ワールドトリガー 一条隊隊長のニセコイ事情   作:ガンプラビルダー

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短いようですが今回で文化祭編は最終回です。


桐崎 千棘⑧ 大嫌いからの、大好き

 

 

「開演まで残り五分前です。」

 

開演まで残り時間が少ない中、劇の準備は今もなお続いていた。

 

集「なぁ楽、桐崎さんはまだなのか?」

 

一条「俺が知るかよ。あいつが今着替えをしてるからそれまでは……」

 

俺たちがそんな話をしているとカーテンの向こうからジュリエット衣装を着た千棘が出てきた。

 

千棘「……何よ?私のことジロジロ見ちゃって……」

 

一条「別に、なんでもねぇよ。」

 

こいつのジュリエット衣装も小野寺並みに似合ってるじゃねえかよ。

 

つい可愛いと思ってしまった俺は千棘のことをジロジロと見てしまったのだ。

 

千棘「さぁ行くわよ。」

 

一条「お……おう……」

 

パチパチパチパチ………

 

 

「大変長らくお待たせしました。次は1年C組による劇「ロミオとジュリエット」です。」

 

開演の挨拶とともに体育館全体が暗転して幕が上がり観客席から大きな拍手が響いてきた。

 

集「これから語られますのは悲しい恋の物語。血で血を洗う争いを続ける二つの家、モンタギューとキャピレット。そこに生まれついたロミオとジュリエットは皮肉にも恋に落ちてしまうのでした………」

 

集のナレーションが終わると真っ暗な舞台の中に千棘に向けてスポットが当たった。

 

千棘「あぁ……なぜ私達の両親は憎み合い争うのでしょうか?本当ならきっと私達のように手を取り合い、思い合う事も出来るというのに。私のロミオ様を思う気持ちが半分でも理解して貰えたなら……」

 

台本を読んだのはほんの数十分間だけなのに千棘はスラスラとジュリエットのセリフを出した。

 

こいつの記憶力はすげぇと言わざるを得ないな……だが……

 

千棘「あれ?次のセリフってなんだっけロミオ様?」

 

「「「ズコーーーー!!!!!!」」」

 

千棘の発言を聞いた観客席にいた人たちだけではなくキャスト勢もずっこけてしまった。

 

一条「おいジュリエット!そこは大事なところだぞ!!」

 

千棘「しょうがないでしょ!?出だしだからこんなまどろっこしいセリフ覚えられないわよ!!」

 

こいつ……シナリオにケチつけてるんじゃねえよ。

 

ところが俺たちの予想に反して観客席には笑いの声が響いていた。

 

なんか意外と受けてるみたいだな。

 

「「「お嬢!!頑張ってくださーい!!」」」

 

「「「坊ちゃん!!その調子だーー!!!」」」

 

佐鳥「桐崎さーーん!!!超絶可愛いよーーー!!!」

 

出水「イチーー!!シャキッとしろーー!!」

 

大きな応援する声のする方には集英組とビーハイブの連中、その近くにはいつものボーダーの16歳組や先輩たちも見に来ていた。

 

クソ……こうなっちまった以上この劇は絶対に失敗できない状況になってしまった。

 

一条「よ…よーし。ジュリエット、緊張してるのはわかるがまた一からがんばろうな?」

 

千棘「も…もちろんよ!ばっちこいってもんよ!!」

 

一条「ジュリエットはそんなこと言うやつじゃねえだろ!!」

 

こんなグダグダの状況の中またしても観客席には笑いの声が聞こえた。

 

観客のノリが思ったよりも良かったこともあり千棘がセリフを忘れてもうまくサポートすることができた。

 

集「屋敷から抜け出そうとするロミオ。召使いの制止も聞かずジュリエットのところへ向かっています。」

 

鶫「本当に行ってしまうのですか?キャピレット家の者があなたの命を狙っています。」

 

一条「たとえどれほど危険でも私は行かねばならぬのだ。今も彼女はあのバルコニーで待っている。」

 

集「止まらないロミオ。しかし召使いはここである決意をするのです。」

 

一条と鶫「「ん?」」

 

台本通りならここで召使いと別れるはずなんだが……一体集の奴は何を企んでるんだ?

 

集「実は召使いはロミオに恋をしてしまったのです!!これが今生の別れになると思い愛の告白をするのであった。(笑)」

 

鶫「おい!!そんなの台本にないぞ!!!」

 

集の奴……ノリに乗ってるからと言って余計なことしやがって………

 

観客席のみんなも召使いが告白することを期待した。

 

告白せざるを得ない状況に追い詰められた鶫は顔を赤くしながらも勇気を出してこう言った。

 

鶫「あ……あの……ロミオ様…実は私……ずっと前からロミオ様のことが………って言えるか馬鹿者ーーーー!!!!」

 

集「ああっと!!告白失敗!!!召使いは恥ずかしがり屋さんだったようです。」

 

鶫は「好き」と言わず被っていたカツラを投げ捨て舞台から去って行った。

 

俺はその間に次の場面に進もうとした。

 

するとそこに突然、ターバンを着た謎の女性が現れたのだ。

 

万里花「お待ちくださいロミオ様!!」

 

舞台から突然現れたのは何と風邪をひいて休んでいるはずの万里花だった。

 

集「おおっと!!ここに来て謎の人物が乱入!!彼女は一体何者なのか!?」

 

集も完全にこの場ノリに任せてアドリブでナレーションを進め出した。

 

万里花「私の名前はジョセフィーヌ。ロミオ様の本当の恋人ですわ!」

 

一条「はぁぁぁぁぁ!!!???」

 

集「なんと!?ここでまさかのロミオ、二股疑惑!!なんという事でしょうか!?これが事実なら純愛どころではありません!!まさに女の敵!ロミオ最低です!!!」

 

おいおい……ここにきてめんどくさい設定作ってるんじゃねえよ……

 

集のナレーションを聞いた観客席の人たちは俺に向けてブーイングをしてきた。

 

一条「えっと……ジョセフィーヌ?君は何か勘違いをしているのでは?」

 

万里花「まぁ、まさか忘れたとおっしゃるのですか!?と言いますと結婚の了承もウソだったというのですか?」

 

集「思っていた以上に二人の関係は進展していたーー!!」

 

万里花がああ言ったせいで話がさらにややこしくなってしまった。

 

これ以上こいつに好き勝手言わせるわけにはいかないな……するとおれはあることをひらめいた。

 

一条「……やれやれジョセフィーヌ。結婚なんてできるわけないだろ?だって俺たちは血の繋がった兄妹なんだから。」

 

集「衝撃の事実だ!!二人は兄妹だったーーー!!!???」

 

これならば結婚はできないはずだから万里花もおとなしくなるはずだ。

 

万里花「やりますね。それでも結婚しましょうロミオ様!!!」

 

意地でも引き下がらない万里花。このままじゃラチがあかないと思った俺は一か八かの手にでた。

 

一条「わかってくれジョセフィーヌ。僕の進む道は両家を巻き込む血塗られた道だ。そんな体の弱いかわいい妹を巻き込みたくないんだ。」

 

俺の言葉を聞いた万里花はハートを撃ち抜かれ身体の体温がどんどん上昇していった。

 

そして彼女はそのまま舞台上で倒れ込んで退場したのだった。

 

集「おおっと!!ここでジョセフィーヌが退場ーー!!ロミオ、思わぬ刺客を振り切った!!」

 

万里花に申し訳ないと思いながら俺は次の場面に進もうとした。だが、その時だった。

 

クロード「待ちたまえロミオ!!君をジュリエットに会わせるわけにはいかない!!」

 

本来なら出るはずのないクロードが劇の衣装を着て鋭そうなレイピアを持って現れた。

 

クロード「私はジュリエットの兄のフリードリヒである!!!」

 

((((何やってるんだお前はーーーー!!!!))))

 

俺や千棘や鶫、そして観客席にいたビーハイブの幹部の人たちは心の中でそう叫んだ。

 

こいつは劇というものを知らねえのかよ!?

 

クロード「聞けば君は女を泣かせ二股三股を平気でするような卑劣漢だそうじゃないか。」

 

一条「誤解してるうえに尾ひれついてるし!!」

 

クロード「どうしても会いたいというのならこの私を倒してから行くのだ!!!」

 

一条「はぁぁぁぁぁ!?おい!ちょっと待てって!!」

 

クロードは右手に持っていたレイピアを容赦なく突き刺してきた。

 

武器もなく反撃できない俺はクロードの攻撃をかわすしかなかった。

 

千棘「ちょっと……えっとお兄様だっけ?危ないわよ!!」

 

クロード「ジュリエットは黙っていなさい!この男さえいなければジュリエットは一生我が身の元へと渡るのだから………」

 

集「ジュリエットの兄、ここにきて重度なシスコン発言!!しかし、ロミオも彼の攻撃を見事にかわしています。」

 

夏休みの間ずっとB級ランク戦をやってきたんだ。俺の反応速度に身体がついてこれればこのくらいは避けれる。

 

クロード「小僧なかなかやるではないか。だがこれはどうかな?」

 

クロードは怪しい笑みを浮かべると靴に内蔵していた刃を展開して俺に向けてきた。

 

一条「おい!そんな攻撃ありかよ!?」

 

クロード「フハハハハハ!!!戦いはなんでもありの世界なのだよ!!」

 

あまりに予想外の攻撃に俺は焦ってしまった。しかも逃げた先は壁があり、俺は逃げ道を失ってしまった。

 

クロード「これで終わりだな……覚悟しろ!!」

 

目の前でレイピアを向けられ窮地に陥ってしまった俺。ここで俺が負けたらこの劇は失敗したと言っても過言ではない。

 

一条「えぇい!!このまま黙ってやられるかよ!!」

 

俺はヤケクソになって近くになったレンガブロックをクロードに向けて投げつけた。

 

正直無謀と言ってもいいがここで負けるよりはよっぽどマシだ。

 

ズボッ!!

 

何度も何度もレンガブロックを投げていると俺はヤバイものを引っこ抜いてしまった。

 

それは「危険」と書いてあった壁の支えにしていたレンガブロックだった。これってもしかして……

 

ガラガラガラガラ………

 

上空を眺めてみると思った通り物凄い音を立ててレンガブロックでできた壁が崩れ始め俺とクロードは崩れた壁の下敷きになってしまった。

 

集「ロミオとフリードリヒがレンガブロックの下敷きになったぞ!!果たしてどうなったのだ!?」

 

千棘「ロミオ!!!」

 

千棘や観客席にいる人たちは俺たちが無事なのか不安になった。

 

一条「ま……待たせたなジュリエット。」

 

集「ロミオが瓦礫の中から出てきたぞ!!すごい!すごすぎるロミオ!!!」

 

気絶しないように頭だけはなんとか守りきった俺は全身ボロボロになりながらも瓦礫から出てきた。

 

一方、クロードは頭を打ったこともあり気絶していた。

 

一条「い……今そっちに向かうぞ。」

 

俺はフラつきながらもジュリエットのいるバルコニーへと足を進めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………ホント馬鹿な奴……あんなにボロボロになっちゃって……いや、馬鹿は私の方ね……ずっと認めるのが怖かった。

 

千棘「あぁロミオ……どうしてあなたはロミオなの?あなたがモンタギュー家のロミオで無ければ、私達の愛を邪魔するものはないというのに……そのロミオという名の代わりに、私の全てを受け取ってください。」

 

でもそろそろ素直に認めないとね……

 

一条「頂戴しましょう。その代わり私を恋人と呼んでください。そうすれば私はロミオでは無くなります………愛しのジュリエット。」

 

千棘「ええ。私も愛していますわロミオ様。」

 

……こいつに恋をしているんだと………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パチパチパチパチ!!………

 

劇が終わると同時に観客から盛大な拍手が聞こえてきた。

 

途中で千棘がセリフを忘れたりいろんな乱入者が出てきたりしたがそれでも観客のみんなは楽しめていたからこの劇は成功と言っていいはずだ。

 

ともあれ、俺たちの発表はこれにて幕を閉じたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

舞台を完成させた俺は体育館の裏でゆっくりと一息ついていた。すると俺の頰に何やら冷たい何かを感じ取った。

 

千棘「お疲れ。」

 

一条「なんだお前か。おどかすなよ……」

 

そう。千棘が俺の頰にキンキンに冷えたコーラを当ててきたのだった。

 

千棘「……なんとかうまくいったかな?……」

 

一条「十分だろ。それにしてもやっぱすげえよお前は……ぶっつけ本番であそこまでやれるなんて。」

 

千棘「ねぇなんかロミオとジュリエットの話、私たちと似てない?お互いの家が争っててそこの二人が恋人どうし。とは言っても本物の恋人どうしじゃ無いってことだけど。」

 

一条「イヤイヤ。本物の恋人どうしじゃなければ似てねえだろ?」

 

まぁ互いの家が争ってると言うことは同じかな?すると千棘は俺に顔を向けないでこう言った。

 

千棘「その……ゴメンね。態度とか悪くなってゴメン……ヒドイこと言ったりしてゴメン……顔、叩いたりしてゴメン……その…今までのこと許してくれる?」

 

一条「……いや、俺の方こそお前に怒鳴ったりしたり、今までの関係はニセモノだったとか言ってすまないな。だから、今までのことはお互い様って言うことでいいか?」

 

千棘「……仕方ないわね。あんたがどうしてもって言うならそうさせてもらおうかな?」

 

一条「なんだよその言い方。て言うかお前は俺のこと嫌いじゃなかったのか?」

 

 

千棘「そりゃ………もちろん大っ嫌いよ。」

 

海辺と同じく大っ嫌いと俺に告げる千棘。だがその表情は言葉とは裏腹に満面の笑みを浮かべていたのだった。

 

千棘「ねぇクラスで打ち上げやってるみたいだから行かない?」

 

一条「そ……そうだな。」

 

千棘の奴、劇の前までが嘘みたいに元気になって……

 

………こいつは今まで俺に嫌われてると思われてたからあんなに怒ってたってことなのか?

 

それってもしかして………いや、まさかな………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

集「そろそろ肉焼けたか?」

 

烏丸「ああ。そろそろ大丈夫っぽいな。」

 

米屋「それじゃあ、お前ら準備はいいか?カンパーイ!!!」

 

「「「「カンパーイ!!!!!」」」」

 

その日の夜、俺と集、とりまる、奥寺、小荒井、三輪さんに米屋さんと出水さんの8人は東さんの奢りで近所のす○みな太郎で打ち上げをすることになった。

 

東さんが奢ってくれたとは言うものの当然全額負担してくれたわけではなく俺たちもお金を出しているけど。

 

小荒井「いや〜やっぱ高校の文化祭は中学校の時よりも面白いのが多かったな。」

 

奥寺「特にイチたちのロミオとジュリエットは笑ったよ。けどイチのロミオよりとりまるのロミオが見たかったな。」

 

一条「オイ!それはどう言う意味だよ?」

 

こいつらもとりまるのロミオが見たかったのかよ……おまけにとりまる本人も鼻でクスッと笑う始末だ。

 

米屋「まぁまぁ内容自体は面白かったけどな。秀次も夢中になって観ていたもんな。」

 

三輪「おい!陽介!!余計なことを言うな!!」

 

三輪さんも劇を見に来てくれたんだ。なんか珍しいな。

 

しかし、俺たちの劇がボーダーの間でも面白いって言ってもらえるのはなんか嬉しいな。

 

小荒井「なぁ、舞子から聞いたんだがジュリエットを演じてた奴って確か代役だったんだよな?」

 

奥寺「しかも、ロミオの妹とジュリエットの兄の部分もアドリブだったんでしょ?」

 

出水「えっ?マジで!?イチすげえな!!」

 

一条「いや、まぁ……ありがとうございます。」

 

東「でも、正直かなり焦ってたよな?」

 

一条「は…はい。」

 

やっぱり東さんには焦っているのを気付かれていたか………

 

東「もしランク戦や防衛任務の時も劇の時みたいに予想外のことが起きたらどうする?その時の判断が命取りになる可能性があるぞ。」

 

東さんのアドバイスは的確だった。ランク戦に負けたのも二宮さんの奇襲があったからだったしその点を克服しないとA級昇格への道はないのは事実だ。

 

出水「そういえば一年生の奴らはそろそろボーダー見学があるはずだろ?」

 

烏丸「なんですかソレ?」

 

集「なんだ。先生達から聞いてないのかよ?ボーダーの提携校のウチは一年生の時に必ずボーダー見学があるんだよ。そこでクラス全員がC級隊員と同じ訓練を行うらしいぞ。」

 

ヘェ〜………クラス全員が訓練生か……ついに小野寺の一緒に訓練できる時がきたのか。

 

色々な妄想が頭の中で浮かんだ俺はつい表情を表にあらわにしてしまった。

 

烏丸「おい一条、お前何ニヤついてるんだ?」

 

集「何かエッチなことを想像したりして。」

 

集はニヤつきながらとりまるの耳もとでボソッと呟いた。

 

一条「はぁ!?考えてないってば!!」

 

小荒井「ホントか〜?イチも真面目に見えて案外変なこと考えてたりするかもしれないからな。」

 

出水「どんなエッチな事考えてたイチ?」

 

一条「あーーー!!!お前ら!!俺のことをからかうのはやめろーーーー!!!!」

 

「「「「ハハハハハハハ!!!!!」」」」

 

その後も俺たちは夜遅くになるまで店にいて打ち上げを行なっていた。

 

だが翌朝、俺たちは寝不足のせいで具合を悪くしてしまったのは目に見えていたのだった。

 

 

次章へ続く

 

 




いや〜これでストーリーにひと段落ついた!!

次回からお話の最後に質問コーナーを設けたいと思います。楽しみにしててください。

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次回もトリガーオン!!!

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