霊夢さんに付いて行くことにしたが、一体何処へ向かっているのだろうか。
「霊夢さん、何処に行くんです?」
「えーっと、霧の湖?」
まさかチルノちゃんを疑ってるなんてことないよね…?
「どうしてですか?」
「勘よ、勘」
「勘ですか…」
「何よ、悪いの?」
「いえ全く。わたし、勘は結構信じてるほうなんです」
勘は最善を導き出していると最近は信じている。外れたときは情報不足か経験不足といったものだと思う。まあ、大ちゃんの受け売りだけど。
「ならいいでしょう?ほら、着いたわよ」
「あらま、もう着いちゃいましたか」
どうしてこの異常気象を解決しに行こうと思ったか聞こうと思ったのに。まあ、後でいいや。
「むっ!また邪魔しに来たのか!――って、まどか!?どうしてそこに!?」
「あ、チルノちゃんに大ちゃん。こんにちは、元気にしてた?」
「うん元気にしてた――って違う!そうじゃない!どうしてまどかがそいつらと一緒にいるのか聞いてるんだ!」
「わたしね、この長い冬を終わらせて春にしたいんだ」
「えー、いいじゃん冬」
「春になったら皆と一緒に花見でもしようかなって思うの」
「花見!?じゃあ約束だ!春になったら一緒に楽しもう!」
「そうですね」
話は逸らすもの。普段はしないけれど、チルノちゃん相手には非常に有効である。大ちゃんも春が来てほしいと思っているようで、チルノちゃんの後ろで体を震わせながらも首を縦に振っている。
「さて、霊夢さん、霧雨さん、咲夜さん。この子達は関係なさそうなので別の怪しいのを探しましょう?」
「そうね。それにしても、本当に友達だったのねえ…」
「オイ霊夢、勘外れてんじゃねえか」
「まだ分からないわよ」
「幻香さん、何か考えてますね?」
流石咲夜さん。わたしの考えてる事なんかは大体分かっているようだ。それに、まだ外れているとは限らない。この辺のことについて非常に詳しい大ちゃんがいることは幸運だ。
「ねえ、霧の湖の近くで『冬』とか『冷気』とか『寒さ』に関係する妖怪って知らない?」
「そうですね…。チルノちゃん以外だと…、そうだ。レティ・ホワイトロックさんがそういう妖怪ですよ」
「レティさんね。何処にいるか知ってる?」
「えっと、普段は行くことはあまりないですが、あちらのほうに」
そう言って指差した方向は、確かに普段は行かない場所だ。いつもの場所のほぼ対岸に位置している。
「ありがとね」
「いえいえ、お気になさらず。ほらチルノちゃん、今まどかさんは忙しいみたいだからあっちで遊ぼう?」
「じゃあなーまどかー!」
「はい、またいつか。――どうやら勘は合っていたみたいですよ?」
「そうね、じゃあ行きましょう」
「あっ、オイ!ちょっと待てよ!」
「せっかちねえ。さ、行きましょ?」
付いて行こうと飛び上がる瞬間、足元に落ちていた火打石と思われるものが目に入ったので拾っておく。この寒い中で火を起こせるのはかなり嬉しい。
「咲夜さん、後でナイフ貰っていいですか?」
「え?ああ、そういうこと。いいわよ」
「おーい、何話してんだー!さっさとしないと置いてくぞー!」
「せっかちさんがうるさいんで急ぎましょうか」
「ふふ、そうね」
自分が出せる限界の速度で追いかける。が、周りはわたしより余裕を持って飛んでいるように見える。ああ、こうなるんだったら慧音でも妹紅さんでもフランさんでもいいから高速飛行方法を学んどくんだった…。
そんなことを考えながら追随していると、霧雨さんがわたしの横を並走し出した。
「おい幻香」
「何です?」
「付いて行くってことはそれなりの実力ってもんがあるんだよな?」
「どうでしょう。この四人の中だったら最弱を自称出来ますが、世間から見たわたしってどうなんでしょうね。人間の里では最悪の存在と言えるんでしょうけど」
「そこでだ。そのレディだったか?ソイツ、お前一人でやってみろよ」
「レディじゃなくてレティですよ。それにわたしはサポーターとして付いて来てるんですよ。それに異変解決は人間の仕事なんでしょう?」
「サポーターだぁ?お前に何が出来るってんだよ」
「大抵の弾幕なら消し飛ばして見せますよ」
「ならそれを見せてみろってことだ」
「前に見たでしょう?その時の驚いた顔は今でも思い出せます」
「ケッ、どういうカラクリか知らねえが今はどうでもいい。とにかくレティとかいうやつをやればいいんだよ」
「どうしてあなた達がやらないんです?」
「…お前が戦う気がないやつならここでサヨナラってことだ。妖怪は出しゃばらずに引っ込んでるのが普通なんだからな。ただ付いてくるだけのお荷物なら邪魔だから帰れってことだ」
「それならわたしは異常ってことにしていてくださいな。まあ、分かりましたよ。ついでに被弾零宣言も付けましょうか?」
「お、言うねえ。楽しみにしてるぜ」
どうやらレティさんとスペルカード戦をすることになってしまったようです。まあ、安全に付いて行くためには、それなりの実力者であることを示す必要があると思ったので、一つ宣言しておいた。多分大丈夫だと思うけれど、緊張してきた。
霧雨さんが加速してわたしを置いて行き、それと入れ替わるように咲夜さんが並走してきた。
「大丈夫ですか?被弾零なんて」
「それくらいしないと切って捨てられるかもしれないじゃないですか」
「そうですか?」
「勘ですよ」
「捨てられることはあっても切られることはないと思いますよ?私以外、誰も刃物は持ってなさそうですし」
「そういう意味じゃないんですけどね」
「ふふ、知ってるわ。それで、緊張は解れた?」
「…咲夜さんっていい人ですね」
「今更気づいたの?」
「いえ、前から知ってましたよ」
咲夜さんの軽い冗談で肩の力が抜けた。わたしはいつものようにやっていつものように勝利する。そうすればいいだけだ。勝てなさそうならどうするか?そんなのも決まってる。相手の常識の外側を突き進め。予想外なことに即座に対応できる人はまずいないって慧音も言ってたから。この文章の後にはこう続く。だから、一つの予想に固執するな。それ以外の可能性を羅列していけ。わたしはその言葉を信じて、出来る限り実行出来るように意識し続けている。
「それじゃあ頑張ってください。――もう着いたみたいですね」
「え?もう?」
霊夢さんと霧雨さんは既に岸に降り立ち、わたし達を待ってくれているようだ。
「…遅いわよ」
「すみません…。それにしてもこのあたり、やたらと寒くないですか?」
「そうね。つまり近くにそのレティ・ホワイトロックって言うのがいるってことでしょう?魔理沙から聞いたと思うけれど、ソイツはアンタに任せるから」
「早速黒幕だったらどうします?異変解決は人間の役目って」
「ソイツは黒幕じゃないわね。けれど手がかりくらいならありそう」
「霊夢の勘は馬鹿にならないからなあ。信用していいと思うぜ」
「知ってますよ…。くしゅっ!」
それにしても寒い。寒すぎる。吹雪いてるわけでも他と比べて降雪量が多いわけでもないのに、非常に寒い。
「咲夜さん、ナイフ」
「どうぞ」
何処からともなく取り出されたナイフに左手の指先で触れる。そして左掌に複製。すぐに掴みとり、さっき拾った火打石をポケットから取り出しつつマフラーを複製する。火打石をマフラーで包み、ナイフを思い切りぶつけること数回。焦げ臭い匂いがしてきたので思い切り振ると、マフラーが燃え盛った。よし、上手くいった。
「熱っち、乾いた枝ないですか?太めのやつ」
「拾っておきましたよ?」
どう見てもそこら辺の枯れ木から頂戴したようにしか見えないんですけど…。切断面があまりにも綺麗だし。
まあそんなことは気にせず枝にマフラーを無理矢理巻き付け、枝がちゃんと燃えていることを確認すると、しっかりと火が移っていたので燃え残ったマフラーを回収。少しでも妖力は保持しておいた方がいい。
「ふう、とりあえずこれでいいかな?」
振ったときに落とした火打石は積もっている雪を溶かしたことですっかり冷めていたので安心して拾った。ついでにナイフも回収しておく。
「なんだ?松明なんか焚いて」
「だって寒いじゃないですか。さて、行きましょう霊夢さん」
「松明って一応神聖なものなんだけどねえ…。まあいっか」
霊夢さんに付いて歩くが、三人がわたしの持っている松明のほうに自然と近づいてしまうのは、やはりこの辺りがそれだけ寒いということなのだろう。
「ん?前方に人影が」
「そうね。多分アレが」
「くろまく~」
「…黒幕自称してますよ?」
前から現れたのは薄紫色の髪を持ち、寒色系の服を着た雪女のような妖怪だった。
「貴女が黒幕ね。では、幻香さんどうぞ」
「はいはい任されました」
「ちょっと待って!」
「ん?なんだ?命乞いか?」
「違う!私は黒幕だけど普通よ!」
何を言っているのか分からず、思わず首を傾げてしまう。どういう意味なんだか…。
「とりあえず今は普通じゃないんですよ。特にこの辺りは」
「例年の大体三倍くらい雪の結晶が大きいとか?頭のおかしな巫女と魔法使いとメイドと私そっくりな松明持ちがいること?そんなことより私は早く春眠したいんだけど」
「幻香、アイツ永眠させなさい」
「寝たら殺すってことを教えてやれ」
「さ、早く黒幕さんを倒してきてくださいな」
「皆して物騒ですね…」
松明を咲夜さんに手渡し、一歩前に出る。
「レティ・ホワイトロックさん。わたしは貴女にスペルカード戦を要求します」
「んー、いいけどどうして?」
「そうですねえ…。後ろの人達が貴女を倒せとうるさいからでいいですかね?それに、この辺りが寒くてわたしが困ってるんですよ」
「そう?私はただ普段より長い冬を楽しんでるだけなんだけどなあ」
「そうですか。とりあえず被弾回数とスペルカード枚数はどうします?」
「うーん、両方とも三で」
「じゃあ始めますか」
そう言った瞬間、レティさんの雰囲気が僅かに変わったように感じた。そして彼女の周りに現れる色鮮やかな弾幕。
わたしとレティさんのスペルカード戦が始まった。