「イケブクロ」から「ギンザ」へ。
「ターミナル」で移動し、地下街を抜け、砂漠をひた走り。
「ニヒロ機構」の扉を開けて、俺は愕然となった。
いたるところに、これでもかといわんばかりの破壊の爪痕。
そこここで、あがっている白煙。崩れた壁やらの瓦礫。空っぽの宝箱。
略奪と破壊行為の愉悦と、己が勝利の歓喜に興奮しているマントラ軍の悪魔たち。
それを、俺は釈然としない思いで眺めていた。
「....あんだけ厳重にしてた拠点が、こうもアッサリ破られるとはな」
「ウム。ヤハリ人間ノ総司令トヤラ、悪魔ニハ敵ワナンダカ」
『(そんなワケ無ぇよ。あいつが、あの「氷川」が、こんな簡単に終わるわけが無え)』
「主さま?如何しました?」
『....下の階へ行く。見落としてることがあるかもしれないからな』
地下3階もあらん限りの破壊の跡があった。ここでも愉悦に浸る悪魔たちがいる。
けど、そのうちの一匹が気になる事を言った。上の階で聞いた事と併せると俺の疑念は
ただの疑念から、確信めいたものに変わる。
「総司令と巫女が見当たらない」
「中枢部への入り口を開くには、キーラとかいう4本のカギが必要らしいがガセだったのか?」
もう1つの扉を開けると、通路が無造作に回転していて先へは進めない。
....何でこんな状態の通路があるのか?。答えは1つだろう。
じゃあ、この通路を正常にするにはと考えるが、どうしたものか。
すると、中枢部の扉の奥から音がした。まさか、と思いながら、ある人物が浮かぶ。
扉を開けると予想を裏切らない確率で、「その人」がいた。
俺を見るや、ビクリとするのは相変わらずか。
『やっぱり、聖(ヒジリ)さんでしたか』
「何だよお前か。脅かすなよ、待ち伏せされたかと思ったじゃないか」
そう言って、アマラ経絡落下の件を謝罪してくれたあと。
もし成功していたら、たった1人でここに放り込んでしまう所だったと言い、その結果を思い至って身震いしていた「聖(ヒジリ)さん」は、だいたいの状況は把握していると言う。
そして、マントラ軍の襲撃に乗じる形で、目立たずに来れたとも。
そんなやり取りのあと、思いもよらない事を聞かれて驚いたけれど。
「....なあ。まさかとは思うんだが、お前がマントラ軍に付いたって噂は本当か?」
『....は?。いや、勧誘はされたけど付いてなんかいませんよ。どっから出たんですかそんなの』
「そうか。やっぱり只の噂か。いや、お前が「力」に目覚めたんならそういう事もあるかもなとは思いはしたのさ」
俺の答えに安堵したのか、中枢にある「装置」を見ながら状況を説明してくれる。
ここは「マガツヒ」を集める装置らしく、傍目にはどう見ても中枢部にしか見えないと。
その為、マントラ軍の悪魔たちは、よってたかってここを壊したのだという。
事実、大量の「マガツヒ」で満たされていたから、疑う余地などなかったのだろう。
そして、「聖(ヒジリ)さん」は徐に言い放った。
「....連中、今しがた意気揚々と帰ってったぜ。....「氷川」のヤツに嵌められたとも知らずにな」
アマラ経絡を通って来たことで気付いたらしい理由は、「マガツヒ」の流れが妙だったこと。
それが、巧みに似せてはいるがこの建物のどこか別に中枢部がある筈だという事へと導いたと。
突然、轟音が響いたかと思うと、目の前の装置の揺れが酷くなる。
「聖(ヒジリ)さん」は舌打ちし、騒ぎが収まりつつある現状から引き返すしかなさそうだと悔しげに言った。あいつの顔は拝んでやりたいが、命が幾つあっても足りないと。
「外に通れない通路があったろ?アレのロックをさっき外しといた。俺にはこれぐらいしかできないからな」
真顔になった「聖(ヒジリ)さん」は、俺に告げる。
「....この先で「氷川」とどう向かい合うかは、お前に任せる。ここまで来たんだ、悔いだけは残すなよな。....じゃあな」
俺は、あいつに、「氷川」に会いに行く。全ての「元凶」であるあいつに。
そして、「先生」に、これまでの聞きたい事を問う為に。
....あいつの抜け目無さで、返り討ちに合うとも知らず。
やっぱりあいつは、甘くもなければ抜け目も無ぇな。
「大人」と「子ども」の差は、開きっぱなしだ。