射干玉の闇に灯るは幽けき淡い也   作:真神 唯人

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人に似せた紛い物と蔑まれ利用され、搾取される為だけの存在。
「彼ら」は、その身に宿す命の灯さえも、「紛い物」。

どれだけ近くても、交われない哀れな存在と嗤ったのは誰だったか。


萍水(へいすい)に抗いし、徒波は未だ

「おい、現人(アラト)。聞こえてるか?。

...ああ、なんとか「ギンザ」に出れたか。

いや、途中でお前の気配が消えたから...心配したんだぜ。

アマラ経絡の中に飲み込まれたんじゃ

ないかってな。...うん?どうした、何かあったのか?。

...そうか、ならいいが。ああ、これからだけど、お前は足を使って

「氷川」を調べてくれ。手掛かりがある筈だからな。

 

俺は別の方法でヤツを追う。じゃあな、お互い生きてまた会おうぜ」

 

 

****

 

「ターミナル」から出てみれば、そこは塵ひとつ落ちてなど

なさそうな、エントランス。中央には、きれいな水が心地よい音をたてる噴水。

整えられた、きれいな街、という印象だった。そこここに、見張りらしい悪魔が

いなければ「人間」が歩いていそうな場所だ。当然、「氷川」が統治するという

だけあって、そこにいる悪魔や思念体は「氷川」に心酔してる

者ばかりだ。なぜ「自分達より弱い筈の人間」に、と聞けば、どこを取っても

抜け目のない方だと褒めちぎる。...何か、意外だった。

 

悪魔なんて、粗野で乱暴なものだと思っていたから、そういう

わけでもないというのは、単純に驚いた。

 

だからといって、あいつがやった事を許していいことにはならないが。

 

「氷川」が目指すものは感情に支配されない、故に苦しみのない、

静寂で機能的な世界だという。それだけ聞けば、かつて「ヒト」が夢見た

平和で争いも無く生きていける理想の世界だと言えなくもない。...でも、その根底は。

 

取り敢えず、情報収集をと街を歩きまわると...大層な思想の割に、なんで「俗物的」な

場所があるんだと首を傾げる所があったのには笑えたけれど。近くにいた悪魔が

けしからん、なにが情報交換の場だ!って言ってるけど、ホントは入りたいんじゃねえか

って聞いたらすっげーキレられた。

 

...あれは絶対興味アリだけど、思想に忠実じゃないといけないからなんだろうなぁ。

 

情報交換の場だというくらいだからと、入った場所は所謂「BAR」だった。

本来なら未成年の俺は入ってはならないし、近寄りもしない所だけどそれは

「人間」の場合であって「人間の法」などもはや関係ないこの世界では意味がない。

 

...それでも、おそるおそる入ったのはしょうがないだろ。仲魔だろ!笑うんじゃねえ!。

 

店主?の「マダム」と呼ばれる女悪魔は、なるほど大人の色香を纏う妖艶な美女だ。

そんな風だから俺は、おませな坊や呼ばわりされてもしょうがないんだけど。

話せば気さくなひと(人じゃないけど)で、まるで、相談に乗ってくれるお姉さん

みたいな感じだった。

 

「ニヒロ機構に人間の巫女がいる」と聞いて表情が変わった俺に何を思ったのか

...男の子だったらドーンと行っちゃいなさいって、それ意味間違えてるだろ絶対!。

絶対ぇ、違うから!。違うって!!。聞けよ、人の話!!!。ああもう!!。

 

****

 

外に出て、聞いた場所を目指すが割と近くにあった。入り口で追い返されたけど。

しょうがないから、また「ギンザ」に戻って「マダム」に相談すると、本当に行くとは

思わなかったと言われてからかわれたのかとショックを受けてたら。

 

「マダム」は急に真面目な顔をして「ゴズテンノウ」に会えと言って。

「氷川」と対立する集団の「親分」だから、きっと力になると。

 

「イケブクロ」を仕切る「親分」か。行き方を聞くと、少し先の「ハルミ倉庫」から

地下を抜けて行くらしい。砂漠を歩くのは辟易していたところだったので、準備を整えに

街を歩いた。後から気付いて入ってみた店が「宝石商」みたいな所でなぜか店主が上から

ブランコみたいなものに座ったまま、するすると揉み手をしながら降りてきたのには驚いた。

 

...俺から宝石の匂いがするって、ああ、アンタも悪魔みたいなもんなのか。

俺には宝石の匂いなんてわからねぇもん。

 

 

聞いたとおり、倉庫へと向かいシャッターを開ける。目の前には地下へと続く道がある。

どれだけの長さかは分からないけど、長丁場になりそうな気がした。

入り組む地下道の道のり。そして、その先で俺は我が目を疑う存在を見ることになる。

その後、頻繁に関わるとは思いもしない「彼ら」を。

 

 

****

 

『(なんだろう、あれ。悪魔...じゃないよな。)』

 

 

流れる地下水を挟んだ対岸にいた「そいつ」は俺と目が合った途端。

「あっ!」と叫んで逃げていった。

対岸だから追いつける筈もないんだけど、にしたって逃げ足早ぇな。

見た事のない服(単衣の着物?)を着た、「人間」によく似た姿形。

 

 

死者の精神から生まれた「思念体」とは違う存在。

かつての「人間」の真似をする「人間」に似て非なる「人形」。

 

 

「彼ら」は「マネカタ」。擬人と呼ばれる存在。今はまだ、小さくて弱いだけの。

いずれ大きな流れと力を生み、「あいつ等」と同じ位置に立とうとは到底思われも

しないし、誰も思わない存在。...そう、「今はまだ」。

 

 

 

 

 




人の夢よりも儚い夢を、いまは見ることさえ無い。
ただ、怯え、隠れ、生きるだけ。






「仲魔」?「友達、友達!」。


悪魔ではないから、仲魔という概念がないのは仕方ないけど
仲魔にならないと知って、地味に悲しかったな。


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