射干玉の闇に灯るは幽けき淡い也   作:真神 唯人

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泥人形だと蔑みながら 必要不可欠と言う
壊して遊ばれ 糧にして棄てられ それを
運命と呼ぶのなら我らは 今度こそ拒もう

創世のもとに 集い抗おう


慧眼を曇らせるは、慈悲無き魔障

そいつはマネカタ達のリーダーで、マネカタには珍しい、表情が豊かなやつ。

まあ、豊かっつってもよくよく見れば確かにマネカタには違いない程度だが。

自分が視ていた未来の通りだと言ったそいつは、俺を暫し見た後で。

 

「君とは、これからも少なからず会う事になる”運命”のようだ」

『運命ねぇ....この世界に一番合わない言葉だな」

 

世界が壊されて生まれた”卵の中”で造られたイキモノ(悪魔)だから仕方ない、か。

今、こうしてここにいる事も世界が壊され俺がヒトではなく悪魔になった事も。

あの金の髪の子どもの所為であって。断じて運命だとか認めねえ、絶対にな。

 

「?。....ふむ、君は....ずいぶん複雑なモノを抱えているようだね」

『まぁな。好きで悪魔化し(こんなのになった)たワケじゃないしな』

 

そういや、こいつは未来とやらを一体どこまで見通せるんだろうか。

「新田」が頼ろうとしたくらいだけど、そんな先までわかるのか?。

 

「いいや、残念ながらね。視ようとして視えるのならよかったのだが」

『ふーん。まあでも、あんまり分かっちまうのもどうだろうな』

 

そう言うと、ソイツは首を傾げて俺が変な事を言うと呆れたように

憤慨しているようにも見えた。あんま表情変わって見えねえけどな。

 

「なぜだい?。分かったら悪い未来を変える為に動けるじゃないか」

『....理屈としては、間違っちゃいないんだけどな』

 

"運命"っていうのは、そんなに簡単に変わってくれやしないんだよ。

もがいて足掻いて、血反吐やら何やらを吐いて這いつくばって生きても。

それでも変えられなくて....悔やんでも、悔やみきれずに"たられば"を、

呪うように思わずにはいられない、残酷な選択肢の結果であり過程だ。

 

取り返したくても2度と取り戻せない、何かを連れてゆく。

 

当たり前だと享受していた、日常とかけがえのないものすべてを。

"運命"なんて単語の言葉1つで片付けられないものすべてを俺の手から

叩き落として、嘲笑いながら近寄ってきて耳元でクソ甘い声で囁くんだ。

 

耳を塞いでも三半規管に絡みつくように、残響し続ける()()から

逃げ続けてる俺は....いつか追いつかれる事を知っている。だから。

 

こうしている今も、俺は"ヒト"でいる事を棄ててやしないか。

"ヒト"なら出来て当然の事や感情や行動やらを忘れてないか。

 

隙を突くように忍び寄り這い上ってきて、俺を変えようとする"衝動"に。

委ねればラクになれると知っていて、抗い続けているんだとは言えない。

何故なら、目の前のこいつはあくまでヒトに似せられた人の紛い物であって。

それ故に"(ヒト)"の言う事も、その意味する事も理解する事ができない。

 

それは仕方ないことだし、こいつに非は無い。....無いけれども。

 

『....正論吐かれると、イラつくなぁ。ま、しゃーねえか』

「???。よく分からないが、余計な事を言っただろうか?」

 

『いや、気にすんな。俺の事情だからさ』

「そうか....。なら、いいのだが」

 

1つ頷き、そう言えばと思い出したように俺に視線を戻して聞いてきた。

 

「ああ、アサクサの街は見てくれたかい?。皆、文句も言わずに」

 

悪魔の隷属的存在でしかなかったマネカタが、初めて手に入れた自分達の街。

強い先住者(悪魔たち)がいるけど、上手くやっていくと言って復興に勤しむ彼らを見守る

その眼差しは、親が子を見守るような優しく温かいものに似ていて驚く。

 

悪魔に年功序列的なもんはあって無いのか、それともこいつが未来を視れると

いう特殊性の所為なのか、悪魔を定義するものを知らない俺には分からないが。

 

しげしげとその表情を眺めていると突然、眉根を寄せ厳しい顔になる。

預言者でもなく、親でもなく、守るものがあるリーダーの、顔になる。

その途端、周囲の空気がヒヤリと冷たく変わったような気がした。

 

「——だが、見物はここまでにしてもらうよ。何故ならこの奥には」

 

マネカタ達が生まれる聖地にして、母なる場所があるからだと強い眼差しで訴えた。

そしてハッと我に返り、項垂れてしまったから何事かと思っていたらば顔をあげて。

 

「....すまない。命の恩人であっても通すわけにはいかないんだ」

『聖地なら、当然だろ。いいよ、気にすんなって』

 

そう言うと驚いたものの、ホッとしたように見えた。そしてまた籠ると言って。

マネカタ達が幸せに生きられる世界を創る為に何をすべきか見つけ出すのだと。

 

「それから、サカハギというマネカタには気をつけてくれ」

『サカハギなら、もう会ったぜ。アイツ、ホントにマネカタなのか?』

 

「....ああ。ともかく、普通のマネカタだとは思わないでくれ」

『わかった。アンタも籠りすぎないようにな。でないと』

 

他のマネカタ達が心配するぜと告げれば、ありがとうと笑った....んだよな?。

どうも今ひとつ読めないのは、やっぱり彼もまたマネカタな所為なのだろう、と。

 

重たい銅鏡みたいな扉の奥へと消える背中を見送って踵を返した俺の耳に

何かが割れたような音がした。けれどそれはすぐに風の音に掻き消されて。

 

『....?。気のせい、か』

 

同じ頃、扉の奥へと進む擬人の耳にも同じ音が届いていたが。

 

「....なんの音だろう?。それに今日は、やたら目の前が」

 

暗くなるな、と首を捻っていた。

 

そういえば、と。ここ最近マネカタの未来を見ようと瞼の裏で、眼を凝らすと。

何故だろう。ふっ、と暗い影が射してきて日陰に入ったかのように、その先は

何もかもを真っ黒に塗りつぶしたかのような、闇一色になってしまうのだ。

 

知りたいと焦る所為なのか、若しくはまだ見えるべきでは無いのか、それとも。

マネカタにとって、良し悪しすら分からない事が起こるという、何かの"兆し"か。

未来を視れる筈の自分にも分からないことがとても、もどかしいと思いながらも。

 

————— "そう考える事"。それにすら意味があるのなら、と考えていた。

 

だが。例え、この擬人がどんなに知りたくとも"最期まで叶うことは無い"のだと。

知らず、この世界のルールに則り生きる()達には未だ、誰にも知る由も無かった。

 

全てを仕組みし……唯一無二の存在以外は。

 

 

——— ボルテクス界のどこか。現世と次元のあわい。

 

闇の帳に()()()水晶を、じっと見ているのは「金の髪の子ども」。

その顔に浮かべたるは、慈愛と安寧をもたらす清らかなる微笑み。

光の中に在らば、至高の存在たりえる天の御使いに相応しきもの。

 

「坊ちゃま....ッ!!」

 

「....ころあい、かな?」

 

 

白い小さな手を差し伸べて、嗤った。僅かに、歪んだ笑みで。

 

 

 

「....おはよう、めいや。ぼくのかわいい、ことり」

 

 

 




謳え踊れ かわいらしき人の形よ
愚者へと導き 踏み外させよ
あと一歩 そうすれば 汝の罪は


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