先生が不機嫌そうに2人の書いた調査書を読み上げたからだ。

そして、一通り読み終えると、パサッと机の上に調査書二枚を放った。

 

「さて、2人とも。私が何を言いたいか分かるな?」

 

「……そ、その前に、なんで私まで平塚先生に怒られてるんでしょうか……」

 

「お前が不用意に私の名前をここに書いたからだ。お陰でC組担任の先生に哀れまれるような目で見られてしまったよ」

 

ギロリと睨まれ、萎縮する千尋。

 

「さて、質問の続きだ。何が言いたいか分かるな?」

 

「さ、さぁ……」

 

「そう言われましても……」

 

「まさか、分からないとでも言うつもりか?」

 

二人の台詞に握り拳を作り、ゴキッと指を鳴らす平塚先生。

 

「「か、書き直します殴らないで!」」

 

慌てて2人はお互いの両手を掴み合った。

 

「当たり前だ。まったく……比企谷。少し変わったかと思えばこれかね?」

 

「俺のモットーは初志貫徹なので」

 

てへっ☆と自分の頭をコツンと叩くのと、平塚先生の額に青筋が立つのはほとんど同時だった。

 

「……やはり殴るしかないか。テレビでもなんでも、やっぱり殴って直す方が早い」

 

「い、いや俺精密機械なんでちょっと…あと最近のテレビは薄型なので殴りようがないですよね。やっぱり歳の差を感じ」

 

「衝撃のファーストブリットォッ‼︎」

 

ゴスッというど地味な音が、八幡のボディを確実にとらえた。

 

「………うーわ」

 

痛そー……と言った声が千尋の口から漏れる。

 

「撃滅のセカンドブリットを食らいたくなかったら、それ以上は口にしないことだ」

 

「すいませんでした……。抹殺のラストブリットも勘弁してください」

 

八幡が死にそうな声でそう言うと、満足したような笑顔を浮かべる平塚先生。

 

「うむ、比企谷は理解が早くて助かる」

 

「それ、ただ調教してるだけなんじゃ……」

 

「何か言ったか早川?」

 

「何でもないです」

 

つい口から漏れた言葉も拾われ、速攻で謝った。

 

「というか、お前はなんでお嫁さんで私の家なんだ」

 

「それはもちろん、平塚先生より男前な人を私は見たことが」

 

「撃滅の」

 

「ないのは関係なくて、間違えて書いちゃっただけです!」

 

「セカンドブリットォッ‼︎」

 

「それアイアンクロオオオオいだだだだ‼︎ご、ごめんなさい平塚先生!」

 

素直に謝ると、手を離した。

 

「当たり前だ。女子生徒を殴るわけにはいかないからな」

 

「うう…アイアンクローでも大して変わらないですよぉ……」

 

悶絶してる2人に平塚先生は言った。

 

「とにかく、職場見学希望調査票は再提出。それと、私の心を傷付けたペナルティとして調査票の開票を手伝いたまえ」

 

「「………はい」」

 

そんなわけで、2人は連行された。

 

 

 

×××

 

 

 

「にしても、なんでこの時期に職場見学なんてやるんですかね」

 

もぞもぞと紙束を希望職種ごとに分けながら、八幡が言った。

 

「こんな時期だからでしょ。来年は私達も受験生なんだし」

 

「それもあるし、3年次にはコース選択もある」

 

「そんなんありましたっけ」

 

「HRで伝えているはずだが……」

 

「はぁ、俺の場合ホームルームなんてアウェーなんで全然聞いてないんすよね」

 

「うわあ……八幡それはないよ……。私なんてクラスで話しかけてくれる人なんて先生しかいないから毎回キチンと聞いてるよ」

 

「それもどうかと思うが……」

 

平塚先生が呆れたようにため息をついた。

 

「とにかく、ただ漫然と試験を受けるのではなく、将来への意識を明確に持ってもらうために、夏休み前の中間試験直後に職場見学が設けられているんだ」

 

「……八幡、なんかロクでもないこと考えてるでしょ」

 

「お嫁さん志望のお前に言われたくねーんだよ」

 

「君たちは文系理系どっちにするんだ?」

 

問われて、2人がどっちが先に答えるか見つめ合ってると、

 

「あー!こんなとこにいた!」

 

と、騒がしい声が乱入してきた。結衣の声だ。

 

「おや、由比ヶ浜。悪いが2人を借りてるぞ」

 

「ひ、ヒッキーは別にいいです!ぜ、全然いいです!」

 

「俺限定でいらないのかよ……」

 

「よーっす、結衣」

 

地味に傷ついてる八幡をよそに、千尋が挨拶した。

 

「で、結衣。どうかしたの?」

 

「あなた達がいつまでたっても部室に来ないから捜しに来たのよ」

 

その後ろから雪乃の落ち着いた声がした。

 

「わざわざ聞いて歩いたんだからね。そしたら、みんな『比企谷?誰?』って言うし。超大変だった」

 

「その追加情報いらねぇ……」

 

「ていうか、八幡はいらないのに八幡の名前で聞いて歩いてたんだ?」

 

ニヤニヤしながら千尋が聞くと、ハッとする結衣。

 

「ち、違うから!言葉のサヤだから!」

 

「綾ね。まぁ言葉ほど鋭利な刃物はないから鞘は必要だけどさ……」

 

「と、とにかく、超大変だったんだからね!」

 

なぜか二回言う結衣に、八幡はとりあえず謝った。

 

「なんだ、その、悪かった」

 

「別に、いいんだけどさ……。そ、その……、だから、け、携帯教えて?ほ、ほら!わざわざ捜して回るのもおかしいし、恥ずかしいし……。どんな関係が聞かれるとか、ありえ、ないし」

 

と、顔を赤らめながらポツリポツリと言う結衣。すると、八幡はポケットから携帯を出した。

 

「ん」

 

結衣も嬉しそうな顔をすると、ポケットからキラキラデコデコした携帯電話を取り出した。

 

「……なにその長距離トラックみてぇは携帯」

 

「え?可愛くない?」

 

「わかんねぇ。ビッチの感性がわかんねぇ。なに、お前ヒカリモノ好きなの?カラスなの?それとも寿司通なの?」

 

「はぁ?寿司?ていうかビッチ言うなし」

 

「比企谷。さすがにヒカリモノだからといって高校生には通じないと思うぞ」

 

「ヒカリモノって……鯖とかですよね?」

 

「通じてますよ」

 

早川がキョトンと答えると、八幡がジロリと平塚先生を見た。

 

「ていうか、迷わず人に携帯渡せるのがすごいね」

 

「別に、見られて困るものもないしな。メールも妹とアマゾンとマックからしか来ないし」

 

「うわっ!ほんとだ!しかもほぼアマゾ……ん?」

 

「なんだよ」

 

「……ちーちゃんとメールしてるの?」

 

「………あー。いや、アドレス登録してあるだけだ」

 

「ほとんどLINEでやり取りしてるよね」

 

「お前、暇になるとたまにガンダムの画像連投してくるだろ。あれやめろ」

 

「いいじゃん。ちゃんと八幡も送ったモビルスーツのパイロットご丁寧にやり返してくるし」

 

と、千尋と八幡のやり取りを羨ましそうな目で見たあと、結衣は高速でアドレスを打ち始めた。

 

「打つのはえーなお前」

 

「んー別に普通じゃん?ヒッキーの場合、メールの相手がちーちゃんしかいないから指が退化してるんじゃないの?」

 

「失礼な……俺だって中学の時は、女子とメールくらいしてたぞ」

 

その瞬間、ゴトリと音がした。結衣の手から八幡の携帯が落ちる音だ。

 

「うそ………」

 

「ねぇ、お前今酷いリアクションしてることに気付いてる?気付いてないよね?気付け」

 

「……あー。や、ヒッキーが女子とっていうのが想像できなくて」

 

「ばっかお前。俺なんてちょっとその気になればなんてことないぞ。クラス替えでみんながアドレス交換してる時に携帯取り出してキョロキョロしてたら、『……あ、じゃあ、こ、交換しよっか?』って声かけられる程度にはモテたといっていいな」

 

「じゃあ……か、優しさはときどき残酷ね」

 

雪乃が暖かな笑みをこぼした。

 

「憐れむなよ!そのあとはちゃんとメールしたし」

 

「その子はどんな感じの子だったの?」

 

結衣が聞いた。

 

「そうだな……。健康的で奥ゆかしい感じだったな。なんせ、夜7時にメールを送れば次の日の朝に返ってきて『ごめん、寝てたー。また学校でねー』と返ってくるくらいけんこうてきだったし、そのくせ教室では恥ずかしがって話しかけてこないほど慎ましくお淑やかだった」

 

「う、それって……」

 

「寝たふりしてメールを無視していたのね。比企谷くん、現実から目を背けないで。きちんと現実を知りなさい」

 

「違うよ!きっと健康的で奥ゆかしい子だったんだよ!じゃないと、私も無視された事になっちゃうじゃん!」

 

「ちーちゃん………」

 

結衣が悲しげに目を伏せた。

 

「比企谷……。私ともアドレス交換するか?私はちゃんとメール返すぞ?寝たふりとかしないぞ?」

 

平塚先生が結衣の手から携帯を取り、自分のアドレスを打ち始めた。それを見ながら八幡はため息をついた。

 

 


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