東方幻影人   作:藍薔薇

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第393話

「ふぃーっ!思ったより重かったよぉ、これ!」

「…思ったより創ってたんですねぇ、わたし」

 

ゴチャリと大きな袋がわたしの横に置かれる。その拍子に袋の口からいくつか金剛石が零れ落ちた。見られたら面倒事になりかねないので、すぐに拾って袋の中に戻しておく。

最後に拾った金剛石を首に掛けているネックレスにくっ付けていると、こいしが隣に座って体を寄せてきた。

 

「あーあ、一試合見逃しちゃったぁ。ね、ね、どんな相手だった?」

「全身を鎧で固めてましたね」

「あー、それかぁ。なかなか凄かったよ、うん。体当たり一つで相手の武器ごとドカン!だもん」

「武器ごと、ねぇ…。恐ろしい話だ」

 

かなり頑丈だったんだろうなぁ、あれ。『紅』で『目』を潰さなければ、破壊は困難を極めていたかもしれない。…いや、螺指で穴が空いたし、どうなんだろう?…ま、いいや。もう壊しちゃったし。

袋の中に手を入れ、自分自身に残された妖力量から考えて三つ回収する。そして、手の中に十個握り締めてから取り出し、こいしにこの握った手を向けた。

 

「ちょっと持っててくれませんか?」

「いいけど、何するの?」

「髪紐を創る」

 

まぁ、ただの髪紐じゃあないんだけど。目を瞑り一本の繊維を思い浮かべ、その繊維を無数に解いて、それをさらに解いていく。それらを繰り返したのち、解けた繊維を改めて縒り合わせる。…もう少し太い方がいいかな。

 

「…よし、こんなところかな」

 

両腕を広げるくらいの長さのフェムトファイバー。密度はミッチリ満ち満ちている。

 

「こいし、後ろを一つに縛ってくれませんか?」

「いいよー。どんな感じにする?」

「そんな飾らなくていいですよ。…あぁ、そうだ。紐がかなり余るように創りましたんですが、出来れば両側に同じくらいの長さで余らせてくれると嬉しいです」

「ん、了解」

 

そう注文すると、こいしはわたしの後ろに回って髪の毛に触れる。手櫛で丁寧に梳かれ、一つにまとめられた髪は後頭部の真ん中あたりできつめに縛られた。左右に余った髪紐が、肩から垂れ下がる。

 

「どう?」

「いい感じ」

「よかった」

 

ああ注文してもこいしのことだからかなり髪紐を使って飾るように縛ると思っていたけれど、わたしが注文したままにただ単純に一ヶ所で縛っただけのもの。だから、かなり髪紐が余ってしまったが、そこは回収すればいいので問題はない。

垂れている紙紐を胸の辺りの長さで回収し、こいしから返してもらった金剛石を左右に垂れている紙紐の端に五個ずつ癒着させる。ちょっとした錘になってしまうけれど、縛っている部分に影響はなさそうだ。

ネックレスに五個、髪紐に十個、計十五個。武器として過剰妖力を炸裂させてもいいし、回収して妖力回復に使ってもいい。これだけあればかなり好き放題妖力を使えるかな。…まぁ、これから試そうと思っていることは、どれもこれも妖力の消費が重そうなものばかり。五個だけだとちょっとだけ心配だったんだよね。

 

「残りの金剛石は預かっててくれませんか?」

「うへぇ。これ、すっごく重いんだよ?…いいけどさぁ」

「すみませんね。わたしに出来ることなら何か代わりにしてあげましょうか?一つや二つくらいならやりますよ」

 

そう言うと、わたしの背中にこいしの重みが加わった。顎が左肩に乗せられ、そのままもたれ掛かってくる。

 

「じゃあ、呼ばれるまでこのままでね?」

「そのくらい、お安い御用ですよ」

「それと、次の幻香は派手なのがいいなぁ。あっと驚くようなの」

「…ちょっと考えさせてください」

 

派手なのとか、あんまり考えていなかったんだけど。今から考えなくては。

 

 

 

 

 

 

結局、いまいち派手なものが思い付かなかった。マスタースパークの系統が一番派手だと思うんだけど、それ一辺倒はなぁ、と思うとそれ以上がなかなか思い浮かばない。悩みを抱えたまま呼ばれ、そして細身な対戦相手を目の前にしても考えている。

とりあえず、後半部分のあっと驚くくらいは満たしておこうかな、と思ったところで勝負が始まった。

 

「お?」

 

そして、対戦相手が忽然と消えてしまった。…いや、わたしの周囲から引っ切り無しに風切り音が響いている。そこら中の地面から踏み締める音が伝わってくる。どうやら、わたしに視認出来ないほどの速さで動き続けているのだろう。

考えながらだと怪しいな。ちゃんとするか、と目を凝らす。…あ、微かだが見えるな、これ。動き続ける彼の姿を目で追うが、どう仕掛けたものか…。

 

「どうやら、雑魚では、ない、らしい…。妖術で、身体強化した、この、俺を、目で、追えるとは、な…」

「…まぁ、貴方より速い人を知っていますからね」

 

というか、彼女より速い存在がいてたまるか。零秒だぞ、零秒。時を止めて活動出来る存在がそんなポンポンいたら困る。

そんなことを考えていたら、頬に衝撃が走った。一瞬、何が起きたか分からなかったが、死角から接近して攻撃、即座に退避したのだろう。手の甲で頬を擦り、舌で口内が傷付いてなか確かめる。…うん、速いけどかなり軽いな。今のところは大したことなさそう。

 

「だが、追える、だけ…。お前の、攻撃、俺には、当たらない…」

「…ふぅん。じゃあ、まずはその自慢気に語った宣言を潰しましょう!」

 

わざとらしく両腕を広げ、声高らかに宣言する。観客が一瞬騒めくが、そんなことはいちいち気にしない。右手を軽く握り締め、顔の横の辺りまで上げておく。

そして、目を瞑ったままその場で裏拳を振るう。

 

「無駄、だ…。当たるわけ――ぶがあっ!?」

 

そして、彼の鼻っ柱を圧し折った。ガシャァンと割れる音を聞きつつ目を開いて振り向き、地面を無様に転がっていく姿を見下ろす。

 

「気分はどうだい?」

「何、が、起き…っ?」

「聞いてないか」

 

彼自身も何が起きたのかよく分かってないだろうねぇ。だって、彼はわたしに近付こうとすらしていなかったのだから。それなのに、気付いたらわたしが振るった裏拳の目の前にいて、どうすることも出来ずに喰らったのだから、

タネは簡単。空間把握をして動き回る彼の位置を把握し、動きも頭に叩き込む。次に、その瞬間のみを切り取ってわたしに向かっていたところで、わたしに向かって伸びるガラス棒を彼に重ねて創造。すると、彼はその瞬間に動いていた勢いそのままにガラス棒から押し出され、わたしの目の前まで弾き出された。そして、あらかじめ振るっていた裏拳を喰らった。それだけ。

 

「ま、次動かれると面倒だ」

 

わたしは刀を四本創造し、彼の両手両足に射出する。動転していた彼は避けることもなく貫かれ、そのまま地面に縫い付けられた。短い悲鳴を上げたが、知るかそんなこと。

 

「刀は好きかい?ちなみに、わたしはそこまで好きじゃない」

 

その答えを聞く前に、地面から大量の刀が生えた。まぁ、地面の中に刃を上にした刀を大量に創っただけなんだけど。まるで剣山のようになった彼の身体だけど、一応刺さったらヤバそうな急所は外しているつもりだ。殺しちゃあいけないからね。けれど、地底の妖怪なら心臓に一つや二つ刺さっても死ななさそうだよね。頑丈だし。

悲鳴を上げる暇すらなく、そもそも悲鳴を上げられるはずもなく、彼は動かなくなった。じわじわと地面に血が広がっていく。意識はとうに失っているだろう。

そんな彼の顔を見下ろすようにしゃがみ込み、見下しながら言ってやる。

 

「当たる当たらないじゃねぇよ。当てるんだ。聞こえてるなら、覚えておきなよ」

「勝者、八十四…!」

 

立ち上がりながら数多の刀をまとめて回収すると、すぐさま妖怪達が穴だらけで血塗れな彼を持っていく。きっと治療を施されるのだろう。

…ま、派手だったかどうかは知らないけれど、目的通りあっと驚かせるくらいは出来たんじゃないかな?

 


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