九人のフランさんが群がるところへ向かおうとするが、脚がふらつく。…流石に六体複製はやり過ぎたかな?けれど、そこまで意識は潰れてる感じはない。慣れてきたからかも。
しかし、ふらつく足取りを抑えることが出来ない。咄嗟に細めの竹を複製して地面に立てるが、竹を握る力があまりにも弱々しい。手が表面を滑り、そのまま膝が折れる。ペタンと座ってしまったが、そのまま起き上がるのも辛い。
「だっ、大丈夫?」
「…ちょっと六体持って来てくれます?」
「う、うん!」
駆け寄ってくれたフランさんにそう頼むと、わたしの周りにフランさんが群がることに。…これは何と言うか、ちょっと怖い。その中の六体の
「…よし、大分楽になった…」
「…少し休む?」
「んー、多分大丈夫ですよ」
「本当に大丈夫?妖力とか…」
そう言われて、わたしを流れる妖力を探る。…んー、意外と減ってるなー。このままでも大丈夫そうだけれど、倒れてから叱られるのはちょっと嫌だな。
胸元に光る緋々色金を一つ摘まみ、回収する。一瞬で充填される妖力に僅かな違和感を感じながら、呼吸と妖力を整える。
「…ええ、大丈夫ですよ。…大丈夫」
「あんまり大丈夫に見えないんだけど…」
「それでも先を急がないといけない理由がありますからね。急がないと知らない間に月の異変が終わっちゃう」
「それは…、うーん…」
本調子とは言い難いが、普通に活動出来る程度にはなったので、竹を支えに立ちあがる。そのまま杖代わりにしながらてゐの元まで歩き、竹を回収しつつ彼女の頬を軽く叩く。…んー、起きないか。
このまま放っておくのはよくなさそうだ。いくら迷いの竹林と言えども、人喰い妖怪くらいいるだろう。ここに来る可能性なんて極僅かだろうけれど、倒れたまま放っておけばその可能性は零ではない。しかし、安全そうな場所に持っていけば、ほぼ零にまで行くだろう。どうせ病院はすぐ近く。持って行っても構わないだろう。
倒れているてゐを持ち上げ、ゆっくりと背負う。う、意外と重い…。意識がないと重く感じるって聞いたけれど、これほどまでとは…。てゐの重さがどのくらいか分からないけれど、小さいから軽いと思ってたよ。
「…よっと。さて、行きましょう」
「あれ?連れてくの?」
「ええ。放っておくのはちょっと悪いし、ちょっと病院まで」
「病院?どこに?」
「そこに」
そういえば、永遠亭が病院だって言ってなかったような…?まあ、もうどうでもいいことか。
「…って、そうじゃなくて…。どうして連れてくの?」
「さっき言いましたけど、放っておくのも――」
「違う。不意打ちの先制攻撃かますくらいには何かあったんでしょ?」
「ま、わたしはそう思ってますけどね」
あちらはうどんげさんを嵌めるつもりで、わたしを嵌めるつもりはなかったかもしれない。しかし、そうだとしても、わたしがああなったのは変わりない事実だ。
「それでも、もう済んだことですよ。一発ブチかますって決めて、それは既に終わった。それに、スペルカード戦で追撃しちゃいましたし」
「…やっぱり、おねーさんは優しいね」
「そう思ってくれるなら、わたしは嬉しいですよ。ま、寝かせれそうな場所を見つけて、そこに置くくらいしかしませんけど」
そういうのは医者に任せておけばいい。わたしが出来る処置なんてたかが知れてるし。
そう思いながら、永遠亭に足を運ぼうとすると、横から何かが飛んできた。…真っ白な妖力弾。被弾させるつもりではなく、足止めさせるためだろう軌道。誰だろ?
「…リ、リーダーをどうするつもりだッ!」
「あ、さっきの兎さん」
少し声と脚が震えている兎さんが、こちらに歩きながら言い放った。
きっと、妖怪兎一同の代表として出てきたのだろう。後ろには、十数人の妖怪兎が隠れているのが見えたし。しかし、わたしは知らない振りをしてあげる。強襲されても対応出来るように策は考えておくけれど。
「それより、危ないじゃないですか。これに当たったら無事じゃ済まないかもしれないですよ?」
「そっ、それよりもアンタにリーダーが持ってかれる方がよっぽど危ないよッ!」
酷いなぁ。わたしは良かれと思ってやってるんだけど。…ま、伝わらないのはしょうがない。こんな見た目だし、怪しまれるのはしょうがない。
こういう時には、正直に言えばいいか。悪いことじゃないし、嘘を吐く理由もない。
「…もしかして、聞いてなかったんですか?」
「聞いてなかったよ!だから訊いてるんでしょ!」
「病院に連れてくんですよ。当たり前でしょう?」
「びょっ、病院…?」
「そう。ついでに知り合いの遊びに混ざるだけですよ。これも聞いたでしょう?」
ま、知り合いの遊びと言っても、一方的な押し掛けだろう。それに混ざれるかどうかも分からないけれど。
「そうだ。何処か寝かせられる場所って知らない?さっさと置いときたいから」
「わ、私がやるよ!だからさっさと返して!」
「え?そうですか?いやー、わたし助かっちゃうなー。じゃあ、よろしくお願いしますね」
背負っているてゐを投げ渡す。慌てて受け取る姿勢を取り、尻餅をつきながらも無事に受け取ったのを確認してから、永遠亭へと向かう。
「ねえ、よかったの?」
「…?どういうことです?」
「任せてもよかったの?」
「いいに決まってるじゃないですか。わたしは病院に連れて行きたかった。それをあちらがやってくれる。それだけ」
「だけどさ、おねーさんの善意を無視したんだよ?」
「善意は伝えるものじゃないですから。伝わらなくてもしょうがない。それに、わたしに任せたくないって思ってたんだから、それも含めてしょうがない」
「…ちょっと酷くない?」
「それもしょうがない。自分が思ったとおりに相手が感じるわけじゃないんだから。さ、時間取られちゃいましたから、ちょっと急ぎましょう?」
◆
再び永遠亭に侵入する。さっきは碌に見なかったが、改めて奥を見ると、何処までも続く廊下が見えた。奥の壁は見えず、闇に包まれている。それに、何処となく捻じれているように見える。不思議な感じ。
「やっぱりおかしなことになってるんですね…」
「おねーさん、分かる?」
「永遠亭の間取りなら分かりますよ。目的地に着くとは限らないですが」
しかし、わたしとフランさんを除いて、八人の形を確認出来た。
一人目はうどんげさん。この先を真っ直ぐ進めれば鉢合わせ出来るだろう。
二人目は咲夜さん。ナイフを構えていた。三人目は霊夢さん。球体の何かと針を持っていた。四人目と五人目は魔理沙さんとアリスさん。二人で一緒に箒に跨ろうとしていた。六人目は妖夢さん。居合いの構えを取っていた。七人目は永琳さん。静かに構えていた。この六人は同じ部屋にいるようで、全員が永琳さんのほうを向いている。これから予想すると、永琳さんが黒幕の可能性が著しく高い。んー、結構いい医者さんだったと思ったんだけどなー。どうしてだろ?
八人目はやたら髪の長い人。かなり遠くのほうの部屋でお行儀よく座っている。…誰だろ?
「もう始まってるみたいですね。今から行って間に合うかな?」
「えー、始まっちゃってるのー?」
「ええ。急げば飛び入り参加くらい出来るかも」
「んー、どうしよう…」
きっと、レミリアさんに見つかるのと黒幕と対峙するのとで、どちらがいいかを考えているのだろう。わたしとしてはどちらでもいい。
「この先に一人、妖怪兎がいますから、それに勝てば多分その先に行けますよ?そうすれば、晴れて黒幕とご対面。遅刻してますけどね」
「…よし!行こう!お姉様なんて知ったことか!」
「なら、急ぎましょう?道案内は任せてくださいな」
壁に手を当て、妖力を流し続ける。数分ごとになんてやってられない。一瞬ごとにやっていこう。そうすれば、進行方向に異常が出てもすぐに分かる。妖力の消費はより激しくなるけれど、緋々色金の複製はまだ二つある。よっぽどのことがなければ問題ない。
このまま歩けば、一分もしないうちにうどんげさんに会うことが出来るはずだ。