射干玉の闇に灯るは幽けき淡い也   作:真神 唯人

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泥人形は覚めやらぬ夢に 酔いしれ
誰も未だ気付かぬは もはや必定か
ひたひたと忍び寄りしは 世界を壊す者
汝らを贄として 喰らいつくす御使い也
 


泥土の偽命、界繋(かいけ)に囚われ

「ようこそ!マネカタの街、アサクサへ!」

 

ああ、何度言ってもイイ響きだぁ~と上機嫌のマネカタの挨拶に驚く。

 

珍しく感情に溢れたマネカタ達に、虐げられてきた暗さは見えない。

悪魔達の糧として、最下層の存在に追いやられ扱われてきた彼らだから。

やっぱり自分達の居場所が出来たって事が余程嬉しいのだろうと思った。

 

表情は相変わらず微動だにしないけれど、明るい言葉の調子が疲弊して

ささくれ立ってた俺の感情を、何となく少しだけ明るくなった気にさせる。

そうして、歩く道すがらに短い会話をしながらターミナルがある引き戸の

前に立った時だった。....ざわり、と背筋が粟立った。

 

....とてつもなく恐ろしい悪魔、"魔人"の気配がしたから。

 

『あっちゃあ....忘れてたぜ』

 

そう思った瞬間、地面に赤黒い穴が生じて俺は真っ逆さまに落ちてった。

毎回変わらねえよなと思う、見渡す限りの赤い砂塵舞う殺風景な場所で

気配を辿ろうと神経を集中しながら、視線だけを動かしていると。

 

カカッ、と馬の蹄が鳴る音と共に天を駆け地を蹴る馬に乗った死神が出た。

ああ、確か四騎士とかいうのの内のどれだっけな、と記憶を辿っていく。

体中に目がある白馬、かなり大きい弓矢を番え濃い灰色のローブを纏った

骸骨なんてもんは下手な悪魔より数段怖いなと思う。それは、何故か?。

 

骸骨(されこうべ)が、間違う事無くヒトに根付く”死の象徴”だからだろう。

 

あくまでもヒトは見下し蔑む対象だとでも言いたげに、目線より上の位置に

滞空しているソイツは俺を目下に見ながら、高らかに嗤って言い放った。

 

「全てはメノラーの導き。その輝きは唯一の主人を望んで引き合い燃え上がり」

 

我らを巡り会わせると嬉々として語るソイツは、まるでこれから

始める事を心待ちにしていたかのように嗤いながら、しかも俺が

全ての魔人を斃してメノラーを手にするなら、それも良しと言う。

 

だが次の瞬間、骸骨でありながら表情が変わったんじゃと思わせる程の

焔のような殺気を噴き上げて弓を構え、その矛先を俺に向けて吠えた。

 

「だがオマエに力無くば、このホワイトライダーの神矢に斃れるまでよ!!」

 

ちょっと待て、死神のくせに増援、しかも天使を召喚するだと!?。

流石に格が上がれば何でもアリか?。ふざけんなよこのヤロウ!!。

 

「攻めて来い!。臆病風な守りなど、俺が許さんっ!」

 

ちっ、増援はヴァーチャーとかいう天使か。面倒くさいスキル持ってるな。

ん?。天使って事は()()が効くか。よっし、先に増援封じてやる。

 

「我は請う、あれなる御使いの脈動止めりて石と為せ。石化眼(ペトラアイ)!!」

 

仲魔が放った呪殺属性の石化魔法は、反属性の天使には高確率で効く。

天使の破魔は厄介だから、先に潰しておかないとヤバい事になるからな。

増援による援護射撃を封じられた所為で、魔人がキレ気味に叫んだ。

 

「おのれ小癪な真似を!。だが俺の攻め手を防げるとは思うなよ!」

『思っちゃいないが敗けるつもりは無い!。来いよ、死神野郎!』

 

 

 

....俺なりに、強化してきたつもりでいたんだけどな。

 

あの後ターミナルに入る前に寄った邪教の館で、俺は溜息をついてた。

 

これまでの魔人戦とはシャレんなんねー闘いを余儀なくされた俺たちは。

スキル強化や戦法を、一考も二考もしなけりゃならない現状を鑑みる事を

改めて思い知らされた。....四騎士って看板は、伊達じゃないらしい。

 

「強化の為の合体じゃろ?。躊躇うでないぞ主」

「そうそう。我らは恐れてなどおらぬ、いい加減分かられよ」

「オメーが強くなってんのに、俺らが弱くてどーすんの」

「でも、あの小娘(ピクシー)は強化に留めなさい。主様には必要ですから」

「ワレラミナ、オマエト共ニアル。ソレヲ覚テオケ」

 

一番最初の仲魔であるピクシーを”変えない”理由は、個人的な感情であって。

それを皆が知っていて、咎めもせずに容認してくれている事は甘えだと思う。

彼女が変えてくれと懇願しているのを、無視している事に他ならないのも。

 

でもこれより....先に進むために、俺は。

 

「どうしても出来ぬか。ならば無理をせずともよいだろう」

 

邪教の館のオヤジが、やれやれと言いながら解除する。

ピクシーが羽音をたてて俺の傍に飛んできて、蹴りを入れた。

 

『....痛ってーな。何すんだよ』

「ホント、馬鹿。アラトってお子ちゃまね」

『....うっさい。子供だろ、未成年なんだぜ俺』

「はいはい。おねーさんが一緒にいてあげるから」

 

ちっさい手で撫でられて、安堵するのも大概どうかと思う。けれどあの時。

悪魔しかいない病院で一緒に行ってあげると言われた時の、あの気持ちを。

 

今も消せないことを弱さというのなら、もう消せなくていい。

ヒトが持つ感情を持ったまま進むのは、より困難な道であっても。

 

『....前も言ったが俺が敗けなきゃいいだけだ。違うか?』

「違わないけど主を支えられないのも辛いのよ?。いつかそれを」

 

()()()()()()()()()ね、と撫でられてしまった。どんな状況になったら

そんな事になるんだよ。苦戦はしたけど、お前ら弱くはねーぞ?と言ったら

全員で顔を見合わせて苦笑いしやがった。理由を聞いても答えてはくれない。

 

(わかんねーけど....いつまでも落ち込んでいられない)

 

気を取り直して、多分来ているであろうあの人を頭に置きながら。

邪教の館を出て、元々の目的地であるターミナルの扉を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よう、現人(アラト)。やっと着いたか....って、どうした?」

『....いえ。何でもないです、「聖(ヒジリ)さん」』

 

 

 

 

 

 

 

....もうフラグ回収って事で、いいのか。なあ、金の髪のチビ。

俺が、いっつも後手後手んなるのはさ、そういうことなんだろ?。

 

 




悲しい哉 ヒトの性(さが)よ 
どれだけ機転を利かせ 先を読んだとて 
それは それさえもが 大いなる存在の御手で 
踊るに等しき哉 流した血の多さも そして 
喪った命の輝きも 全ては 彼の御許にて

次なる世界の 糧と為らん 

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