ー昭和七年ー
ーサクラ次元ー由里の世界ー
ー大帝国劇場ー
ー客席ー
誰もいない閑散とした空気の中、俺は客席にて縛られていた。
ここは大帝国劇場の客席、普段は家族連れで来る客が舞台を見てハラハラドキドキ楽しく暮らす場所だが、今はそんな場所には似合わない静かさがあった…
そして今、俺はモニターを見ていた。
ブーン!
目の前にあるモニターには映像が流されていた斜大が乗る闘武と織姫さんが乗る光武二式が中庭から出て、衣装室に向かおうとしていた。
『あれ…おかしい?』俺は不思議に思っていた。あんな巨大な霊子甲冑が二機で強行突入したらこんな場所すぐさま崩壊して、俺は今頃瓦礫の下敷きになって死んでいるはずだ。なんでこんな簡単なことに気づかなかったのだろうか?なんでこんな簡単なことを斜大と織姫さんは気付けていないのかを?
『あっれー杉野君、楽しそうじゃないねーほらほら、しっかり笑顔で見てやれよー。』男が大声で笑いながら俺のもとに寄ってきた。鷹岡だ。俺の様子を嘲笑うかのように側に寄り付きていきた。
『鷹岡…お前、何を知っているんだ。』俺は冷静に鷹岡に質問した。
『あいつらがここに入ってきた時になーあいつらや花組の連中には小さくなる光線を浴びてもらった。丁度人間と同じサイズくらいになるようにな。』鷹岡は笑いながら俺の足を踏みつけていた。俺の怒りを煽るかの如く。
『な、なんでそんなことを?』
『それはな、戦いにはリングが必要じゃないか。奴等にとっての戦いのリングが大帝国劇場なんだよ。そしてここを戦いのリングにしたのには理由があってな。』
『理由…花組の皆さんがよく知っている場所だからか!』
『正解だ!さすがは杉野君だあ。ここは花組全員が会ったことのある場所、戦いの舞台にはふさわしい。だからこそ、織姫のやつにとっては嫌なんだ。皆で仲良く暮らした場所で、その仲良くした花組の皆を殺す……戦うしかない。斜大を守るために互いの欲望のために…うわーっはっはっ!楽しいよなあ、杉野君。』
『殺せんせーはな、世の中にはどうしようもないことが教えてもらった…それに対して文句を言っても時間の無駄だということも…だから、こんなことが起こっても仕方なかったんだと思う。死んだ人がいるのもどうしようもないと思う。だけど、まだこの二人なら、この親子ならなんとか出来ると信じている。』
『そうか…だが、どのみち次で終わりだ…奴等は勝てん…支配人室にはな…花組が6人いるんだよ。既に怪獣と融合してな。』
『な、なんだと!なんでお前らは怪獣と人間を融合出来るんだ!』
『まあ、ある一人の男からもらったカードのおかげかな。』
『一人の男…誰だそいつは!』俺は声を張り上げて聞いた。
『しかも、怪獣と人間が融合出来たのはそのカードだけのおかげじゃない…俺が脱獄した時にあるデータを盗んでいたんだよ。』
『あるデータ?』
『そう!柳沢という男の研究データをな、奴のデータには触手を無理矢理人間に移植する技術があった。それを応用し、怪獣と人間を融合させたんだよ!そうしたほうがお客様達も喜んでくれるしよお。』
『ま、まさか…柳沢のデータをも!それにお客様達って…』杉野は驚いていた!柳沢!その男はオーク巨樹の細胞を参考にし、触手を作り、殺せんせーを人間から触手使いの黄色の姿にした張本人であった。
『そう…クリエ家さ、クリエ家の当主はこういうのが好きでな、人間の欲望がぶつかり合い、仲良くしていた奴等が殺し合うのが好きでな、それにモニターに映し出されている映像はな、様々な世界に配信されていてなあ。』
『そ、そんな…』
柳沢…あいつの呪いはあいつの恨みはまだ続くのか
そうして俺は楽しみながら殺し合いを見て、クリエ家や他のお客様から金を貰い、何も出来ない杉野君、君の顔を拝めるんだからなあ。最高だぜ!それに、どちらが勝っても俺は得するのさ、なあ…現クリエ家当主メル・レゾンさん。』鷹岡の後ろから一人の女性が歩いてきた。