新米提督苦労譚~艦娘たちに嫌われながらも元気に提督してます~ 作:ぬえぬえ
唐突な言葉
「明原くん、君には明日から提督をやってもらうよ」
「はぁ」
埃一つ見受けられない部屋で、冗談の通じない厳格な上官が言い放った冗談みたいな言葉に、思わず変な声が出てしまった。
館内放送による名指しの呼び出しを喰らい、何かしでかしたか? と首を捻りながら上官の部屋へ駆け付けたらこの言葉だ。こんな反応になるのも許してほしい。
「……聞いているのか?」
状況が理解できていないのが顔に出ていたのか、煙草を吹かした上官が不機嫌そうに睨んでくる。
「は、はっ。しかと聞いておりましたが、何分内容が理解しがたきこと故、頭が追い付きませんでした」
「まぁ、無理もない。つい先日卒業したばかりのひよっこが最前線を指揮する提督に抜擢されたんだ。驚くのも無理はないだろ」
そう吐き捨てた上官は不服そうに手元の資料に目をやっている。ひよっこ呼ばわりされて少しいらっときたが、ここは我慢するしかないな。
「何故、私のような若輩がいきなり提督等という重要な役職に配属されたのでしょうか?」
「詳しくは教えられん。まぁ、君の類稀なる器量と采配を大いに振るうには、提督しかないだろう、という
またとんでもない理由付けしてきたな。類稀なる器量と采配って、それ確実に嘘だろ。なぜなら、俺は卒業ギリギリの成績だったんだからな。
「自慢できることでもないだろ」
心を見透かしたらしき上官のごもっともな言葉にぐうの音も出ない。そんな俺を見てか、上官は呆れて溜め息をこぼした。まぁ、そこまで俺を買ってくれるのは正直嬉しいけどよ。ここまで過大評価されると見る目がないんじゃね? って思えてくるよな。理由もアホだし。
まぁ、本当の理由は大体分かってるんだけどな。
「その采配、朽木中将が言い出したのですか?」
俺の言葉に、上官はビクッと身を震わして睨んでくる。ビンゴか。
「……なるほど、朽木の野郎が裏で手回しをしたと」
「朽木中将のご子息を愚弄するとは何事だ!!」
吐き捨てた言葉に上官は顔を真っ赤にさせて殴り飛ばしてきた。それを避けることなく真正面から受け、吹き飛ぶ。
吹き飛ばされてドア近くのクローゼットに背中から突っ込んだ。肺を圧迫されて、空気が無理矢理吐き出される。衝撃と痛みにしばし咳き込みたいのだが、早く立たないと更に拳が飛んでくるので無理して立ち上がる。
「ともかく、君は明日よりこの鎮守府に向かってもらう。とっとと荷物をまとめて準備してこい!! 以上だ!!」
上官はそう吐き捨てると、即刻俺を部屋から叩き出した。叩き出した後に、ご丁寧に配属される鎮守府の資料を投げつけてくれたのはせめてもの温情なのかもな。
「何で俺みたいなのが提督なのかね……」
痛む背中を擦りながら資料に目を通す。資料の枚数は少ないながらも、そこには配属される鎮守府の戦果や所属する戦闘員、その規模などびっしりと鎮守府の詳細が書かれていた。
「ほぉ……わりと戦果を出している鎮守府だな」
廊下を歩きながらそこが出した戦果を見ていると、裏面に赤で強調された一文があるのに気付いた。
「えっと、何々……」
その文を見るため裏返し、赤い文を読んだ。
「『なお、この鎮守府は過去に何人もの提督が失踪しているとの報告がある。心して任務にあたられよ』」