婚約騎士の英雄譚   作:雄也

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第1話

1.

ステラと恋人になって、いや、婚約者になってもう一年が経とうとしている。

一昨年、全理事長が黒鉄家からの圧力で授業の出席に能力値の項目を設け、その能力値が足りなかった僕は授業を受けさせてもらえなかったから、まだ二年生だ。

そして去年、元KOKのA級リーグ世界ランキング3位だった新宮寺選手が、今の破軍学園の理事長に就任。新宮寺理事長、というわけだ。

前理事長側の教師陣を一掃したせいで人不足、だから西京先生とか雇ってるんだって。

そんな中、ステラと出会った。

最初の出会いは酷かったけど、僕たちは恋人に、そして校内選抜戦最終戦の時、婚約者になった。

さて、では。

やはり考えている間には終わらなかった目の前の問題を片付けるとしよう。

 

「ステラさん、こんなところに埃がたまっていてよ?」

「ちょっと珠雫!そんなところまで掃除できないわよ!」

「大切な二人のベッドですよ?何でできないんですか?脚が太くて入らないんですか?」

「太くないわよっ!っていうかよくそんな1年前のこと覚えてるわね」

「私は胸ばっかり栄養がいってるどこぞのお姫様と違ってちゃんと脳に栄養がいってますから」

「あらあら、女としての魅力とプライドを水に流した珠雫と違って私は磨き続けてるんだから当然よ」

「よく言ってくれますね、この乳製品」

「黙りなさい、このまな板付き台所」

「うぐぐ〜〜」

「がるる〜〜」

目の前で睨み合う2人。

婚約者のステラと、僕の妹黒鉄珠雫。

本当はお互い認めてるんだけど、どっちも素直じゃないからまだ仲悪そうにしてるんだよね……。

はぁ、やっぱり仲裁するしか……

「こうなったら勝負よ!」

……………え?

「一体、何をするというんですか?」

「どっちが先にイッキを捕まえられるか鬼ごっこよ!」

「なるほど、それはフェアですね」

「でも、デバイスを使った殺傷系の伐刀絶技は禁止ね。鬼ごっこがイッキの死因なんて可哀想だもの」

……あの〜、お二人さん?

「分かりました。でも、魔力放出でのスピードアップや魔力による身体能力強化はしても問題ないですよね?」

「それは有りにしましょ」

「じゃあ、今からお兄様に5分だけ逃げてもらって、その後ここから始めましょう」

「分かったわ、それでいいわよ。制限時間は今から1時間ね」

「捕まえられら、何か一つお願いを聞いてもらうというのはどうですか?」

「それいいわね!じゃあ、決まりね」

何やら2人で意気投合したのは、とても微笑ましいし、嬉しいんだけど、でも……

『というわけで「イッキ」「お兄様」』

僕、勝手に巻き込まれてるだけなんだけど、ちょっと話をー

『Let's Go Ahead!!』

取り敢えず、人生過去最速で部屋を飛び出した。

 

2.

学生寮を出て、取り敢えず逃げる場所を探してる間に気づいた。

(これ、2人がどっちか出てきたら僕の負けだよね?)

珠雫はBランク、ステラはAランクと、魔力の保有量が半端ではない。

ステラは前に言っていたが、珠雫も恐らくずっと強化できるだろう。

てことは……

(隠れるしかない!)

そして自分の学生寮の反対側にあるもう一つの学生寮を目指して走った。

「アリス、今大丈夫かい?」

珠雫とアリスの部屋の前に着くなりすぐに声をかける。

間も無くしてアリスが出てきた。

「どうしたの一輝?そんな汗だくで」

顔を見るなりすぐに心配してくれたが、今はその時間すら惜しい。

「匿ってほしい!」

「……何となく分かったわ。確かに好きにされるっていうのは嫌よね」

「凄いね、よく珠雫を分かってるね…」

「そりゃあルームメイトやってもう一年だもの。取り敢えず入って」

「うん、お邪魔します」

珠雫とアリスの部屋は綺麗に整理されててとても綺麗だった。

女の子らしさが所々に出ている。

本当はもっと寛ぎたいけど、そんなことしてると絶対捕まる。

「じゃあ、一輝を影の中に入れればいいのね?」

「お願いできるかな?ごめんね…こんな事に巻き込んじゃって」

本当、アリスは友人が困ってくれる時には助けてくれるいい友達だ。

「別にいいわよ、なんか面白いもの」

……前言撤回しようかな。

デバイスを手に顕現させて伐刀絶技、つまり影の中に逃げ込む寸前ー

「イッキ‼︎‼︎‼︎」

ステラがドアを破いた、否、熱によって燃やした。

「一輝!」

「うん!」

アリスに促され、すぐに影の中へと逃げ込む。

「あぁ〜!卑怯よ」

後ろでそんな声が聞こえた気がしなくもないが取り敢えず逃げる事に成功した。

よし、取り敢えずはこれで大丈夫だろう。

「アリス、外まで行けるかい?なるべく人目につかないところに…」

「あらやだ、一輝、もうその気に………」

「なってないよ!」

全く、ある意味2人より恐ろしい人間である。

アリスが影の中を進んでいくのをついて行く。

すると、アリスが気を利かせて僕にシャドーバインドを掛ける。

「こうすれば一輝は歩かなくても大丈夫よ」

一瞬、断ろうかと迷ったが、僕の今後の逃走を気遣ってくれたのだろう。その気遣いに感謝して甘える事にした。

 

 

続く。

 

 

 

 


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