射干玉の闇に灯るは幽けき淡い也   作:真神 唯人

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ヒトが まろび まどいて あゆむ道には
大小様々な 石が落ちておるよ
よけて かわして またいで 見落として
足を引っ掛けてころぶ様は なんと面白きかな
おろかなり おろかなり ヒトは どこまでも

おろかであわれな イキモノよ


成劫(じょうこう)を待ちし世界、担い手を呼ばん

「見ての通り、アマラ深界には様々な思念が多く集まっておる」

「この辺りにいるやつは....やれガイアだのメシアだのと絶えず、言い争ってばかりじゃな」

「まるで演説のようじゃよ。ここに来てまで勧誘とは、仕事熱心なことだのう」

 

そう言われて一通り話しかけてみれば、確かに「彼ら」は死んだ後も生前の記憶に従っている。

断片的な、一方的な、会話にさえならない、情報のみを伝えるだけの思念体も少なくは無いのに。

思念体がこれだけハッキリ、生前のことを再現できているのはどういうわけなのか。

 

「聞けよ民衆たち!。世界は支配する神に虐げられ、従い、甘えたが故に自らの力を失った」

「それ故に今、滅びの道を辿ろうとしている。だが案ずる事はない!。何故なら!」

「我らガイアの教えは人に強さをもたらし、真に生きる術を指し示す。故にっ!」

「世界を、古の強さへと再生させるのは!我らガイア教団なのだ!」

 

「如何なる時でも神への祈りを忘れてはなりません」

「そうすれば、例え何が起こっても神は、我々を見守ってくれます」

「死した後に、神の御許に導かれる為にも。さあ、祈りなさい」

 

....どっちもどっちだと、正直、思った。こういうやり取りは、たぶん昔からなのだろう。

両極端なのは、彼らが信ずる存在が対極に在るからだ。そして俺は、その真っ只中にいる。

....なんで俺なんだろうなと、余裕ができたせいか色々と考えるようになった。

意図的に選ばれる程、優れてるわけじゃない。特化した何かがあるワケでも、無い。

どこにでもいる、平凡な男子高校生だぜ?。それが....なぁ。

あの「金の髪の子ども」は、俺に何を見出したんだか。分かった所で今更意味も無いけれど。

 

「悪魔との共存は望むところだ。我々は、それを阻止せんとするメシア教団と対立していた」

「....本当の敵は、教団内部にいたとも気付かずにな。愚かしい事だが」

 

「我々ハ、神ノ御告、聞イタ。東京ニ、破滅起コル、知ッタ」

「ソレ、止メル為、ガイア教徒、追ッタ。シカシ、アノ悪魔使イニ、シテヤラレタヨ」

「....ヒカワ、イウ男、トテモ危険ネ。我ラ、ソレニ、気付ケ無カッタ」

 

****

 

メノラーを回収し、階層を進んだ先で、人の身では知り得る事の無い氷川の過去を。

忌まわしい、東京受胎の裏側を語るのは、舞台の向こうに立つ「喪服の女」。

死という純化で生じた彼らと氷川の関わりは深く、因縁の糸が多重に絡んでいた。

あらゆる思想を自らの物とし、混沌の中に真理を見出そうとする集団「ガイア教団」本部。

その中にいてなお、異端と言われたというアイツは....何を以って、世界を壊したのか。

 

<現実の中に理想はあり、理想は、その手で作り出さねば成らない>

 

その強い意志が目論見へと変わり、人の則を越えて、運命を引き寄せ、現実へ転じさせた。

誰の目にも触れぬまま忘れられていた「ミロク教典」という書物を、見つけてしまった。

そこに示された、()()()()()()()()()()()()()「東京受胎」という「審判」を知ってしまった。

それは、所謂「神」と呼ばれし存在によるのか、それとも「悪魔」という存在によるのかは分からない。そこまで知った所為(せい)なのか。アイツは....その「審判」を、世界の滅びと再生という避けられない運命を、神でもなく悪魔でもなく、ヒトである自分の意の下に置いて動かす決意をしたのだと「喪服の女」は語った。

 

自分の思想に反する教団の仲間、行動を止めようとするメシア教徒、邪魔する者全てを、自ら従えた魔の者を使って葬り去り、予言の通り....否、教典を読み解いた氷川の思惑通りに。

世界は、たったひとりの男の手によってその時を迎えたのだと。そして、東京が卵の状態になったあの時、氷川が望んだ自分の為の施設「ニヒロ機構」も産まれたのだと。

 

ニヒロ....ラテン語で「虚無」を意味する言葉だと、仲魔が教えてくれた。

 

新しい世界を創らんとする者が掲げるのが「虚無」とはな。アイツは創世をどうしたいのか。

叶ったとして、そこには自分にもヒトにとっても、何も無いんじゃないかと漠然とそう思った。

それは、そんな世界を創ることは、何の意味がある?。敢えてする必要があったのか。

その事に気を取られて、「喪服の女」が締めくくるように言った言葉の意味を、その時の俺は勘ぐる事さえしなかった。

 

「あの者の考えたとおり、受胎は起こり、創世が為されようとしています」

「けれど、それがこの先どうなるか。まだ未来は定まってはいません。ですから」

 

女は、そこで言葉を一旦切った。そして。

 

「....繰り返される創世の輪から、解き放たれることもある。と、私どもは信じてあなたを見守っていましょう」

 

その言葉を合図に、舞台の幕が下りてくるのを見送った俺は先へ進んだ。

ワープゾーンを抜けた先、次の階層へと至る場所で....「選択」を迫られるとは知らぬまま。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

頭上から馬の嘶き(いななき)と共に聞こえてきた、死を呼ぶものの、声。

 

「お前が、人修羅と呼ばれし者か?」

 

 




夢も希望も必要無い世界で ヒトはどうあるべきか?
ただ 生きていればいいのか それだけなのなら
もはや ヒトで在る必要すら 無いではないか

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