東方幻影人   作:藍薔薇

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第49話

四人揃って、遥か上空へと飛翔する。霧の中を進む気分で雲を突き抜けると、空に不自然な何かがあった。あのスキマ妖怪が作るスキマに似ているような気がする穴のようなものが。

 

「うわぁ…。何あの穴…」

「おい、なんか凄い結界があるぜ。解き方はさっぱりだが」

「んー、なんか弱くなってるからわざわざ壊さなくてもいけそうよ」

 

どうやら、あの穴は弱くなってしまった結界の綻びのようなものらしい。

うん?よく見たら、その結界の穴に向かって突進している妖精、リリーホワイトがいるではないか。頭を押さえて蹲っているけれど、妖精は通れないのかな?それと、黒色と白色と赤色の服を着ている三人の子達がいるようだが、あの子達もこの穴の向こうに行きたいのかな?

 

「どうやら春はあの向こうにあるみたいですね」

「こんな雲の上にまで桜が舞っているのだし、そうだと思うわよ」

「一体何処に繋がってるんだろうな?めぼしいものがあればいいんだが」

「上空のほうが暖かいなんて素敵すぎて涙が出るわ」

 

咲夜さんがご丁寧にハンカチを取り出して目元を拭いているが、そのハンカチは一切濡れていないようである。どうしてここでそんな演技をするんだ…。

そんなことを話していたら、白色の子がこちらに気が付いたようで、こちらに向かってきた。

 

「誰か来ましたよ?」

「そうね。誰か知ってる?」

「知らねえな」

「同じく」

「わたしも知りませんよ?」

 

どうやら誰も知らない子のようだ。まあ、あの穴の先のことでも訊いてみようかな。もしかしたら教えてくれるかも。

 

「おーい、そこの人ー」

「ん?あんた等誰?」

「春を求めてやってきたのよ」

「この先に隠されたお宝でも貰いにな」

「さっさと冬を終わらせようとして来たの」

「友達の頼みでここまで来ました」

「宴にはまだ早い」

 

急に知らない声が聞こえたから驚いた。が、すぐに発言者は分かった。さっきまであの穴の前にいた黒色の人だ。ついでに、赤色の人も隣についている。その雰囲気はあまりよくなく、どうやらあの穴の先のことは訊けそうもなさそうだ。

 

「はい?」

「宴の時間~」

「まあ、プチ宴にはなるかな?」

 

宴…?この三人は一体何を言っているんだろう?もしかして、あの穴の先で宴でもするというのか?幻想郷中の春を集めて行う宴。それってもしかして――。

 

「花見でもするの?」

「花見か?どうせやるなら私も混ぜろよ」

「これからお花見でもしましょうかって言うの?」

「春の宴と言ったらやっぱり花見ですよね」

 

チルノちゃん達と約束したけれど、何処に行くか全く分からないあの穴の向こうじゃなくていつものところでゆっくり楽しみたいんだけど。

そんなことは気にもせず、霊夢さんが口を開いた。

 

「で、アンタら何者?」

「私は長女、ルナサ・プリズムリバー」

「私は次女、メルラン・プリズムリバー」

「私は三女、リリカ・プリズムリバー」

「三人揃って騒霊演奏隊よ」

 

黒色の子はルナサさん、白色の子はメルランさん、赤色の子はリリカさんと言うらしい。しかし、演奏隊というくせに、楽器らしきものは持ち合わせていないようである。もしかして、手拍子で演奏でもするのだろうか?

 

「これからお屋敷でお花見なのよ。私達は音楽で盛り上げるの」

「でも、貴女達は演奏出来ない」

「私もお花見したいわ」

「数は多い方がいいだろ?」

「その前に宴のネタが手に入りそうだから」

「お花見前夜祭ね」

「ネタ?一発芸でも披露するんですか?」

「貴女は食料役よ」

 

そんな笑顔で怖いこと言わないでくださいよ…。それに食料ってわたしがなるの?一体何肉になるのやら…、ってどうでもいいか。

すると、ふと思い出したかのようにルナサさんが宣言した。

 

「あ、そうだ。こういう時はスペルカード戦で決めるんだったかしら?」

「わたし達が食料になるかどうかをスペルカード戦で…?」

 

スペルカード戦って基本的に死なない決闘だったような…。うん?フランさんとのスペルカード戦では失敗したら死にそうになるなんてことよくあるような?…いや、あれは飽くまで不慮の事故。だから、これとは違うはず。

 

「私に務まるかしら」

「咲夜さん、流石に冗談ですよね?」

「冗談よ」

「冗談じゃないわよ。どうして私達がアンタ等の餌にならないといけないのよ」

 

しかし、こっちの言うことは聞いてもいないようで、さっきから手の甲に顎を乗せて考え続けている。

 

「けれど、私達は三人でそっちは四人…。ズルくないかな?」

「そうだそうだー!何かいい案はないかなー?」

「そんなの、一人抜けてもらえば解決じゃないの?」

「それだメルラン!」

 

どうやらスペルカード戦のルールを考えていたようです。そして、三対三でやるつもりだそうです。

 

「私達、騒霊演奏隊は貴女達にスペルカード戦を要求する」

 

そう言って、あちらが勝手に考えたルールを説明してくれた。

三対三で行い、被弾は一人二回までで、スペルカードは一人二枚。二回被弾したら負けとして脱落。ただし、二回被弾するまでスペルカードを使い切っても負けではない。残っている人のスペルカードを全て使い切ったら全員負け。

つまり、被弾さえしなければスペルカードを使いまくっていいってことかな?だけど、誰か一人の一枚は使わないでおかないといけないけれど。

 

「ルールはあっちが決めてくれたみたいですけど、どうします?あっちの要求を飲みますか?」

「…すぐにブッ潰してやるわよ」

「お花見前夜祭にはちょうどいいんじゃないか?」

「そうねえ。けれど、誰が休むの?」

「そりゃもちろん人間が解決すべきですしわたしが――」

 

抜けます。と、言おうとしたら後頭部を思い切り掴まれた。

 

「サポーターを自称するくらいだ。当然出るよなあ?」

「………今からサポーター廃業します」

「起業すらしてないのにか?」

 

確かに、ここまでの道中で補助らしいことは殆どしていないような気がする。はぁ、しょうがないか…。

 

「分かりましたよ。わたし出ますから後二人、勝手に決めてくださいよ」

「…どうするの?」

「…さあ?」

「…考えてなかったわ」

「おい人間三人」

 

しょうがない…。代わりに公平そうな感じに決める方法をしてあげよう。

ナイフとマフラーを複製して、マフラーを輪切りにでもするように二か所切る。そして、片方の切り口を三人に向けた。

 

「決めれないなら運に任せて一本引いてくださいな」

「一番長いのを引けた人が休みね?」

「うげっ、こういうのの運悪いんだよ」

「では引きますね」

 

結果は、魔理沙さんは途中で千切れたのかやたらと短く、霊夢さんと咲夜さんは殆ど同じ長さだったが、僅かに咲夜さんのほうが長かった。

 

「では、頑張ってくださいね」

「はあ、面倒だわ…」

「さっき景気よく『ブッ潰す』とか言ってたじゃないですか…」

「ま、どうせやることには変わらないんだ。諦めろ」

「その三人でいいのか?」

 

問題ないと伝えると、三人は何処からともなく楽器――ルナサさんはヴァイオリン、メルランさんはトランペット、リリカさんはキーボード――を取り出した。どうやら手拍子演奏家ではないようで、少しだけホッとしてしまった。

 

「私達の演奏を聴いて無事だった食料は無いわ」

「アンタ達の世界って随分狭いのね」

「花見前で悪いが、無残に散らせてやるぜ」

「無事でありたいなぁ…」

「いぬにく、いぬにく~」

「誰が犬よ。そこは人肉でしょう?」

 

ふと、さっきどうでもいいと思ったことがまた気になってしまった。

 

「ところで、わたしって何肉になると思いますか?」

「…ドッペルゲンガー肉?」

「ですよねー」

 


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