東方幻影人   作:藍薔薇

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第63話

翌日。朝起きて、調理らしくない調理すらも面倒になったから、外に出て果実でも採ろうかと思い、外に出たら人影が二つ。

 

「どうしたんです?」

「おはよっ!おねーさん!」

「妹様の御付きですよ」

 

過剰なまでに大きな日傘を持っているフランさんと咲夜さんが何故かわたしの家にやってきた。仮にも吸血鬼なんだから太陽の出ているときに外出は、と思ったけれど、あれだけ大きい日傘があれば大丈夫かな。

フランさんからは破壊衝動はあまり見えない。咲夜さんからは主への忠誠心を感じる。きっと、フランさんが大丈夫だとレミリアさんが判断したから、咲夜さんに頼んでここに来たのだろう。

 

「妹様が貴女の家に行きたい、と申しておりましたので」

「…そういえば連れてきたことなかったですね」

「うーん、家小さいね」

「一人暮らしだとこれだけあれば十分なんですよ」

 

突然の来客だけど、とりあえず中に招待する。椅子はあるし、大丈夫でしょ。

中に入って早速フランさんが棚に置かれている瓶に興味を持ったようで、そのうちのいくつかを持ってきた。

 

「何これ?」

「朝顔の抽出液ですね」

「これは?」

「鈴蘭の抽出液ですね」

「こっちは?」

「水仙の抽出液ですね」

「…毒性植物の抽出液ばかりですね」

「昨日は魔理沙さんが紫陽花のを持っていきましたよ」

「それも毒…」

 

戻しておいてね、とフランさんに伝えてから咲夜さんに宴会に参加することになったことを伝える。

 

「貴女が来るのは初めてですね」

「初めて?何回かやってるの?」

「ええ。これで三回目。しかも三日置きに」

 

三日置きに行われる宴会。その三回目になってわたしが呼ばれた理由って何だろう…。

 

「えー、おねーさん誘われたのー?いいなー」

「そう言えばフランさんって参加予定者に入ってませんでしたね」

「お姉様がねー、フランは駄目ってうるさいのよー。あっちでいいお酒カッパカッパ飲みまくってるんだろうなー」

 

流石にそんなことないと思うけれど…。フランさんを参加させない理由は思い当たるけれど、わたしが開いた花見に連れて行ったんだからいいじゃん、と考えてしまう。

…おっと、お腹空いてきた。そういえば朝食まだ食べてないんだった。

家を空けるわけにもいかないので、乾燥茸を水にブチ込みながら咲夜さんに一つ質問をする。

 

「何でわたし誘われたんでしょうね?」

「それならパチュリー様が何故居ないのか、とお酒に酔いながら言っていたからではないかと…」

「………何してるんですかパチュリー…」

 

頼まれたとは聞いていたけれど、もうちょっと別の理由であってほしかった…。

火打石を打ち、火花を複製して枯れ枝を燃やす。燃え始めた火の粉も複製していき、一気に薪まで燃やす。

 

「二人はもう何か食べて来たんですか?」

「うん!フレンチ何とか!」

「…フレンチトースト?」

「多分それ」

 

咲夜さんも同意を示していたので、今日の紅魔館の朝食はフレンチトーストだったらしい。…きっと咲夜さんが作ったんだろう。

昨日捕獲したばかりの白蛇の肉を丸ごとお湯にブチ込む。戻した茸も一緒に。

…咲夜さんの目が痛い。

 

「ねえおねーさん」

「何でしょうフランさん」

「咲夜が怒ってるみたいなんだけど、どうして?」

「…あまりにも杜撰な調理を見て、じゃないですか?」

「分かっているなら正してください…」

「どうせわたししか食べませんし」

 

溜め息を一つ受け取りながら調味料を入れる。塩と砂糖と醤油でいいや。

とりあえず完成したスープを覘いたフランさんの感想をいただいた。

 

「…あんまり美味しくなさそう」

「でしょうね」

 

うん。自分でもそう思ってるから。

 

 

 

 

 

 

あんまり美味しくなかったスープモドキを飲み干し、外へ出た。

 

「…本当にやるんですか?」

「石ころだし、大丈夫大丈夫」

「頑張れおねーさん!」

 

咲夜さんの足元には石ころがちょっとした山になっている。対するわたしは『幻』を一個だけ出している。

 

「では、行きますよ?」

 

そう言い終わったと同時に現れた石ころ。わたしに向かって飛来してくるそれを『幻』で撃ち落とす。

次々現れる石ころ。その間隔はかなり速く、必死になって避け、ときに撃ち落とす。

 

「痛っ」

「えーとね、三十七個!さん、なな!」

「約九秒ですね」

「……駄目だなぁ」

 

石ころが当たった額を擦りながらさっきの動きを考える。…首だけ動かして避けようなんて考えなければよかった。

 

「次、やりますか?」

「ええ、よろしくお願いします」

「次は百個くらいいこう!ね!」

「…頑張ります」

 

さっきと同じ感覚で現れる石ころ達。さっきよりも小さめに避けることで『幻』を出来るだけ使用せずにしてみる。実践では大きく避けるよりも、出来るだけ小さく避けた方がいいことのほうが多いからね。

…これで四十。五十個投げたら緩急を付けるように頼んでいるから、もう少し避け続けれたらさらに避け辛くなる。

 

「…来た」

 

一個。そしてその後ろにさらにもう一個。先に来る方を避け、後ろのは『幻』で撃ち落とす。避けた先に来る石ころを無理矢理体の動きを止め、体を捻って避ける。…やっぱり避け辛いかな。

呼吸を止め、意識を集中させる。世界の流れが緩やかになっていく。わたしに向かって飛来してくる石ころの形までハッキリと見えるほどに。世界から音が消えていく。聞こえてくるのは、自分の心臓の音だけ。

右腕に当たりそうな石ころを、腕を少しだけ外側に動かし、脇腹との隙間を通らせる。左鎖骨の当たりに飛んでくる石ころを、僅かに膝を曲げることで避ける。右膝と胴体に飛来してくるのは、右膝のほうを撃ち落としながら片足を軸に咲夜さんに横を向けて避ける。

そして八秒。避けた数は四十七。…まずい、息を止めすぎた。苦しい。頭が痛い。視界がちらつく。体が動かしにくい。けれど、今息を吐いてもう一度吸うなんて余裕はない。

なら、その余裕を作ればいい。

 

「ハァッ――」

 

思い切り息を吐きながら、大きく右へ跳ぶ。わたしの歩幅四つ分くらいを目標に。着地する寸前に息を吐き切る。そして、着地してすぐにその空っぽになった肺を空気で満たす。急に膨らんだ肺にちょっとだけ痛みが走ったが気にしない。頭はまだ少し痛いし、視界が涙で少しぼやけてしまっているが、息苦しさは解消し、体も十分動く。

頬に当たる寸前の石ころを上半身を横にずらすようにして避け、そのまま勢いのまま左へ跳ぶ。着地点はちょうど咲夜さんの前の位置。左足を思い切り地面に叩きつけ、勢いを殺す。すぐに現れた石ころを今までと同じように避ける。

そして数秒後。『幻』から放たれた妖力弾が外れ、左肩に当たってしまった。…涙のせいにしておこう。

 

「おねーさん!百十八だよ!いち、いち、はち!」

「十八秒ジャスト。…飽くまで私が見た限りですが」

「ふぅ…。あー、よかった」

 

痛む頭を押さえながら木の幹に体を預ける。やたらうるさい心臓を落ち着かせるためにも、いつもと同じ調子で呼吸するよう心掛ける。

 

「複製なしって辛いですね…」

「貴女以外から見たらそれが普通なんですよ」

「分かってますよ。けど、使うのが普通のわたしから見たらやっぱり異常なんですよね」

 

料理するときに包丁がないような、杖を突こうとしたときに杖が折れそうに見えるような、そんな不安感。咲夜さんだったら、ナイフなしでスペルカード戦やって、というような感じだろうか。

 

「ねえ、次私も投げていい?」

「いいですよ。…力入れ過ぎないでくださいよ?」

「うんっ!」

 

その結果は六十二個、約七秒という散々なものだった。

 

 

 

 

 

 

「あ、もう夕方」

「妹様」

「うん、分かってる」

 

世界が茜色に染まっていくのを感じながら茸を拾っていたら、フランさんがわたしに近付いてきた。

 

「あのね、今日は凄く楽しかったよ!明日の宴会、私の分まで楽しんできてね!」

「…そうですね。楽しんできますよ。――両手を出して。渡したいものがあるんです」

 

大きく広げられたその手に今日拾ったもの――茸と果実と蛇――を乗せ、フランさんの服の一部、リボンに極僅かな過剰妖力を込めて手渡す。

 

「リボン…?」

「ええ。もし、これが消えたらわたしを探してくれると嬉しいです。…一方通行ですけどね」

「うん、探すよ。天空だろうと地中だろうと何処までも」

 

そう言いながら、襟元にリボンを巻いた。

 

「そのときは場所も教えてね?」

「…何とかなるはずです」

 

リボンを選んだのは帯状になっているから。実は過剰妖力はオマケなのだが、緊急用妖力回復になるかなと思う。

 

「それじゃあ、またね」

「ええ、またね」

 

二人が空高く舞い上がっていくのを見送り、その姿が見えなくなるまでわたしは手を振り続けた。

 


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