「…ん?」
「何かあったの?」
「もう一つ交戦跡地らしき場所が。さっきとは違った感じ。とりあえず目立つのは、竹林の一部が吹っ飛んでる。地面もそこら中が抉れてる。針が数本、いや十本はある。んー、多分霊夢さんと魔理沙さんだろうなぁ…」
「どこら辺にあるの?」
「ちょっと道から外れてますね…。どうします?」
「どうせだし、行ってみる」
「なら、こっちですね。竹林を突っ切るのはあんまりよくないんですけれど…」
二人で竹林の中を通り、今までより短い間隔で周辺を調べる。…よし、このまま行けば無事到着出来そう。
「…あったあった」
「うわぁ、さっきより酷い…」
地面もかなり酷いことになっているのは知っていたが、実際見てみるとやはり違う。そこら中が爆発でもあったかのように吹き飛び、抉れてしまっている。そしてその跡地には焦げた布切れと綿が多数。…もしかして、アリスさんまで来てたの?
それと、いくつかの竹にはお札が乱雑に張り付いている。霊夢さんが交戦した証拠と見ていいだろう。
「ここ、多分マスタースパークによって竹林が吹き飛んでるんですよねー…」
かなりの幅で真っ直ぐと竹林が無くなっているから、恐らくそうだろう。
「おねーさん、これ見て」
「ん?…ここだけやたらと綺麗ですね…」
フランさんが立っているところを見てみると、四角に切り取ったかのように綺麗な地面があった。そこだけは抉れた形跡もなく、弾痕一つない。
「結界でもしてたのかしら…」
「まぁ、霊夢さんなら出来るでしょうね」
やってたし。あの透明な壁が結界のはずだ。いやー、あれは痛かった。…まあ、自業自得だけど。
「一応、針も持って行ってあげましょうか。使い捨てかもしれませんけど」
「触って大丈夫なの?」
「…刺さらなければ大丈夫じゃないですか?多分、きっと、恐らく…」
「本当に大丈夫…?」
呆れられたような言葉を背中で受けながら針を出来るだけ探し出し、その全てを抜く。…その数なんと三十一本。…やっぱり使い捨てだったかも。先端が曲がってるのもあったし。…引っこ抜いたときに曲がったのかもしれないけど。
「さて、フランさん。どうです?他に何かありますか?」
「んー、何だかここだけごみが多いのが気になる。布切れとか」
「わたしの知っている人に、そうなってしまうスペルカードを持っている人がいますから、その人も来てたんでしょうね…。アリス・マーガトロイド、っていう人なんですが、知ってます?」
「名前だけ。パチュリーが二、三回言ってた。新米の魔法使いだとかなんとか」
「多分その人」
確か、魔操「リターンイナニメトネス」と言っていただろうか?人形が自爆特攻するスペルカードなので、布切れや綿が落ちているのも不思議ではない。
「まあ、魔理沙さんはそのアリスさんと一緒に活動してるんでしょうね。一対二になりそうだけど、どうなんだろ」
「霊夢も誰かと一緒にいたかもしれないよ?」
「誰が一緒にいるんだか…」
悪いけれど全く思い付かない。一緒に活動しそうな人とスペルカード戦をしているのだから、しょうがないじゃないか。
「ごみ以外には特に気になったところはないかな。おねーさん、行こう?」
「そうですか。じゃあ行きましょうか。方角は……こっちですね」
◆
迷いの竹林に入ってから、既に一時間は経過しているだろう。永遠亭の形もほぼ把握でき、距離も分かった。しかし、未だに永遠亭に到着出来ない。思わず歯噛みしてしまう。
「…ちょっと甘く見過ぎてたかも」
「どうしたの、おねーさん…。何か嫌なこと、あった?」
「さっき方角を調べたら、真っ直ぐ進んでいると思ってたのにほぼ直角に曲がってた」
「ち、直角ぅ!?」
「…ここまで曲がるのは初めてですね…。もうちょっと間隔短くした方がいいかも」
結界か幻術か、はたまたそれ以外か。それらの何かがあるのはもう明らかだろう。そして、それを突破出来るかは分からない。…もしかしたら、抜けることが出来ないかもしれない。
しかし、周辺には霊夢さん達の形は浮かばない。ずっと宙に浮いているだけかもしれないが、全員が浮いているときを何度も引き続けているとは考えにくい。
「下手したら真逆に進んでた、なんてこともあり得そうですね…。どうしましょう…」
「…じゃあ、どうしよう…?」
「霊夢さん達はこの迷いの竹林には見当たらない。多分、既に永遠亭に到着している。なら、何処かに穴があるはずなんですよ。この状況を突破出来る、穴が」
「もうお姉様も抜けてるの?」
「多分。すみませんね、追い抜くのはちょっと無理そうです」
「一時間遅れてたからしょうがないって言われればそうかもしれないんだけど…。やっぱり悔しいなぁー」
「…まあ、ここまで来て引き返すつもりはないんでしょう?」
「当然!」
なら、この状況を打破する何かを考えなくてはいけない。…いや、もう思い付いている。しかし、あまり気が進まない。けれど、やらないと進まないかもしれない。なら、やろう。やってもやらなくても変わらないなら、やった方がいい。
「フランさん」
「何?おねーさん」
「ちょっと道変えますね」
「え、何か思い付いたの?」
「相手を騙すようで非常に申し訳ないですが…」
「この際それでもいいよ!」
フランさんからの了解を得たと判断し、竹林を突き抜ける。そして、真っ直ぐと目的の場所へ向かう。
「…いた」
歩くこと一分。息を殺し、足音を殺し、気配を殺す。そして、目的の妖怪兎を視界に収めた。そして、隣にいるフランさんに出来るだけ小さな声で耳元に囁く。
「すみませんが、姿を見せないように注意してください。わたしが呼ぶまで。出来ますか?」
「…うん、出来る」
今着ている服を全て回収し、妖怪兎が来ている服を複製する。自分の体に合わせて複製することで、着替える手間を省く。…よし、これでいい。
竹林からわざとらしく音を立てながら飛び出し、目の前の妖怪兎に突撃する。
「大変大変大変ー!大変だよー!」
「ど、どうしたの!?」
わたしの大声に反応し、こちらを向いた妖怪兎に対して次に言う言葉を考える。…てゐとうどんげさんと永琳さん、誰がいいかな?まあ、姿が似てるし、てゐでいいや。
「てゐからの伝言だよー!今すぐに永遠亭に集まってだってー!向こうが凄いことになってるみたいなのー!」
「…永遠亭から来たんじゃないの?大分方向が違うけど」
「他の子にも伝えて回ってたのー!貴女が最後のほう!」
「ふぅーん…。もう一度聞くけど、誰からの伝言だって?」
「聞いてなかったのー!?てゐだよー、てーゐー!」
その言葉を聞いた妖怪兎の表情が、少し険しくなった。…まずい、何か言葉に齟齬があったか…?
「誰だか知らないけれど、私達に化けて出てくるなんて失敗だったね!私達はリーダーのことを呼び捨てになんかしない!」
わたしに向かってビシッと勢い良く人差し指を突き付けながらそう言った妖怪兎は、何処か成し遂げたような表情を浮かべた。
「………そう来たか」
「永遠亭に行って何をするつもりかは知らないけれど、残念だったね!」
「そうですか、バレたならしょうがない」
さっきまでの演技を放り投げ、普段の感じに戻る。しかし、これで永遠亭に行けなくなったというわけではない。別の方法は、既に考えた。
「なら、スペルカード戦をしましょう。わたし達は貴女にスペルカード戦を申し込む。被弾はお互い二回、スペルカードも二枚でいいでしょう?わたし達が勝ったら永遠亭まで案内してもらいましょう」
「化けて出てくるようなやつに負けるもんか!いいよ!やってやろうじゃないの!私が勝ったら大人しく回れ右して帰るんだね!」
「そうですか、じゃあ始めましょう。行きますよ、フランさん」
「待ってたよー!さ、始めよう!」
いきなり竹林の陰から飛び出してきたフランさんに驚いた妖怪兎が、わたし達に抗議してきた。
「ちょっと!二人いるなんて卑怯でしょ!」
「何言ってるんですか?最初からわたし達って言ったじゃないですか。それはすなわち複数人いるってこと。貴女はそれを了承したじゃないですか。覚えてますよ?『いいよ!やってやろうじゃないの!』」
「くぅ…!し、仕方ない!隠れてたやつもどうせ大したことない!二人まとめてかかってきなさい!」
ま、わたしはともかく、フランさんが負けるとは思えない。フランさんの邪魔にならないように立ち回るとしますか。
それにしても、大したことない呼ばわりされたフランさんの表情があまりよくない。…怪我、させないよね?