射干玉の闇に灯るは幽けき淡い也   作:真神 唯人

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未だ、眠れし「双竜」とは、かくもありや。


天淵に至りしは、火水にも似たり

見渡す限り、砂と瓦礫と街の痕跡を僅かに残す場所だった。

1人の男がこれだけの事を起こすとは、俄かには信じがたいが

目の前に広がる風景が、それを如実に物語っていた。

 

「東京受胎」。すべての始まり。そして。

生き延びた「人間」による「次に生まれる世界」を巡る、覇権争い。

今、ここでは「創世」とやらを目指す者達による、争いが始まっている。

 

 

その中に、今回「依頼」された「調査対象」がいるのだ。

 

 

あの日、事務所に現れた「喪服の若い女と老紳士」からの「依頼」を受けて

「回廊」を通り、ゴウトさんと共に、ここへ来た。

そして病院から出てきた、後ろ姿ではあったが、件の「調査対象」を見つけた。

仕掛けるには既に遠ざかっており、着いた直後ということも相まってしばらくは

調査を兼ねた様子見に、徹したのだ。

 

そうして、悪魔でもなく人でもないという「それ」を、追う。

およそ悪魔らしくない行動をとる理由が分からずにいたが、調べてみれば

「それ」は、もともと「人間」であったというから驚いた。

確かに人が悪魔化する例は、あるにはある。だがほとんどは、自我を喰われて

人を襲うイキモノになり果ててしまう。

 

けれども。「それ」には、その兆候もなければ凶暴化の発露さえ無い。

それどころか、僕と同様に「悪魔を使役する」ことができるのだ。

「悪魔召喚士」でもなく、ましてや人でもない悪魔が何故?。

その特殊性こそが、「人修羅」という存在の証なのだということか。

 

遭遇した悪魔との闘いぶりを見たけれど、あまりにもお粗末だと思った。

闘い慣れしていないのだと気付いたのは、かなり後になってからだったが。

理由は、調べを進めるうちにわかってきた。....何のことは無い。

かつてのこの世界は、悪魔など出ることもなく平和で賑やかな所だったという。

それ故に、単なる闘いにも、ましてや悪魔との闘いなどに至っては

不慣れなのは「当たり前」以前のこと、なのだと。

 

 

それでも、この世界で生き延びる為に。その為だけに。

自分の手を悪魔の血に染める。僕が、この刀を悪魔の血で染めるのと同じように。

 

 

「悪魔」は、「討伐」するべき存在だと、分かっている。

「使役」できるのは、継いできた血と継がれてきた「能力」を持つからだ。

けれど「それ」は、今まで見てきたどんな悪魔たちとも違っていた。

 

 

****

 

 

「仕事」より「私情」が上回ることなど、あってはならない。

それは鉄則であり、基本であるから。そして、命に係るからだ。

 

 

追っていた「それ」の行方を、見失ったときがあった。

焦りはしたけれども、直に、そのワケは判明したのだが。

 

 

「む?。「人修羅」の気配が失せたな」

「そのことですが、どうやら「アマラ深界」に潜っているようです」

「....ほう?」

「あそこは強くなるという目的無くば、到底居れません」

「....ふむ。おい、ライドウ」

「はい。何でしょう?ゴウトさん」

「....好敵手にするでないぞ。アレは、悪魔だからな」

「?。仰る意味が、わかりかねますが」

 

 

その時は、何故そんなことを言うのかが、全く分からなかった。

 

 

そして、ようやく相対するに至った、つい先程の時。

「イケブクロ」なる地の建物の前の大きな階段の下で、先に張らせていた

仲魔とのやり取りを伺う。ゴウトさんの指示を聞き、階段を駆け上がって跳ぶ。

相手は1人で、しかも丸腰。但し、未知数とは言え悪魔である以上、気は抜けない。

一撃で倒せるとは思ってはいないが、手応えや如何に。

 

 

………などど、軽く言える相手ではなかった。

実際は、とんでもない者だと知ることになったのだ。

 

 

滞空中に「人修羅」の立つ床の周囲に、光る輪が幾つか生じた。召喚陣だ。

だが、おかしい。詠唱する暇など与えてはいないのに、何故呼べる!?。

一番早く生じた陣の中から現れた悪魔の剣が、僕の刀を弾いて返す。

ついで、女神が現れ「人修羅」の手を引いた。白い獣がひらりと舞い降りる。

 

何故、主が呼びもしないのに出て来れた?!。

まさか、主の危機に反応して「盟約の拘束」を破ったのか?!。そんな事があり得るのか。

 

響く、刃まぜの音。このままでは押し切られる。ならば。

息をつき、胸元のホルダーからひとつ、「管」を抜いて詠唱する。

「呼ぶ」のは「赤き鎧武者」。猛る将、「ヨシツネ」。

 

 

「よくぞ俺を呼んだ。如何ようにもしてやるぜ、任せろ!」

「殺してはだめだ。戦況を、今より五分に持ち込んでくれ」

「承知。だがその為には、手駒を増やせ!押し返す!」

「ああ!」

 

 

どの程度か見るだけのつもりが、まさかの総力戦になるとは思わなかった。

成程、「人修羅」。侮りがたし存在だ。一戦終えてゴウトさんが呟いた。

 

 

 

 

「ライドウ。これは、この案件は、一筋縄ではいくまいな。気をしめてかかるぞ」

「....ええ、そうですね」

 

 

 

この一戦後。この先、この「依頼」のせいで。

僕は、「仕事」を超えた「私情」を持つことになるとは、思わなかった。

ゴウトさんが言ったことの「意味」を、知ることになるなど思いもしなかった。






「誰か」の思惑に、乗せられているのは「どちら」だ?

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