東方幻影人   作:藍薔薇

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第88話

九人のフランさんが群がるところへ向かおうとするが、脚がふらつく。…流石に六体複製はやり過ぎたかな?けれど、そこまで意識は潰れてる感じはない。慣れてきたからかも。

しかし、ふらつく足取りを抑えることが出来ない。咄嗟に細めの竹を複製して地面に立てるが、竹を握る力があまりにも弱々しい。手が表面を滑り、そのまま膝が折れる。ペタンと座ってしまったが、そのまま起き上がるのも辛い。

 

「だっ、大丈夫?」

「…ちょっと六体持って来てくれます?」

「う、うん!」

 

駆け寄ってくれたフランさんにそう頼むと、わたしの周りにフランさんが群がることに。…これは何と言うか、ちょっと怖い。その中の六体の複製(にんぎょう)に震える手を伸ばし、回収する。

 

「…よし、大分楽になった…」

「…少し休む?」

「んー、多分大丈夫ですよ」

「本当に大丈夫?妖力とか…」

 

そう言われて、わたしを流れる妖力を探る。…んー、意外と減ってるなー。このままでも大丈夫そうだけれど、倒れてから叱られるのはちょっと嫌だな。

胸元に光る緋々色金を一つ摘まみ、回収する。一瞬で充填される妖力に僅かな違和感を感じながら、呼吸と妖力を整える。

 

「…ええ、大丈夫ですよ。…大丈夫」

「あんまり大丈夫に見えないんだけど…」

「それでも先を急がないといけない理由がありますからね。急がないと知らない間に月の異変が終わっちゃう」

「それは…、うーん…」

 

本調子とは言い難いが、普通に活動出来る程度にはなったので、竹を支えに立ちあがる。そのまま杖代わりにしながらてゐの元まで歩き、竹を回収しつつ彼女の頬を軽く叩く。…んー、起きないか。

このまま放っておくのはよくなさそうだ。いくら迷いの竹林と言えども、人喰い妖怪くらいいるだろう。ここに来る可能性なんて極僅かだろうけれど、倒れたまま放っておけばその可能性は零ではない。しかし、安全そうな場所に持っていけば、ほぼ零にまで行くだろう。どうせ病院はすぐ近く。持って行っても構わないだろう。

倒れているてゐを持ち上げ、ゆっくりと背負う。う、意外と重い…。意識がないと重く感じるって聞いたけれど、これほどまでとは…。てゐの重さがどのくらいか分からないけれど、小さいから軽いと思ってたよ。

 

「…よっと。さて、行きましょう」

「あれ?連れてくの?」

「ええ。放っておくのはちょっと悪いし、ちょっと病院まで」

「病院?どこに?」

「そこに」

 

そういえば、永遠亭が病院だって言ってなかったような…?まあ、もうどうでもいいことか。

 

「…って、そうじゃなくて…。どうして連れてくの?」

「さっき言いましたけど、放っておくのも――」

「違う。不意打ちの先制攻撃かますくらいには何かあったんでしょ?」

「ま、わたしはそう思ってますけどね」

 

あちらはうどんげさんを嵌めるつもりで、わたしを嵌めるつもりはなかったかもしれない。しかし、そうだとしても、わたしがああなったのは変わりない事実だ。

 

「それでも、もう済んだことですよ。一発ブチかますって決めて、それは既に終わった。それに、スペルカード戦で追撃しちゃいましたし」

「…やっぱり、おねーさんは優しいね」

「そう思ってくれるなら、わたしは嬉しいですよ。ま、寝かせれそうな場所を見つけて、そこに置くくらいしかしませんけど」

 

そういうのは医者に任せておけばいい。わたしが出来る処置なんてたかが知れてるし。

そう思いながら、永遠亭に足を運ぼうとすると、横から何かが飛んできた。…真っ白な妖力弾。被弾させるつもりではなく、足止めさせるためだろう軌道。誰だろ?

 

「…リ、リーダーをどうするつもりだッ!」

「あ、さっきの兎さん」

 

少し声と脚が震えている兎さんが、こちらに歩きながら言い放った。

きっと、妖怪兎一同の代表として出てきたのだろう。後ろには、十数人の妖怪兎が隠れているのが見えたし。しかし、わたしは知らない振りをしてあげる。強襲されても対応出来るように策は考えておくけれど。

 

「それより、危ないじゃないですか。これに当たったら無事じゃ済まないかもしれないですよ?」

「そっ、それよりもアンタにリーダーが持ってかれる方がよっぽど危ないよッ!」

 

酷いなぁ。わたしは良かれと思ってやってるんだけど。…ま、伝わらないのはしょうがない。こんな見た目だし、怪しまれるのはしょうがない。

こういう時には、正直に言えばいいか。悪いことじゃないし、嘘を吐く理由もない。

 

「…もしかして、聞いてなかったんですか?」

「聞いてなかったよ!だから訊いてるんでしょ!」

「病院に連れてくんですよ。当たり前でしょう?」

「びょっ、病院…?」

「そう。ついでに知り合いの遊びに混ざるだけですよ。これも聞いたでしょう?」

 

ま、知り合いの遊びと言っても、一方的な押し掛けだろう。それに混ざれるかどうかも分からないけれど。

 

「そうだ。何処か寝かせられる場所って知らない?さっさと置いときたいから」

「わ、私がやるよ!だからさっさと返して!」

「え?そうですか?いやー、わたし助かっちゃうなー。じゃあ、よろしくお願いしますね」

 

背負っているてゐを投げ渡す。慌てて受け取る姿勢を取り、尻餅をつきながらも無事に受け取ったのを確認してから、永遠亭へと向かう。

 

「ねえ、よかったの?」

「…?どういうことです?」

「任せてもよかったの?」

「いいに決まってるじゃないですか。わたしは病院に連れて行きたかった。それをあちらがやってくれる。それだけ」

「だけどさ、おねーさんの善意を無視したんだよ?」

「善意は伝えるものじゃないですから。伝わらなくてもしょうがない。それに、わたしに任せたくないって思ってたんだから、それも含めてしょうがない」

「…ちょっと酷くない?」

「それもしょうがない。自分が思ったとおりに相手が感じるわけじゃないんだから。さ、時間取られちゃいましたから、ちょっと急ぎましょう?」

 

 

 

 

 

 

再び永遠亭に侵入する。さっきは碌に見なかったが、改めて奥を見ると、何処までも続く廊下が見えた。奥の壁は見えず、闇に包まれている。それに、何処となく捻じれているように見える。不思議な感じ。

 

「やっぱりおかしなことになってるんですね…」

「おねーさん、分かる?」

「永遠亭の間取りなら分かりますよ。目的地に着くとは限らないですが」

 

しかし、わたしとフランさんを除いて、八人の形を確認出来た。

一人目はうどんげさん。この先を真っ直ぐ進めれば鉢合わせ出来るだろう。

二人目は咲夜さん。ナイフを構えていた。三人目は霊夢さん。球体の何かと針を持っていた。四人目と五人目は魔理沙さんとアリスさん。二人で一緒に箒に跨ろうとしていた。六人目は妖夢さん。居合いの構えを取っていた。七人目は永琳さん。静かに構えていた。この六人は同じ部屋にいるようで、全員が永琳さんのほうを向いている。これから予想すると、永琳さんが黒幕の可能性が著しく高い。んー、結構いい医者さんだったと思ったんだけどなー。どうしてだろ?

八人目はやたら髪の長い人。かなり遠くのほうの部屋でお行儀よく座っている。…誰だろ?

 

「もう始まってるみたいですね。今から行って間に合うかな?」

「えー、始まっちゃってるのー?」

「ええ。急げば飛び入り参加くらい出来るかも」

「んー、どうしよう…」

 

きっと、レミリアさんに見つかるのと黒幕と対峙するのとで、どちらがいいかを考えているのだろう。わたしとしてはどちらでもいい。

 

「この先に一人、妖怪兎がいますから、それに勝てば多分その先に行けますよ?そうすれば、晴れて黒幕とご対面。遅刻してますけどね」

「…よし!行こう!お姉様なんて知ったことか!」

「なら、急ぎましょう?道案内は任せてくださいな」

 

壁に手を当て、妖力を流し続ける。数分ごとになんてやってられない。一瞬ごとにやっていこう。そうすれば、進行方向に異常が出てもすぐに分かる。妖力の消費はより激しくなるけれど、緋々色金の複製はまだ二つある。よっぽどのことがなければ問題ない。

このまま歩けば、一分もしないうちにうどんげさんに会うことが出来るはずだ。

 


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