東方幻影人   作:藍薔薇

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第87話

『幻』展開。最速の直進弾用、阻害弾用、追尾弾用を十五個ずつ。最大数の四十五個。

 

「スペルカード、いくつ使います?」

「じゃあ二枚!」

「分かりました。それではよろしくお願いしますね」

 

わたしが使えるのは一枚。三分の一と言われると少ない気もするが、一枚あれば十分だ。速攻も回避も自由だ。

『幻』の放つ弾幕もフランさんの弾けるような弾幕も軽やかに跳ねながら避けていくのを見ていると、ちょっと不安になってくる。

 

「そんな弾幕生っちょろいわね!脱兎『フラスターエスケープ』!」

 

宣言と共に放たれたのは、曲線を描くように連なった妖力弾。何とか避けたところ、地面にぶつかって反射するのを目撃した。…うわぁ、面倒だな…。

 

「こんな開けたところで跳ね返る弾幕?おねーさんがいるならまだしも…」

「曲がった軌道…。単純だけど厄介だなー…」

「曲がると何が嫌なの?」

「上空の彼方へ飛んでいくことがないから無駄撃ちになりにくいし、そもそも曲がる弾幕は避けるの苦手…」

 

周りを軽く見て安全だと確認し、指先から相手の弾幕を打ち消すつもりで貫通特化の妖力弾を放つ。しかし、真っ直ぐではないので消し飛ばせる数も少ない。真っ直ぐ連なってくれれば一気に消せて楽なのに…。

打ち消すついででてゐに向けて妖力弾を放つが、ヒョイッと避けられる。…わたしは普通の弾幕で被弾させることが出来ないのかもしれない。

 

「ま、反射するっていうのはそれはそれで考え物だけどね」

 

打ち消すことを諦めて、石ころを一つ複製して発射。そして弾幕の軌道に重ねる。…んー、やっぱり反射するか。似たようなスペルカードを知っていると対処も楽だ。連なっているから石ころなんて小さなものだと返し切れないときもあるけど。

その代わりに、片手で振り回せる程度の竹を一本複製し、それを盾にする。うん、なかなか便利だ。…背中には弱いけれどね。そのときはそのときだ。

 

「ぐぅ…、そんな対処があったのか…?」

「子供のチャンバラで棒を振り回すんですから、弾幕ごっこで振り回してもいいでしょ?」

 

スペルカードの終了と同時に竹を思い切り投げつける。危なげなく避けられてしまったが、この程度は避けられてもしょうがないか。

 

「ま、その程度なら無理矢理当てますけれどね」

「へ?――うぎゃぁ!」

 

てゐが避けて、視界の外に出た瞬間に竹に含まれる過剰妖力を全て炸裂弾にし、炸裂させる。過剰妖力量が少ないので、あまり大きく弾けなかったが、竹自体それなりの大きさがある。それがよかったのか、背中に思い切り被弾した。わたしの言えたことではないが、後方注意だよ。

 

「ねえ、おねーさん」

「…何です?」

「…チャンバラ、してもいいかな?」

 

ウズウズと何か期待したような目でわたしを見られても困る。貴女のチャンバラは遊びじゃ済まされないんだよ…。

 

「…兎の丸焼きは美味しかったですけれど、妖怪兎の丸焼きってどうなんでしょうね」

「どうだろ?やってみる?やってみよ?ねえいいでしょ?」

「駄目。代わりにこれでもどうぞ…」

 

かなり大きめの竹を一本複製し、投げ渡す。重さは釣り合わないが、長さなら倍以上はある。

 

「…軽過ぎ」

「知ってた」

「でも、これでもいいかな?…うん、振りやすい」

 

素振りする音が数回響く。…とてもじゃないけれど、竹から出ている音だとは思いたくないほど鋭い。それを聞いたてゐの顔が真っ青になっているのがよく分かった。夜中だというのに。

 

「じゃあ、一緒に遊ぼう?禁弾『スターボウブレイク』!」

「ちょっと!冗談じゃないわよ!死ぬ!死んじゃうでしょコレ!?」

 

騒ぎながらも上手く距離を取りながら避けているのが見える。上空から降り注ぐ弾幕も美しいが、この状況だと見ている余裕なんてないだろう。

見ている余裕のあるわたしはというと、近づくと邪魔にしかならなさそうなので、一定距離離れて『幻』任せの弾幕を放ちながら、回避しそうな場所を予測して逃げ道をなくすように妖力弾を放つ。

 

「ウサっ!危ない!」

「えい!やぁ!とぅ!アハハ!」

「…右側が開けてるから埋めよっと」

 

振り回し続けること数十回。ついにフランさんの振り回す竹はてゐの頭を捕えた。

 

「ギャッ!痛ーッ!」

「やった!」

 

…当たる寸前に逆向きに力を掛けて衝撃を軽減させていたのが見えた。うん、傷は浅いね。よかったよかった。

しかし、てゐの反応がおかしい。

 

「あー!痛い痛い痛い!」

「え?だ、大丈夫…?」

 

スペルカード戦中だというのにお互いに弾幕を収め、頭を押さえているてゐを心配して近寄るフランさんだが、わたしにはどうにも胡散臭く見えた。

…衝撃は殆ど殺された竹の一撃でここまで痛がるだろうか?そう疑いながら頭を強く抑え、軽く下がった頭を見ていると、髪の毛の隙間から瞳が見えた。強い光を持った瞳。…まずい、来る!

 

「今だ!兎符『因幡の――」

 

咄嗟にフランさんの肩を掴み、わたし達の体を貫くように竹を複製する。

 

「うぐっ!」

「きゃっ!」

「――素兎』!ってあれ!?」

 

わたし達は竹に弾かれた。ただし、端から端へ、てゐから一瞬で離れるように。

石ころ半分が樹に埋まるように複製しても弾かれるなら、わたしの体が全部埋まらなくても弾かれるはずだ。弾かれる方向を自らの意思で選択出来るなら、棒状の物の端から端まで弾かれることも出来るはずだ。

その結果がこれだ。上手くいってよかった…。しかし、体が一瞬で移動するのはかなり辛い。ちょっと頭がチカチカする。

相当の速度で放たれた弾幕。あの至近距離なら被弾してしまっていただろう。しかし、この距離なら問題なく避けられる。

 

「むぅ、もしかして私騙された?」

「本当に痛かったのかもしれませんが、近づいてもらおうとは思ってたでしょうねー」

 

弾幕を避けながらの会話。会話に集中すると避けれなくなってしまうので、あまり考えずに返答してしまうわたしを許してほしい。

 

「んー、勝負だから仕方ないかな?『相手を油断させるのは有効だ』っておねーさんも言ってたし…」

「油断は隙を生みますからね。…って、これも前に言いましたか」

「けどねー、やっぱり騙すのはあんまり好きじゃないかなー…」

「飽くまで戦略の一つとして言った覚えがありますけれど、好き嫌いはしょうがないですね…」

 

次々と絶え間なく放たれる弾幕を順調に避け切り、二枚目のスペルカードが終わった。

 

「ああもうっ!さっきから竹がポンポン出てきて何なの!?竹の妖怪だったの!?」

「石ころも複製したんですが…」

「知らないよそんなの!?ていうか見えないよ!」

 

いや、そんなこと言われましても。竹がそこら中にあるからなんです。いつでも視界に入るから咄嗟の複製に使いやすいんです。

 

「これが私の最後のスペルカードよ!『エンシェントデューパー』!」

 

両腕を大きく広げ、その手からはレーザーが放たれる。そしてそのままわたし達を挟もうと閉じてきた。が、完全に閉じることはなく、二人には狭いが隙間がある。

真正面にいるてゐに『幻』を弾幕を放つが、ほとんど動かずに避けられてしまう。それより、避けようと動くたびに左右のレーザーも揺れて危なっかしい。

 

「最後ですか…。ふぅーん…」

「最後まで見るの?」

「いいえ」

「じゃあ禁忌『フォーオブアカインド』」

「複製『多重存在』」

 

四人に分かれたフランさんのうち、偽物の三人がてゐへ突撃する。そして、わたしはその三人の複製(にんぎょう)を二体ずつ複製した。六体同時に操作することで、わたしの意識が潰れるような違和感が生じるが、どうせ三十秒間だけだ。何とかなるだろう。

合計九人。さあ、どう対処する?

 

「え、嘘でしょう…?」

 

そうつぶやいたてゐの声色は震えていた。何やら青色の弾幕を放ったような気がするが、九人のフランさんで見えない。そして、すぐに左右のレーザーも途絶えた。

 

「…ふぅ。流石に九人は無理だったみたいですね…」

「みたいだねー」

 


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