東方幻影人   作:藍薔薇

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第425話

畳に胡坐をかきながら星熊盃を煽る。幻香曰く、地上から専門家が来るかもしれない。鬼達には旧都を隅々まで見回りさせ、見覚えのないものを見つけ次第ここへ報告するよう伝えてある。杞憂ならそれでいい。しかし、何故だと問われても言葉に出来ない感覚だが、杞憂では済まないだろうと肌で感じていた。

事実、かなり遠いが外が騒がしい。私達がする喧嘩とは明らかに違う戦闘音、最近流行らせた弾幕遊戯に近しい音がする。…来たのか。そう感じ、新たな酒瓶を開けて星熊盃に注ぎ込んだ。

ポタ、ポタと最後の一滴まで酒を落としていると、廊下から慌ただしい足音が響いてくる。そして、すぐにこの部屋の障子が勢いよく開けられた。

 

「姐御ォ!専門家だ!専門家が出た!」

「数は?」

「人間が二人!だが声は四人いる!」

「場所は?」

「橋から地霊殿へ続く道を真っ直ぐ進んでる!急いでくれ!かなり速い!」

「そうかい。それじゃあ、行くとしますか」

 

声は四人、というところに引っ掛かりを覚えたが、とりあえず相手は二人。それだけ分かれば十分。星熊盃を手に腰を上げ、報告をした鬼を押し退けて部屋を出る。さぁて、どんな連中かな。技術、得物、才能、実力…。どれだけ強ぇ奴等か、楽しみだ。

屋敷から外に出た瞬間、膝を曲げ腰を落とし、旧都を見渡せる高さまで跳ぶ。…いた。大半の妖怪を抜き去りながら真っ直ぐと飛び抜けていく紅白と白黒。あの二人か。へぇ、確かに速い。

それだけ確認したところで、その二人の行く少し先に両足を踏み締めて馬鹿でかい音と共に着地する。星熊盃の水面が激しく波打つが、軽く左手を動かして飛沫を拾う。そして、私の前で一度止まった二人を見遣った。

 

「急に前に下りてきて…。邪魔よ」

「だな。さっさと終わらせてゆっくり温泉に浸かろうぜ?」

『霊夢、話くらい聞いてあげたらどうかしら?』

『魔理沙、せっかく話せそうなのが来たんだから、情報の一つでも仕入れるわよ』

 

確かに声は四人だな。驚いた。しかも、一人は聞き覚えのある声じゃないか。こりゃあ少し面倒なことになりそうだ。

 

「つれないねぇ。地上から専門家が来るって聞かされて、こっちは楽しみにしてたのにな」

「知らないわよ、そんなの。…魔理沙、アンタは先にあの偉そうなのがいそうな館に行ってなさい。コイツは私が片付けるわ」

『…霊夢、私の話も聞いてほしいのだけど?』

「そうか?それじゃ、お先に行かせてもらうぜ!」

『霊夢、魔理沙の代わりに何か訊いといてよ!』

 

そう言うや否や、白黒の方が箒に跨り、すぐに急加速して飛び出した。

 

「まぁ待てよ」

「うおっ!?」

 

そのまま私の横と抜き去ろうとした箒の先を右手で掴み、無理矢理止めた。急に動きを止められた箒から勢いよく投げ出された白黒が地面を派手に転がっていく。掴み取った箒の穂にくっ付いていたものから魔力を放出し加速していたようだが、少しすると自然に停止した。

 

「痛ってぇな!急に何しやがる!」

『ちょっと魔理沙!一体何があったのよ!?』

「逃げんなよ、つまんねぇな。一人より二人だろ?…ほらよ」

 

箒を持ち主に投げ返しながら、私は既に警戒している紅白の方へ顔を向けた。

 

「そっちから話してくれなさそうだし、こっちから聞こうか。あんたらは何故ここに来た?知ってるかどうかは知らねぇが、地上と地底は互いに進入禁止だ」

『その条約は貴女達が地底の怨霊を鎮める約束でもあるはずよ。でも、間欠泉と共に地上に怨霊が湧いてきている。約束が違うんじゃないかしら?』

「怨霊、ね。ま、私は知らん。そういうのはさとりに訊いてくれ」

 

後ろ髪を掻き毟りながら肩を竦め、星熊盃から半分ほど酒を煽る。少し時間が経っていくらか質が落ちてはいるが十分美味い。そして、後ろへ大きく一歩踏み出し、コソコソと箒に跨ろうとしている白黒の首根っこを掴み、紅白の方へ放り投げた。

 

「ぐぇっ!…くそっ、やるしかねぇか?」

『大丈夫、魔理沙?』

「ちょいと痛むが問題ない」

 

元の位置に歩いて戻っているうちに立ち上がった白黒は、体中に付いた土を手で払いながら笑った。…へぇ、いい顔するじゃあないか。

 

「とりあえず、そのさとりってのに吐かせればいいわけね」

『目の前にこいつがいる限り、先へは進めないと思いなさい。相手は強いわよ、霊夢』

「アリス。援護、頼むぜ?」

『分かってるわよ』

 

紅白の周囲に四つの陰陽玉が浮かび、その手にお祓い棒を持って私に向ける。白黒の周囲に人形が八体浮かび、その手に箒の穂にくっ付いていたものを持って私に向ける。二人が臨戦態勢に入ったところで、私は右手で首を鳴らした。

 

「私は強い奴が好きだからな。気に入ったら生かしてやる。気に入らなきゃ殺してやる。…思いっ切りかかって来な、人間」

「言われなくてもこっちから行くぜっ!恋符『マスタースパーク』ッ!」

 

その白黒の宣言の瞬間、手に持っていたものから膨大な魔力が迸る。しかし、あの時の幻香が放った漆黒の砲撃と比べると、どうしても見落りしているように見えてしょうがなかった。

迫りくる魔力を前に右手を軽く握り、左肩の上まで引き絞る。そして、右腕を真横に振るった。瞬間、白い魔力が横に裂けて霧散していった。

 

「効かねぇなぁ、今のじゃあ」

「嘘だろ?さっきのはこれで楽に済んだのに」

『相手はおそらく鬼よ、魔理沙。さっきの橋姫と一緒にしない方がいいわ』

「…つまり、萃香と同類か。確かに強いでしょうね」

 

何だ、こいつらも萃香の知り合いか?しかし、専門家というならばそれはもう実力者であるはずだ。強い奴が相手となれば戦いたくなるのが本能。…まぁ、一応殺すのだけは避けとくか。

そう思っている間に迫ってきていた霊力を纏い空色に巨大化した陰陽玉を右拳で殴り粉砕する。殴りつけた瞬間、拳がジンジンと痛んだ。この感じは退魔か。だが、その程度じゃあ足りねぇな。

人形から放たれる小綺麗な弾幕を受けながら大きく踏み出し、陰陽玉を打ったばかりの紅白に脚を突き出した。

 

「おらぁ!ボサッとしてんな!」

「ッ!?」

 

目を見開いた紅白に横へ転がるように回避されたところで、その隣に浮かんでいた一体の人形に右肘を突き刺す。瞬間、人形の内側から大量の弾幕が綿を食い破りながら破裂した。破壊されても反撃するのか。しかし、しょぼいな。皮膚の色が少し変わる程度。見た目ばかり小綺麗で威力がなってない。

人形が破壊されてから白黒も私から大きく距離を取った。箒に跨り宙を舞う白黒を見上げ、次に札を数枚取り出した紅白を見遣る。

 

「…まずいな。アリスの援護、碌に効いてねぇぞ」

『…分かってるわ。まさかこんなに頑丈な相手が出るとは思ってなかったのよ』

「あれを容易く壊すのね…。厄介だわ」

『相手が誰であろうと、貴女なら勝てるわ』

「お話しはもう十分か?こっちはあんたらに合わせて盃から溢さないよう優しくやってるんだ。期待外れだけは止めてくれよな…!」

 

右手を固く握り締め、上に浮かぶ白黒に向けて右腕を打ち出した。放たれた拳圧が衝撃波となり、大きく体勢が崩れた。

 

「ぐ…ッ!?何だ、これは…!」

『魔理沙ッ!』

「魔理沙!」

 

二つの悲鳴をよそに跳び上がり、白黒の目の前で右腕を軽く引く。今更気づいてももう遅ぇよ。

 

「まず…っ」

「ほら、よっと!」

 

ぐわぁん、と硬い壁に阻まれる感触。だが、それも一瞬のことですぐにガラス片のようなものを飛び散らせて破壊する。しかし、その一瞬の間に白黒は私の攻撃から逃れていた。

飛び散ったものが空中で消えていくのが見え、私は紅白を見下ろした。そして、その足元に貼り付いている破れた札を見て察する。へぇ、結界か。だが、こんな柔い壁で阻めるほど私は弱くないぜ?

自然と頬が吊り上がる。あの紅白は確実に強い。そして、白黒もまだ上げれそうな雰囲気がある。これから続く勝負が楽しみだ。

 

「面白い。二人共、駄目になるまでついて来なぁ!」

 


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