コードギアス―抵抗のセイラン―   作:竜華零

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残酷な描写があります、苦手な方はご注意ください。


TURN26:「凱歌 を 遮る 者」

 ――――数ヶ月前、帝都ペンドラゴン。

 数多の離宮群の内の1つで、2人の皇子がチェス盤を挟んで向かい合っていた。

 1人は第2皇子シュナイゼル・エル・ブリタニア、そして今1人は第11皇子ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア。

 白の皇子と、黒の皇子である。

 

 

「……父上と、ゼロが?」

「そう、対決・対峙……状況は千差万別あるだろうが、ブリタニア皇帝とゼロが戦場で見えた時、貴方にはゼロの味方として行動してほしい」

 

 

 掌の中の黒のキングを弄びながら、左眼を赤く輝かせたルルーシュがシュナイゼルと話している。

 対するシュナイゼルの瞳も赤い、ただこちらは輪郭が赤くぼやけていると言ったような形で、表情もどこか感情が見えない。

 まるで、催眠状態になっているかのような表情だった。

 

 

「……味方と言うと?」

「方法は任せる、貴方にはそれだけの技量があるはずだ。条件としては、皇帝の旗艦または本人が戦場にいて、かつこのKMFが戦場に出ていること、そして戦闘の開始から5時間が経過していること」

 

 

 シュナイゼルの前に映し出されているのは、この時点では未だ開発中のKMF「蜃気楼」のデータだ。

 状況、時間、極めて限定された状況下で発動するギアス。

 発動しない確率の方が高いそのギアスは、数ヶ月の後に発動した。

 そしてそれは、帝国宰相シュナイゼルのクーデターと言う形で現出することになる。

 

 

「――――今の皇帝陛下に、ブリタニア帝国の頂点に立つ資格は無いよ」

 

 

 そして現在、アヴァロン艦橋においてシュナイゼルはそう告げていた。

 瞳の輪郭は赤い、だが常と同じ冷静沈着な表情が理性を感じさせてもいた。

 ただ周囲はそうでは無い、あのロイドでさえふざけ半分に「良いんですかぁ?」などと聞いている。

 セシルや他のスタッフなどは、青白い顔でシュナイゼルを見ていた。

 

 

「キミ達も知っているだろう、皇帝陛下は近年、何かと玉座を開けることが多い。だがそれは公式発表のような視察でも公務でも無い、皇帝陛下はいかがわしい研究にのめり込み、政務を疎かにしていたんだよ」

 

 

 それはブリタニアの皇族や大貴族なら誰もが知っている、今上陛下の秘密だった。

 ブリタニアを世界帝国に伸張させた鉄血皇帝の、ほとんど唯一の汚点だ。

 いや、それでなくとも、皆心の底では思っていたはずだ。

 あの皇帝は英雄だ、だが、同時に恐ろしいと。

 

 

 ブリタニア国民にしてみれば、なるほど今の皇帝の政策は素晴らしいものかもしれない。

 確かにブリタニア人の生活水準は格段に上がったし、世界最強の軍隊を持つ超大国と言う地位は数々の恩恵を彼らに与えてくれた。

 だが同時に、ブリタニア国民は皇帝シャルルと言う独裁者が作る檻の中に囚われたような感覚も感じていたのだ。

 

 

「それに陛下は中華連邦への宣戦布告の際、私に言ったよ。帝国への侮辱は皇帝への侮辱だと、逆では無く、あくまで自分の顔に泥を塗ったことが問題だと」

 

 

 誰も皇帝に逆らえない、誰も皇帝の政策を否定できない、誰も皇帝の命令を拒否できない。

 主義者の末路を見ると良い、同じブリタニア人なのに、皇帝の政策を批判しただけで公開処刑される彼らの末路を見ると良い。

 およそ普通の精神構造をしている人間なら、眉を顰めるだろう。

 だがそれを口に出来ない、口にしたら一族郎党に至るまで拘束されて処刑されてしまう。

 

 

 世界最強の超大国、ブリタニアの栄華の時代。

 だがそれは同時に、ブリタニア人にとっての暗黒の時代でもあった。

 独裁者シャルルと言う一個人と、数億人の奴隷で構成される国家。

 それが、今の神聖ブリタニア帝国の実情なのだった。

 

 

「帝国は皇帝の私物では無く、帝国の兵は皇帝の私兵では無い。それがわからない今の陛下に、玉座に座る資格は無い!」

 

 

 騒然とする場の中で、ただ1人、シュナイゼルの副官カノンだけが静かな顔で彼を見ていた。

 

 

(やっとご決断なされた、でも……)

 

 

 カノン自身は、ようやくシュナイゼルが「我」と言う物を出してくれたと喜んでいた。

 むしろ今まで良く我慢したとさえ言える、それだけあの皇帝は異常だった。

 だがシュナイゼルは自分から彼に叛逆しようとはしなかった、何故なら興味が無かったから。

 自分にさえも執着しない空虚さが、シュナイゼルの中には広がっていたから。

 

 

 だから成否はともかく、シュナイゼルが自分の意思を見せてくれたのは嬉しかった。

 だが、疑問も感じるのだ。

 どうしてシュナイゼルは、このタイミングで突然反旗を翻したのだろう?

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

 第2皇子シュナイゼルの叛乱、それはブリタニアの海上艦隊壊滅や皇帝のKGFの登場などに次ぐ衝撃だった。

 中でもブリタニア兵の衝撃は凄まじかった、何しろ相手はあの帝国宰相シュナイゼルである。

 EUと中華連邦と言う二強国を直接的に倒したのは皇帝では無くシュナイゼルだと言うことを、ブリタニア将兵は良く知っていた。

 

 

 そしてシュナイゼルは全ての通信回線で宣言したのだ、「シャルルに皇帝たる資格は無い」と。

 これほど直接的に皇帝を弾劾した者はいない、誰がどう見ても明確な叛逆だった。

 だが、である。

 シュナイゼル自身の名声はあくまで「皇帝の宰相」としての物であって、彼自身に心服しているとは限らない。

 

 

『シュナイゼル殿下はご決断なされた! 帝国を私物化する皇帝を討つべし!』

『『い、イエス・マイ・ロード!』』

 

 

 だから、クライド・ゲーテルハイドのような者は極めて少数派であると言える。

 髪を水色に染めた20代後半の男で、彼はシュナイゼルの下で若いナイトメア乗りの教導を担当する士官だった。

 軍隊において教官と生徒の関係は厚い、場合によっては皇帝への忠誠をも上回るだろう。

 だがそれでも、あくまで一部に限定された話だ。

 

 

 全体として、戦況に影響を与える物では無い。

 ましてナイトオブワンを始めとするロイヤルガードは崩れない、周辺の部隊の動揺を抑えて戦線を立て直している。

 度重なるダメージからの回復は、流石は世界最強のブリタニア軍と言うべきか。

 

 

「ふむ……海上部隊と航空艦隊の連携が薄いね。砲撃の仰角をマイナス10度、2つの部隊を分断して」

「「「い、イエス・ユア・ハイネス!」」」

 

 

 そして流石はシュナイゼルと言うべきか、ブリタニア軍の連携のウィークポイントを的確についてくる。

 およそ全体を見る視力と言う意味で、彼に及ぶ者はいない。

 戦力の過小を承知の上で、皇帝側の戦力を効率良く削ぎ落としに来ている。

 

 

 それに対して、黒の騎士団側の動きは急激だった。

 シュナイゼルが何故皇帝に反旗を翻したかはわからない、が、この好機を逃すべきでは無い。

 藤堂はそう判断した、だから海上から敵の援軍が来る前に――シュナイゼルがそれを防いでいる間に――残存する戦力の全てを、皇帝のナイトギガフォートレスへと叩き付けることにした。

 

 

『ぬぅあああぁぁ……ッ!』

 

 

 制動刀がブースターと共に翻り、ファーヴニルのブレイズルミナスに再び衝突した。

 レーザーとハドロン砲が飛ぶ、しかし藤堂はそれを回避した。

 斬月が離れると同時に斑鳩が遠距離砲撃を行う、それも当然のように防がれる。

 周囲の暁も波状攻撃に加える、3班に別れて射撃を続け、ファーヴニルをブレイズルミナスの中に閉じ込めようと言うのだろう。

 

 

『無駄無駄無駄無駄無駄あああああああぁぁぁぁっ!!』

 

 

 だがそれも、皇帝のファーヴニルには通用しない。

 艦砲クラスであればともかく、電磁装甲に守られた機体はブレイズルミナス無しでも暁の実弾射撃程度であれば防ぐことが出来るのだ。

 解除されたブレイズルミナスの向こう側から、再び無数のレーザー砲が一斉に撃たれた。

 

 

 くっ、と顔を顰めて斬月を飛翔させ、回避する藤堂。

 だが暁隊にそこまでを期待するのは酷だった、逃れきれずにレーザーに貫かれて爆散していく。

 輻射波動障壁で自身を守る者もいたが、それも完璧では無い。

 

 

『全ては無駄、全ては無意味。弱き者は強き者に支配され、蹂躙されるが世界の理! 貴様らゼロの走狗も、小賢しいシュナイゼルも、まとめて我が支配の下に屈服させてくれるわぁっ!』

 

 

 傲岸なる意思、それを感じて藤堂はまた顔を顰めた。

 以前から好んではいなかったが、この独裁者は本当に異常だ。

 いったい何を見れば、ここまで他者を見下せるのだろう。

 その時、コード不明のデータ送信が行われてきた。

 

 

 それはアヴァロン、つまりはシュナイゼルから黒の騎士団に提供された情報だった。

 すなわちブリタニア軍の機密情報、具体的には皇帝専用KGFファーヴニルのデータだった。

 シュナイゼルは未だ権限を失っていない、それ故に最高機密情報をも閲覧することが出来る。

 だからこうして、黒の騎士団に情報を流すことも出来たのだ。

 

 

「良し、これなら……ぐっ!?」

 

 

 その時、藤堂は己のナイトメアが自由を失ったことに気付いた。

 ファーヴニルの頭部の横、人間で言う肩の部分からクローハーケン――スラッシュハーケンの鍵爪のような武装――が放たれ、斬月の腰部を正面から掴んだためだ。

 嫌な音を響かせて、斬月の機体がスパークを迸らせる。

 

 

「不覚! く……っ」

 

 

 叫んで歯噛みして、藤堂は脱出装置の発動したコックピットの中で拳を操縦桿に叩きつけた。

 せっかくの反撃のチャンスだと言うのに、こんな所でヘマをするとは。

 藤堂のコックピットを確保して声をかける千葉の言葉も、今の藤堂には届いていなかった。

 どうするべきか、と藤堂は思う。

 

 

 だが撤退の選択肢が取れない以上、部下には攻撃を命じるしかない。

 波状攻撃を仕掛けて隙を見出す、だがそのための戦力が足りない。

 どうするか、藤堂程の戦術家をしても打開困難な道がそこにあった。

 藤堂がその道の険しさに眉を厳しく上げた、その時。

 

 

『藤堂さんっ!!』

「――――青鸞かっ!?」

 

 

 その時、直上から濃紺のナイトメアがファーヴニルの上に着地した。

 左腕に罅の入った紅の刀を持ち、月姫はそれを黄金の装甲に突き立てた――――。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

 KMF用加熱刀「桜花」は、サクラダイトの熱暴走を活用した高純度サクラダイト鋳造合金によって製造されている。

 キョウトの技術の粋を極めて作られたそれは、キョウトの姫のみが使うことを許された秘刀だ。

 243秒間鞘内での加熱時間を経た後、37秒間、あらゆる物を切り裂く刃となる。

 

 

「ぐっ……く、う~……っ!」

 

 

 着地と言えば聞こえは良いが、足が無い月姫に着地など出来ない。

 残った脚部装甲を杭と見立ててファーヴニルの上に飛び乗った、いや落下したと言うのが正しい、だからコックピットの衝撃が凄まじかった。

 何しろ腕で身体を支えきれず、一度ならず顔を強かにシートに打ちつけてしまった。

 

 

 それでも桜花の刃をファーヴニルの装甲に突き立てたのは根性と言うべきか、意地と言うべきか。

 僅かに乱れるモニターの向こうで、黄金の装甲を赤い刀と火花が彩っている。

 月姫の出力が上がらないため斬り裂くことが出来ない、半ば桜花の刀身を杖代わりに身を起こしている状態だ。

 

 

『ほおぉう? 枢木の娘か。良くぞ我が下に戻った、我が騎士セイランよ』

「誰が!」

 

 

 コードによって統合された記憶、失われたわけでは無いそれは今でも青鸞の中にある。

 メインモニターに映る桜花破損までのカウントダウンを確認しながら、青鸞は月姫をファーヴニルの上で身じろぎさせた。

 火花がその追加装甲を照らし続ける中、接触通信によって皇帝の声が響く。

 

 

『しかし、皇帝の身を汚した罪は重い。よって……罰をあたぁえるるううううううっ!!』

「……ッ!?」

 

 

 嫌な予感を覚えるのと同時に、青鸞は月姫をもう一度飛翔させた。

 そのコンマ数秒後、ファーヴニルの機体をブレイズルミナスの輝きが覆った。

 逃れ切れなかった腰部の一部と太腿部が盾の内側に巻き込まれ、桜花の刀身と共に切断されてしまった。

 折れた刀身の先を残して、バランスを崩した月姫が落下していく。

 

 

「……ッ、足なんて……ッ」

 

 

 操縦桿を引き、手動でシステム入力を行いながら青鸞がぼやく。

 飾りとまでは言わないまでも、脚部が無くとも何とかバランスは保てると思った。

 しかしどうやらそうでも無いらしい、ただでさえ難しいフロート技術にとって機体のバランスは無くてはならない物だった。

 

 

 その時、機体が大きく揺れた。

 ファーヴニルのクローハーケンが3本、月姫の腰部と左腕、頭部を掴んだのだ。

 ガクンッ、とコックピットが強く揺れ、青鸞は操縦桿から手を離して座席の後部に背中を打ち付けられてしまった。

 背中と後頭部を強く打ち、仰向けの状態で息を詰まらせる。

 

 

『我が下へ戻れ、クルルギのコードを持つ娘よ。お前はわしのモノだ』

「……ッ、誰が!」

 

 

 痛みに片目を閉じ身を起こしながら、先程と同じ答えを返す。

 元々ブリタニアに戻ると言う選択肢は無い、ラウンズの元同僚に対してはともかく、枢木青鸞と言う個人にとって皇帝の下へ戻ると言う選択は無い。

 何故なら、青鸞の心にはもう別の誰かがいるのだから。

 

 

「生憎だけど、ボクはもう貴方のモノじゃない!」

『ほぅ?』

 

 

 嘲笑の気配を感じさせる声の後、皇帝は言った。

 

 

『あやつに抱かれでもしたか、モノに情を移すとはあやつも情けない男よな』

 

 

 カッ、と顔が紅潮したのは羞恥と怒りの両方の感情のためだろう。

 だがその後に言葉を続けられなかったのは、己を戒めるクローハーケンの根元、つまりファーヴニル側の射出口にエネルギーのスパークを見たからだった。

 嫌な予感がした、猛烈に。

 

 

 だから青鸞は急いで身を起こした、半ば重力に逆らうような体勢で操縦桿を掴む。

 しかし月姫自体がクローハーケンに戒められているため、自由には動けない。

 腕はパージすれば行けるかもしれないが、頭部と腰部はどうするか。

 そして最後の腕をパージした後はたして戦えるのか、その判断の遅れが月姫の動きを鈍らせた。

 

 

「……ッ!」

 

 

 そして。

 

 

『――――青鸞ッ!!』

 

 

 紫色の無数のレーザーが、再び月姫を戒めから解き放った。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

 クリスタルの乱反射を利用して放つ蜃気楼の主砲は、元々は広域殲滅のための武装だ。

 しかしそれを膨大な計算の末に精密射撃に使用出来てしまうのが、ルルーシュと言う少年の卓越した所だった。

 皇帝のクローハーケンから月姫を解放した後、彼はその月姫の前に蜃気楼を踊り出させながら。

 

 

「――――意外だな!」

 

 

 倒すべき敵、妹ナナリーの仇、そして実の父……ブリタニア皇帝シャルル。

 ファーヴニルの姿をメインモニターに捉えた時、ルルーシュは明らかに眦を上げた。

 憎悪と憤怒、その感情が明らかに顔を出ていた。

 

 

「貴様自らが、前線に出てくるとは!」

『真の王者たる者、何者をも恐れることは無い。またこの世界は遍く全てがブリタニア唯一皇帝の所有物である。故に、わしがどこにおろうとも不思議はあるまい』

「この世界に、貴様の所有物など何一つ無い!」

『ほぉう、言うではないかゼロよ。仮面に隠れコソコソと陰に潜むしか出来ぬ愚か者よ、女に慰められ勇気でも得たか』

 

 

 嘲るような声に、ルルーシュは奥歯を噛み締めた。

 耳の奥で響く皇帝の声があまりにも不快に感じられて、蜃気楼の胸部装甲が開く。

 そこから覗くのは紫色のクリスタル、主砲を放つべくエネルギーが充填され始める。

 

 

『遅おおおおぉぉおいぃぃっ!!』

 

 

 だがそれよりも早く、ファーヴニルの全身の砲塔が火を噴いた。

 レーザーの束が蜃気楼目掛けて放たれて、ルルーシュは舌打ちしながら主砲の展開を中止し、絶対守護領域の展開によって己と後ろの月姫を守った。

 無尽蔵に放たれ続けるレーザーの束、その出力に顔を顰める。

 この出力、明らかに通常のナイトメアとは違う。

 

 

 ナイトメアやナイトギガフォートレスの出力は、コアに使用しているサクラダイトの量と純度によって決定される。

 その意味で考えると、ファーヴニルはよほど純度が高いか、あるいは大量のサクラダイトを使用しているのだろう。

 レーザー砲撃が止まる、しかし次の瞬間にはファーヴニル自身が突っ込んできた。

 

 

「っ、ええいっ!」

 

 

 やむを得ずに絶対守護領域の出力を上げる、それ以外のことが出来なくなる程に上げる。

 ファーヴニルの突進を絶対守護領域で受け止める、それだけで衝撃がコックピットに来た。

 だがルルーシュが顔を顰めたのは衝撃のせいでは無く、絶対守護領域と鬩ぎ合うファーヴニルの先端部分が開き、中からハドロン砲の姿が見えていたからだ。

 絶対守護領域を不用意に解けば撃たれる、そう言う状況だった。

 

 

「皇帝……貴様は、この世界に必要の無い人間だ……!」

『お前にそれを決める権利があるのか? いや無い、誰にも無い。何故ならば人は皆、神に虐げられし哀れな塵芥よ。塵に塵を否定する権利は無い、あろうはずも無い。故に許される、わしと言う存在は』

「権利を持たないと言うお前の存在を、誰が認める!?」

『わしが認める。塵の中で最も神に近い位置にいるわしが、わし自身を認める』

 

 

 権利が無いと言ったその口で、皇帝はあっさりと自分を認めて見せた。

 相手を馬鹿にした論法だ、少なくとも対等に見てはいない。

 

 

「人は皆塵芥、そう言ったな」

『ああ、それがどうした』

「……ナナリーも、塵芥だったと言うのか……!」

 

 

 ナナリー、彼の妹、そして彼の娘。

 優しい世界をただ願ったルルーシュの宝、彼女の存在があればこそルルーシュは戦うことが出来た。

 今も、ナナリーの笑顔は記憶の中にある。

 宝石のように、輝いている。

 だが皇帝は、そんなルルーシュを嘲弄するかのように鼻で笑った。

 

 

『ふん、何を言い出すかと思えばくだらん。ナナリー、あの愚かな小娘もまた、皇帝の所有物である。よって、その器を壊そうがどうしようが、皇帝の意思に従うことこそが重要、唯一、必然』

「何ぃ……!」

 

 

 ユラリ、とルルーシュの瞳の奥で炎が揺れたように見えた。

 

 

『そのような些事を気にして泣き言を言うとは、真、貴様は愚かな男よ』

 

 

 ――――些事だと!?

 この瞬間、ルルーシュの理性が吹き飛ばされた。

 些事、実の娘を、妹を撃っておいて些事と言ったあの男、皇帝。

 憎かった。

 

 

 あまりにも憎かった、憎んで憎んで憎んでなお余りある程に憎かった。

 憎悪などと言う言葉では足りない、腹の底が煮え滾るマグマになったかのような、吐き気すら覚える程の憎しみの感情がルルーシュの頭と心を支配した。

 あれ程までに心優しく、清らかなナナリーを平然と殺して些事と言えてしまう皇帝、その存在。

 その存在を許すことは、ルルーシュには出来なかった。

 

 

「……ッ、きさまあああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁっっ!!」

 

 

 彼が行った行動は3つだ、まず後ろの月姫の機体を突き飛ばし、次いで絶対守護領域の展開範囲を変えた。

 そして最後に、蜃気楼を突撃してきたファーヴニルの下へと滑り込ませた。

 ファーヴニルのハドロン砲が空を裂く、だがそれは何者をも貫くことは無かった。

 

 

「これが――――報いだッ!!」

 

 

 そして改めて胸部装甲を開き、主砲を撃つ体勢に入る。

 ファーヴニルは前後左右と上に対しては無双の力を持つが、その機体特性から下へはブレイズルミナスを展開できない。

 だから真下は死角だ、その意味でルルーシュの判断は間違ってはいない。

 

 

 だがやはり冷静さを欠いていた、普段の彼なら気付いていたはずなのだ。

 下にブレイズルミナスを展開できない、それを欠陥と読むことに間違いがあった。

 展開できない、システムを置けない理由があるはずなのだ。

 それは、下部装甲が左右に大きく開かれたことでわかる。

 

 

「何……!」

 

 

 バチッ……下部装甲の内側に格納されていたのは、音響装置のような円形の突起物だった。

 縦に4つ並んだそれは一つ一つが電気のような物を放っており、それは次第に威力を増しているように見えた。

 蜃気楼が捉えた外部環境の変化に、ルルーシュが表情を変える。

 

 

『皇帝の罰を受けよぉ……ゼロ、智者を気取る愚か者よぉっ!!』

 

 

 不味い、とルルーシュが思った時にはもう遅い。

 回避行動を取るには遅すぎる、藤堂や千葉の部隊は壊滅状態で救いには来れない。

 それでも声を上げることだけは堪えようと、ルルーシュが歯を食い縛ったその時。

 

 

『ルルーシュくん!』

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

 危ない所だった、と、青鸞は思った。

 何しろルルーシュはそれほど体力がある方では無いから、あんまり無茶をしてしまうと倒れてしまう。

 その点、自分は平気だ。

 何しろコード保持者、不死身の饗主A.A.なのだ、ルルーシュなどとは頑丈さが違う。

 だから。

 

 

「う、ぐ……っ、く、ぁ、あああぁあああああぁぁああああぁあぁあああああああぁぁっっ!?」

 

 

 だからルルーシュがこんな目に合わなくて良かったと、心の底から思った。

 今、明らかに青鸞の状況は異常だった。

 コックピットの中が青白い輝きに満たされていて、気のせいで無ければ計器からも火花とスパークが飛んでいるように見える。

 

 

 電子レンジ、と言う物を知っているだろうか。

 あれは電磁波を利用して内部の物を加熱しているのだが、ファーヴニル下部装甲の装備も似た理屈だった。

 まず下部のクローハーケンで相手を捕らえ、引き寄せた後に昆虫の脚のような腕で抱き締め、そして電磁波……マイクロ波によって生じるプラズマによって相手を焼くのだ。

 

 

「うぅぁあああああぁ、あ、あぁっ、あああああああぁぁぁっ!? ああぁあがああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁっっ!!??」

 

 

 肌を……いや、身体の中を焼かれ続ける感覚をどう表現すれば良いのだろう。

 だが奇しくも青鸞自身が言っていたように、彼女は完全なコードを身に宿している。

 本来なら細胞を破壊されてすぐさま死ぬ絶えるものを、彼女のコードが細胞を、肉体を再生し続けるために責め苦は永遠に続くのだ。

 永遠の責め苦、それはまるで人の生そのもののようにも思えた。

 

 

『ああああああああああああああああああぁぁっっ!?』

「青鸞ッ!!」

 

 

 皇帝の攻撃に捕まる直前に突き飛ばされ、庇われた形のルルーシュは自分の迂闊さを呪っていた。

 自分が感情に任せて不用意な行動をしてしまったが故に、自分の代わりに青鸞が苦しんでいるのである。

 何とかしなければならない、が、このままの位置から主砲を撃てば月姫ごと撃ってしまう。

 ならば、とルルーシュは蜃気楼を急上昇させた。

 

 

「……何ッ!?」

 

 

 だがそれは途上で不可能になった、側面から何者かが斬りかかって来たためだ。

 ブリタニアの部隊の動きは承知していたから、まさに不意を打たれた状態だった。

 咄嗟に右腕を掲げて絶対守護領域を発生させて防いだが、タイミングが遅かった分、相手のパワーに押される形で右腕ごと絶対守護領域を破られた。

 ヘシ折られた右腕に顔を顰めて後退すれば、そこには黒と白の装甲を持った巨大なナイトメアがいた。

 

 

「『ギャラハッド』!? 星刻が敗れたのか……!」

 

 

 そこにいたのはナイトオブワン、ビスマルク・ヴァルトシュタインだった。

 皇帝の腹心中の腹心、股肱の臣と言っても過言では無い男だ。

 それが今、エクスカリバーを構えて蜃気楼の前にいる。

 だが今は、ビスマルクなどに付き合っている場合では無かった。

 

 

『どぉしたゼロ、この愚かな娘を救うのでは無かったのか?』

 

 

 不意に響いた皇帝の声に、ルルーシュははっとした。

 つい先程まで聞こえていた青鸞の悲鳴が聞こえなくなっていた、代わりに小さな呻き声のような物が聞こえる。

 気を失ったのか、あるいは悲鳴を上げることも出来なくなってしまったのか……。

 

 

『結局、貴様は何も救うことなど出来ない。貴様にはこの娘を使いこなすことなど出来ぬ、故に、この娘はわしが貰い受けるとしよう。元々、8年前にわしのモノになるはずだった娘だ』

「何……!」

 

 

 また俺から奪うのか、とルルーシュは胸の奥で思った。

 妹だけでなく、青鸞までも奪うのかと。

 許せない、それだけは許せない。

 その時、蜃気楼のセンサーが捉えた相手に対してルルーシュは呼びかけた。

 

 

「――――ジェレミアッ!』

『イエス・ユア・ハイネスッ!!』

 

 

 直上の空からジークフリートが飛来し、ルルーシュの行く手を塞いでいたギャラハッドを押し潰した。

 そしてそのまま海上へと落ちて行く2機を横目に、ルルーシュはファーヴニルの上へと回った。

 真下へ見下ろす位置へと飛翔し、胸部装甲を展開して主砲を晒す。

 

 

「貴様などが、青鸞に触れるなど……ッ!」

『ふははは、片腹痛いわ。世界も、女も、奪ってこそ価値があるモノよ。一度抱いただけで自分のモノにしたつもりとは、まさに愚かしい小僧よ』

「……ッ、皇帝えええええええええええええええええぇぇぇっっ!!」

 

 

 クリスタルが煌き、非拡散状態で主砲が放たれる。

 それは寸分違わずにファーヴニルの正面を捉えたが、前面に集中展開したブレイズルミナスがそれを阻んだ。

 いくつもの線に分かれて後方へ流れる紫のビームに、ルルーシュは歯噛みする。

 元々ブレイズルミナスを回避するために下に回ったのだ、防御力を貫くには火力が足りない。

 

 

 どうする、頬に汗を流しながらルルーシュは自問した。

 未だ青鸞は皇帝に囚われている、青鸞に被害が出ない形で皇帝を倒せるルートは限られている。

 だがそれについては皇帝も承知しているだろう、ならばどうするか。

 どうする、どうするルルーシュ・ヴィ・ブリタニア、と自問する。

 時間は無い、数秒で決断し行動しなければならない、どうする、決めろ、と。

 

 

(……どうする!?)

 

 

 ギリッ、噛み締めた歯が音を立てる。

 だが彼の頭脳を持ってしても、正面にブレイズルミナスを集中展開したファーヴニルを、しかも条件付きで倒す方策を瞬時には思いつけなかった。

 こんな時に回らない頭に何の意味があるのかと、ルルーシュは己の無能を呪う。

 

 

 皇帝は勝ち誇り、仮面の皇子は敗北感に歯噛みする。

 その構図が固定化されようとしたその時、再び状況が変化した。

 それは、ファーヴニルの背後から奇跡のようにやって来た。

 薄緑の刃状の羽根が無数に飛来し、ファーヴニルの背を穿ったのである。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

『青鸞! 青鸞!』

「……ぅ……」

 

 

 愛しい少年が自分を呼ぶ声に、青鸞は目を開けた。

 コードによって再生されたばかりの身体はやや重く、呻くような吐息を漏らして顔を上げる。

 すると、白く波打つモニターの向こうに白い背中と薄緑の翼を見た。

 知らず、目を見開く。

 

 

 どうやら彼女のナイトメアは、片腕を失った漆黒のナイトメアに抱えられているらしい。

 だが今は正直、青鸞の意識はそちらには向いていなかった。

 ただただ、目の前にある事実に手を伸ばす。

 何かを求めるように、コックピットの中で……手を、伸ばした。

 

 

「どうし、て……?」

 

 

 掠れる声で、そう問いかけた。

 もうそれは何年も自問してきた言葉で、何度も繰り返し口にした言葉で。

 そして一度だって、答えを得ることが出来なかった言葉だ。

 この期に及んでもなお、青鸞はその言葉を口にした。

 

 

「……どうして、どうして……」

 

 

 口にせざるを得なかった、それ以外に出来ることが無かった。

 ぼやける視界の中で、同時に頬に熱を感じた。

 自分が泣いていることに気付くのに、数秒を要した。

 

 

 涙の理由は何だろう、咄嗟にはわからない。

 だけど、哀しくて仕方が無かった。

 だって意味がわからなかったから、「どうして」なのかわからなかったから。

 どうして、どうして、どうして。

 繰り返しの問いかけに、しかし答えは返っては来ない。

 

 

『……どうしてぇ……!』

 

 

 接触通信で聞こえる声に、ルルーシュは口を噤んだ。

 少女を呼ぶことをやめて、彼女が見ているものと同じものを見るために顔を上げた。

 そこには、事実だけがある。

 ルルーシュはその事実から目を逸らすことも無く、そして「どうして」と問うようなこともしなかった。

 

 

「……そうだな、お前はそう言う奴だ」

 

 

 昔からそうだった、ルルーシュは懐かしい気持ちとともにそう思う。

 昔から彼は、妹の望まないことをするのだ。

 鬱陶しげにしていて、嫌っていて、でも邪険にすることは無かった。

 煩わしく思ってはいても、疎んだことは一度も無かった。

 

 

 本当は面倒見が良いくせに不器用で、自分から損ばかりする馬鹿だった。

 それは今も変わらない、きっと彼は変わっていない。

 だからルルーシュは、言った。

 

 

『だからお前は、妹を守れ……! スザクッ!!』

「……ああ!」

 

 

 通信機から聞こえてきた声に、しかし自分は通信を用いず、それでもスザクは頷いた。

 その両の瞳の輪郭に、赤い輝きが生まれる。

 それは呪いだ、スザクの意思を捻じ曲げるギアスの呪い。

 だが今、スザクは自らそれを受け入れていた。

 

 

 妹を、青鸞を守れと言うギアスを受け入れた。

 それは自然に出来たのは、彼の今までの生き方と重なるからだろう。

 何故なら、スザクは、彼は。

 

 

 ――――いつだって、青鸞(いもうと)のことを想っていたのだから。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

 枢木スザクと言う少年がブリタニアに「転向」したのは、2つの理由からだった。

 まず1つには、先にルルーシュが指摘したように罰を求めたからだ。

 日本人の多くからは裏切り者と呼ばれ、ブリタニア人からは名誉(イレヴン)と差別される名誉ブリタニア人と言う立場は、スザクにとっては好都合だった。

 

 

 最もそれは、スザクがランスロットのデヴァイサーとなり、かつラウンズへと階梯を一足飛びに飛び上がったことでいくらか意味の薄いものになってしまった。

 それでも彼はブリタニア人では無く、また日本人からは親近感を得られない立場だった。

 だから、スザクにとってブリタニアへの転向は意識的にも無意識的にも救いのあるものだった。

 

 

『枢木よ、貴様もブリタニア皇帝に弓を引くか』

「驚かないのですね、陛下」

『驚く? 何を驚くと言うのだ、人間は嘘を吐く生き物だと言うのに』

 

 

 スザクの裏切り――最も、彼は以前から「裏切りの騎士」と呼ばれていたが――を前にしても、不思議と皇帝に動揺は見られなかった。

 それは皇帝が最初からスザクを、いや人間を信じていないと言う点に帰結する。

 最初から信用していないのだから、たとえ裏切られても「ああ、そうか」としか思わないのだ。

 あまりにも哀しく、そしてあまりにも寂しい思考だった

 

 

 だが客観的に見れば、このスザクの裏切りは最悪のタイミングだった。

 ブリタニア軍はすでに海上艦隊と左翼の航空艦隊を失い、ビスマルクを除くラウンズも撃墜され、皇帝のKGF「ファーヴニル」が孤軍奮闘しているような状況だった。

 だから今後スザクはブリタニア人からも後ろ指をさされることになる、「世界最悪の裏切り者」として歴史に名を残すことになるかもしれない。

 しかしそれは、彼にとっては本望だった。

 

 

「皇帝陛下、自分を取り立ててくれたことには感謝しています。ですが貴方には、3つの罪がある」

『ほう?』

 

 

 まるで興味の無い返答に、しかしスザクは無表情を貫いた。

 だが外では戦闘が続いている、ファーヴニルがブレイズルミナスでランスロットのヴァリスの弾丸やエナジーウイングの弾幕を防ぎ、ファーヴニルのハドロン砲とレーザーの群れをランスロットが機動力のみでいなす。

 戦闘の激化に伴い、しかし互いの声は冷たくなっていった。

 

 

『まず第一に、己の持つ力を最も愚かな方向へ向けたこと』

 

 

 平和に対する罪、そして人道に対する罪。

 国家が不当に戦争を起こし、そして侵略した相手国の人間を奴隷化・大量殺人すると言うのがその罪の定義だ。

 世界帝国の主である皇帝シャルルは、その即位期間のほとんどを戦争に費やした皇帝だ。

 彼がその気になればそのエネルギーをもっと人類の進歩へと振り向け、よりよい世界を築けたはずだ。

 

 

 だが皇帝はそうしたことに恐ろしい程に無関心だった、むしろ「争え、奪え」と差別を奨励した。

 ルルーシュの叛逆にしても、その思想にこそ根がある。

 皇帝がルルーシュやナナリーを捨てなければ、少なくとも黒の騎士団など存在すらしなかったろう。

 ルルーシュの絶望や失望も、もっと別の形で現れていたはずだ。

 

 

『そして第二に、ギアスの力を悪用したこと』

 

 

 ギアスと言う力に対してスザクは、兄妹故なのか何なのか、青鸞と同じ結論に達していた。

 すなわちギアスは世界に数多くある手段の一つに過ぎず、その善悪は使う者の心によって決まると。

 だから彼は、けしてギアスを憎まなかった。

 だがその代わり、その力を侵略や破壊に使用する皇帝の行為を糾弾した。

 

 

 スザクは、皇帝がギアスを使った人体実験をしていたことも知っている。

 黄昏の間などと言うオカルトじみた場所も知っているし、皇帝の関心が現実の世界よりそちらにあることも知っていた。

 人権、ブリタニアでは過小評価されるその概念に、皇帝は何らの価値も見出していなかった。

 

 

『それが罪だと? 愚かなり枢木、賢しげな愚者よ。そのような俗事に皇帝は囚われぬ、皇帝とはこの世の汚濁と快楽の全てを知り、それでもなお空虚である者を言う。弱者の叫びなど、皇帝の空虚の中で響く虫の音のようなもの』

「だから無視して良いと? ルルーシュやナナリーの慟哭も、貴方には聞こえないと?」

『慟哭? ふふははは、あの程度を慟哭と言うなら枢木よ、貴様も所詮は幸せ者よ。この世に親に捨てられる子など他に何億もいると言うのに。偽善、あまりにも醜く愚かで、救いようが無い』

 

 

 確かに、とスザクは認めた。

 スザクは自分の偽善を認め、自分の矛盾を認め、自分の愚かさを認めた。

 奇しくも彼の妹が言ったように、彼の言葉と行動には矛盾と齟齬があった。

 だがそれでも、スザクは己の主張を変えるつもりは無かった。

 

 

 暴力やテロリズムでは何も解決しない、正当な手続きに沿わない結果はいつか脆く崩れ去るだけだ。

 不当・不法な方法で得た結果は、より不当で不法な方法で覆されるから。

 だから、ブリタニアを中から変えるという主張を変えるつもりは無い。

 そして世界に戦争を仕掛け、民族差別を助長するブリタニアを変革させるには。

 

 

「……そして、第三の罪」

 

 

 皇帝シャルル、彼を斃すしか無い。

 

 

「貴方は、僕に嘘を吐いた」

 

 

 そして皇帝もまた、兄V.V.と同じように嘘を吐いていた。

 嘘の無い世界を創ろうと誓い、嘘を吐く人間を信用しないと言ったその口で嘘を吐いたのだ。

 その嘘とは、スザクがブリタニアに転向した第二の理由に密接に繋がっている。

 

 

 

「――――青鸞に手を出さず、その生殺与奪を僕に一任すると言う契約を破ろうとした」

 

 

 

 スザクは皇帝と契約していた、皇帝のギアスで記憶を奪われ気を失った妹の隣で彼は契約した。

 皇帝の手先として働く代わり、皇帝は青鸞について何もしないと。

 青鸞、実は彼女の存在がスザクをブリタニア側へと押しやった第二の要因だった。

 ルルーシュのギアスに犯される前から、彼は常に妹のことを頭の片隅に置いていた。

 ナリタの戦場で再会した時には、流石に驚いたものだが……。

 

 

「そして、貴方は彼女の大切なものを返すと言う契約をも破った」

 

 

 青鸞が奪われた大切なものを取り返す、そのためにスザクはブリタニアに転向した。

 偶然により大きく階梯を昇る過程でその思いは強くなり、そして奇跡的に皇帝に直接謁見することが出来る地位にまで上った。

 だから彼にとって、これは運命だった。

 

 

 だが青鸞には言えなかった、あらゆる意味で言えるはずも無かった。

 妹を言い訳にするつもりは無い、そこはルルーシュとは違う点だった。

 彼はあくまで咎人で、いずれ誰かに――彼女に――罰せられるのを待つ囚人であれば良かった。

 罰せられる理由はいくらでもあるのだから。

 

 

『そのような雑事、興味も無い』

 

 

 皇帝はそんなスザクの言葉を一蹴した、何故なら皇帝にとって、もはや現実に起こることは何の意味も無かったからだ。

 スザクの妹が奪われたものやら、殺された者やら、それら全てに意味が無くなるのだ。

 スザクがそのことの意味を知るのは、もう少し後のことになる。

 

 

『だが貴様にとってはそうでもあるまいに、それでもなお皇帝に弓を引くか……愚かだな』

「……そうですね」

 

 

 確かに愚かだ、これでは青鸞の大切なものを取り返せない。

 だが、それももう良いと思えた。

 何故なら、彼が、ルルーシュが。

 

 

「……ルルーシュが、妹を愛してくれている。あんなにも」

 

 

 妹のために自分の前に立ち、妹のためにあんなに必死に怒ってくれた彼。

 過去にもそう言うことはあったが、だが今回は質が違った。

 スザクはそれを敏感に察知した、察知した上で、皇帝の寝首を掻くなら今だと判断した。

 青鸞のことはルルーシュに任せる、そう決断することが出来た。

 

 

『スザクッ!!』

 

 

 そしてそんなスザクの耳にルルーシュの声が届く、彼はスザクに叫んだ。

 

 

『青鸞の刀を狙えッ、あそこがウィークポイントだッ!!』

 

 

 ファーヴニルの背、そこには桜花の折れた刀身がそのままになっている。

 そしてそこはファーヴニルの構造上の弱点でもあった、ファーヴニルのレーザーの群れを急上昇で回避したスザクは、ランスロットを高速旋回させてファーヴニルの直上を取った。

 ヴァリスを変形させ、フルバーストでの砲撃を行う。

 

 

 ブレイズルミナスとの鬩ぎ合い、だが桜花の刀身と言う不純物を負ったファーヴニルの防御は完璧では無かった。

 歪むような不快な音が響き、ブレイズルミナスの発生装置が過負荷に耐えかねて爆発した。

 同時にエネルギーの放射を停止したヴァリスを捨て、スザクの雄叫びと共にランスロットが急降下する。

 瞳の輪郭を赤く輝かせたスザクは、ファーヴニルの反撃を全て回避して到達した。

 

 

『愛? ふふ、ふははははは……くだらぬ、そのようなものに何の価値があるか』

「……ッ、それがわからないから、貴方は」

『それをわかったと錯覚しておるから、貴様は愚かなのだ』

 

 

 2本のMVSをクロスさせ、ブレイズルミナスの盾の下の柔らかい肌――硬い装甲の比喩表現――を斬り裂き、破片や爆発を撒き散らされる中、それでも皇帝の声は静かだった。

 彼は、脱出の気配をまるでさせなかった。

 ランスロットの剣に七度斬り裂かれても、それは変わらなかった。

 

 

『愚かなり枢木、貴様の行為には何の意味も……』

 

 

 それ以降は、通信が途切れたためにわからなかった。

 しかしその次の瞬間には、一つの事実が現実になった。

 それはブリタニア皇帝シャルルを乗せたまま、ファーヴニルが爆発四散したと言う事実だ。

 恐ろしい程にあっさりと、黒の騎士団を蹂躙した皇帝専用KGFは爆散して、消えてしまった。

 

 

 皇帝の命のように激しい爆発の中、ランスロットの操縦桿を握ったまま、スザクは目を閉じた。

 それは皇帝の言葉を反芻するための瞑目であり、そして背中に感じる妹の視線を受けないために行われたものだった。

 同時に彼は、少しだけ昔のことを思い出していた。

 それは彼が決定的に道を違えてしまった、あの瞬間のことで……。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

 ――――今から8年前、日本とブリタニアの戦争が始まる1ヶ月ほどの前のことだ。

 ある場所に、生まれが少々特殊な少年がいた。

 とは言えそれでも特殊な能力も背景も無い、普通の少年であった。

 

 

 少年には友がいた、異国の地から来た人質だった。

 少年の友には妹がいた、異国の友が命よりも大事にする、目と足を失くした少女だった。

 少年にも妹がいた、出来の良い妹で、少年はあまり好きでは無かった。

 

 

『……スザク、頼む……ナナリーを、ナナリーだけは……』

 

 

 ある時、少年と異国の友の国が戦争を始めることになった。

 少年の父が異国の友の妹を攫い、異国の友が少年に頼んだ。

 妹を救って欲しいと、少年はそれに是と答えた。

 何としても救わなければと意気込み、少年は父の下へ駆けた。

 

 

 父は、いつもいる書斎にはいなかった。

 それどころか屋敷には誰もいなかった、少年は不吉に思い足を早めた。

 程なくして、見つけた。

 父を見つけた、妹も一緒にいたので少年は声をかけられなかった。

 でも、妹は眠っているようだった。

 

 

『……ああ、移植は成功した。後はコレにブリタニア皇帝の子種を入れれば、純血に近い子が産まれるだろう』

 

 

 父のベッドの上に寝かされた妹は裸だった、桜色の浴衣を布団代わりに身体の上に置かれている。

 顔色が青白くてまるで死んでいるようだった、その傍で父は誰かに電話をしている。

 何の話をしているのか、少年にはまだ全ての意味を図ることは出来なかった。

 

 

『何、全てはコードの発現のためよ。費用はかかったが……お前達の所で薬液強化とギアス因子の投与。正直、臓器がそこまで長く保つものかとも思ったが……実際に見て驚いたぞ、抜糸の痕も残らんとは。ギアスの医療とはいやはや……まぁ、皇帝の子を産み落とした後は用済みだ、コレも』

 

 

 コレ、と言う言い方に少年は違和感を覚えた。

 おそらく妹のことを言っているのだろうが、父は妹のことを少年よりずっと大切にしていた、少なくともあんな冷たい声で「コレ」などとは呼ばない。

 

 

『貴様にそんなことを言われる筋合いは無いな、饗団。お前達にとっては保険でも、私にとっては本命なのだ……植民地化した後の日本での私の地位の保障、忘れたとは言わせんぞ。そのために、コレの発現率の高さを見越して担保に出したのだ』

 

 

 もっとも、と、そう言う父の声は悪魔のようだった。

 

 

『実の母親の心臓と子宮だ、コレも嬉しいだろう』

 

 

 言葉の意味が、わからなかった。

 いや、わかりたく無かった、言葉の意味を受け入れたくなかった。

 父が電話を終えてこちらに来た、少年は思わず身を隠した。

 そして父をやり過ごして、眠る妹の傍へ寄った。

 

 

『青鸞……?』

 

 

 呼びかけると、妹が小さくむずかった。

 もうすぐ目が覚めそうに思えて、少年は不器用な手つきで妹に浴衣を着せた。

 その際に妹の身体の隅々まで確認したが、少年に目には何が違うのかわからなかった。

 ただ気のせいか、妹の左胸と下腹部が不自然に小さく膨らんでいるように思えた。

 

 

 少年は逃げるように父の寝室を後にした、そして父を書斎まで追いかけた。

 手に、刀を握り締めて。

 そして少年は父に言った、異国の友の妹を解放しろ、戦争をやめろ、と。

 拒絶する父に、少年はさらに問うた。

 

 

『アイツに、青鸞に、何をしたんですか』

 

 

 どうしてと問うた、妹はあんなにもあなたを愛しているのに、と。

 それなのにどうして、あなたはそんな酷いことが出来るのか。

 どうして、ブリタニアに売り下げるような真似をするのか。

 

 

 もし、己の保身と躍進のためだと言うのなら。

 自分のために妹の身体を切り、そしてもし、母を……妻を、死なせたと言うのなら。

 もし、もし、もし――――もし。

 もし、そんなことを言うのなら。

 あなたは……おまえは。

 

 

 

『おまえは、いきていちゃいけない……!』

 

 

 

 世界を裏切った。

 自分を裏切り、妹を裏切った。

 世界から弾き出された憎むべき男を、実の父を、少年は刃にかけた。

 

 

 手に、かけた。

 

 

 何やら喚いている醜い口を黙らせるために、師に教わった技で腹を裂いた。

 臓物と血が周囲に飛び散るまで、何度も刺した。

 何度も何度も、何度も何度も何度も何度でも。

 妹が奪われたものを取り戻そうとするかのように、少年は父の腹を裂いて開いた。

 ――――そして、全てが終わった後。

 

 

『……ブリタニア……』

 

 

 妹が奪われたものが見つからなくて、全てが終わって立ち尽くす少年がポツリと呟いた。

 ブリタニア、父が取引をしようとしていた相手。

 そして、妹の大切なものを持って行った相手。

 ――――この時、少年は決めた。

 

 

 

『どうして……?』

 

 

 

 咎人として生きることを、罰を求めて生きることを決めた。

 そしてやはり起きたのだろう、桜色の和服を着た少女が自分を見ていることに気付いた。

 父の死体の上に立つ、自分を見ていることに気付いた。

 

 

 妹の瞳が憎悪に歪むのを見て、少年は思った。

 ああ、キミはそれで良い……そう、思った。

 妹は自分を恨めば良い、それで良い、それで妹が知らずに済むのなら。

 妹にとって父が「愛すべき父」のままでいられるのなら、自分が恨まれれば良いと思った。

 だって、自分は実の父を殺した咎人なのだから。

 

 

『……どうしてええええええええええええええぇぇぇぇぇっっ!?』

 

 

 だからこれで良い、少年(スザク)はそう思って微笑んだ。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

 主君である皇帝の死を、誰よりもまずビスマルクが理解した。

 ギアスの絆によって皇帝と繋がる彼は、それによって計画が次の段階に進んだことを知った。

 ジェレミアの駆るジークフリートとたった1人で――あの、セキガハラで十数機のナイトメアを同時に相手取った超兵器を――戦いを繰り広げていた彼は、皇帝の死に時間を止めた戦場を傲然と見下ろしていた。

 

 

「ふ……」

『主君を失い、何を笑う!』

「ふふ、ふ。いや何、これで勝ったと喜ぶお前達がおかしくてな」

 

 

 ジェレミアの言葉にもビスマルクは笑う、そこには主君を守れなかった敗残の騎士の姿はどこにも無かった。

 あるのはただ、主君の勝利を確信した栄光の騎士の姿だ。

 最も長くラウンズとしてシャルルに仕えてきた男の余裕に、ジェレミアは内心で首を傾げた。

 

 

 しかし、この2人の対峙もまた過分に運命的ではあった。

 何しろこの2人の騎士の忠誠の対象は、シャルルとブリタニア皇室を除外してしまえばたった1つに帰結してしまうのだから。

 同じ、たった1人の女性へと。

 

 

『ふ……ビスマルク・ヴァルトシュタイン。強がりにしては、皇帝シャルルの一の騎士としては聊かユーモアのセンスに欠けているようだな』

 

 

 その時、上空から蜃気楼が降りて来た。

 コックピットの中からルルーシュ=ゼロがビスマルクを見下ろし、おそらくはゼロの正体を聞いているだろうビスマルクもルルーシュ=ゼロを見上げた。

 直接の関連性は何も無い2人だが、戦場では珍しいことでも無かった。

 

 

「皇帝シャルル亡き今、そしてラウンズも殆どが撃墜の憂き目に合った今、ブリタニアは国家としての機能を著しく喪失した。シャルルの後継も無く、ブリタニアにはもはや、外部と戦争をする力は残されてはいない」

『なるほど、ゼロ……お前は我が国の弱点を良く心得ている。あるいはそれを頼りに、ここで陛下と我らを待ち伏せたか』

 

 

 その通り、ルルーシュ=ゼロは深く頷いた。

 シャルルは良くも悪くも巨人だった、世界帝国を築き上げた才に代用は効かない。

 ましてその小粒とも言える皇位継承候補は何十人もいて、誰が後継に立っても他の誰かがそれを認めない状況が長く続くだろうことは疑いなかった。

 むしろシャルルが即位する前には、それがブリタニアの日常だったのだから。

 

 

 だからその意味で、ルルーシュ=ゼロの戦略は何も間違っていない。

 皇帝を倒し、ブリタニアの分裂を誘い、その隙に力を蓄え政戦両略を仕掛ける。

 何も間違っていない、だがそれはある一つの前提条件が確保されていて初めて意味を成す戦略だった。

 ルルーシュ=ゼロも万能では無い、故に彼は気付かなかった、知り得なかった。

 だからビスマルクは笑っていた、ルルーシュ=ゼロの失策に気付いて笑ったのだ。

 

 

『ふ、ふふふ……ゼロよ、愚かな男よ。お前は陛下の張り巡らせた罠に嵌まったのだ』

「何……ッ!?」

 

 

 ルルーシュ=ゼロが怪訝そうに眉を顰めたとき、異変は起こった。

 皇帝のKGFの爆発の余波と破片の散乱が未だ続く中、その場にいる全てのナイトメアと艦艇のモニター、いや世界中のモニターと言うモニターにそれは映った。

 電波ジャック、無数の灰色の線が走った直後、それを行った者が見せたい映像が強制的に流される。

 

 

 そこに映っていたのは、戦場とは無縁そうな場所だった。

 どこかの庭園のようにも見えるが、屋内であるのか空などは見えない、自然光に意図的に似せられた照明の輝きが庭園を照らしていた。

 放された蝶が何匹も飛び交う庭園は、無数の花々と相まって天上の楽園のように見えた。

 

 

『――――初めまして、全世界の皆様』

 

 

 鈴の音のように軽やかな声が響く、それは少女の小さな唇から紡がれたものだった。

 そう、少女である。

 天上の楽園の中心にいるのは、1人の少女だった。

 そしてその少女の姿を目にした時、ルルーシュ=ゼロは絶句した。

 馬鹿な、との呟きはきちんと音として外に出ただろうか。

 

 

『私はこの度、父である神聖ブリタニア帝国第九十八代皇帝シャルル・ジ・ブリタニアより禅譲の意を受けることとなりました。この勅命は、父シャルルの死と同時に効力を発揮します』

 

 

 さらにその言葉で、全世界が絶句した。

 誰もが「まさか」と呟き、誰もが「いつの間に?」と呟いた。

 そしてそれ以上に、「この少女は誰だ?」と呟いた。

 その少女は過去に有力視されていた皇子や皇女の誰でも無く、知る者のいない無名の人物だったからだ。

 

 

 外見は、本当に可憐な少女のそれだ。

 軽くウェーブのかかった腰までの髪、日の光を浴びた経験が少なそうな白い肌、重い物を持ったことが無いだろう綺麗で細い身体、身を覆うのは白とピンクの可愛らしいドレス。

 誰も知らない、秘密の花園の少女。

 とてもでは無いが、世界帝国の皇帝になるような人物には見えなかった。

 

 

『そして父シャルルは、本日、たった今、現時刻をもって、太平洋上でテロリストと戦い、華々しい死を迎えました。すなわち、今、この時刻、この瞬間をもって、私は父シャルルの後継者となりました』

 

 

 故に改めて自己紹介させて頂きます、と少女が言う間に、世界にどれだけの衝撃が走っただろう。

 あの巨人シャルルが死んだ、これから世界はどうなるのだろうと誰もが不安を胸にした。

 だが少女は、その不安を包む込むような柔らかな笑みを浮かべた。

 品良く口元を綻ばせ、目を猫のように細くしながら。

 

 

『初めまして、全世界の皆様。私は神聖ブリタニア帝国第九十九代唯一皇帝――――』

 

 

 ブルブルと身を震わせるルルーシュ=ゼロに見せ付けるように、少女は両手を広げた。

 世界の何もかもを迎え入れようとするようなその姿は、まさに天使のようだった。

 だがその少女は、人が持つべき翼……すなわち、足が不自由なようだった。

 可愛らしい意匠が施された車椅子が、その証拠だった。

 

 

 玉座では無く、車椅子に座る少女。

 その少女の姿を、ルルーシュ=ゼロは震えながら見ていた。

 そしてそんなルルーシュ=ゼロの目の前で、少女は自分の名前を次げた。

 世界帝国の後を継ぐ、唯一にして神聖不可侵であるべき人物の名前を。

 

 

『――――ナナリー・ヴィ・ブリタニアです』

 

 

 青に見える薄い紫の瞳。

 青に見える薄い紫の瞳が、世界を射抜くように開かれていた。

 過去8年間開かれていなかった瞳が、今、確かに開かれていた。

 ナナリー・ヴィ・ブリタニアの瞳が、確かに世界を見つめていたのだった。

 ――――両の瞳に、赤い輪郭を纏わせながら。

 




登場キャラクター:
いろは歌さま(小説家になろう)提案:クライド・ゲーテルハイド。
ありがとうございます。

 最後までお読み頂きありがとうございます、竜華零です。
 コードギアスを描いていると、思うことがあります。
 ……ルルーシュのギアスって、便利ですよね。
 話が詰まっても「ふふふ、実はすでにギアスをかけていたのだ!」とすれば大体の無茶は通せます、何だこの公式チートさんは。
 流石は正統派「勝てば良かろうなのだぁ――!」主人公、汚いさすが汚い。

 と言うわけで、もしかしたら予想できていた方もいるかもですが……。
 神聖ブリタニア皇帝ナナリー、爆誕。
 全世界のシスコンが忠誠を誓いそうな皇帝陛下ですが、もちろんただナナリーを皇帝にしたわけではありません。
 詳しくは次回、そして次回予告は皆のお兄様ルルーシュ。


『ナナリーが生きていた。

 彼女はもはや思い出の中にしかいない、儚い花の君だと思っていた。

 だが、そうじゃなかった。

 目の前で微笑む少女は、紛れもなくナナリーだった。

 ナナリーがブリタニア皇帝、尋常で無い何かがそこにある。

 それを知った時、俺は……。

 ――――俺は』


 ――――TURN27:「皇帝 ナナリー」

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