射干玉の闇に灯るは幽けき淡い也   作:真神 唯人

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昏き希望よ 我らが闇を真の闇へ 堕とす者よ
まだ来ぬか まだ来れぬか 未だ足りぬか
あとどれだけの 赤き霊(ヒ)を お前の身に
捧げれば 事足りるか まだ足りぬか 測れぬ

未だ整わぬ かの女の 代わりには


闇に淡き蛍火、路を照らす燐光にあらん

前後左右、当たり前だけど真っ暗だよなぁと思いながら。

 

駅員さんの思念体が言ってた「坑道」を歩く俺ら。幸い、ライトマ持ちもいれば

光玉も持ってたから良かったけど、まさか地下鉄を歩く羽目になるとは。しかも。

「長ーーーーーーーーい穴」っつーから、一本道かと思ってたら大間違いだった。

 

ダメージを受ける床とか長すぎるだろ。それにハシゴで降りて行くって、何なの。

まるでモグラか蟻の巣じゃねーかよ、穴は穴だけどな。それに何が不便ってなあ。

 

『!!。あーーっ、消えちまった!。あーもうっ!!』

 

静天になると魔法もアイテムも、効果が切れてしまうという事。こうなると後は。

 

「適当に進むんじゃねーよ、アラトっ!」

『しょーがねえだろ!。カグツチが動かねえことには使えないだろが!』

「だからって落とし穴めがけて行ってはなりません、アラト殿!」

「好きで行ってるワケじゃないから許してやってーー!」

 

思わぬ所に落ちたり辿りついたりを繰り返して少しずつでも歩を進めるしかない。

アイテムが尽きないように、逃げる事も必然になった。そうやって進んで行って。

そして「岩戸」を開けた先にいたのは駅にいたオニが言ってた「強そうなオニ」。

 

力が全てなマントラ軍を追われたとは言え、確かに3体とも強かった。

個人的には、魔法を使えるヤツもいたけど総じて腕力バカばっかだなという印象。

けれどソイツ等の兄貴分とやらが最後に現れた時、明らかに段違いの強さを見た。

ただの腕力バカかと思いきや、魔法とは明らかに違う"異能"持ちな事に驚いたな。

 

「身の程知らずな、たわけ者め。我が幻術を以って己が浅はかさを味わえ!」

 

その兄貴分のオニ、オンギョウキが何事かを呟くとその姿が四つに分かれた。

(まこと)は1つとは限らない、憶えておけと言った事にムカついたのはよく見れば

とある現象に、気付いたからに他ならないのだが。

 

「くそう!。どれが本物じゃーーーーっ!」

「外してばっかじゃん!。ジリ貧じゃないの!」

「おい、アラト!。何ぼーっと....」

 

自分達の攻撃を尽くかわされて苛立つ仲魔を尻目に、渾身の一撃を叩き込んで皆を

悩ませている"分身"を解かせて、ほくそ笑む俺に。驚いたオンギョウキと、仲魔の

視線が一気に集まってくる。気付けば簡単な事だけど、意外と見落とすもんだよな。

 

『いつもは、くそ忌々しいカグツチが俺らの味方って事だ!』

 

その術、見切ったぜ!と、してやったりな顔の俺にまんまと術を破られたソイツは

物凄く激怒したが、もう遅い。分かってしまえば無効化したも同然だ、()()()()()

 

『俺が指すヤツが本体だ!。今度は外すなよ!!』

「何かよくわかんねーけど、分かった!」

「後で教えてよね!。行くわよ!」

 

"分身"を無効化する事は出来ても、伊達に兄貴分やってねーな。ホント強かった。

どうにかこうにか斃せた時には俺らもダウン寸前だしな。....要強化、だよなぁ。

移動事項が生じる度に、そこに向かう前にはそれなりに強化してきたけど。

 

思った以上に、強化すべき点が....まだ足りないのか。全員のスキル、見直すか。

そんな事を考えながら回復アイテムで一息ついてた所に、仲魔達が件の"分身"を

見破れた理由を聞きに来た。....あー、そういや説明するって言ったっけ、確か。

 

人差し指を上に向けたけど、そんだけじゃ分からないか。説明文が要るかやっぱ。

上を指差したまま、簡単な事だと前置きして大した事じゃねーよと一応付け足す。

 

『突入時のカグツチが、煌天だったんで足下に影が出来てたんだよ』

「!!。よく見てんな。やるじゃねーか、さすが主」

「我ら皆、そこまで見てはおりませなんだ。感服致しましたぞ!」

「はー。見てる所が違うわね、驚いたわ」

 

初見で気付ければ、もっとダメージを軽減出来た筈だったからそこは悪かったと

素直に詫びれば、素直過ぎて気持ち悪いと返されるとかお前ら酷くねーか?おい。

 

『ともあれ、オニ退治は無事終了だ。さっさと抜けて、外に出ようぜ』

「おー。もう穴ぐら探検は暫くやりたくねー」

「ですが、新たな発見もありましたな」

「ああ、そうね。確かにアレはビックリしたけど」

 

新たな発見?。何の事か分からなくて聞いてみると、はあ?な答えが返ってきた。

 

「主どのの御身にあるその紋様が、闇の中では」

「淡ーーーーく、光るんだけどよ」

「らいとまノ、カワリニハ、ナラヌトイウ事実ダ」

 

あまりにも、しょーもない発見とやらにがっくりと項垂れたがその内ムカついて。

 

『....お前らな。本気か、おちょくってんのかどっちだ!!』

「ほらあ!。やっぱり怒ったじゃないの!」

「アラト殿!。落ち着かれませ、けしてからかっているわけでは」

「最後まで聞けや、単細胞主!!」

「悪気ハ無イ!」

 

落ち着けと宥められながら歩くイケブクロ坑道の、出口に近づいた辺りで肩に乗る

ピクシーが俺にこっそりと耳打ちして、さっきの続きを教えてくれたけれどそれは。

 

「あのね、蛍火みたいで綺麗ねって話してたのよ」

 

は?。....何だよそれ。聞いた俺の方が恥ずかしくなるだろ。

もっと早く、できれば坑道にいる内に言ってくれよ恥ずいわ!。

 

「?。どしたー?。顔赤いぞ、風邪でも引いたか」

「あほか、おぬしは。我が主が風邪など召される筈がなかろう」

「何だとう!。おい、表出ろ!。へこませてやらぁ!」

「ふふん。我に勝負事で勝とうなど、1000年早い!」

「ヤメヌカ、単細胞ドモ!。アアモウ、面倒ナ」

 

赤面する俺を尻目にぎゃあぎゃあと言い合いながら仲魔達が我先にと出口へ走った。

....あのさあ、一応お前達の主な俺よりも先に出てくヤツがあるか。聞けよおい!。

 

そうして仲魔達を追いかけて外に出てみれば、久々の、砂漠の風。

 

どこまでも砂と砂塵が舞うこの砂漠に、嘗ての「浅草」だった場所がある筈だ。

マネカタたちが、自分達の街だと定めた「アサクサ」に至る道へと踏み出した。

 

けれど。そこでまた、闘う羽目になる事をすっかり失念していたのは今ならば

完全に俺の油断だったと言うしかなかった。忘れていた、と言うのが正しいか。

 

 

 

 

 

「ははっ!。また会えたな、アラトっ!!」

 

 

 

 

 




さあ 我らと巡り会えたる事を 喜べ
我らは皆 あの御方に応えんが為に 殉じる
手は抜かぬ 生き残る道を捨て 斃れる身でも
お前の目覚めを呼ぶ者を 導く担い手と為らん

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