ー昭和七年ー
ーサクラ次元ー由里の世界ー
ー由里の家ー
涙を流しながら過去を語った織姫の身体は震えていた。その時のことを語り、恐怖が蘇ったのであろう。
『牙王…そんなやつが……でも、何でそのことと、大神さんが関係しているんですか?』杉野は落ち着いて織姫に聞いた。
『私達が牙王と戦っていた日………その時、中尉さーんは帝都にいたんでーす…霊子甲冑も持っていまーした。』
『大神さんが…あなたたちを見捨てた……』
『そう…その日は斜大が産まれた日なんでーす、奥さんと一緒に巴里から帝都に帰ってきていたんでーす。斜大を産むためにそしてその日以降中尉さーんと中尉さーんの光武二式は行方不明になったんでーす……』
『自分達より斜大を選んだ大神さんを恨んだわけか……子供が産まれるから仕方ないとはいえないなあ……』
『牙王はあの後すぐいなくなりましたが!私達は死にかけたんでーす!助けにぐらい……来たっていいじゃないで……す…か』織姫は疼くまり、涙を流した。
『織姫さん…だからといって、斜大を殺していいわけがない!人の命を勝手に奪っていいわけがない!人間みんな一緒懸命生きてるんですよ!斜大だって本当は父親がいなくて寂しいんですよ!隠しているだけで、会いたいんですよ!』杉野は織姫の耳元で叫んだ。
『そんなこと…一番私が理解しているんでーす!私は斜大と同じく、パパが子供のときからいなくて、寂しかったんでーす。』織姫の父親は織姫が子供の時に離れて暮らしていて、織姫は寂しかった。斜大と状況は同じであった。
杉野は織姫の言葉を聞き、織姫の顔を見た『あなたも同じ思いをしたんですね…だったら!だったら!一番斜大の気持ち理解できるだろうが‼︎一番わかってあげられるだろうが!そのくせ、鷹岡と一緒になって、由里さんを…母親を奪いやがって!お前が直接やってないとはいえなあ!知ってて、止めなかったんだろ!なんで、止めなかった!』
『頭ではわかっているんでーす…でも!でも!私には由里さんの気持ちがわからないんでーす!斜大は由里さんの子供じゃないのにも、由里さんも中尉さーんを愛していました、愛していた中尉さーんが、別の女と作った子供を育てるなんて、私には……私達には出来なかったんでーす!そして、だんだん恨めしくなった…中尉さーんが行方不明である以上この恨みを晴らすために……由里さんと斜大を……』
『ふざけんな!あんた、人の命を何だと思っていやがる!世の中には大切な人を殺さなければならない人だっているんだよ!あんたには人を殺さないという選択が、人を殺そうとしている人を止める選択が出来るのに!あんたみたいに自分勝手な欲望に従って!俺はあんたみたいなやつ許さない!』
『じゃあ…あなたは…あなたは自分の好きな女性が別の男と子供を作ったら許せるんでーすか…』
『そ…それは……』(神崎さんか俺以外の男と子供を作ったら……)杉野は好きな人神崎のことを考えた。
『そして愛しあう二人が作った子供を育てろといわれたら育てられるんでーすか!』
『だ、だからと言って…人殺しは!』
『話を変えないでくださーい!答えてくださーい!さあ!育てられるんでーすか!育てられないんでーすか!』織姫は杉野に迫る、
(神崎が俺より別の男を選び…その間に出来た子供を俺は育てられるのか……俺は…)杉野は黙りこんでしまった……