コードギアス―抵抗のセイラン―   作:竜華零

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なのはイノセント・モンスターハンター要素があります。
ご注意ください。


CONTINUE3:「新たなる 物語へ」

 ルルーシュの朝は、ナナリーとの朝食から始まる。

 ほんの数年前までは起こす所からスタートしていたのだが、10歳を過ぎたあたりから部屋に入れてもらえなくなったのだ。

 なおこの件について、ルルーシュは全く納得していない。

 

 

「……ふむ」

「お兄様、お姉様達はなんて?」

「元気でやっているそうだ。まぁ、あの連中が元気で無い所など想像も出来ないが……」

「それはようございましたね」

 

 

 窓から朝の陽光が漏れ入る食堂の中で、2人の兄妹がそんな会話をしていた。

 朝食の席であり、テーブルには彼ら兄妹の給仕である咲世子が作った料理の数々が並べられている。

 そして今は、咲世子が銀盆に乗せて持ってきたエアメールを読んでいる所だった。

 

 

 実はルルーシュとナナリーには年齢の離れた兄姉や弟妹が多くいて、彼ら彼女らはそれぞれ、両親が経営するブリタニア重工の役員になっていたり、ブリタニア重工が運営する他の国の学校に通っていたりするのだ。

 今頃は、世界のあちこちで……。

 

 

『うーん、シュナイゼル。この吸収合併は拙速すぎないかい?』

『いいえ兄上、今こそ欧州市場を切り崩す時。まずはフランスを……』

 

 

 長兄と次兄が、温和な顔をしながら他国の市場を牛耳る戦略を立てていたり。

 

 

『ユフィ! そのエアメールは誰から……はっ、まさかまたあの日本人か!?』

『きゃっ、もう、そんな口うるさいお姉さまは嫌いです!』

『なん……だと……!?』

『主ら、頼むからもう少し世間体を……』

 

 

 アッシュフォード北米本校で過ぎているだろう、次女と三女が、校長を任されている長女を困惑させていたり。

 

 

「そうですか、ユフィ姉様達も楽しそうですね」

「かもしれないな」

 

 

 ナナリーの優しい言葉に、ルルーシュもふっと笑う。

 やはりナナリーの存在はルルーシュの癒しだった、昔から個性がありすぎる兄妹に囲まれていたせいか、穏やかで優しいナナリーの存在は不可欠だった。

 例え……。

 

 

『くぉおおの程度の橋などぉ、我がブリタニア重工の技術を持ってすればぁ……とぅああああいしたものでは無ぁぁいぃっっ!!』

『本当に貧相な村ねぇ、むしろ発電所でも作った方が良くなぁい?』

『社長と社長夫人は、つまり橋梁や発電所を作ることでこの国の発展に尽くそうと仰られているのです!』

 

 

 例え、朝のニュースでどこぞの国で橋をかけるプロジェクトに参加表明している父親と母親、あとその言葉をプレス向けに必死に翻訳(意訳とも言う)している秘書のジェレミアの声が響き渡っていたとしてもだ。

 と言うか、濃すぎるだろうこの家庭。

 

 

「皆、幸せそうで嬉しいです」

「そうだな」

 

 

 ふっ、と笑うルルーシュは気付いていない。

 この異常なキャラクターの濃さを誇る家の中で、あくまで穏やかに笑いながら過ごしているナナリーこそ、実は家族の中で一番神経が太いのだと言うことに。

 妹に対して盲目過ぎる彼は、生涯気付くことが無かった。

 

 

「む、そうだナナリー。俺は今日少し遅くなるかもしれない」

「あ、はい」

「寂しいかもしれないが、俺にも事情がある。わかってほしい」

「はぁ」

 

 

 辛そうな表情でナナリーの手を握るルルーシュと、不思議そうな顔で首を傾げるナナリー。

 そのシュールな対比を目にした咲世子は、笑顔の仮面の下で吹き出しつつ、それを心のメモリアルに深く刻んだのだった。

 ちなみに、ナナリーが遅くなる理由を尋ねると、ルルーシュはこう言ったと言う。

 

 

「アルバイトだ」

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

「新しいゲーム?」

「はい、そうなんです!」

 

 

 ある日のアッシュフォード学園、休み時間にチョコ菓子を摘みながらの会話だ。

 特に何か学校行事があるわけでも無く、さらに言えば生徒会長であるミレイが何かしかイベントを作るわけでもなく、そんな平和で何の変哲も無い日のことである。

 その中で、神楽耶がグループのメンバーにあるゲームの話をしていた。

 

 

「皇コンツェルン傘下のゲームセンターで、今日から全国展開する最新体感型ゲームなのですわ。先日まで都心部のみの試験展開だったのですが、幸いにも好評だったので全国展開することになったのです」

「へぇ~……会社のこととかは良くわからないけど、面白いゲームには興味あるかも」

「そうでしょう!?」

「わっ」

 

 

 適当に相槌を打ったら、凄まじい喰いつきが来た。

 びっくりしてもたれかかっていた椅子からずり落ちそうになりながらも、青鸞はやたらに近い位置にある神楽耶の笑顔を見つめた。

 何だろう、光のエフェクトが飛び散りそうな笑顔である。

 

 

 なお、神楽耶は両手を丸めて青鸞に迫っているため、青鸞は椅子を45度の角度にまで傾けていて大変危険だった。

 傍で見ている天子などはハラハラしているし、アーニャはブログの足しにと携帯で写真を撮っている。

 この2人の絡みがアーニャのブログでは人気なので、カウンターを上げるためにもチャンスは逃せない。

 そんな中、ナナリーがゆったりと首を傾げながら。

 

 

「それで、それはどういったゲームなのですか?」

「え? ええ、そう言えば説明していませんでしたわね」

 

 

 青鸞から身を引いて、神楽耶はナナリーの方を向いた。

 胸を撫で下ろして椅子を元の位置に戻す青鸞に苦笑しつつ、ナナリーは神楽耶に先を促した。

 しかしいざ説明をしようとした所で、神楽耶はふむと考え込んで。

 

 

「……ええと、どんなゲームだったかご存知ありません?」

「ボクらが知るわけが無いでしょ!?」

「…………」

 

 

 可愛らしく首を傾げる神楽耶に青鸞が衝撃を受ける、その顔をアーニャが静かに撮っていた。

 そこから5分程アーニャと青鸞の「消して」「消さない」の騒動を経て、神楽耶はぽんと手を叩いた。

 自分の家の会社のゲームくらい、と言うか話題に出すゲームの内容くらい知っておけと言う話だが、それを追及する人間はここにはいなかった。

 基本的に、人を責める人材がいないグループだった。

 

 

「では、放課後に皆で行きましょう♪」

 

 

 その意見に対しては、誰も特に反対はしなかった。

 どうやら今日の寄り道は、ゲームセンターになるらしい。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

 公道をリムジンで走る経験をしたことがあるだろうか、あるとして、どのような心地だろうか。

 凝った内装や備え付けのドリンクとお菓子に歓声を上げる者もいるだろう、あるいは滅多にあるものでは無い高級車に優越感を持つ者もいるかもしれない。

 が、世の中なかなかそうはならないもので。

 

 

「神楽耶、キミの家の車には二度と乗らないからね」

「え、何故ですの!?」

 

 

 駅前に出来た真新しいゲームセンター(5階建て)の前で、青鸞がげんなりとしていた。

 だが彼女の言葉にショックを受けているのは神楽耶だけで、天子とナナリーは青鸞の言葉に頷いていた。

 そんな彼女達の後ろには黒塗りの細長い車、いわゆるリムジンと言う車が走り去っていく所だった。

 神楽耶が登下校に普段使っているものである、正気の沙汰とは思えなかった。

 

 

 何しろ、目立つ。

 信号で止まろうものなら人が集まり、人が降りてくる所ともなれば「何だ何だ」と視線を感じる。

 神楽耶が登下校する姿を見る時には特に何も思わなかったが、いざ自分が乗ってみると恥ずかしくて仕方が無かった。

 

 

「と、とにかく、お店の中に入りましょう、そうしましょう。ラクシャータ! ラクシャータはどこですの!?」

 

 

 取り繕ったような笑顔でゲームセンターの中に入る神楽耶、青鸞達は溜息を吐いてその後を追った。

 ちなみにグループの中で1人だけ、つまりアーニャだけがその場にいない。

 何でも外せない用事があるとのことで、青鸞達は口々にそのことを残念に思いながら、ゲームセンターの人ごみを掻き分けるようにして進んだ。

 ナナリーが車椅子なので、ややゆっくりとした足取りで進む。

 

 

「あ、青鸞、皆! こちらですわ!」

 

 

 神楽耶を追ってやってきたのは、1階の奥ばった場所にある広い空間だった。

 まず正面に大きなスクリーンとステージがあり、ポールとロープで仕切られた観戦ゾーンらしき物までがある。

 ただ一番目立っているのは、左右に備え付けられた卵型の大きな筐体だった。

 その内の一つに、神楽耶が褐色の肌の女性を連れて立っていた。

 

 

「紹介しますわ、こちらが我が社でゲーム開発を担当しております、ラクシャータ女史です」

「どーも、うちのお嬢様から話は良く聞いてるよ」

 

 

 インド系らしいその女性の名はラクシャータ、皇コンツェルンでゲームの開発を行っているらしい。

 初対面なので礼儀正しく自己紹介を済ませた後、ラクシャータは彼女が開発したと言うゲームの説明をしてくれた。

 

 

「このゲームはね、まぁわかりやすく言えば、ナイトメアって言うロボット兵器に乗ってモンスターと戦うってゲームさ。設定としては古代の恐竜がどーのこーのあるんだけど、そこは文系の考えることだから私は良く知らないけど」

 

 

 タイトルは「ナイトメア・ハンター」、太平洋上のある無人島で恐竜が生きていて、異常進化した姿で闊歩していると言う世界観である。

 プレイヤーは個人個人で異なるナイトメアを駆り、これらの恐竜を討伐する。

 コンセプトとしては非常に簡単だ、だがシステムは尋常では無い。

 

 

 何しろ卵型の筐体の中には最先端技術が詰め込まれている、360度スクリーンやプレイヤーの動きに即座に反応するゲームシステム、ハリウッドが採用する本格的な音響装置など、様々だ。

 それでいてプレイ料金は1回100円と言う低価格、だからこそ初日から多くの人々で賑わうのである。

 今も、ゲームの説明を受けている青鸞達の後ろで多くの客が今か今かとスタート時間を待っている。

 

 

「ま、細かい部分はやりながら覚えるのが良いさ」

「あ、はい……えーと、それでこれ、どうやって遊ぶんですか?」

「それはこれを使うんですわ♪」

 

 

 言って、神楽耶が2枚のカードを青鸞に渡した。

 1枚はどこにでもあるデータカード、要するにセーブデータを保存するための物だろう。

 もう1枚のカードは、濃紺のロボットが描かれたカードだった。

 NAMEと言う枠にはこう書かれている――――「月姫(カグヤ)」と。

 

 

「そのナイトメア・カードとセーブ・カードを中で筐体に刺して遊ぶんです、ナイトメア・カードに描かれている機体が青鸞のナイトメアですよ♪」

「ふぅん……でもこれ、本当はお金がいるんじゃないの?」

「初日特典ですから大丈夫です♪ あ、もちろんナナリーと天子にも……えーと、まずナナリーにはこれです、『マークネモ』!」

「ありがとうございます、でも私は……」

「大丈夫です、バリアフリーゲームですから!」

 

 

 どんなゲームだ、それは。

 などと思いつつ、青鸞は貰ったカードを掲げて見た。

 親友と同じ名前のナイトメア、何だか怪しいが、せっかく用意してくれたものだから良しとしよう。

 とは言え、前情報の無いままやるにしては難しそうなゲームではある。

 

 

「そこらへんは大丈夫さ、初日だからね、ショッププレイヤーがエキシビジョン的にチュートリアルに付き合ってくれるからさ」

「ショッププレイヤー?」

 

 

 そんな青鸞の不安を読み取ったのか、キセル片手に――客商売でそれは良いのか――ラクシャータがそんなことを言う。

 何でも各店舗に所属する公式プレイヤーがいて、初心者にチュートリアルをしたり、指導をしてくれたりするらしいのだ。

 10代のアルバイトが担当するらしく、子供でも気兼ねなく遊べるようにとの配慮なのだとか。

 そして、この店のショッププレイヤーと言うのが。

 

 

「私だよ、青鸞」

「え……えぇ――――ッ!?」

 

 

 意外な人物の登場に、青鸞は驚愕の声を上げた。

 そこにいたのはおそよゲームとは無縁そうな人物で、しかも青鸞の知り合いだった。

 すなわち、彼女はアッシュフォードの……。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

 ナイトメア・ハンターの世界へようこそ、と言う文字がエフェクトとBGMと共に飛び込んで来た。

 ゲームの筐体は意外にもオートバイ式の物だった、大人用とのことだが、それにしても腕が疲れる形態だった。

 だがいざ360度をゲームのスクリーンに囲まれるとやはりワクワクしてしまって、そのあたりは青鸞もまだ子供と言うことなのだろう。

 

 

『青鸞、聞こえる?』

「わっ……うん、聞こえるよカレンさん」

 

 

 そしてショッププレイヤーとは、何とのカレンのことだった。

 何でも試験展開中からアルバイトをしていたらしいが、そんな話聞いたことも無かったので本当に驚いた。

 そして今、青鸞にゲームの進め方を通信……と言って良いのかは微妙だが、とにかく教えていた。

 

 

『とりあえず私がメインでステージ選択まで済ませたから、まずはゆっくり操作を試してみて』

「う、うん」

 

 

 オープニングが過ぎた後、青鸞は息を呑んだ。

 目の前に、巨大な山や森林が広がっていたからだ。

 日本の物とはまるで違う熱帯の山々と森、それが360度に広がっている。

 手を伸ばせば届きそうなその世界に、青鸞は飲み込まれたような気分になった。

 

 

「わ、と……?」

 

 

 不意に筐体が振動した、どうやら青鸞のナイトメア「月姫」の着地を再現したらしい。

 視点が高く、6メートルあるか無いかの視点で青鸞は世界を見ていた。

 ゲームの映像でありながらそうは思えない、美麗なCG世界だった。

 

 

 不意に、その世界に赤い色が加わる。

 青鸞、つまり月姫の正面に回ってきたそのナイトメアは「紅蓮」と表示されている、カレンのナイトメアだ。

 画面下のパートナー欄に映し出されたカレンに、青鸞は思っていたことを言った。

 

 

「カレンさん、何かこれ、いろいろボタンとかついててわかりにくいんだけど……」

『落ち着いて、そのボタンとかペダルは9割がた飾りだから』

「飾りなの!?」

『そりゃそうよ、ゲームなんだから』

 

 

 呆れたような顔をするカレン、彼女は意外と細やかに操作方法を教えてくれた。

 基本動作は操縦桿を模した両手のコントローラーで出来、近接攻撃、射撃、特殊兵装の3種の武器と防御、移動、ジャンプ、そしてスラッシュハーケンと言う武装を使った登攀移動。

 基本的には、それで操作説明は終わった。

 後は応用のみで、そのためのチュートリアル戦闘も行われた。

 

 

「お、おお……って、怖ぁっ!?」

『大丈夫よ、チュートリアルだから。基本操作さえ間違えなければ普通に勝てるから』

 

 

 ティラノサウルスを模した奇妙な恐竜が現れて、威嚇するように咆哮してきた。

 360度から凄まじい咆哮が響き、シートが振動し、気分を盛り上げるBGMが鳴り響いた。

 正面から突進してくるティラノ、だが青鸞はそれを左の操縦桿を下げることで回避する。

 動きが直線的で遅い、タイミングさえ間違えなければ問題なく避けられる。

 

 

『今!』

「うん!」

 

 

 近接攻撃、月姫に備えられている刀で擦れ違い様に斬る。

 妙に生々しいエフェクトと共に、大きな刀で斬られたティラノが呻き声を上げながら倒れる。

 斬りつける際に手にも振動が伝わってきて、まるで自分が本当に斬っているかのような印象を受けた。

 

 

『チュートリアル戦闘クリアおめでとう、後はもう数をこなすだけよ』

「ありがとう、カレンさん!」

『別に、バイトだしね』

 

 

 生々しいのは勘弁だが、正面画面に「Congratulation!」と表示されれば、それでもやはり嬉しい気持ちになった。

 所詮はゲーム、そんなに深く考える必要は無いのである。

 楽しんだ者勝ち、つまりはそう言うことだ。

 

 

 そしてその様子は、筐体の外の人々にもスクリーンを通じてリアルタイムで伝えられていた。

 誰もが巨大スクリーンに映るリアルな世界に圧倒され、臨場感溢れる戦闘に興奮し、叫び声のような歓声を上げていた。

 もちろん、ここにも1人。

 

 

「きゃあ~、素敵ですわ青鸞! やっぱり連れてきて正解でしたわね!」

「ああ……」

「そう言うこと、ですね」

 

 

 両手を可愛らしく握り締めてそう叫ぶ神楽耶に、天子とナナリーが苦笑いを浮かべている。

 2人にとってゲームセンターの喧騒は得意な物では無いが、それでも友人の活躍には嬉しそうに拍手していた。

 しかしその時、場の空気に怪訝な色が加わった。

 スクリーン中央に「CAUTION!」の文字が現れ、不意にBGMがおどろおどろしい物に変わったためだ。

 

 

『こぉんばぁんわぁ~♪』

「げ、ロイドかい」

 

 

 画面隅の枠内に新たに現れた男性の顔に向かって、ラクシャータは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。

 と言うのも、そこに映っていたのは彼女の同僚だったのである。

 あと1人、セシルと言う女性も含めた3人がこのゲームの開発を行っていて、3人は今、それぞれ別々の店舗で全国展開の作業を行っているのだ。

 

 

『あはぁ♪ 先に始めちゃうなんて酷いなぁ~、でもだーいじょーぶぅ! クエスト機能以外にももう一つ、このゲームには楽しい機能があるからぁ~!』

「ロイド! アンタ、こっちの邪魔してんじゃないよ!」

『ざぁんねぇんでしたぁ! ……もうやっ・ちゃっ・た♪』

「このプリン野郎!」

 

 

 吐き捨てるようにラクシャータ、どうやら随分と嫌っているらしい。

 が、当のロイドはまるで気にしていない様子だった。

 そして、さらなる変化がゲームの世界に訪れる。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

 それは、白い騎士のようなナイトメアだった。

 白を基本色に金色の装飾がされていて、細いシャープなデザインの手足などが月姫や紅蓮などとはタイプの違うナイトメアであることを示している。

 空に開いた穴から降りて来たそれは、ゆっくりとした動作で着地した。

 

 

『出たね、白兜!』

「し、白兜?」

『うちの商売敵! そして今は、乱入対戦の時間ってわけ!』

「ら、乱入対戦?」

 

 

 青鸞は首を傾げていたが、意味は読んで字の如くである。

 要するに他のラインから別チームが入ってきて対戦をするという、そう言う物だ。

 設定上は、ハンター同士の利益の衝突と言うことになるのだろうか。

 どちらがこの近辺のモンスターを狩るか、それを決めるための戦いである。

 

 

 そして気が付けば、カレンの紅蓮が白騎士――ゲーム表示によれば「ランスロット」――と戦いを始めていた。

 形としてはカレンが一方的に突っかかって行ったと言う形だが、初心者の青鸞ではついていけもしないようなハイスピードの戦闘が行われている。

 外は随分と騒がしいことだろう、が、青鸞としては「さてどうしようか」と言う心地である。

 

 

「ふぇ? わ、わ、敵?」

 

 

 その時、青鸞……と言うより、月姫の側にナイトメアが降りて来た。

 ランスロットのパートナー機だろう、画面上では「モルドレット」と書かれている。

 赤黒いずんぐりとしたナイトメアで、エネミー表示されているそれに青鸞は身構えた。

 何はともあれ敵である、初心者とは言えそれくらいはわかる。

 と、思った矢先のことだった。

 

 

「へ?」

 

 

 赤黒いナイトメアが親しげに片手を上げていた、まるで「やぁ」とでも言うように。

 さらにそれに加えて画面にある表示がされた、そこには「フレンド登録申請」と書かれていた。

 いくら初心者でも意味はわかる、どうやら「お友達になってください」と言うことらしい。

 そして何より驚いたのは、フレンド申請の中で描かれていた相手プレイヤーの名前だった。

 

 

「アーニャ……って、もしかしてアーニャ!?」

『……うん、よろしく』

「いやよろしくじゃなくて、何でここにいるのー!?」

『……バイト』

 

 

 申請受理と同時に、画面の枠内に見知ったアーニャの顔が出てきた。

 つまり、ロイド側のお店のショッププレイヤーがアーニャだったのである、まさに驚愕の事実だった。

 神楽耶は知っていたのだろうか、いやよしんば知らなかったとしても。

 

 

「なら、さっき言ってくれれば良かったのに」

『……驚かせたかった』

 

 

 いや、確かに驚きはしたが。

 しかしそこでふと気付く、カレンに続いてのアーニャの登場。

 その事実に青鸞は疑念を覚えた、もしかしてもしかして?

 

 

「もしかして、あっちの白いのにもボクの知り合いが乗ってたりする?」

『……うん、スザク』

「ああ、やっぱり。もうこれ、ボクの知り合いしかいないんじゃ……って、誰だって?」

『……スザク』

 

 

 青鸞は息を吸った、上げそうになった声を飲み込んだ。

 今日はもう叫びすぎた、なので今回は抑えていこうと思った。

 カレンがいてアーニャが出て来た、今すらスザクが出てきたから何だと言うのだろう。

 そう、スザクがあのランスロットのプレイヤーだったからと言って。

 

 

「えええええええええええええええええぇぇぇぇっっ!?」

『……うるさい』

「いや驚くでしょうよ! 何で兄様がそんなことしてるの!?」

『……青鸞もしてる』

「いや、そうかもしれないけど! そう言うことじゃなくて……!」

 

 

 その時ふと、青鸞は思った。

 スザクがゲームセンターでバイトしていたと言う話は初めて聞いたが、どうやらアーニャは知っていたらしい。

 同じお店でショッププレイヤーをしていたのだから当然だろう、そして考える。

 ……何だか、ちょっとだけ不満だと。

 

 

 自分の知らないスザクの一面を知っていて、しかもそれを自分に黙っていたアーニャ。

 別にそれで交友関係を見直すつもりは無いが、少しばかり面白くないと感じるのも無理は無かった。

 なので青鸞は十数秒程考え込んだ後、月姫に刀を持たせて。

 

 

「勝負!」

『……何で?』

「良いから、しょぉ――ぶっ!」

 

 

 アーニャが首を傾げている様子が容易に想像できるが、しかし青鸞は武装を下げなかった。

 正直全く勝てる気がしないが、それでもけじめは必要だと思った。

 まぁ、アーニャは少しも気にしていないようだったが。

 

 

 だがその時、さらなるエマージェンシーコールが起こった。

 4機のナイトメアに鳴り響いたそれにプレイヤー達が顔を上げると、空に何かが飛んでいるのが見えた。

 一言で言えば、それはドラゴンだった。

 巨大トカゲに羽根が生えていれば、それはもうドラゴンと言う以外に無いだろう。

 

 

 ――――ただし、それが全長25メートルを超える巨大なものでなければ。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

「はぁ、ロイドさんも無茶を言うなぁ……」

 

 

 筐体の中で自分のナイトメア「ランスロット」を操作しながら、スザクはぼやいていた。

 ライバル店舗――同じ会社で同じ地域だが――のプレイヤーであるカレンとは試験展開の時から幾度となく戦ってきた。

 今ではランキングの1位と6位である、なお1位はスザクだ。

 そのせいか妙に突っかかられて困る、外にまで持ち込まないのが救いではあるが。

 

 

 そもそも彼がこのバイトを始めたのは偶然である、道端を歩いていたらロイドに引っ張られたのだ。

 ほとんど拉致である、日曜日に1時間ゲームをしてくれるだけで良いというから付き合っているのだが、それはそれでお人好しと言えるのかもしれない。

 まぁ、それもこうして目の前に面倒なレア敵を配置されると若干緩むのだが。

 

 

『はぁ~いっ、この子を先に倒した方が勝ちのイベントレースだよ~!』

 

 

 いつか殴ろうと思うのは、自分が未熟者だからなのか。

 その時、パートナーであるアーニャが声をかけてきた。

 カレンのパートナーを前に何もしていないので、何かあったのかと思っていた所だ。

 

 

『……スザク、青鸞がいた』

「え?」

『……月姫のプレイヤー、青鸞』

「え、ええぇ~~……?」

 

 

 流石に妹のように叫んだりはしないが、どこか困ったような表情を浮かべた。

 青鸞に、と言うか、アーニャ以外には内緒のアルバイトだったからだ。

 特に隠す必要はなかったのだが、面倒事になりそうなので黙っていたのだ。

 

 

 と、それより今はイベントクエストの方だ。

 そう思ってドラゴンの方を見ると、割合地表に近い場所を飛んでいた。

 森の木々が薙ぎ倒されるエフェクトと音響は素晴らしい、まるで本当にすぐ側で森が破壊されているかのようだ。

 ただ、まぁ不思議があるとすれば……何故かベテランプレイヤーであるはずのアーニャがドラゴンを攻撃もせず、逃げている所だろうか。

 

 

「アーニャ? 何してるんだい?」

『……青鸞と一緒』

「意味がわからないんだけど……」

『……逃げる』

 

 

 どうやら青鸞に合わせて逃げているらしい、別に合わせる必要は無いと思うのだが。

 しかしスザクの脳裏には、妹がきゃあきゃあ言いながら逃げている様子が鮮明に浮かんでいた。

 いずれにしろ、とにかくあのドラゴンを討伐しないと話が終わらない。

 

 

「カレン、とりあえずお互いのパートナーを助けよう」

『言われなくてもわかってるわよ』

 

 

 と、ランスロットと紅蓮がパートナー達の救援に向かおうとした時だ。

 彼らの筐体画面にさらなら乱入対戦の文字が映し出されたのだ、そしてその次の瞬間、空を紫色のレーザーが幾重にも疾走した。

 それは光のエフェクトを散らしながらもドラゴンを避け、青鸞達の周囲の身を切り裂いた。

 

 

「な、なになになに――――!?」

『……敵?』

 

 

 ぼんやりと答えてくれるアーニャはともかく、雨のように降って来るレーザーを避ける。

 何度も言うが彼女は初心者である、それにしては濃い内容の初陣だと言えるだろう。

 実際は、何をどうすることも出来ていないわけだが。

 

 

『ふふふふ……ふふはははははははははははははははっ!!』

 

 

 奇妙な笑い声が聞こえたと思った瞬間、その場にいる全員のナイトメアと外のモニターに1人の仮面が現れた。

 別にふざけたわけでは無い、本当に黒の仮面を被った何者かが姿を現したのである。

 その人物は高笑いを終えると、妙に気取った仕草で自分を示した。

 

 

『私は――――ゼロッ!』

「な、何かわかりやすい敵キャラが出てきた――――ッ!」

『何だと!?』

 

 

 率直に感想を告げた所、憤慨された。

 ドラゴンの側にそれはいた、黒と紫のカラーリングのナイトメア――――「蜃気楼」。

 両腕を広げるような体勢で浮遊しているそれは、どこか磔にされた聖人のように見えた。

 

 

『ふん……まぁ、良い。愚かなショッププレイヤー達よ、私は帰って来た!』

「どこから?」

 

 

 どこからかだろう。

 身も蓋も無いことを言ってしまえば、これはゲームセンター側の演出か何かだろうと思う。

 だってあまりにも突然で、その上あまりにもあからさまな悪役だった。

 

 

『モンスターを面白半分に狩る密猟者共め! 私はゼロ、力なき全てのモンスターを守る者だ!』

「何だかよくわからないけど……ねぇアーニャ、あの仮面さんってやっつけて良いの?」

『……良『良いとも!』……』

「良いんだ!?」

 

 

 アーニャの返答に被せで仮面の答えが来た、どうやら設定上、自分を倒せと言いたいらしい。

 何やら「敵対する者同士が共通の敵を前に手を組む、美しい……」とか言っているが、青鸞としては細かな設定は関係が無かった。

 ただ刀を構えて、他の面々と並んで蜃気楼とドラゴンに対峙する。

 

 

 まだ状況を理解できたとは言わない、だがこれはゲームだ。

 別に戦争をするわけでも、殺し合うわけでも、まして傷つけ合うわけでも無い。

 誰かが哀しむわけでもなければ、苦しい想いを強いられるわけでも無い。

 平和な日常の中で、そう、ちょっとしたスパイスを求めているだけのことだ。

 

 

『さぁ来い、ショッププレイヤー達よ……見事この私を倒し、この世』

「ごちゃごちゃうるさいけど、突撃――っ!」

『うおっ!? 待て馬鹿、まだ台詞が残って……!』

 

 

 ここは、それが許される世界。

 それがどれだけ幸福なことで、そして求められていた世界であるのか。

 

 

「うおりゃぁ――――っ!」

『あ、ちょ、待……うおおおおおおぉぉぉっ!?』

 

 

 ――――「彼女(せいらん)達」は、知らない。

 それこそが、幸福の条件。

 




最後までお読み頂きありがとうございます、竜華零です。
完全になのはイノセントとモンハンの影響です、本当にありがとうございました。
そして完全にネタキャラと化したルル……ゼロ。
どうしてこうなった。

それはそれとして、この物語「抵抗のセイラン」も次回で正真正銘の最終回です。
予定ではもう少し早く終わる予定だったのですが、なかなか予定通りには行かず、長引いてしまいました。
苦節8ヶ月の連載、皆様と一緒に歩んできたつもりです。

それでは、もう一話だけ……お付き合いくださいませ。

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