『――――僕はね士郎。昔、正義の味方になりたかったんだ』
『なんだよ? それ、なりたかったって? 諦めたのかよ』
『――――――――ああ、そうだよ。大人になるとね正義の味方を名乗るのは難しくなるんだ。正義の味方は期間限定だからね』
『………………………………ただの正義の味方だと期間限定なのか(ボソッ』
『ん? どうかしたかい士郎?』
『何でもない。それじゃじいさんはなれないのか?』
『そうだね…………僕はもうなれないかな。正義の味方にはね。なってみたかったんだけどね』
『なんだよ。なればいいじゃん! じいさんなら簡単だよ! 俺の事だって助けてくれたじゃん! じいさんは俺にとっては正義の味方だよ!』
『そうか…………。僕がね…………そうか。でもね僕はもう無理なんだよ。ごめんね……士郎。僕が正義の味方だとしても僕は誰かを助ける事はできないんだよ。僕はいつだって誰かを切り捨ててきたんだ………………』
『そっか。正義の味方のじいさんでも無理なのか…………』
『ごめんね。士郎……』
『なら俺が代わりにどうにかしてやるよ』
『――――え?』
『正義の味方のじいさんが無理な事は俺がやるよ。本当の正義の味方になる。誓うよ。じいさん! 正義の味方に俺はなる! そう愛と希望の戦士! そうその戦士の名はジャスティスファンタズム!!!! 俺は正義の味方を越えた正義の味方だ!』
『いや、ちょっと違うような――でも……まぁ安心した。良かった。本当に良かった――――ありがとう。士郎』
『あぁ。全く――――いい月だ』
『ジャスティスファンタズムだ! よーし! 頑張るぞぉおおおおお!!!』
――――僕はねシャーリー。僕は正義の味方になりたかったんだ
――――――――――――
「ん? ここは? 俺は?」
何だろうか。凄くいい夢を見ていた気がする。しかし俺は今までどうしていたんだ? と言うか何で俺は半裸なんだ?
「目を覚ましましたかシロウ? 良かった」
「――――――――ん? ああ。そうだな。ありがとうセイバー。すまん。で? 俺はどうしたんだ?」
「――――? 覚えていないのですか? 昨日、バーサーカーに襲われたのです」
昨日? ぐっ!? 頭が割れそうだ。しかし何があったんだ? 記憶が不明瞭だ。昨日の事どころかここ、数十年の記憶が殆ど無い。何だろうか? 大事な事とヤバイ事、全て忘れた気がする。
気のせいかな? バーサーカーとアインツベルンとやらの戦いも覚えているし。どうやって撃退したかは覚えてないが――――まぁいいか。
殆ど無いとは言っても細かい事を覚えていないだけだ。
まぁ周りの視線が変な事だけは覚えてる。渾名は確か××ブラウニーだった気がする。××のところは思い出せんが…………。
何故だろうか? 俺は今、自分の姿に猛烈な違和感がある。
俺は本当に俺なんだろうか? そもそも忘れていることは細かい事なのだろうか? もしかして俺は自分にとって不都合な何かを昨日に置いてきてないか? 何だろうか? 今のままだと自分を殺したくなる気がする。
なんかもうこの世の全てが言っている気がする。
『いまさら素面に戻ったらあかんよ。君』って――――気のせいか?
「――――シロウ? 大丈夫ですか? 傷は凜が癒しましたが頭の傷は見た目より深かったので記憶や五感もしくは手足に異常が出るかもしれないと言われていたのですが?」
「――――ん? ああ。なんの問題もないぞ? それより遠坂は大丈夫なのか?」
頭の異常か? 特に無いな。むしろ清清しいくらいだ。
頭の大事なネジが全て嵌まったかのような感覚だ。
しっかい溶接までされたかの様な爽快感だ。
俺は今、初めてマトモな姿になったかも知れない。
やったよ。皆、俺――――成長したよ!?
いや、なんでさ? なんの事なんだ。
「凜ですか? 彼女達はシロウを家に運びシロウを治療した後、アーチャーを連れて帰りました。それと今日の六時にここにまた来ると言っていました。それと事後承諾ですが私達は凜達と同盟を組みましたよ。バーサーカーを撃退するまではとりあえず一時休戦だと」
「そうなのか。遠坂達には恩ができたな」
そうか。同盟か。ということは今日の六時に来たときに同盟について詳しく話すのか――――晩御飯の用意をしておこう。鍋でいいかな?
まぁとりあえず今は朝食の事を考えよう。チェリーブロッサムは――――ん? チェリーブロッサムってなんだ?
桜だろ? 来るのは? なんだ? やっぱり俺――――どうしたんだ?
いや、いいか。セイバーはどうしようか? 今日は藤ねぇは来ないしな。
「よし! セイバー! 朝御飯だ! 好き嫌いは無いな! 腕を奮うぞ!」
とりあえず桜が来るまでにご飯を食べて貰って、その後、セイバーには桜が学校に行くまで隠れてもらおう。
セイバーは霊体化はできないらしいし悪いけど今日は家にいてもらおう。
『ジャスティスぅウウウウ!!』
――――――――ッ! なんだ!? 奇声が聞こえた!? どこから? 心か!? いや、気のせいかな?
服を着て早くご飯を作ろう。
「士郎。この白米は最高です! 漬物とやらも美味で食感もいい! 鮭という魚も塩加減が絶妙です! そしてこの卵焼きとやらも甘くて大変よろしい! 横に添えられた大根おろしと醤油にマッチしています! 更にこの煮物も鶏肉と蓮根とゴボウとやらが最高です! そしてそして白味噌のお味噌汁もあっさりしていて飲みやすく美味しいです! 横にあるサラダも我らの時代と比べれば石ころと黄金以上の価値の差があります!! 美味しいです! ご飯、おかわり良いですか!?」
「はいはい。ほら、どうぞ」
「ありがとうございます!!」
セイバーがご飯を食べてからというもののテンションと口数が十倍以上違う。
おかわりももう、かれこれ五杯目だ。あと三十分くらいで桜が来るから勘弁してほしいんだが――――いや、美味しいって言ってくれて作った側としたら最高だけどもね。因みに鶏肉と蓮根とゴボウの煮物は桜が作った物だ。煮物って意外と手間がかかるんだけど頑張ってくれたのだ。
いやー教えた側からすれば幸せ一杯だな。
「あ、セイバー。悪いけどこれから人が来るから隠れててくれないか? その人にセイバーがいると知られるのは嫌なんだよ。悪いけどさ」
食べてる途中に悪いけど言う機会がここしかない。
「ふぁい。わかりまふぃた。かひゅれまふ。まふたーにめいふぁくはかへれまふぇんから」
う~ん。口の中が食べ物で一杯で何を言ってるのかよくわからないな。
もきゅもきゅと言う擬音が聞こえてきそうだぞ。『
――――――――は? 誰だよ。セイバーだろ? 何なんだ? 全く――訳が解らない。
まぁいいや。了承してくれたならばそれでいい。
『ピンポーン』
「せんぱーい! 起きてますか?」
「! しまった! 桜か! 速いな! どうしたんだ? セイバーはもう食べたな!」
「はい。ごちそうさまでした。隠れれば良いのですね? ならばあちらにある道場へ行きます」
セイバーはそう言いながら足早に道場に行ってくれた。すまん! セイバー! 晩御飯は奮発するぞ!
「ああ! んじゃよろしくな。ああ! 起きてるよ! ちょっと待っててくれよ! 桜!」
「は~い」
俺はパタパタとセイバーの食べ後を流しに入れて桜がいる玄関の前まで行く。
「悪いな。桜! 遅くなって、おはよう。いい天気だな!」
「はい! おはようございます。せんぱぁ! え!?」
玄関を開ければいつものように可愛らしい笑顔で挨拶する桜は俺の顔を見て驚愕の表情をしていた。
「ん? 桜どうかしたのか?」
「い、い、い、い、いえ! いえいえいえ! 何でも無いです! びっくりしただけです! 先輩のマトモな姿を初めて見てしまったと言うかなんと言うか! って! あ、そのごめ、ごめんない!」
桜は慌てた様に両手を顔の辺りでパタパタさせながら謝っている。と言うか混乱しているようだ。だって今、ごめんないって言ったし…………言葉がカミカミである。
と言うかマトモな姿ってなんだ? いつもの姿なんだが? ま、まさか!? いつもの無地の私服をダサいと思われてて今日はたまたま慎二に貰った柄物のシャツを着てて驚かれたのか!?
いや、確かにいつも私服は無地ばかりだったけども!
なんだ? 凄くショックだ。服装、もう少し気を付けよう。
「…………桜。まぁ行こう。朝御飯、もうあるからさ。俺、ちょっと制服に着替えて来るから」
「あぁ、はい。わかりました」
こうして俺と桜の何時もの朝が始まったのであった。
まぁ朝御飯、食べてる途中の桜の目がふわふわとした表情と桜がボソボソと一人言を喋っていると言うアクシデントがあったけど。
調子でも悪いんだろうか? 手の痣が原因か? 慎二がまた何かしたのかも知れない。桜は違うと言ってたけどもな。
今日、学校に言ったら慎二を問いただそう。
頭を撃ったら頭がおかしくなる主人公や悪役はいても頭を撃ったらマトモになる主人公は私は知らない