コードギアス―抵抗のセイラン―   作:竜華零

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今週は週2更新になります、4月からは週1になるかと思います。
枢木家関連で少しオリジナル設定があります、ご注意ください。
また今話に限り、百合表現がございますのでご注意ください。
では、どうぞ。


STAGE14:「カグヤ と セイラン」

 ――――1ヶ月。

 この間の1ヶ月は、驚く程早く時間が過ぎ去った。

 誰にとっても、そうだった。

 

 

「…………」

 

 

 それは青鸞にとってもそうで、彼女は非常に苦しい1ヶ月間を送ることになった。

 肉体的にではない、肉体的には極めて健康であって――健康にさせられていた――問題は、精神面である。

 心の問題、と言っても良かった。

 

 

 5年、いや7年、もしかしたらもっと以前から、生れ落ちたその瞬間から。

 今の今まで信じていた物が、揺らいでしまっていたからだ。

 素直に受け入れることなど出来ない、受け入れてしまえば自分が終わる。

 これは、そう言うことだったのだ。

 

 

「……父様……」

 

 

 1ヶ月前から過ごしている屋敷の部屋の外、縁側の柱に寄りかかるようにして彼女は座っていた。

 部屋着なのか、白地に青い鳥の羽根が描かれた浴衣を着ている。

 だが素肌の上を彩る薄い浴衣は美しい、だが少女の表情は華やかさとは真逆の陰が差していた。

 

 

 柱に身を預けるように座っている青鸞は、夕焼けに染まる中庭をただ眺めていた。

 そうして思い出すのは、過去のことだ。

 過去、こう言う庭で父と共に過ごした記憶だ。

 枢木家所有の別荘に連れて行ってくれた時など、良く覚えている。

 他にも離島に家族で海水浴に行ったり、寝室で本を読んでくれたことだってある。

 

 

『とーさま、だいすき!』

『はは、これこれ……』

 

 

 幼い頃の自分は、今もそうだが、父に良く懐いていた。

 彼女が産まれた時には大臣で、物心がつく頃には首相だった父は忙しく、それこそ国政を休む静養中くらいにしか遊んで貰えなかったが。

 早く帰ってきた日は使用人の制止を振り切って玄関まで駆けて、父を迎えに出た。

 父の手が脇に差し込まれて、抱き上げられるのが……何より、好きだった。

 

 

 母がいなかった分、余計に父に構ってほしかったのだろうと思う。

 今も、自分を産んですぐに亡くなった母のことより父のことを覚えている。

 父は枢木にとって庇護者であり、彼女を守ってくれる大きな存在だった。

 兄は、あまり父とは仲が良くなかったようだが……。

 

 

『アレも、お前のように可愛気があれば良かったのだがな』

 

 

 口癖のように、父はそう言っていた。

 そう言いつつ家に伝わる懐中時計を兄にプレゼントしてしまったものだから、青鸞は良く拗ねてみせたことがある。

 そんな青鸞を、父は頭を撫でて宥めたものだ。

 

 

『お前が男に生まれていれば、お前にやっていただろうが……何、お前にはいずれもっと大きなものをやろう』

『ほんとう?』

『ああ、本当だとも。だから家庭教師や使用人の言うことを良く聞いて、勉強するんだ、良いな?』

『うん!』

『良い子だ……ああ、良い子だ』

 

 

 他人がどう思っていたかは別にして、青鸞にとっては優しい大好きな父だった。

 だからあの日、父が永遠に目覚めなくなったあの日……父を殺した兄を、青鸞は許せなかった。

 罵倒して糾弾して、幼い頭脳で思いつく限りに詰った。

 あの時の自分が今程度に成長していれば、きっと、その場で兄を殺していただろう。

 

 

 ……だが、1ヶ月前の夜。

 青鸞は聞いた、桐原の話を。

 あの老人の言葉は、青鸞の持つ全ての価値観の前提条件を引っ繰り返してしまった。

 そう、あの夜に……遡ること1ヶ月前のあの夜に。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

 枢木ゲンブと言う男のことを、正直に言えば、神楽耶は良く知らない。

 従姉妹(いとこ)、あるいは従兄妹と言う極めて近い親戚の父親、つまりは伯父にあたる人間。

 会ったことはあるが、流石に幼少の頃の記憶などそう多くは無い。

 

 

「まったく、あの男は……」

「真に……」

 

 

 だが、違和感を覚えたことはある。

 御簾の向こうで時に大人達が零す愚痴の内容と、彼女の従姉妹が話す父親の話との間に埋め難い落差が存在することにだ。

 究極的なことを言えば、神楽耶はどちらかの話も信じてはいない。

 

 

 人伝に聞いた話を信じる程彼女は単純な人間では無いし、大人の話に嘘が含まれることは嫌という程に知っているつもりだったからだ。

 ただ、個人的な意見を言わせてもらうのであれば。

 

 

「枢木ゲンブは、己が権勢を広げるためだけにあの戦争を引き起こした張本人……まさに、疫病神よな」

 

 

 神楽耶は従姉妹の、幼馴染の、青鸞の話す「父」の像を信じたいとは思っていた。

 だが……。

 

 

「待て」

 

 

 その時、大人達の愚痴を止めた男がいる。

 この場で最も年齢を重ねた老人、桐原公である。

 彼だけは愚痴に参加していなかったが、特に止めもしていなかった。

 その桐原が、ここに来てそれを止めた理由は。

 

 

 カタン、と、軽い音が部屋の外から聞こえた。

 神楽耶は、いや彼女だけでなく、その場にいた全員がそちらを向いた。

 キョウト六家の代表達が視線を向けたその先にいたのは、七つ目の家の。

 

 

「青鸞……!」

 

 

 神楽耶の呟きの先に、白の襦袢姿の少女がいた。

 昼間、部屋を荒らしたまま眠ってしまったと聞いていたが目が覚めたのか。

 だが何もこんな時に、こんな場所に来なくても……と思った所で、神楽耶は桐原の背中へと視線を向けた。

 

 

 小柄な老人の背中には、何の変化も無い。

 だが神楽耶は桐原の背中をキツく睨んだ、それが何の効果も無いとわかってはいても。

 本来自分達以外の人間が来れるはずが無いこの場所に、青鸞を進ませただろう老人を睨んだ。

 桐原が今、どんな顔をしているのかはわからない。

 だが少なくとも、他の4人のように驚愕も後悔もしていないことだけはわかった。

 

 

「……どういう、こと?」

 

 

 その睨みも、震えるような青鸞の声を聞いた時に終わった。

 神楽耶が再び視線を向けた先、淡い照明に照らされた青鸞の白い顔がある。

 いつも以上に蒼白に染まっているように見えるのは、気のせいではないだろう。

 

 

「あの戦争は……ブリタニアが一方的に侵略を仕掛けてきたはずのものではないの?」

 

 

 頭の回転が早いと、不便なこともある。

 僅かな会話の断片から、喋りながら次々とパズルのピースを嵌めるように思考を進められるのだから。

 そしてそれは、疑問を生む。

 どちらが、真実なのかと。

 

 

「と、父様は、ブリタニアから……日本を守ろうとして……」

 

 

 誰も、青鸞に返事を返す者はいなかった。

 神楽耶も含めて、明確に何かを応じることは出来なかった。

 だからだろうか、青鸞は蒼白な顔のままで叫んだ。

 

 

「……答えてよ……!」

 

 

 それでも、誰も答えない。

 だが1人だけ、別の反応を返した者がいた。

 その男は小柄な身体を揺するように動かすと、青鸞の方を見ることもなく深々と溜息を吐いて見せた。

 まるで、注目を集めようとするかのように。

 そして実際、彼は全員の注目を集めることになる。

 

 

「……青鸞、聞いてしまったのなら仕方が無い」

「……ッ」

「話そう、お前に。ちょうど良い時期なのかもしれぬでな……」

 

 

 ナリタが失われた、今だから。

 そう言って、彼……桐原は話し始めた。

 神楽耶の睨みを背中に受けながら、横顔に青鸞の視線を受けながら。

 7年前、あのモノレール・ラインで2人の少女に全てを与えた老人は、今ここで何もかもをひっくり返そうとしていた。

 

 

 ――――この、2時間の後。

 1人の少女の叫び声が、その屋敷を満たした。

 その夜に響いた絶望を識る女の声は、まるで世界を否定するかのような叫びだった。

 そして、それが1ヶ月前の話で……。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

 記憶の底から現実に戻れば、そこは1ヵ月後の世界だ。

 その世界に、青鸞は自分が取り残されているような気さえした。

 たとえ、それがただの現実逃避だとわかってはいても。

 

 

「……父、様……」

 

 

 7年前、枢木ゲンブは故意にブリタニアを刺激する政策を連発していた。

 マスメディアを煽り国内を反ブリタニア機運で纏め、サクラダイトのブリタニアへの供給を恣意的に操作し、ブリタニアが日本に侵攻する大義名分をこれでもかと用意してやった。

 まるで、何かのお膳立てをするかのように……何故か?

 

 

 権力が欲しかった、自分の権勢を広げるために……あえて、あの戦争を引き起こした。

 ブリタニアに日本を売り渡して、当時政敵の関係にあった桐原を蹴落とすために。

 そして保護領化した日本で、今の桐原の位置に座るために。

 それは、誰がどう見ても利己的で、エゴに塗れた――――売国行為だった。

 

 

「父様は、そんな……そんなこと、するはずが」

 

 

 信じられなかった、信じたくなかった、信じなかった。

 桐原公が嘘を吐いているに違いない、この1ヶ月はずっと自分にそう言い聞かせていた。

 だがご丁寧なことに録音があった、当時のゲンブと藤堂の会話の録音が。

 父の声を聞き間違える青鸞では無い、だから偽造だと主張することは父を否定することになる。

 

 

 藤堂の「話」とは、もしやこれだったのだろうか。

 いや、間違いなくこのことだろう……であれば、あの苦しげな表情も理解できる。

 笑いすら出てこない、自分はとんだ道化だったわけだ。

 父は売国奴では無い、父の跡を継ぐと自分が言う度に、藤堂はどんな気持ちだったのだろう?

 

 

「父様は……ブリタニアから日本を、守る、ために……徹底抗戦を……」

 

 

 そう、日本軍を敵うはずもないブリタニア軍にぶつけ、完膚なきまでに叩き潰すために。

 徹底的な抗戦で日本の軍事力を磨り潰し、戦後の属領統治を円滑にするために。

 

 

「だって、ルルーシュくん、ナナリーちゃん……も、自分で、ホストして」

 

 

 そう、掌中の玉とするために。

 青鸞を何より動揺させたのは、ルルーシュとナナリーに関することだった。

 あの頃、自分は兄と共にあの兄妹と友好関係を持った。

 大事な幼馴染、特にナナリーとはそれぞれの兄について良く語ったものだ。

 

 

 父は、そのナナリーを殺そうとしたのだと言う。

 

 

 約束手形、録音で父はそう言っていた……ブリタニアでルルーシュ達を邪魔に思っていた皇族がいて、戦後の地位を得るためにその約束を果たそうとしたと。

 それを聞いてしまえば、あの時、兄がどうして父を殺したのかの理由付けも出来てしまうのだ。

 長くわからなかった殺害の動機が、自分の中でストンと落ち着いてしまうのである。

 兄を責める心に、罅が入ってしまうのである。

 

 

「……違う、そんな……父様、違うって……」

 

 

 認められない、そんなものは作り話だ。

 自分が信じていた話と明らかに違う、記憶の中の優しい父と重ならない。

 だが、録音と言う証拠の中にいる父は……いやらしく、陰湿で、傲慢で、どうしようもなく、昏い人間だった。

 

 

 だが、それを認めてしまえば青鸞はもう立ち上がることすら出来なくなってしまう。

 何故なら、彼女はこれまでに多くの人間を死に追いやっていたから。

 戦ったブリタニア軍だけでは無い、彼女と共に彼女の言葉で戦って死んだ日本人もいる。

 それは全部、父の無念を晴らすためとの大義名分で行っていたことで。

 

 

「……違うって、言ってよぉ……!」

 

 

 銃を手にとって戦う、これは言葉で言う程簡単ではない。

 自分の正義を、自分達の正義を信じていなければ引き金など引けないのだ。

 相手を撃つ正当な理由が無ければ、銃を手に取ることすら出来ないのだ。

 人は本来、人を殺せる程に強く出来ていないのだから。

 

 

 だけど、この場に彼女の祈りを、願いを叶えてくれる者はいない。

 父も兄もいないこの場所には、桐原の語った「真実」しか無いのだ。

 だから青鸞は、こめかみを柱に押し付けながら……あれから1ヶ月、木製の柱を透明な雫で濡らす毎日を過ごしているのだから。

 

 

「――――青鸞?」

 

 

 だがこの日は、いつもと違った。

 不意に名前を呼ばれてビクッと震えた後、ゆっくりとした動きで声のした方を見る青鸞。

 その瞳は、もはやこの世の何もかもに怯えているようだった。

 

 

「……神楽耶」

 

 

 夕日が沈み、空に星々が増えていく時間。

 縁側の向こうに平安貴族のような衣装を着た少女がいて、青鸞のことを見つめていた。

 皇神楽耶、もう一人のキョウトの姫が。

 

 

「少し……お付き合いして貰っても、よろしいですかしら?」

 

 

 少しおどけるように、おかしな口調でそう言う彼女。

 片目を閉じて誘う従姉妹の少女に、青鸞は胡乱げな視線を向けた。

 そんな青鸞を、神楽耶は相変わらずのにこやかな笑みで見続けていた……。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

 ナリタ戦以降の1ヶ月、ブリタニアのエリア11統治軍は勝利の美酒に酔うことも出来なかった。

 何故ならコーネリア軍はナリタにおける地滑りと地下道の崩落に巻き込まれ、1万近い損害を出してしまったからだ。

 特に作戦に投入したナイトメア部隊の損害率は6割を超えた、しかも混乱を収拾する前に敵の一部に包囲を突破されてしまったのだ。

 

 

『ブリタニア軍は勝利したが、無傷では済まなかった』

 

 

 それが世論の見方であって、事実その通りだった。

 コーネリアは各軍管区から兵を引き抜く形で補充しつつ軍の再編作業を行っている、予定されていた日本解放戦線の他の拠点の掃討作戦は延期せざるを得なかった。

 本拠地を失った日本解放戦線は瓦解の危機にあったが、まだ崩壊はしていない。

 

 

 統一感のある行動こそ取れていないものの、ナリタ戦後1ヶ月が経っても組織は残っているのだ。

 それは統治軍にとって非常に不味い、何故なら彼らは当初の目標を捕縛できていないからだ。

 日本解放戦線の大義名分の象徴、「枢木青鸞」を発見できていないのだから。

 

 

(どこにいるんだ、青鸞……)

 

 

 ナリタ戦後、スザクはあの戦場で別れた妹を探していた。

 セシルに頼んで捕虜リストを確認して貰ったりしているのだが、どこにもいない。

 解放戦線のどこかの拠点にいると踏んでいたのだが、見当が外れたらしい。

 ……捕虜以外の場合は、あまり考えたく無かった。

 

 

 そしてスザクは、ここ1ヶ月間は――特に独房の藤堂達に会ってからは――ずっと、青鸞のことばかり考えていた。

 この7年、ほとんど考えたことなど無かったのだが。

 だが、勘違いはしないでほしい。

 スザクは別に、青鸞が妹だから探しているわけでは無く。

 

 

「スザク、ちょっと良いか?」

「ルルーシュ?」

 

 

 そして1週間ぶりの学校、租界の学校に通うなど名誉ブリタニア人には本来不可能なのだが、それを可能としている諸々の事情が彼を守っていた。

 アッシュフォード学園、ブリタニア人専用の学校、スザクに対して風当たりが強くないわけは無い。

 それでも彼が何とかやっていけているのは、1人の少年の存在が大きい。

 

 

 ルルーシュである、彼はスザクの幼馴染なのだ。

 皇子時代、ルルーシュは人質としてブリタニアから日本の「留学」に来た。

 それを世話したホストが当時の首相枢木ゲンブであり、スザクの実家にあたる枢木家だった。

 彼らが友達になったのはその時だ、だから互いの事情は良く知っている。

 学園で7年ぶりに再会した時は驚いて、そして喜んだものだが……。

 

 

「どうかしたのかい?」

「あ、いや。最近、軍務であまり学校に来ないものだから……ナナリーが心配して」

「ナナリーが?」

 

 

 放課後、誰もいない空き教室に引き込まれたスザクは、目を合わさずにそう言うルルーシュの横顔を見つめた。

 ナナリーはルルーシュの妹だ、当然、スザクも良く知っている。

 幼い頃からルルーシュはナナリーを溺愛していたから、嫌と言う程良く知っている。

 そしてナナリーをだしにしてはいるが、ルルーシュ自身も……と言うことも。

 

 

「……そっか。ごめん、僕も出来るだけ来たいなとは思うんだけど」

「いや、仕事なら仕方ないさ。軍なんて所にいれば、個人の都合なんて通用しないだろうし」

「ごめん」

「謝るなって、俺の方こそ余計なことを言ったんだから」

 

 

 久しぶりに柔らかく笑うことが出来た、スザクはそう自覚する。

 ルルーシュもそれは同じだ、仏頂面か無表情の多い顔には柔和な微笑が浮かんでいる。

 タイプは違うがどちらも整った容姿の少年であって、それが2人で笑い合っている姿はそれだけに一枚の絵画のようだった。

 

 

 しかしこの時点で、2人は互いにいくつかの嘘を吐いてる。

 ルルーシュは、己が仮面のテロリストであることを隠している。

 スザクは技術部所属と言いながらナイトメアで前線に行き、同じ民族を取り締まっている上、実の妹を捕縛しようとしているのだから。

 自分の思考の中に出てきた妹、と言う単語に、スザクはふと重いものを感じた。

 

 

「……ルルーシュ、一つ聞いても良いかな」

「何だ、今度はこっちが聞かれる番か?」

「はは、いや、そんなに大した質問じゃ無いんだけど……」

「……そんな深刻そうな顔で、大したも何も無いだろ」

 

 

 腕を組んで机に腰掛けて、ルルーシュはスザクを覗き込むようにして見つめた。

 

 

「話せよ、聞いてやるから」

「……ありがとう」

 

 

 心から穏やかに笑って、スザクは親友に礼を言った。

 受けた側も、どこか照れているような雰囲気になった。

 これが、この2人の少年の関係だった。

 

 

「……ルルーシュ、もしもの話なんだけど」

「ああ」

「もし……もしも、妹が、キミの妹が、ナナリーが。ナナリーが何か、大きな犯罪に関わっているとしたら……キミなら、どうする?」

「うちのナナリーに限ってそんなことはしない」

 

 

 一瞬、空気が死んだ。

 

 

「そんな顔をするな、冗談だ」

「ルルーシュ……キミって本当にルルーシュだよね」

「どういう意味だ、それは」

 

 

 拗ねたような口調でそう言ってから、ルルーシュは表情を真剣なものに改めた。

 それを受けて、スザクも呆れたような顔を引き締めて戻した。

 

 

「お前がどういう意図でそんな質問をするのか、俺にはわからない。質問自体も漠然としていてケースバイケースとしか答えられない、その前提で答えて良いのなら、俺の答えはたった一つだ」

「……それは?」

「ナナリーを助ける」

 

 

 ルルーシュは、その言葉に全てを込めて答えた。

 彼は今、ナナリーのために生きていて……ナナリーの、妹のために何かを成そうとする者だった。

 だからこそ彼は言う、ナナリーが何かを間違えてしまったとしたら、それを救う義務が彼にはあると。

 ここで言う「救う」「助ける」とは、何も警察から守るとかそう言う意味だけでは無い。

 無論、彼が妹をブリタニアの司法に委ねるかは相当に怪しい所ではあるが……。

 

 

 だが彼は、一方でこうも思うのだった。

 あの心根の優しいナナリーが、何かを間違えるはずが無いという信頼がそうさせる。

 間違えたのはナナリーでは無く、ナナリーに間違いを与えた世界の方なのだ、と。

 

 

「俺はナナリーを信じている、だからナナリーが何かを間違えるなどとは思いたくない。だがもし何かを間違えてしまったのなら、いや間違えたとしても、俺はナナリーを救うべく最大限努力するだろう。肉体的なものであれ、精神的なものであれ」

「……信じる、か……」

 

 

 ルルーシュのその言葉を聞いて、何故かスザクは寂しそうな表情を浮かべた。

 自分と「彼女」の間には、ルルーシュとナナリーの間にあるような信頼は無い。

 そう、言いたげな顔だった。

 それを敏感に感じ取ったのか、ルルーシュはスザクに対してやや睨むような目を向けた。

 

 

「……スザク、お前、アイツとは……」

「……いや」

 

 

 ここでも、彼らは互いに嘘を吐いた。

 ルルーシュは、「アイツ」と再会し、あまつさえ反体制派にいるとを知っていることを言わなかった。

 そして、スザクは……。

 

 

「7年前に別れたきり、どうなったかは……」

 

 

 あるいは、これはスザクなりの優しさだったのかもしれない。

 昔の幼馴染がすでにブリタニア軍内部に手配書が回されていて、しかももうすぐ正式に指名手配されるかもしれない状態にあるなどと、「彼女」と仲の良かった親友に言わずにいたことは。

 しかしルルーシュにとっては、この優しさはまるで意味が無かった。

 

 

 何故ならルルーシュは「アイツ」が、「彼女」がどんな状態にあるのかを正確に知っていたのだから。

 だが彼は、自分がそれを知っているということをスザクに知られるわけにはいかなかった。

 だから彼は一瞬、胸の内で爆発しかけた激情を押さえ込んだ。

 お前の妹だろうと、かつてのように言うのを寸での所で止めて、その代わりに。

 

 

「……そうか」

 

 

 そう、言った。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

「神楽耶が?」

 

 

 少し意外そうな声を作ったのは、桐原だった。

 サクラダイト開発を担うキリハラ・グループの実質的な代表、そしてかつて日本の政財界に絶大な影響を持っていたキョウトの家々の大黒柱……彼がその報告を受けたのは、諸々の仕事を終えて自分の屋敷に戻ってきた時だった。

 

 

 桐原にその報告を行ったのは対馬である、1ヶ月前に青鸞達ナリタからの避難民を回収した男である。

 桐原は日本解放戦線が失われて以降、反ブリタニアの旗手となる組織を選定しており……対馬はそうした内偵を行う人材でもあった。

 そしてその中には当然、まだ「枢木青鸞」と言う選択肢もある。

 今回の対馬の報告は、要するにその一環で行われたものだった。

 

 

「カカカ、そうか、神楽耶がな……」

 

 

 顎先を撫で、桐原は何度も頷く。

 その顔に浮かぶのは笑みだ、明確な「次」を得た者の笑み。

 桐原は自分が慎重な人間であると思っている、そしてそれは事実であった。

 

 

 慎重だからこそ、戦前にはキリハラ財閥の総帥の地位にまで上り詰めることが出来た。

 慎重だからこそ、戦後には日本人……イレヴンの自治組織NACの重鎮に納まることが出来た。

 慎重だからこそ、有力なカードは複数手元に揃えておきたいと考える。

 今後、黒の騎士団は有効な1枚になるはずだったが……有効なカードを1枚手に入れれば、対抗馬・大穴のカードが欲しくなるのが桐原と言う人間だった。

 

 

「いかが致しましょうか」

「カカカ……ふふん、放っておけば良い」

「ですが」

「良い」

 

 

 桐原が杖先で床を打つ、これ以上の物言いは許さないと言う意思表示だった。

 実際、対馬はそれで黙り、姿勢を直立に戻した。

 それを見もせず、桐原はカカカと笑う。

 

 

「……出る芽はこの際、多ければ多いほど良い……」

 

 

 もしかしたなら、コーネリアでもルルーシュでもなく、この桐原こそがエリア11の全ての事情を最も多く正確に把握していたのかもしれない。

 NACとしてブリタニア側に、キョウトとして日本側に通じている彼こそがこの時全てを知っていた。

 ルルーシュのことも、青鸞のことも……。

 

 

 桐原は、笑いながら「次」の結果を待つことにした。

 むしろこれは、彼にとっての生きがいになっているのかもしれない。

 巨大な敵に対し権謀術数を張り巡らせ、足元を掬い、最終的に勝利を得ると言うゲーム。

 それは、慎重に生きつつも全ての政敵を退け続けてきた、桐原泰三と言う男の人生そのものとも言うことが出来るのだから。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

「神楽耶、どこに行くの……?」

 

 

 どこか胡乱げにそう言う青鸞は、屋敷の外に出た。

 神楽耶に半ば引き摺られるようにして黒塗りのリムジンに乗り、連れられるままにどこかへと移動させられた。

 スモーク付きの窓の外を見る気にもなれず、カーテンを引いたまま俯いていた。

 

 

 神楽耶は青鸞の向かい側に座っていたが――後部座席は、向かい合って座る構造になっている――特に何かを話しかけてくることは無かった。

 いつものように、ニコニコとした笑顔で見つめてくるだけだった。

 幼い頃から変わらないその笑みに、今は少しだけ居心地の悪さを感じてしまう。

 

 

「ねぇ、神楽耶……」

「さぁ、ここですわ」

 

 

 車が停まれば、やはり手を引かれて外へと連れ出される。

 あたりはすっかり夜だ、それほどの時間出ていたわけではないと思うが、あまり自信が無い。

 どこかの山だとは思うが、少なくともさっきまでいた山とは違う。

 神楽耶に手を引かれて駆け込んだのは、古い屋敷だった。

 

 

 長い間手入れされていないのか、草木は好き放題に生えて、屋根や床板なども雨風に負けて剥がれかけている部分が多々見える。

 そんな古い屋敷に、神楽耶は土足のままで青鸞の手を引いて入っていった。

 車の運転手はそのまま待っているようなので、2人きりで。

 

 

「神楽耶、ここは何?」

「枢木の叔父さまが所有していた屋敷の一つです、何十年も前に捨てられたようですけど」

「え……」

 

 

 父の所有していた屋敷、そう聞いて青鸞の顔が曇る。

 それを知っているのか知らないのか、神楽耶は暗い通路を真っ直ぐに進む。

 やがて奥の大広間に出て、ボロボロの畳の上を進み、そして御簾がかかっていただろう最奥の畳の前に来た。

 

 

 ここで初めて神楽耶は青鸞の手を離し、しゃがみ込んだ。

 何をするのかと思っていれば、神楽耶は畳の一部をめくり上げた。

 いや違う、畳に偽装された端末の蓋を開けたのだ。

 衣装の袖を片手で持ちながら素早くコードを打ち込むと、即座に変化が訪れた。

 大広間一番奥の畳が僅かに浮かび上がり、直後にスライドして……。

 

 

「階段?」

 

 

 石造りの近代的な階段が、そこに現れた。

 戸惑っていると、再び神楽耶に手を取られた。

 僅かの抵抗を示すも無意味で、青鸞は神楽耶に引かれるままに階段を下りた。

 足元に設置された照明がつくと、上の出入り口が閉ざされる。

 

 

(えっと、本当にどこに連れて行かれるの……?)

 

 

 ここまで来ると、流石に青鸞も不安になってくる。

 神楽耶のことは信頼しているが、気分がマイナスに入っているために思考もそのようになる。

 一方で神楽耶は変わらず笑顔だ、表情が変わらないので何を考えているのかが読めない。

 しかも階段を下がれば下がる程に、上とは真逆の近代的な雰囲気が増していって、そして。

 

 

「ここは……?」

 

 

 開けた場所に出て、再び問いかける。

 そこは本当に広い所で、地下でありながらちょっとした工場と同じくらい広そうだった。

 ただ照明がついていないので、何があるのかは見えない。

 

 

「え、神楽耶?」

「ちょっと、待ってくださいね」

 

 

 不意に手を離されて、青鸞は不安そうに神楽耶を呼んだ。

 暗がりの中に消えるその背中を見送って、僅かな間があった後、何かが接続される音と共に照明がついた。

 今度は天井の照明で、白く明るいそれに眩しげに手をかざす青鸞。

 

 

「う……?」

 

 

 やがて目が慣れてくると、そこに何があるのかがわかってきた。

 無頼よりも一回り大きいその機械人形は、厚く広い肩部装甲を始めとした無骨で角ばったデザインのナイトメアだった。

 カラーリングは濃い藍色を基調として肩部、脚部が深緑色に塗られている。

 それが3機、そこに並んでいる。

 そしてその3機とはやや様式が異なるナイトメアが、もう1機あった。

 

 

 青鸞の正面に屹立するそのナイトメアは、新品特有の光沢を放つダークブルーの装甲に包まれていた。

 無頼ともサザーランドとも違う、やや背を屈めたような胴体、長い手に短い脚部と言う独特の形状のそれは、背中のコックピットブロックが妙に張り出ているようにも見えた。

 

 

「……これ」

 

 

 関節部は銀でファクトスフィアは赤、また赤い宝石のようなメインスフィアの下に人間の目を模したブルーの双眼(デュアルアイ)式サブスフィアがある、これは他の3機には無い特徴だ。

 今まで見てきたどのナイトメアとも形状が違う、まったく違う開発思想に基づいて製造されたナイトメアだろう。

 

 

 最大の特徴は装甲だろう、いくつかの追加装甲によって耐久度を増しているらしい。

 機動性はその分落ちているように思うが、追加装甲の鈍い輝きには何かあるような気がする。

 そして装備、いろいろあるが一番目立つのはコックピットブロックの両側と腰部に装着されている合計4本の刀だろうか。

 

 

「このナイトメアの名前は『月姫(カグヤ)』、型式番号Type-02P-S-A0。ブリタニアのコピー品ではなく、キョウトが技術の粋を集めて製造した純日本製ナイトメアフレーム。ちなみに後ろの機体は『黎明(レイメイ)』と言います」

 

 

 青鸞の傍に寄ってきながら、神楽耶は『月姫』を見上げつつ説明した。

 純日本製ナイトメア、それがどういう意味を持つのか青鸞にはわかる。

 ことナイトメアの製造ではブリタニアの後塵を拝していた日本がその技術を吸収し、ついには肩を並べる位置にまで到達したと言うことだ。

 日本人技術者達の尽力と努力たるや、想像を絶するものがある。

 

 

「この機体は、青鸞、貴女のために造られたナイトメアです」

「……ボク、の?」

 

 

 自分のために作られたと言う濃紺のナイトメアを、青鸞と神楽耶が見上げる。

 しかし青鸞は、すぐに視線を落とした。

 自分が戦い続けられるように造られたであろうナイトメア、それを見ることが出来なかった。

 ナリタ戦以前の自分なら、確かに喜んで受け取っただろうその機体を。

 

 

 だが、今の彼女は桐原から聞いた父の姿に迷いを覚えている。

 戦うための理由が、揺らいでいる。

 理由もなしに戦えるほど人は強くない、それは青鸞とて例外ではない。

 だから神楽耶の言葉に、青鸞は俯いてしまったのである。

 

 

「でも、もう必要ないかもしれませんね」

 

 

 逆に顔を上げて、神楽耶はそう告げた。

 青鸞は神楽耶を見た、当然、神楽耶も青鸞を見つめている。

 青鸞が驚きを覚えたのは、先程まであった神楽耶の笑顔が消えていたからだ。

 そこにあったのは笑顔ではなく、冷ややかな表情。

 どこまでも冷たい、冷えた瞳がそこにあった。

 

 

 濃紺のナイトメアの前で、2人の少女が見つめ合う。

 そして月姫は、何も言わずただ佇んでいる。

 まるで、2人の姫を見守る騎士のように。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

 青鸞にとって、父の遺した「徹底抗戦」の意思こそが全てだった。

 無残に殺された父が最後に成したかったことを成し、そして兄が父を殺したことで混乱し敗北した戦争の責任を取りたかった。

 だから、日本解放戦線に身を寄せたのだ。

 

 

 だが、その父こそがあの戦争の元凶だった。

 日本を侵略したがっていたブリタニアと通じ、大義名分を与えブリタニア軍を引き込んだ。

 死して後も父が行った情報・世論操作の影響は抜けず……勝ち目のない戦争に突入した。

 以来7年間、日本人は塗炭の苦しみを味わっている。

 

 

「だから何ですか?」

 

 

 そして神楽耶は、それを一刀両断した。

 仮に枢木ゲンブがあの戦争の元凶だったとして、それが何だと言うのかと。

 桐原の言うことが100%の真実である保証などどこにも無い、仮にそうであったとしても、だからどうしたと神楽耶は切って捨てた。

 

 

「理由はどうあれ、日本を侵略したのはブリタニアです。そこに善も正義もあるはずが無い、そして今、日本人は踏み躙られている、その事実はそのままそこにある」

 

 

 戦いをする理由は失われたかもしれないが、戦いをやめていい理由にはならない。

 それこそ、責任放棄というものだろう。

 

 

「責任を取ると言うのなら、それこそ戦いをやめるべきでは無い――――そうでしょう?」

「でも、ボクは父様のことを信じて……父様のことを信じないと、戦うなんて出来ないんだよ!」

 

 

 ナイトメアのコックピットは、狭い。

 小さな空間に閉じ込められて戦場という狂気の場所を駆ける、それが少女にとってどれほどの恐怖だったか。

 それでもやってこれたのは、父の遺志を継ぐというその精神の柱があったからだ。

 それでこそ、青鸞は精神を保って戦うことが出来るのだから。

 

 

「たかが父親のことで、何をウジウジと」

「……ッ」

 

 

 鼻で笑いそうな勢いで言った神楽耶の胸元を、青鸞は掴んだ。

 引き寄せるようなことはしなかったが、衣装に皺が寄る残るくらいはあるかもしれない。

 だが、神楽耶はそれを気にした風もなく視線をただ真っ直ぐ青鸞を見つめている。

 目を、合わせていられなくなる程に。

 

 

「……どうして目を逸らすのです」

「…………」

「貴女のしてきたことは、目を逸らさなければならない程に間違っていたのですか?」

「……神楽耶に、っ……!」

 

 

 ぎゅっ、と自分の胸元を握る青鸞の手に、神楽耶は自分の手を重ねた。

 それに気付いているのかいないのか、青鸞は涙の雫を散らしながら。

 

 

「御簾の中で座っているだけの神楽耶に、何が……!」

「御簾の中で座っていなければならない人間の気持ちが、貴女にわかるのですか?」

「……ッ」

「大切な親友が戦場にいると知りながら、ただ座っていろと言われる人間の気持ちがわかるのですか? 初めてのお友達が傷を負ったと聞かされても、ただ笑顔でいろと言われる人間の気持ちがわかるのですか? 傍に行って支えになりたいと願っても、こうやって戦うための道具を用意するしかできない人間の気持ちが、貴女にわかるの!?」

 

 

 ――――圧。

 風が無いのに前髪が揺れるような気迫が、そこにあった。

 胸を貫く、刃のように。

 

 

「枢木青鸞!!」

 

 

 少女めいた笑顔の仮面を捨てれば、そこにはキョウトの女がいた。

 強かで、強烈で、激しい……そんな女が。

 

 

「貴女が戦ってきたのは何のため? 父のため? 日本のため? キョウトのため? それとも兄への復讐のため?」

「……ボクは、父様が、大好きだった」

「そう」

「だから、父様が出来なかったこと……ボクが出来たらって」

「そう、でも」

 

 

 胸元を握る青鸞の手をそっと外して、その手で神楽耶は青鸞の頬に触れる。

 

 

「でも、それでも戦ってきたのは、貴女」

 

 

 青鸞は、目を見張って幼馴染を見た。

 真っ直ぐなその目を、ようやく捉える。

 

 

「お父様からの借り物の理想でも、実行してきたのは貴女。兄への復讐心に塗れていても、実際に努力してきたのは貴女。皆が見てきたのは、私やキョウトの皆、解放戦線の皆が見ていたのはゲンブでもスザクでもなく、貴女」

 

 

 ――――7年間、ずっと日本解放のために戦ってきた。

 片瀬や藤堂や、四聖剣、それに草壁や護衛小隊の皆……自分を見守ってくれていた。

 助けてくれていた、手伝ってくれて、守ってくれていた。

 

 

『上の者は怖いだろう、だが、下の者は怖くないのか。そんなわけはあるまい、上に立った人間がどんな人格をしていて、どういう指示を出すのか。自分の命に直結する問題だ。上官たる者はそうした下の者の不安も常に考えて行動せねばならん』

 

 

 不意に、草壁の言葉が甦る。

 そこに来てようやく、青鸞は思い出すことができた。

 1ヶ月前、共にキョウトに逃げてきた者達はどうしているのだろうかと。

 今になってようやく、思い出すことが出来て、だから。

 

 

 1ヶ月も、ほったらかしにしてしまっていて。

 自分を、父でも兄でも誰でもなく、自分を。

 ――――枢木青鸞という人間を、信じてついてきてくれた人達を。

 

 

「青鸞、一つだけ皇の当主として問います」

「…………」

「もしかしたら、貴女が戦いを始めた理由はお父様だったのかもしれません。お兄様だったのかもしれません。でも、それをもって貴女は何をしたかったのですか?」

「え……?」

「父の遺志を継ぎ、兄への復讐を果たし、その後は? 日本の独立ですか? ではどうして、日本の独立を求めたのですか? 貴女にその夢を見せたのは、誰?」

 

 

 父の遺志を継ぐ、それは手段であって目的ではない。

 では、目的は?

 目的化していた手段、だがその先は?

 青鸞という一個人が見る、その先は?

 

 

 ―――青ちゃん。

 ―――青鸞。

 青鸞さま。

 

 

 四聖剣や、藤堂道場の、ナリタの皆が見ていた夢を。

 

 

 ―――青鸞さま!

 青鸞さま、青鸞さま。

 枢木首相の子供……。

 

 

 ナリタの子供達、ゲットーの人達、日本人……。

 そう、日本人だ。

 ただ、日本人の皆と同じ夢が見たかった。

 父の、借り物の理想だけで戦ってきたわけでは……なかった、だって。

 

 

「この人達のために、この人達を守りたい……ううん、この人達と」

 

 

 一緒に。

 

 

「日本人が、日本人として生きられる、そんな世界に行きたい、から……だから」

 

 

 父の遺志、だけではなく、自分の意思として。

 日本の独立を求める。

 だから、ブリタニアと。

 

 

「……戦う」

 

 

 神楽耶の端正な顔に、微笑みが戻った。

 

 

「軍事力では、勝てないでしょう」

「うん」

「エリア11の統治軍を退けても、より強大な本国軍が控えているでしょう」

「そうだね」

「それでも、戦うと?」

「勝てないかもしれない、敵わないかもしれない、どうしようもないかもしれない」

 

 

 でも。

 

 

「――――抵抗は、出来る」

 

 

 認めず、引かず、媚びず、ただただ抵抗し続けることは出来る。

 権利がある。

 その権利だけは、誰にも否定できない、否定などさせない、だから。

 

 

 だから青鸞は、顔を上げた。

 神楽耶の顔を真っ直ぐに見て、笑みさえ浮かべて見せた。

 何故なら彼女の胸に、再び火が灯ったから。

 儚く小さい、でも確かな物がそこにある。

 そう、今こそ青鸞は抵抗の意思を固めた、これこそ、今の彼女こそが―――。

 

 

 ―――抵抗の、青鸞だ。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

 神楽耶は袂から取り出したものを、そっと青鸞の手に握らせた。

 月姫の起動キーだ、濃紺で細いキーホルダーのようにも見える。

 その形を掌に感じながら顔を上げると、青鸞を迎えたのは神楽耶の笑顔だった。

 

 

「――――良かった」

「え?」

「私の大好きな青鸞の顔」

 

 

 柔和に微笑む神楽耶の姿に、青鸞もようやく笑みを浮かべることが出来た。

 月姫のキーを握り締めたまま、全身の力を抜くように大きく息を吐きながらの笑み。

 そこには、「枢木」も「青鸞」も無い。

 ただ昔馴染みの少女を前にする、1人の女の子がいた。

 

 

「ありがとう……ボクも、神楽耶のことが大好きだよ」

「……嬉しい、まぁ、私と青鸞の「好き」の意味はたぶん違うでしょうけど……」

「え?」

「ううん、何でも無いです。それより青鸞、今度は私の話を聞いてほしいんですけど……」

 

 

 儚げに笑って、今度は神楽耶の方が青鸞に背中を向けた。

 平安貴族が着るような衣装の裾を翻して、そして彼女は別の話をした。

 それは先程までの話とはまるで関係の無い話で、それでいて僅かに関係のある話のようにも思える。

 つまり、現在エリア11で急速に勢いを得ている組織――――……。

 

 

「私は、ゼロの妻になろうと思います」

 

 

 黒の騎士団のトップ、仮面の男ゼロ。

 その妻の座に、自分が座ると宣言したのだ。

 正直、青鸞には彼女が何を言っているのかわからなかった。

 キョウトの家々で最も高い家柄の当主が、一テロ組織のトップの妻になる。

 

 

 通常、あり得ることでは無い。

 キョウトの女はキョウトの男に嫁ぐのが基本だ、キョウトの血を残すことが最優先の役目。

 歴史上キョウト以外の男に嫁いだ事例もあるが、それでもあり得ない。

 だから青鸞は、神楽耶の意図がわからなかった。

 

 

「今後、あの組織は急速に伸びてくるでしょう。日本解放戦線が大幅に後退した今、他に目ぼしい候補はいない……桐原公も何故か妙にあの組織、黒の騎士団に肩入れしているようですし」

「でも、だからって……」

「ブリタニアにはスザクがいます」

 

 

 言い募ろうとした青鸞、だが神楽耶は話を続けた。

 

 

「となれば、ブリタニアか日本か。いずれが勝ってもキョウト本家の血が残るようにするには……」

 

 

 ブリタニア、そして日本。

 どちらの側にも若いキョウトの血を入れる、そうすることで血が絶えるのを防ぐ。

 過去、幾度と無くそうやってキョウトの血を連綿と受け継いできたのである。

 全ては、キョウトの血を残すために。

 

 

「ゼロはなかなか面白い方ですし……それに私の眼から見ても、ブリタニアを倒そうと言う気概が行動に出ている組織は黒の騎士団だけのように見えますし」

「で、でも、それなら」

 

 

 僅かの逡巡の後、青鸞は神楽耶の背に向けて言った。

 

 

「それなら、ボクでも良いじゃないか。いや、むしろボクの方が都合が良いはず。ボクはナリタでブリタニアに顔を知られたし、元々反体制派の人間だ。なら神楽耶はそのままキョウトに残って、どっちに転んでも良いように……」

 

 

 正直、ゼロと言う男に愛情など覚えていない。

 だがキョウトの女として育った以上、自由恋愛などに期待はしていない。

 だから、神楽耶が望まない結婚をするくらいならと思った。

 

 

 神楽耶の表情は、背中を向けているために見えない。

 何か、もっと別のことを言わなければならない、青鸞はそんな焦りにも似た感情を胸に抱いた。

 それはもしかしたら、先程まで神楽耶が青鸞に抱いていた気持ちなのかもしれない。

 

 

「……嫌です」

「でも」

「嫌」

 

 

 神楽耶は頑なだった、青鸞に対して明確な拒否を向けてくる。

 理由を問おうとする一刹那、その瞬間。

 

 

「神楽耶」

「私が」

 

 

 不意に、神楽耶が振り向いた。

 彼女の目の端に透明な雫があって、青鸞は思わず息を吸った。

 そして息を吸って薄く開いた、その唇に。

 

 

 ――――ちゅっ。

 

 

 瞳を、大きく見開く。

 唇に押し当てられた柔らかな温もりに、青鸞は息を止めた。

 小さな動きに合わせて薄く動く唇、行為に対する自覚と共に熱を持つ頬、首に回された細い腕。

 ほんの数秒間の接触が、まるで世界を止めたかのような錯覚を覚えた。

 それは青鸞にとって……初めての、感触だった。

 

 

「……私が」

 

 

 ゆっくりと離された唇、青鸞の視界一杯に神楽耶の顔があった。

 瞳に湛えた涙も、長い睫も、薄く朱色に染まった頬と白い肌も、整った目鼻立ちも……全部が、目の前にあって。

 それはあまりにも綺麗で、青鸞は唇を僅かに震わせるだけで何も言えなかった。

 

 

「……私が殿方だったら、貴女をお嫁さんに出来たのに」

 

 

 首に回されていた腕が解かれて、青鸞は2歩を下がった。

 感触を確かめるように指先で自分に唇に触れて、しかし目は神楽耶を見つめ続けていた。

 神楽耶の濡れた瞳が細められて、涙の雫を頬に流しつつ笑みの形に歪んだ。

 

 

 ――――私が、男の人だったら。

 貴女をお嫁さんにして、守ってあげられたかもしれないのに。

 そう言って、神楽耶は青鸞に背を向けた。

 そのまま何も言わずに歩き出す、今度は止まる気配も無い。

 

 

「あ……あ、ぅ……」

 

 

 1歩を前に進めて、手を伸ばして……でも、何も掴まないままに掌を閉じる。

 どうすれば良いのかわからなくて、遠ざかる神楽耶の背中を見ることしか出来ない。

 正直、混乱していた。

 神楽耶はどういうつもりで、いやどういうつもりも何もそう言うつもりなのだろうが。

 

 

 思えば幼い頃から、妙にスキンシップが多かったりしたが、他に同年代の友人が少なかったせいか特に変だとは思わなくて、いや今はそんなことより。

 何か、言わなくては。

 何か、何でも良い、応えられないけど、きっと「好き」の意味が違うけど、だけど。

 このまま別れてはいけない、そう頭の中で誰かが叫んでいて、だから。

 

 

「か……」

 

 

 だから。

 

 

「神楽耶!」

 

 

 その場から動かず、だけど声をかけた。

 神楽耶の足が、止まる。

 だけど、振り向いてはくれなかった。

 気のせいでなければ、その肩が小さく震えているようにも見えた。

 

 

「神楽耶……あの」

 

 

 応えられない、けれど。

 「好き」の意味が違う、けれど。

 でも、それでも……。

 

 

「――――嬉しい」

 

 

 それでも、嫌いにだけはなれないから。

 

 

「ありがとう」

 

 

 青鸞は、そう言った。

 それ以上は、何も言えなかった。

 神楽耶は何も答えなかった、むしろ歩を早めてその場から去ろうとした。

 だが、去り際に一言だけ。

 

 

「……さようなら、セイラン」

 

 

 小さな声が、青鸞の耳に届いた。

 青鸞もまた、小さな声で囁いた。

 

 

「……さようなら、カグヤ」

 

 

 そうして、その夜は終わった。

 月姫(カグヤ)と言う機械人形が静かに見守る前で、この日、2人の少女が別れた。

 7年前、幼い頃、共に日本を取り戻すことを決めた2人が今、別れた。

 現実には、何度でも会えるのだろうが……だが何か別の意味で、2人は別れた。

 

 

 この別離が今後、どういう結末をもたらすのかはまだ誰にもわからない。

 世界にも、国にも、人にも。

 どんな存在にも……わからないのだった。

 だが、時間は動く。

 結果を急かすように時間は動く、そうして動き続けて――――何かが。

 

 

 何かが、生まれるのだろうか。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

 ――――ナリタ攻防戦から2ヶ月後、皇暦2017年8月。

 この頃になると、エリア11もそれなりに静けさを取り戻していた。

 ブリタニア軍の再編作業も目処が立ち、また反ブリタニア勢力も日本解放戦線本体の喪失の衝撃から、新興勢力である黒の騎士団を中心として立ち直りつつあった。

 

 

 それ故にブリタニア帝国第3皇女にしてエリア11副総督、ユーフェミア・リ・ブリタニアの仕事は増えていた。

 理由は、軍事的・武断的な政策が一段落したためである。

 元々彼女は、そのためにエリア11に来たようなものだからだ。

 

 

「それでは、(わたくし)はこれで……皆さんの勇気と献身に、政庁を代表して改めて御礼を申し上げます。どうか今は身体を労わり、しかる後、再び帝国と臣民のために剣となり盾となってくださいますよう、期待します」

「「「イエス・ユア・ハイネス!」」」

 

 

 そんなユーフェミアの今日の仕事は、戦病兵が入院している軍病院への慰問だった。

 ヤマナシの風光明媚な土地を買い上げて建てられた病院は、風景の良さと清潔さでもって傷ついた兵を癒すための場だった。

 そこに今は、穏やかな美しさを持つ皇女がいる。

 

 

 形だけでは無い穏やかさと優しさを持つユーフェミアの存在は、傷ついた兵達を確かに癒した。

 実際、彼女に敬礼する戦病兵達――立てる者は立って、立てない者もベッドの上で半身を起こして――の顔には笑顔がある。

 そんな兵士達に見送られて、ユーフェミアは専用車に乗り、その場を去った。

 前後をSPが乗り込む車両に挟まれて、交通規制の敷かれた道を進む。

 

 

「……ふぅ」

「お疲れ様です、ユーフェミア様」

「いえ……あの、ああいう感じで、その……良かったのでしょうか?」

「は? ああ、はい、非常に素晴らしいご訪問だったと、そう思います」

「そう、ですか……」

 

 

 にこやかなSP兼秘書の女性の声にも、何故かユーフェミアの表情は晴れなかった。

 疲労は、確かにある。

 特にこの1ヶ月ほどはエリア11の各所を訪問し続けていて、トーキョー租界にいることの方が少なかった。

 

 

 理由は単純で、総督が行うべき儀礼的な式典・行事などの公務が増えているからだ。

 ただ総督のコーネリアは軍の再編やエリア11の政治体制の改革に忙しく、また軍事的なイメージが強すぎるため、真逆のイメージを持たれているユーフェミアが名代として公務を行っているのだ。

 それ自体はユーフェミアの望んだことで、疲労を言い訳に暗い顔をする理由にはならない。

 

 

(……心にも無いことを言って、兵士の皆さんの気分を害さなかったかどうか……)

 

 

 その点、お付きのSPなどに聞いても意味が無い、彼女らがユーフェミアを非難するはずが無いからだ。

 それにユーフェミアには労わりの気持ちは確かにある、問題は……傷が癒えた後、再び帝国のために戦えと言った言葉の方だ。

 帝国皇女としては当然の言葉だが……個人としては、もう二度と戦って傷ついてほしくなかった。

 

 

 戦いなんてやめて、どこか平穏な場所で穏やかに過ごしてほしいと思った。

 それはブリタニア人だけに留まらない、日本人……イレヴンの人々の対しても。

 ブリタニア人とナンバーズを区別するのはブリタニアの国是だが、その国是こそがいらぬ争いを増やしているのではないかとユーフェミアは思う。

 戦いを呼び、傷つけ合わせ、哀しみを増やしているのではないかと思う。

 

 

(誰も戦わずに、傷つかずにすむ世界があれば……)

 

 

 帝国皇女として、口には出せない考えだ。

 きっと、誰にも理解されない考え。

 ……いや、もしかしたらと思う少年が1人だけいたか。

 

 

『自分は、こうなるのを見たくなくて軍人になったはずなのに――』

 

 

 数ヶ月前、政庁を抜け出した自分をシンジュクに案内してくれた少年。

 2ヶ月前、ナリタで姉を助けてくれた少年。

 直感に近い、だが彼ならばもしかして……と、思いもするが。

 だが彼はナンバーズ、ユーフェミア自身がどう思っても、周囲は彼を認めないだろう……。

 

 

「ユーフェミア様?」

「……あ、ごめんなさい。何ですか?」

「はい、この後のスケジュールなのですが……」

「……どうか」

 

 

 したのですか、とユーフェミアが言葉を続ける前に、車体が揺れた。

 ユーフェミアに話をしていたSPの女性が目を見開いて固まったので声をかけようとしたのだが、山肌に築かれた幹線道路が、小さな爆発の衝撃に揺れたのだ。

 そしてその爆発は、その道路の上で起こった物だった。

 

 

 進行方向右側、SPの女性の視線の先にユーフェミアも視線を向ける。

 まず見えたのは桜色の閃光、次いで車の前を遮るように爆発で崩された土砂や岩が車道を塞いだ。

 規模自体は大したことが無く、ユーフェミアの車の前を走っていた護衛の車も車体の前半分が土砂に押されてガードレールに衝突しただけで済んだ。

 

 

「――――きゃあっ!?」

 

 

 ユーフェミアの車も急ブレーキを踏み、車体を横にしつつ停止した。

 交通規制が敷かれている以上彼女達の一行以外は誰も通らない、だから犠牲も出ない。

 それだけが救いではあるが、だからと言って彼女達が救われることと同義では無かった。

 

 

「ユーフェミア様!!」

「皇女殿下をお守りしろ、周囲を警戒!」

「パターンB、駐屯地に救援を要請しろ!」

 

 

 後ろの車両がそこへ追いつき停車すると、中から黒服の男達が銃を手に飛び出してきた。

 ユーフェミアを守るべくユーフェミアの車を囲み、通信で救援を呼ぼうとする。

 本来なら副総督の移動にはナイトメアの護衛もつくのだが、民間道路であるし、何より地域のイレヴンの人々を怯えさせたくないと言うユーフェミアの意向でついていない。

 

 

 その時、SPの男達の頭上を1本のアンカーが通り過ぎた。

 それは山肌に突き刺さると急速に巻き戻り、ガードレールの下から4メートル大の機械人形を引き上げてきた。

 

 

「な……ナイトメア!?」

「だ、だがあんな形のナイトメアは見たことが……うわぁっ!?」

 

 

 さらに、SPが全員降りた後ろの車両、そこに上から何かが落ちてきた。

 ナイトメアである。

 ただ今しがた彼らが言ったように、それらは彼らブリタニア人が始めて見る形状をしていた。

 

 

 車の上に落ちてきたのは藍に深緑のカラーリングがされた、両肩に種類の違う火砲をマウントした機体。

 もう一つは青色の機体、こちらはさらに独特の形状をしている。

 どこか屈んでいるように見える胴体、無骨な長い腕、安定感のある短い脚部。

 

 

『はいはい、武器捨ててよ~』

 

 

 車の上のナイトメアから間延びした男の声が響き、両肩の大砲を突きつけながら武装解除を迫る。

 ナイトメアに拳銃では叶わない、男達は口惜しそうな顔で次々に銃をその場に捨てていった。

 

 

「……ッ!」

「ユーフェミア様!?」

 

 

 その様子を見ていたユーフェミアは、SPの女性が止めるのも聞かずに外へ飛び出した。

 どの道、このタイミングで襲ってくるのなら自分のことを知っているのだろう。

 先程までの思考のせいか、テロと言う手段に訴える相手に何か言いたくて、彼女は外へ出たのだ。

 迂闊と言えば迂闊だが、車に残っていても仕方ないのも確かだ。

 

 

「何者ですか! 私はユーフェミア・リ・ブリタニア――――その者達に指一本触れてはなりません!」

 

 

 自分より部下を優先する姿勢は称賛すべきかもしれないが、この場ではあまり意味が無い。

 しかし道路上を吹く風に長い桃色の髪を靡かせて立つその姿は、彼女が少なくとも臆病者と呼ばれるような人種では無いことを証明してもいた。

 そして、まさかその姿勢に感銘を受けたわけでは無いだろうが……。

 

 

「……!」

 

 

 ユーフェミアを含め、全員が息を呑む。

 ブリタニア製とデザインの違う濃紺のナイトメア、背部のコックピットブロックが開いたのである。

 サザーランドなどとは違い、シートでは無く天井盤がスライドするように設計されているらしい。

 

 

「貴女は……」

 

 

 直接は会ったことが無い、ただブリタニア政庁・軍の中で第一級指定犯罪者として手配されている顔だった。

 流石に全部は覚えているわけでは無いが、その相手のことはいろいろな理由で覚えていた。

 何しろ、最近の話でもあるから。

 

 

 コックピット・シートの上に立つ、濃紺のパイロットスーツに身を包んだ少女。

 左手の手首に巻いているのは白いハンカチだろうか、それに手配画像のものとは髪型が違う。

 手配画像では長い黒髪をポニーテールにしていたが、髪を切ったのか今はボブカット……いや、おかっぱと言った方が正しいのだろうか?

 前髪を額に垂らし切り下げ、後ろ髪を襟首辺りで真っ直ぐに切り揃えた少女らしい髪型。

 

 

枢木青鸞(クルルギセイラン)……!」

 

 

 ブリタニアの皇女に名を呼ばれて、少女……青鸞は、月姫のコックピットブロックから地上の皇女を見下ろした。

 皇女とテロリスト、ユーフェミアと青鸞。

 ある1人の少年を中間に持つ2人の少女が、初めて出会った瞬間だった。




採用ナイトメア:
「月姫」:車椅子ニートさま(ハーメルン)。
(ファクトスフィア・全身・各関節部のカラーリング:mahoyoさま(ハーメルン))。
(デュアルアイ:RYUZENさま(ハーメルン))。
「黎明」:グニルさま(小説家になろう)。
ありがとうございます。

採用衣装:
ATSWさま(小説家になろう)提供:「白い生地に青い羽根が舞い散らされた模様の浴衣」。
ありがとうございます。


 最後までお読み頂きありがとうございます、竜華零です。
 皆様のご協力を受けて、良い青鸞の専用機が出来ました。
 今後どんどん武装やら設定やら能力やらを出していく予定ですので、よろしくお願いいたします。
 基本はロスカラの月下先行試作型、でもいろいろなアイデアを受けて名前を中心に専用機化、まるで違う機体に進化してしまいました。
 これも、読者の皆様の青鸞への愛情の賜物、ありがとうございます。
 というわけで、次回予告。


『ユーフェミア・リ・ブリタニア、帝国第3皇女にして副総督。

 本人は至って温厚な性格だって聞いてる、皇族らしくないって有名。

 でも、悪いけど利用させて貰う。

 ブリタニア相手に、人質がどこまで通用するかはわからないけれど。

 私達の抵抗を始めるための、第一歩として』


 ――――STAGE15:「妹 を 巡って」

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