射干玉の闇に灯るは幽けき淡い也   作:真神 唯人

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それとも、言祝ぎなのか。それは誰に向けられたのか?。




鎮魂歌(たましずめのうた)、誰が為に紡がれしや

一度は会えた、「もう1人の級友」を探した。

 

 

「決闘裁判」の後、「人間」が殺されたという話はきいてないから

恐らくは、まだ囚われたままの筈だ。走って階段を駆け降り、牢への扉を開けると

見張りだか、牢番だかの悪魔が台座の上に座っている。

なんかガタガタ言ってるけれど、「新田」を見つけるのが先だと、無視して進んだ。

程なくして本人がいる牢の前に辿り着き、どう見ても開きそうにないことに愕然とする。

 

俺が来た事に気付いた「新田」は、マントラ軍のNo.2の悪魔に殴られた体の痛みを

訴えながらも、囚われてはいるが直ぐに殺されることはないらしいことを告げた。

 

この時、「今は殺されない理由」に気付いていれば。

 

俺は「新田」を、「級友」をこの世界の在り方の意味で「失わずに済んだ」筈なんだ。

だけど、運命の糸ってモノは時にどうやっても「絡んで中々解けない」らしい。

それが、予め「仕組まれたこと」ならば....尚更、頑丈で。

最もこの時は、そんなことになんか気付ける筈もなく、ただ何とかしたかった。

 

 

『くっそ、開かねえか』

「現人(アラト)、そんなことより聞けよ!」

 

 

自分よりも、「先生」を助けに行ってくれと言いだした「新田」は矢継ぎ早に言う。

俺がギンザで聞いた「ニヒロ機構の巫女」が、「高尾先生」なのだと。

そして、もう幾許もしないうちにマントラ軍がニヒロ機構に攻め入る事を。

 

 

「先生、捕まったらやられちゃうよ!頼むよ、今のお前なら出来ない事じゃないだろ!」

 

 

自分には出来ないからと、唇を噛んで小さくなる語尾が「新田」の無力さを表す。

かつて「今が楽しけりゃいいんだよ」と、うそぶいてた利己的な性分は、今は見えない。

「新田」の頼みを聞くことを了承し、取りあえずマントラ軍の「親分」に会わなくては

話が進まないと判断し、そこを離れた。

 

****

 

こういう場合、組織のトップというものは最上階にいるのがよくある話と聞く。

....聞くが、ここの最上階は64階だ。しかもエレベーターを出るとあろうことか、いきなり

外回りかよ。高所恐怖症じゃなくても普通に怖いんじゃないかと思う。

更に、恐る恐る下が見えるかってとこまで近づくと何故か「飛び降り場」が設置してある。

....悪魔なら飛び降りても死なないだろってか?。んなワケあるか。

 

なんでそんなものがあるのか、意味が分からなかった。

分からなかったが、まさかそれが、この後直ぐに役立つとは。

 

階段を昇り切った先の大扉の奥の扉の前に立つと、威圧感に満ちた「妖気」が伝わる。

力を全てとする悪魔たちを束ねるのは、どんな悪魔なんだと思いながら扉を開けた。

入った先は、祭壇のような場所だった。キィン!、と、突然張り詰める空気。

 

見ると、誰かがうずくまっている。じゃらり、と金属音がした。そこにいたのは

両手を長い鎖で拘束され、赤い縄で頭部をぐるぐるに巻かれ、両目を塞がれたマネカタ。

その異様な姿にたじろいだ俺の耳に、男とも女ともつかない「声」が聞こえた。

マネカタは、ずるり、と体を起こしてがくがくと震えながら俯いたまま何かを呟き始める.

 

 

 

「天地に 来揺らかすは さ揺らかす 神吾がも 神こそは 来ね聞こう 来揺らならば....」

 

 

 

大きく両手を掲げ、天を仰ぎみるマネカタに応えるように、篝火に火が灯っていく。

つられて顔を上げると、巨大な偶像?がそこにあった。上半身をマガツヒで覆われた

この巨像が、「ゴズテンノウ」?。マジか、悪魔じゃないのか。

そう思った途端、突然、大気が揺れて頭の中に「声」が響く。

 

「ゴズテンノウ」は、俺の来訪を喜び、その力を示すかのように神気を放った。

俺の能力の値を上げ、使役できる仲魔の数を増やした「ゴズテンノウ」は、自分に

尽くせば更なる力を授けてやると、それならマントラに与するのに異存は無いだろうと

問うてくる。

 

....俺は、返事を保留にした。

 

決められないと言った俺に、釈然としないヤツだと言いながらも悪魔として自分達の

働きを見た後で再び決めればよいと、俺に選択肢を残した。....働きを見る?。

何か嫌な予感がする。話を進める「ゴズテンノウ」の言葉に、それはやがて確信へと

変わる。

 

既に、襲撃の命は降されていた。一足遅かったらしい。

「ゴズテンノウ」の話を聞き終えるや、俺はそこを飛び出していた。

 

 

『いちいち階段で下りてたんじゃ間に合わねえ!全員「ストック」に戻れ!』

「!?ちょ、おま、待てって!おい?!まさかっ!!」

『こっから、飛び降りるっ!!』

「!!!」

 

 

「飛び降り場」を目指して走りながら、全員が「戻った」のを感じた俺は躊躇う事なく跳んだ。

不思議と怖さは全然なくて、寧ろ加速できないことに歯噛みしながら落下していった。

 

****

 

....悪魔の体は、伊達じゃなかった。幸いな事に激突死には至らなかった。

そのかわり、体を巡る緑色の刻印が赤く変化して明滅していた。所謂、「瀕死」という状態だったらしい。苦しい息を吐きながら、あー今、襲われたらヤバいなと、呑気に思っていたら詠唱抜きで飛び出してきたピクシーが、真っ青になって魔力を全部使って回復魔法を唱えまくる。

 

 

それでも厳しいから、すぐに泉の聖女のもとへ行って回復した。

そのあとは....まぁ言わずもがな、というべきか。

ピクシーの往復ビンタと仲魔全員からの説教が待っていたが、場合が場合なので

「ギンザ」への道すがらで勘弁してもらった。

 

 

それでも説教を避けるべく戻す気でいた俺を見抜いていたのか、皆は絶対戻すなと

言い切り、全員で「ターミナル」を出て、外へとひた走る。

 

 

 

 

「てめぇ大概にしろよ!俺らまで巻き添えにすんな!」

『だから戻らせただろっ!緊急だ、諦めろ!』

「今回ダケダ!次ハ無イ!」

「ほんっと、勘弁してよね!今度やったら放置するから!」

 

 

 

 

....思ったより便利だという事は言わない方がいい、よな。




後で「聖(ヒジリ)さん」に聞いたら、鎮魂歌なのだと言った。
あの時にうたわれた「それ」は....誰の魂を,鎮める歌になるのか。

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