東方幻影人   作:藍薔薇

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第45話

「霧雨さん、霊夢さん。咲夜さんはこの勝負勝てると思いますか?」

「んー、あの化け猫がどの程度の妖怪かによると思うけれど、下手に実力が下がってなければあの時の咲夜でも勝てるでしょうね」

「そうか?アイツは私達と違って弾幕が実物であるナイフだからな。いちいち投げないといけないなんて隙だらけだろ?」

「その隙を完全に潰すことが出来る能力持ちだからねえ…。ただの人間が何であんな大それた能力を持ってるんだか」

「貴女達も人間でしょうに…」

 

話題になっている咲夜さんはというと、人間離れした速度でナイフを投げたり移動したりを繰り返している。「時間を操る程度の能力」を利用して自分以外の時間の流れを遅くしているのだろう。スペルカード戦が始まってすぐに風が弱くなったからね。

 

「まあ私は魔法使いだからな。まだ人間だが、いつか不老不死になるのもいいかもな」

「不老不死?じゃあパチュリーって死なないんですか?」

「いや、多分不老長寿だろ。捨虫・捨食の魔法を使ったか元から魔法使いかは知らないがな」

「それなら言ってましたよ?産まれたときから魔法使いだって。まあ、捨虫・捨食の魔法がどんなものかは知りませんが」

 

それにしても咲夜さんの投げたナイフが既に百を超えているような気がする。壁やら地面やらに突き刺さっているナイフの数がおびただしいなあ、と思って見ていた壁のナイフが突如消えた。ああ、手持ちのナイフが無くなったから時間を止めて回収したのか。使い捨てナイフというわけではないようだ。

 

「お、パチュリーについてかなり詳しそうじゃんか。どうせならあそこの警備についても教えてくれよ」

「えーと、出入口の扉を開けると光って反応するものが――って、下手に言うと貴女に盗られそうですね」

「チッ。いいじゃないか、借りるくらい」

「あそこはそもそも貸出禁止です…」

 

本が大図書館から出た瞬間にも反応するなんていちいち言わなくてもいいことだろう。

咲夜さんはかなり余裕を持って避けているようだが、相手の化け猫は、もう少し反応が遅れていたら右腕に刺さりそうになっていた。あの表情から思うに、そろそろ――。

 

「どんなに速くたって人間には追い付かない領域があるんだよ!翔符『飛翔韋駄天』!」

「お、先に使ったのは化け猫か」

「台詞からして高速移動かなー」

「だと思うわよ?両手を地面に付けて脚に力を込めている」

 

瞬間、化け猫が急加速した。そして次々と花開くように広がる弾幕。しかし、開くときには既に化け猫の姿はなく、咲夜さんの周りを縦横無尽に駆け巡る。

 

「うわ、速…」

「そうか?まだ私の世界には届いてないなあ」

「アンタ、見えないの?」

「ここからなら分かりますよ?けれど、今咲夜さんのいる位置からだとちょっと」

「まあそうね。ただ走り回っているわけでもなさそうだし」

「どういうことです?」

「咲夜の目の前を通るときに急に逆方向に方向を変えていたわ。そのまま進むと思っていたらまず見失う」

「へー、そう言われると…」

 

確かにそう見える。規則性はないようだが、咲夜さんの前を通るときに急に方向を変えていることがある。あの化け猫はただ速いだけじゃなくて、そういう技術も使っているようだ。

 

「だけど咲夜さんより遅いですね」

「そうね…。そもそもアイツより速い存在がいるなら見てみたいわ」

「いたらいたで困ったもんだけどな」

 

瞬間、咲夜さんは両手に持てるだけのナイフを持ち、高らかに宣言した。

 

「どんなに貴女が速くても追い付けない世界を。幻世『ザ・ワールド』」

 

瞬間、時間が止まった…のだろう。いつの間にか化け猫を覆うように現れたナイフが化け猫の至る所に突き刺さったのだから。だけどあれって、死んでしまわないのだろうか…。実際、ハリネズミのようになった化け猫はピクリとも動いていないように見える。

 

「南無~。きっと極楽浄土は、暖かくて幸せに違いないでしょう」

「ちょっ、ちょっと咲夜さん!何殺しちゃってるんですか!」

「え?大丈夫よ、多分。急所は外しているし」

 

そう言われて見ていると、頭部、首、背骨、心臓辺りにはナイフが刺さっていないように見える。それに、ナイフはあまり深く刺さっていないようだ。

 

「そ、それでも流石に…」

「なら手当でもしておく?どうせもうこの子の負けでしょうし」

 

確かに、これはどこからどう見ても化け猫は戦闘不能であるから咲夜さんの勝利だろう。

 

「咲夜さん、手当手伝ってください」

「何をすればいいかしら?」

「とりあえず布は創るんで、止血を」

 

一番丈夫そうな布、というより服は咲夜さんの服だと思ったので、手に取って複製。化け猫に刺さっていたナイフを抜いて――抜いた瞬間、血が少し流れ出てしまったが、流れ出たということはまだ心臓は動いていると思う――複製した服を包帯のように細く切る。

包帯の代わりを大量に作ってからナイフを全て抜き取り、ボロボロで血みどろになった服も全部脱がせて咲夜さんに止血、というよりきつく包帯を締めることで無理矢理血を止めてもらった。

赤黒く染められたこの服については諦めてもらおう。だけど、代わりの服くらいは創って置いてもいいかなと思ったので、色が似ている霊夢さんの服にしようと霊夢さんを探してみると、何やら一つの家の中に入っていくのが見えた。

 

「ちょっと!こっちが頑張ってるときに何してるんですか!」

「え?何ってちょっと略奪を」

「霧雨さんの真似事ですか!?」

「んー、そう言われると物凄く罪悪感が」

「おい、さっきまで意気揚々とここに置いてあった鞄にここに置いてあった日用品を詰め込んでたじゃないか」

「幻香さん。とりあえず血はほぼ止まったようです。流石妖怪、と言ったところですね」

「わたしそんなに早く治らないんだけどなあ」

 

命に別状はない、と勝手に決めつけて霊夢さんのところへ走る。

 

「それで?何で略奪なんかを?」

「迷い家にあるものは持ち帰ると幸運になれるのよ」

「はあ、幸運?」

「だから言ったでしょう?『迷い家に着くのは幸運』だって」

「人のもの奪って得られる幸運なんてたかが知れてますよ」

「…………それもそうね」

「とか言いながら今握っているそれはなんだよ?」

「鞄」

「持ち帰る気満々じゃないですか…」

 

結局、この迷い家にある家財は大体無くなってしまった。代わりにわたしの複製を置いておいたが、あの二人が大きいものは持ち帰ろうとしなくてよかった、としみじみ思った。

 

 

 

 

 

 

あの化け猫を倒したからか、少し飛んだら迷い家のある里から脱出することが出来た。

次は何処に行くのか霊夢さんに聞こうと思ったら、霧雨さんに呼び止められた。

 

「お前の能力って何なんだよ」

「はい?いきなりなんですか霧雨さん」

「あとその『霧雨さん』もやめろ。私だけ苗字なんて何だか仲間外れみたいじゃないか」

「あー、分かりましたよ魔理沙さん。それで、わたしの能力ですか?」

「そうだ。だっておかしいだろ?私達が持って行ったもの全部取り出すなんて」

 

確かに、そう思うのはしょうがないかもしれない。わたしの能力『ものを複製する程度の能力』について知らなければ当然の反応とも言える。

 

「取り出してませんよ」

「はあ?」

「創ったんです」

「創った…だと?」

「ええ、わたしの能力で創りました。『ものを複製する程度の能力』。これがわたしの能力です。原理なんてわたしも知りません。というより、わたしが知りたいので、これから調べるなり知っている人を探すなりする予定です」

「待てよ。私の帽子、本、本棚、棒、マフラー、あそこの家財は分かった。だけど弾幕を消し飛ばすのはどういうことだよ」

「はあ、分かるでしょう?複製したんですよ。弾幕全部を」

「何だよその能力…」

「使ってみると使い勝手の悪さに悲しくなりますよ」

 

まず第一に妖力消費が激しい。小さいものならいいのだが、本棚を何個も創れるわけではない。回収出来ればいいのだが、今回の家財は代わりのものとしてあげたつもりなので、妖力を大分使ってしまった。それに視界に映るか触れていないと駄目だし、複製出来る場所もかなり狭い。

 

「誰にでも言っているわけじゃないんですから、あんまり言いふらさないでくださいね?特に、人間の里に住んでる人間共には」

「…はいよ。私だって守るべきか否かの判断くらいつく。これは前者のほうだ」

「分かってくれて嬉しいですよ」

 

里の人間に知れ渡れば、この能力の対策を考え出されてしまい、わたしの生命線の一つが消え失せる。それじゃなくても、この能力は悪用すれば好きなだけ出来る。例えば、お金を好きなだけ増やしたりとか。他にも、わたしには想像もつかないような使い方があると思うけど。

魔理沙さんにお礼を軽く言ってから霊夢さんに何処に行くか尋ねてみたら、どうやら魔法の森に行くそうだ。

 

「霊夢さん。ちょっとお腹も空いていましたし、休憩でもしませんか?」

 

それ以上に妖力が非常に少なくなってしまっているから、ちょっと要らなそうなものを回収して少しでも回復しておきたい。

 

「それもそうねえ。けど、何処で?」

「近くにわたしの家がありますからそこでいいですか?」

 


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