射干玉の闇に灯るは幽けき淡い也   作:真神 唯人

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目指すものの為に、降すは「裁き」の奔流なり。


力に溺れしもの、謀略に惑いて愚に堕ちぬや(動)

ロックを外され、安定した通路を走る。

エレベーターでB10Fへと降りた先に、小さい天狗のような悪魔といつか「ヨヨギ」で見た

視界の暴力みたいな悪魔が、マントラ軍のことを嘲笑っていた。

ソイツ等は、俺がここへ来た事に驚きながらも嘲笑を崩さず、捕食者の目で。

マントラの手応えの無さに退屈していたと言って、向かってきた。

 

****

 

目の前の台座には、光の色が違う穴がある。

おそらく、ここに4つのキーラとやらを鍵として差し込むのだろう。

当然、それを守る者たちがいる筈だが....まさかソイツ等に至る為に

その前に、ソイツ等がいる各階のギミックに悩まされることになるとは。

 

マガツヒ貯蔵庫に組まれた個々の区切られた小さな部屋を行き来して

正しいルートを辿り、安置された階へと行くのだが、そこはなんというか。

造ったヤツ、或いは、ここを支配しているあいつの性格を表すが如く。

厭らしいほど面倒な手順を踏まなければならない場所だった。

しかも、行く先々で待ち伏せされて戦闘になったり、持ち逃げした守り手を

追いかけたら尽くダミーだったりで、イラつき、辟易しながら進んだ。

 

そうしてようやく集めた全てのキーラを、各色の穴に差し込むと

それまで床だった所が螺旋状に沈み、隠し通路が現れる。

螺旋状の道を下って扉を開けた先から、中枢部へのエレベーターへ。

エレベーターを出て本中枢部へとのびる道を進み扉の前に立てば

異様な妖気が漂っていた。間違いない、ここだと確信する。

 

ここに、あいつが。「先生」を、俺を、こんな事に巻き込んだ「氷川」がいる。

呼吸を整え、気持ちを落ち着かせながら意を決して扉を開けた。

 

****

 

静かに、緩やかに回転する、「ターミナル」に似たオブジェ。

「アマラの転輪鼓」の回転方向に沿って、ゆっくりと下へ流れていくマガツヒ。

その「装置」の前に立ち、それらを眺めている、忘れもしない男の後ろ姿。

「氷川」は、ここへ辿り着く者がいるかと感心し、背中を向けたままで

マントラも愚直なばかりではないようだと言う。

そう言ってくるりと振り向けば、マントラ軍の悪魔ではなく「俺がいた」事に

ほんの一瞬だが表情を変え、素直に驚きを隠さなかった。

 

そして、自分に会いに来たのかと問われてそうだと言えば。

目的の為なら一度は自分を殺そうとした者の元へ赴くかと、妙な感心のされ方をした。

たった1人でここへ辿り着いた健闘を称えようと言った「氷川」は、この世界の

真実を知るがいいと語り出す。

 

マガツヒについて知らないということは、死んでいるのと同義だと言い切って。

 

マガツヒは「神」への供物であり、「創世の守護神」を招く為の力。

思想を「コトワリ」として広め、大量のマガツヒを手中にせし時こそ。

「神」は立ち現れ、世界の成り立ちさえもが「書き換わる」。

今の混沌とした世界は、自分の手によって「創世」を目的とに生み出したモノ。

そして間もなく「氷川」が目指す世界が。

時の営みと最も調和した、静寂の円環だという「シジマ」の世界が

もう間もなく生まれるのだと、歓喜に満ちた顔で言う。

 

だが、と表情を一変させた「氷川」はマントラ軍に報いを受けさせると言った。

ニヒロ機構に牙を向ければどうなるかを、この世界に知らしめるために。

残ったマガツヒを使い「新たな力」を呼び起こす、と言って「氷川」は

天を見つめ、両手を広げる。そして。

 

「さあ、今こそ目を覚ませ!ナイトメア・システムよ!」

 

「氷川」の呼びかけに応えるように、螺旋状の道沿いの壁一面に満ちていた

マガツヒが急速に下の方に集められていき、「装置」が轟音とともに揺れ出す。

そして、凝縮されたマガツヒはまるでビームか何かのように天へと撃ち出された。

 

「....わかるかね。世界中のマガツヒの流れを支配し、全てをこの手に集めるシステム。

先ずはマントラ軍、彼らの本営イケブクロを目標とした。このまま彼の地の

マガツヒが消え失せれば、マントラ軍は朽ちゆくだろう。」

 

満足げな「氷川」は、俺に、更に恐ろしい事を言い放った。

 

「そうそう、このシステムは「高尾裕子」を媒体としているのだよ」

『....何だと?。「先生」を媒体って...どういう意味だ』

「彼女は実に役だっている。流石は「創世の巫女」といった所か」

『....質問に答える気は、無しか』

「裕子先生のことが、心配かね?生徒としては」

『....だったら何だよ。悪いか』

 

 

「氷川」は至極残念そうに、俺と「先生」が会う事はもう無いと言う。

そして、俺に「受胎」を生き残るべきでは無かったと言い放ち、更に俺を生かした

「先生」の甘さを許すべきではなかったと悔いて。

前の世界に未練を残す者には、成し得ることなど1つも無いと言うや豹の姿をした

双剣を構える悪魔を呼び出した。

 

「...少年。君の苦しみ、私がここで終わらせよう」

「...さあ行くがいい。君が失いし、古き者たちの元へ」

 

****

 

苦戦はしたが、「堕天使・オセ」という悪魔を撃破した。

剣を床に突き立て、片膝をついて荒い息を吐いているソイツが顔を上げる。

 

 

「....俺が、敗れるとはな。だが勘違いするなよ。俺がここで敗れたとて

お前が司令や巫女に2度と会う事が出来ん事に、変わりは無いのだとな!」

「何だとテメェ!。どういう意味だ!?」

「ナイトメア・システムは発動した!間もなくここは閉ざされる!」

「!?。ナンダト!!」

「巫女へと至る道は断たれる!立ち去れ悪魔!世界を創るのは我らニヒロ機構だ!」

 

 

ソイツの最期と重なって叫ばれた後。

途端、眩しい光と共に体に凄まじい圧力が掛かった。そして。

弾き出されるような感覚を感じたと思ったら、気付けば外の入り口にいた。

 

『!?。くそっ、開かねえ!!』

 

ガンガンと叩いてみるがビクともしない扉を蹴って、ため息をつく。

完全に、ここではもうやれる事がなくなってしまったのだ。

 

 

「....アラト。マントラ本営に行ってみようぜ。イヤな予感がしやがる」

『ああ。ナイトメア・システムってのが気になるしな。行こう」

 

 

****

 

 

急いでイケブクロへと戻った俺達の眼前に映ったのは、1つの組織を率いて

事を成さんとする「氷川」の恐ろしさを、震撼とさせる光景だった。

ビルだった建物から、マガツヒが天へ向かって抜けていくのが止まらない。

生きながらに命の灯を抜かれていく。それを自分ではどうにもできない。

じわじわと忍び寄る「死」に抗えない。....想像を絶する状態だった。

 

 

「....酷でぇ。マガツヒが、抜かれてるなんてカワイイもんじゃねえ」

「ナイトメア・システムとやら、何と恐ろしきものを....」

 

 

 

すぐに「ゴズテンノウ」の元へと向かう為に大扉を開けた、そこに。

こんな状況で、思いもしない人物が立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『何で....こんなとこにいるんだ、「橘」』

「....久しぶりね、現人(アラト)くん」

 

 

 















お前は、先に行ってしまうんだな。今はまだ、拙くても。

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