東方幻影人   作:藍薔薇

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幻香視点。
事前に紅魔組と知り合っていて紅霧異変に協力したIF小話。


鏡宮幻香、司書となる

わたしは妖怪の山を下りた。何かがある気がしたから。大切なはずだけど朧気で気の迷いかもしれないけれど、それでもわたしは下を目指した。一人の優しい天狗に教えてもらった、人間の里を目指した。

…見えてきた。あれが、人間の里。あそこにいると言っていた優しい半人半獣の妖怪に会って、あそこの何処かに住むことを許してもらって、それからゆっくりと探すとしよう。…何を?誰を?…分からない。けれど、何かが待っている気がするんだ。誰かが待っている気がするんだ。

 

「…私、かしら…?…いえ、もしかして、これがお嬢様の言っていた…?」

 

人間の里にどうやって入ればいいだろうか、と考えていたその矢先だ。わたしの前に、銀髪の人間が歩いてきた。片腕に引っ掛けている手提げ袋に色々入っているようだが、中身は見えない。見るからに帰宅途中、といった風な彼女は、わたしをじろじろと見詰めてくる。

 

「ま、違うなら違うでそれもいいわね。少なくとも私からすれば『実に奇妙なもの』だもの」

 

その言葉を最後に、わたしの首筋に衝撃が走る。そして、わたしは意識を失った。

 

 

 

 

 

 

起きたら目の前に青みがかった髪をした少女の真っ紅な瞳がわたしを見詰めていた。実に嬉しそうな表情で笑っている口から覗く歯がキラリと尖っている。…えぇと、ここは何処でしょうか?

 

「うちの咲夜が突然すまなかったね。ここは紅魔館。そして私は主であるレミリア・スカーレットよ」

「…はぁ、そうなんですか」

「咲夜にしては中々のものを見つけられたようでね。…貴女の運命は実に奇妙で、不可思議に満ちている」

 

どうやら椅子に座らされていたらしく、背もたれがふかふかとして柔らかい。ここは紅魔館で、目の前の少女はレミリア・スカーレットさん、ね。…奇妙とか運命とか不可思議とか言っているけれど、そんなものはどうでもいいや。

周囲を見渡そうとしたが、ズキリと首が痛んだ。首筋に走った痛みで、わたしは人間の里手前で起きたことを思い出す。人間の里で半人半獣の妖怪にまだ会えていないではないか。それから人間の里に住んで、…えぇと、何を探そうとしていたんだっけ?…思い出せない。…気のせいだろうか?

さっきから見詰めてくる視線が若干鬱陶しい。そう思いながら、わたしはレミリア・スカーレットさんに目を向けた。

 

「あの、わたしに何かありますか?」

「…ふふ、気に入った。どうだい?よければここに住まないか?」

「はい?」

 

 

 

 

 

 

パタリ、と最後まで読み終えた本を閉じて本棚に仕舞う。そして、わたしは与えられた服の複製をササッと手早く整えながら、相変わらず読書を続けているパチュリー様の元へ歩み寄る。わたしに気付いたパチュリー様は栞を挟んでから魔導書を閉じた。

 

「はじまりましたね、パチュリー様」

「…えぇ、そうね。まったく、付き合わされる身にもなってほしいわ」

「そうですが、その準備では結構ウキウキだったじゃないですか」

「…黙ってなさい、幻香」

「はぁーい」

 

プイと顔を背けてしまったパチュリー様の赤く染まった耳を見ながらへらへら笑う。ちょっと話している間に体調を窺ったけれど、今日の調子はあまりよくなさそうだ。

そんなことを考えていると、机に置かれている球がキラリと輝いた。どうやら大図書館に来客が一人訪れたらしい。わたしはすぐに入口へ向かうと、そこには妖精メイドが慌てた様子で駆け寄ってきていた。しかし、その妖精メイドから話を聞くことは出来なかった。

 

「…んな…っ!?」

 

バギャアァッ!という爆砕音を轟かせ、目の前の扉が爆発したからだ。飛び散る木屑を受けながら、茫然と目の前で起きたことを眺めていると、煙の中から二人の少女が現れた。一人は紅白の巫女服を着た人間、もう片方は黒色の三角帽に黒色の服と白色のエプロンを身に纏った、いかにも魔法使いらしい服装を着た人間だ。

 

「扉はちゃんと開けてください、お客様…」

「ちゃんとノックしたじゃない」

「…失礼しました。貴女達は客ではなく襲撃者のようですね」

「あぁ、紅い霧の首謀者退治だ。さっさと首謀者を出して、ついでにここの本をありったけくれれば痛い目見ずに済むぜ」

 

わたしは二人の襲撃者をザッと観察し、小さくため息を吐いた。…あぁ、頭が痛い…。

頭を抱えながら天井を見上げていると、パチュリー様がわたしの隣にふわりと降り立った。先程とは違い、鋭い目付きで襲撃者である二人を見詰めている。しばらく見た後で、パチュリー様はわたしに顔を向けた。

 

「…この二人は?」

「襲撃者」

「なら、片方頼んだわよ」

「了解です、パチュリー様」

 

どちらを任されたのかは、パチュリー様の視線で分かった。即座に腰にある留め具を外し、片手に収まる大きさの魔導書を開く。パチュリー様お手製の、わたしだけのために作ってくださった魔導書だ。

開いたところに描かれている魔方陣を複製し、即発動。魔方陣から閃光が放たれる。

 

「くっ!」

「うぉっ、眩しっ!」

 

二人の襲撃者が目を閉じている隙に近付き、胸元をグイと引っ張りながらその場を離れていく。その途中で背後に魔術結界が生成された。二人の襲撃者を分断するためにパチュリー様が張ったのだろう。

走りながら複製した魔方陣を発動させて一時的に身体能力を強化してから、もがき始めた襲撃者を思い切り投げ飛ばす。そのまま床に落ちていくと思ったら、空中で箒に跨りながら静止してしまった。…あら、そう上手くはいかないか。

 

「痛ってて…。いきなり何しやがる!」

「投げ飛ばしました、襲撃者二号」

「そんなこと訊いてねぇし、私は襲撃者じゃない。魔法使いの霧雨魔理沙だ、そっくりヤロー!」

「そうですか。…まぁ、貴女達が壊した扉代くらいは働いてもらいたいですね」

 

さっさと終わらせて、捕獲して咲夜様に渡すとしよう。数日間メイドとして働けば返せると思うから。

そんなことを考えながら、わたしは箒に跨って浮かんでいる襲撃者を見上げながら本棚の上に立つ。スペルカード戦はあまり得意ではないのだけど、まぁ、しょうがない。それが幻想郷の決闘なのだから。

 

「喰らいやがれっ!」

「お、っと」

 

降り注いできた星形の弾幕を大きく後ろに跳び退って回避し、新たに魔方陣の二つ複製する。そして、二枚の魔方陣を襲撃者に向けて投げ、魔方陣が並んだ瞬間に一発の妖力弾で撃ち抜く。

 

「増符『ミリオンブラスト』」

 

手前の魔方陣を貫いた妖力弾が数十倍に増幅されて撃ち出される。そして、次の魔方陣を貫いた瞬間、巨大な妖力弾が数百発に拡散した。

 

「ハッ!そんなちんけな弾幕、当たりゃしねぇな!」

「ふぅん、そっか」

 

そう言って大きく横に飛んで弾幕のない空間まで避けたのを横目でチラリと見遣り、すぐに先程放ったばかりの弾幕を見遣る。そして、その妖力弾全てを視界に収め、躱した襲撃者へ向かうよう複製する。

あちらからすれば、突然躱したはずの弾幕が分裂して襲ってきたように見えただろう。目を見開いて驚いてるよ。…まぁ、同じように飛んで躱されてしまったけれども。

 

「危ね…。ま、問題なしだ。さて、お返しだっ!魔符『スターダストレヴァリエ』!」

「げ、面倒な…」

 

大量の巨大星形弾幕の展開か。サッと周囲を見渡し、距離を取って弾幕の間を抜けていく。スペルカードの時間は基本的に三十秒。これが意外と長いんだ…。

先程と同じ二枚の魔方陣を複製して重ねて持ち、手元で妖力弾を撃って貫く。拡散した弾幕が目の前の星形弾幕をズタズタにしながら飛んでいくが、残念ながら襲撃者には届きそうにない。

それを繰り返すこと二十数秒。先にわたしのスペルカードの時間が尽き、残り数秒を躱してあちらのスペルカードの時間も尽きた。ここまでお互い被弾なし。

 

「…大丈夫かな、これ?」

「この私が相手なんだ。無事で済むわけないだろ?」

「いや、それはどうでもいいです」

「何だとっ!?」

 

歯噛みしているところ悪いけれど、一発妖力弾を放つ。が、僅かに横にずれるように動いて紙一重で躱されてしまった。…まぁ、この程度大袈裟に避けないでも十分なんだよ、とでも言いたいのだろう。どうでもいいが。

わたしが心配しているのは、次の魔方陣を使ったスペルカード。引っ掛かってくれるだろうか?…引っ掛かるな。大丈夫でしょう。きっと。最悪、自ら発動させればいい。

 

「置符『スーパーマイン』」

 

宣言と共に、次々と同じ魔方陣を複製しては投げ捨てていく。ばらまかれた魔方陣はうんともすんとも言わない。そういう魔方陣だからね、しょうがないね。

何事も起きないスペルカードを見て、襲撃者は噴き出した。

 

「プッ…。何だよ、ひょっとして外れか?」

「さて、ねッ!」

「っとぉ!」

 

複製を続けながら、左手の五指から最速の妖力弾を五発同時に撃つ。が、これも簡単に躱されてしまった。

 

「ショボ過ぎるぜ!こう撃つんだよッ!」

 

そう言い放つ襲撃者は、わたしに向かって黄緑色に輝く円錐状の弾幕を大量に撃ち込んできた。…撃ってくれたね。よかったよかった。

わたしは放り投げる予定だった魔方陣を迫り来る弾幕に向けた。そして、その弾幕を魔方陣が片っ端から吸収していく。

 

「何ッ!?」

 

そして、爆ぜるように炸裂弾が飛び散った。炸裂弾の一部が放り棄てた魔方陣に吸収され、また炸裂する。その炸裂弾の一部が別の魔方陣に吸収され炸裂する。吸収と炸裂が次々と連鎖的に巻き起こる。

触れた魔力を吸収し、増幅して炸裂させる魔方陣。元は踏んだ魔法使いの魔力を奪って爆破するための罠であるらしいが、それをパチュリー様が改良してくれたものだ。

 

「扉の分だ。爆ぜ散れ」

「クソッ!――ッ!」

 

爆発的に増幅された弾幕が襲撃者を打ち上げる。突然の出来事に動転でもしたのか、派手に巻き込まれていく。別の魔方陣を複製して結界を張り、防御しながら爆発が収まるのを待つ。…あらら、服がボロボロになっちゃったね。

 

「痛ッ!」

 

そう思っていたら、一発の魔力弾が結界を貫いた。思い切り額に被弾し、ジワリと痛む。人差し指で被弾した場所に触れると、指先に血が付着した。すぐに治療用の魔方陣を複製して発動し、傷を塞いだら回収する。

 

「へっ、お返しだっての」

 

そう呟いてニヤリを笑う襲撃者。薄れていく結界が消え切る前に破りながら距離を取る。…えぇと、非スペルカード用の魔方陣は、っと、…あったあった。

一枚の紙に十八の小さな魔方陣が描かれているものを複製し、それを一発の妖力弾を撃ち込む。すると、それぞれの魔方陣から撃ち込んだ妖力弾と同等の妖力弾が放たれる。単純に十八倍。次々と妖力弾を撃ち込んでいき、増幅させていく。

 

「お前はこれに付いて来れるか?彗星『ブレイジングスター』!」

 

そう宣言した襲撃者は、箒の穂から膨大な魔力を噴出させてこちらに突っ込んできた。それはもう物凄い速度で。撃っていた妖力弾をかき消しながら突撃され、思わず頬が引きつる。まるで効いちゃいないじゃないか…。

咄嗟に横に跳んで回避したが、大きく旋回した襲撃者が再びわたしの元へと飛んで来る。…これは止めるしかないな。

しゃがみながら足場にしている本棚を左手で触れ、迫り来る襲撃者に向けて右腕を伸ばして本棚を複製する。

 

「止まれぇ!」

「ハッ!甘いな!」

「…ぇ?」

 

襲撃者の威勢のいい声が本棚の複製の向こう側から聞こえてくる。そして、すぐにバギッと粉砕される音が響いた。その音は止まることなくこちらに近付いてくる。呆然としていると、真っ二つに壊れた本棚から襲撃者が現れた。

 

「ガハッ!?」

 

もろに喰らった。吹き飛ばされて本棚から落ち、背中から叩き付けられる。滅茶苦茶痛い。咳き込みながらどうにか立ち上がると、襲撃者がわたしを見下ろしていた。それはもう、愉快に嗤いながら。

 

「おーおー、大丈夫か?んなわけないよなぁ?」

「ゲホッ、ゴホッ!…あー、そうだね大丈夫じゃあないね」

 

…もう、いいや。この戦況ではどう足掻いてもわたしが圧倒的に不利。おそらく負けるだろう。なら、わたし一人でこいつを止めればいい。安い安い。

よっぽどのことがなければ使うな、と言われていた魔方陣なのだが、しょうがないよね。…そう思いませんか、パチュリー様?

わたしは魔導書の一番最後を開く。そして、最も緻密に描かれた魔方陣を複製し、ありったけの妖力を注ぎ込んで発動させた。

 

「終符『スーパーノヴァ』」

 

閃光、そして轟音。わたしの妖力の大半を飲み込んでようやく発動することが出来る、惑星の終焉を模倣した超威力の爆裂魔方陣。身が灼ける。痛みはない。意識が朦朧とする。しかし、わたしを見下していた襲撃者も随分黒焦げになって落ちてきた。…意識は、なさそう。

それなら、いいよ。後は、よろしく、お願い、します…。ぱ、ちゅ、り…さ……………――。

 


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