東方幻影人   作:藍薔薇

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第59話

「凄いよおねーさん!」

「フフ、そう言ってくれると嬉しくなっちゃいますね」

 

両腕を上げ、小躍りするフランさんの右腕にハイタッチを交わし、そのまま横に座る。

対戦相手の七人はというと、二つの喧嘩が始まっていた。リグルちゃんとチルノちゃんが口喧嘩。光の三妖精が殴り合い。ルーミアちゃんとミスティアちゃんはそんな喧嘩は全く気にせず反省会。…あ、大ちゃんが止めに行った。

 

「…?どうしたのおねーさん」

「あー、ちょっと疲れちゃってね」

「じゃあ何か持ってくるね!」

 

そう言ってすぐに飛び出してしまった。食料なんかもう残り少なかったけれど、食べ尽くされていないだろうか?

さて、わたしのちょっと反省会をしようかな。まず思いつくのはちょっと無茶しすぎたこと。「ブレイジングスター」は妖力の放出を魔理沙さんのものより抑えたのだが、やっぱり消費量が多い。わたしにとっては完全に魅せ技だ。

次に視界が悪い時の対処。音で判断出来ればいいのだけれど、対象から離れた場所で弾幕を放つことが出来る人がいたら見当違いな方向に放つことになってしまう。ということで、もっと別の方法で探知することが出来るようにならないといけないかも。

 

「おい」

「うひゃっ」

 

考えに耽っていたら、肩を叩かれた。

 

「大丈夫か?顔色悪いぞ?」

「大丈夫ですよ。妖力不足は慣れてますから」

「そこは慣れちゃいけないだろう?」

「そうですか?妖力なんて使えばすぐ無くなっちゃいますよ」

「…出来るだけ使わないようにするのが普通なんだがなあ」

「え、そうなんですか?」

 

うーむ、妖力の消費を抑える方法も考えないといけないかも。弾幕を張るだけならあんまり使ってる感じしないんだけど、複製とかマスタースパークなんかは消費していくのを感じる。複製の際の消費は回収さえ出来れば元通りだから、マスタースパークみたいな過剰妖力消費を抑える方法を考えるか?それとも、保有妖力量を増やす?…前者はまだしも、後者は無理があるか。

 

「ほれ、とりあえず水でも飲め」

「ありがとうございます…」

 

コップに注がれた透き通った水を一気飲み。冷たくて気持ちいい。

フー、と息を吐いていたら慧音の視点がわたしから別のところへ移った。

 

「うん?あの姉妹、なんか言い争いしてないか?」

「え?…どうしたんでしょう」

 

ちょっと耳を澄ませて、二人の会話を聞き取る。

 

「持っていってもいいでしょお姉様!」

「フッ…、奪えるものなら奪ってみなさい。出来るならね」

「いいわ!やってやろうじゃないの!もちろんスペルカード戦!」

「フラン、姉に勝る妹はいないのよ?」

「五百もあれば二つや三つくらい誤差よ誤差!」

 

…他のところから貰うことは駄目なのかな、と思って見渡すが、残り全てと言ってもいいくらいの食糧を持っているようだった。何でなのレミリアさん…。

 

「ちょっとまずくないか?」

「咲夜さん静観してるし大丈夫、かな?」

 

レミリアさんの横で微笑んでいるし。あ、こっち見て微笑んだ。非常に分かり辛いけれど、口を僅かに動かしてる。えーと『大丈夫ですよ』かな?

 

「お姉様!私が勝ったらそれ全部頂戴よね!」

「貴女が負けたら何が出るのかしら?」

「一週間お菓子抜きでいいわよ!」

「…え?本気で言ってるの?壁壊したりしない!?」

 

ちょっと待て。お菓子ないと壁壊してたの!?…今度から紅魔館行くときは何か甘いもの持って行った方がいいかな…。まあ、あったらでいいかなぁ。

 

「しないわよ!」

「そう?それなら…」

「さぁ!早く早く!」

「ちょ、待ちなさいフラン!」

 

どうやらフランさんとレミリアさんがスペルカード戦をするようです。…大丈夫かな?

 

「慧音」

「…?なんだ?」

「…ちょっと離れた方がいいかも」

「よし、あっちには私が伝えるからそっちを頼む」

 

慧音が言うそっちはあの八人がいる方だった。慧音と一旦別れて八人のところへ向かう。

 

「ちょっと皆ぁ!」

「どうしましたまどかさん?お暇なら喧嘩を止めてくれると助かるんですけど…」

「よし分かった。止めるからこれから始まるスペルカード戦から離れよう」

「…?」

 

大ちゃんはこれから始まるスペルカード戦がどれだけの規模になるか知らなそうである。首を傾げてるし。しかし、すぐにルーミアちゃんとミスティアさんのところへ行って一緒に離れてくれたので、よしとしよう。

とりあえず、殴り合いの喧嘩をしている光の三妖精から対処しよう。一気に接近し、その中心に桜の木を複製する。

 

「うわぁ!」

「きゃっ!」

「あうっ!」

 

三人が弾かれたことを確認してから即回収。そのまま三人の中心に立つ。

 

「はい喧嘩はあと!これから吸血鬼姉妹のスペルカード戦始まるから!」

「え…?本当に?」

「さぞかし美しいんでしょうねえ…」

「痛たた…吸血鬼姉妹の?」

「そう!ここかなり近いから巻き込まれるよ!」

 

多分。わたしがフランさんとするときは、フランさんが手加減することが多いので、そこまで広く移動することはない。しかし、手加減なしだとどうなるかなんてすぐ分かることだ。

 

「よし、逃げるよスター!ルナ!」

「え?離れて見ればいいんじゃない?」

「…私、見たいかな」

「なら大ちゃんのところ行って!あそこなら大丈夫だから!」

 

そう言うと三人は移動してくれたので、未だに口喧嘩を続けている二人の元へ行く。

 

「大体リグルはカエルに食われる虫なんか使っちゃって!」

「その私に負けるなんてチルノはカエル以下かー!?」

「なぁ!?アタイがカエル以下ぁ!?ふーん!カエルなんて簡単にカチンコチン――」

「はいそこまで」

 

二人の口を同時に塞ぐ。モガモガ言ってるけど気にしない。

 

「ここら辺は危ないからちょっと離れようね?」

 

二人は首を縦に振ったので、手を離す。そして、そのまま背中を押した。

 

 

 

 

 

 

…うわぁ、速ぁ…。

何あの速度。魔理沙さんの速度が遅く見えるんだけど。

 

「ねえまどかー、見えないんだけどー」

「すみませんが私も…」

「あはは…、これが吸血鬼ですか…」

 

規則性のない高速移動。言葉で表せば単純だけど、やってることが異常だ。霞むほどの速度ってどういう事よ?

 

「フラン!これに追いつけるかしら!?」

「…追いつく必要なんてない」

 

そうだよフランさん。手段は無限大だ。より速く動くことも一つの手段。けれど、それよりも単純な手段があって、貴女ならそれが出来るんだから。

 

「禁忌『カゴメカゴメ』」

「…!」

 

戦場は、立方体に区切られた。その中の一つにレミリアさんが収まり、停止する。

レミリアさんは今まで直角に方向転換していなかった。あれだけの速度なんだから、そんな芸当は無理があったんだろう。

 

「アハッ、捕まえた!」

「チィッ!」

 

この拘束を自ら崩すのがフランさんらしい。すぐに新しいのが現れるけれど。

…それにしても弾幕が濃いなぁ…。わたしとやってるときの五倍くらいはありそう。もしかしたら十倍いってるかもしれないけれど。

 

「――ッ!」

「一発当たりだね。あと二発」

 

うげ、腕吹っ飛んだ…。思わず右腕を掴んでしまう。

 

「幻香、右腕痛いの?私攻撃したときにでも痛めた?」

「…そういうわけじゃないんですよ」

 

腕吹き飛ぶのって痛いよね、うん。あれは思い出したくない痛みだよ…。

咲夜さん平然としてるけれど、いいの?ご主人様大怪我だよ?と思ったら、ぐちゅり、といった感じに腕が生えてきた。ちょっと気持ち悪い…。

 

「だぁー!許さないわよ!よくも私の腕を!アレすごく痛いんだから!」

「えー?知らないよお姉様。私の腕じゃないし」

「当然よ!あれは私以外の誰のでもないわ!」

 

そう言い放つと、再生した右腕が紅く輝き出す。

 

「紅符『スカーレットマイスタ』ァ!」

「アハッ!お姉様もしかして怒ってる?怒ってるの!?アレだけで!?」

「アレとは何だぁ!私の大事な右腕だぞ!」

「えー、お姉様も自分でアレって言ってたじゃん…」

 

うん。あれだけの弾幕、喋りながら避けてるあたりがね。やっぱり凄いなって思っちゃいますよ。格の違いってやつがよく分かる。わたしもいつかあんなこと出来るようになったらいいな…。何年かかるか知らないけれど。

 

「うわぁ…、真っ()()…」

「そろそろ夏ですけれど、あんな感じの火に飛んで行かないでくださいね?」

「行かないよっ!」

 

傍から見るだけならとても美しい弾幕。相手になって見ればとても残酷な弾幕。だって地面抉れてるし。

 

「そんな穴だらけの弾幕当たるわけないじゃん!」

「ふ、ふふ…、い、妹相手に本気を出す必要ないでしょう?」

「さっきまでキレてた人が言うと負け惜しみにしか聞こえなーい」

「何だとコラァア!」

 

レミリアさんご立腹のご様子で。さっきから口調が酷いことになってますよ…。

挑発されたからか、さらに量が増える。ついでに被弾した場所の被害も増える。さっきのよりも深く抉れております…。

 

「ッ!痛!」

「ハーッハッハ!どうよ!これが姉の実力!思い知ったか!」

「よーし、よーし。楽しくなってきた!」

 

被弾して吹き飛んだ左脚を即座に再生。本当に楽しそうだけど、わたしとのスペルカード戦じゃあ満足できないのかな、やっぱり。密度も薄いし、すぐ負けちゃうし。…ちょっと不安になってきた。

 

「禁忌『レーヴァテイン』!」

「ッ!神槍『スピア・ザ・グングニル』ッ!」

 

燃え盛る大剣と真紅の長槍がぶつかり合う。二人共避けるなんて考えてない辺り凄いと思う。全部空振りさせないで受け止めてるし。

 

「うぎぎ…!」

「ぐぬぬ…!」

 

二人の鍔迫り合いが始まり、膠着状態に陥った。…関係ないけれど鍔同士じゃないけれど鍔迫り合いでいいのかな?

二秒、三秒、四秒…、と押し合い続けている。ここで負けたら駄目だ。フランさんは勝ちたいと思っている。何か、わたしに出来ることは――、

 

「フランさんっ!」

「――!?」

「頑張って!レミリアさんなんかに負けないで!貴女なら出来る!そうでしょう!?」

「…うん!」

 

そう返したフランさんの両腕に力がこもる。僅かずつだが、押し始めている。

 

「なぁ!?つ、強っ…!」

「このまま…!」

 

ベキリ、と音が聞こえた気がした。

 

「せいっ!」

「ぐっ…!痛ったぁ!」

「今度は左腕だ!あと一発!」

「チィ!まさか競り負けるとは…!」

 

左腕を再生させながら後退するレミリアさんの顔はかなり焦っているように見える。

 

「ねえお姉様?姉に勝る妹は、何だっけ?」

「姉に勝る妹はいない!紅符『ブラッディマジックスクウェア』!」

「ならお姉様は何になるのかな!?禁忌『フォーオブアカインド』!」

 

二人とも最後のスペルカード。被弾もフランさんのほうが少ないし、僅かにフランさんのほうが遅かったから、時間が来てもフランさんが勝つ。レミリアさんもそれに気付いているはずだから、相当自信があるスペルカードに違いな――、

 

「ハァッ!」

「――え?」

 

瞬間、レミリアさんの頭頂部に踵落としが決まった。フランさんの分身の一人によって。

最後にしては呆気ない幕切れであった。

 

 

 

 

 

 

かなりの量の食糧と数本の洋酒を抱えて飛んできたフランさんに、最後の行動について聞いてみた。

 

「最後の?おねーさんがやってたのを真似したの!」

「あー、やっぱりそうなんですか…」

 

無茶をする。正直言って、美しさとかを求めるスペルカード戦でやったらあとで愚痴愚痴言われそうなことなのに。

わたしはそうでもしないと勝てないからやっているだけなのに。

 

「ねえ、フランさん」

「なぁに?おねーさん」

「わたしといて、楽しいですか?」

「…どうしてそんなこと聞くの?」

「わたしと遊んで、楽しいですか?」

「…ねえ」

「わたしとだと、つまらなく、ないですか?」

「そんなことないよ!」

 

突然の大声に頭が真っ白になる。

 

「楽しいよ!おねーさんと一緒にいるといつも気持ちがいいの!初めてスペルカード戦を教えてもらった時も一緒にお話ししてる時も遊んでいる時もチェスしてるのを後ろから眺めている時も!どんな時でも!」

「フランさん…?」

 

そう言い切ったフランさんの顔が突然暗くなる。

 

「だけどね、たまにおねーさんの目が暗くなるの。私を見て怖いって気持ちが伝わってくる。…ねえ、私は一緒にいて欲しい。けど、おねーさんがいたくないなら――」

「…確かに、怖いですよ」

「じゃあ!」

「けどね、フランさん」

 

そんなことをしたら、彼奴等(里の人間共)と同じになってしまう。

 

「それ以上にフランさんの良い所を知ってますから」

 

一つのことで勝手に嫌って、その他のところを見ない人には、わたしはなりたくない。

 

「フランさんが嫌ってないって分かったからには、勝手に何処かに行っちゃうなんてことはしませんよ。これからも、楽しく過ごしましょう?」

「うん!」

「さ、せっかくフランさんが頑張ってくれたんですから。ちゃんと食べ切りますよ?」

 

しかし、多いなあ…。食べ切れるかしら?ま、二人で分け合えば問題ないか。

 


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