東方幻影人   作:藍薔薇

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第381話

大ちゃんがゆっくりと上がっていくのを、姿が見えなくなるまで手を振って見送った。さて、わたしはさっさと戻って旧都の建て直しの手伝いをしに行きましょうか。

 

「それでは」

「チッ」

 

舌打ちって…。パルスィさん、わたしは貴女に何かしましたか?…したな、色々と。ま、いちいち気にしても仕方ないし、急いで喧嘩跡地へ向かうとしましょうか。

妖怪達がほとんどいない屋根の上に跳び乗り、一気に駆け抜けていく。走り始めた頃は何か色々なものを投げ付けられたけれど、飛んできたものはどれもこれもわたしが走り抜けた後ろを通り抜けていった。時折屋根の上にいる妖怪は、頭上を跳び越えて抜かす。一回だけその屋根の上に乗っていた妖怪に木片を投げ付けられたが、木片を蹴り返して顎に当てたらそのまま滑り落ちていった。…頭から落ちていた気がするけれど、きっと大丈夫でしょう。丈夫だし。

屋根が途切れ、更地と化した旧都の一角に到着した。屋根から高めに跳躍し、空中にいる間に家々の建て直しをしている妖怪達をザッと見回す。…お、萃香見っけ。近くに妹紅とお燐さんもいるし、あそこに下りるとしましょうか。

 

「うにゃあっ!?」

「よ、っと。戻りましたよ、萃香、妹紅」

「お、幻香。やっと戻って来たか」

「き、急に脅かさないでくれないかいッ!?」

「脅かす?…あー、すみませんね」

 

着地の際に結構大きな音を立てちゃったけれど、このくらいなら平気だと思ってたよ。萃香と妹紅はわたしが下りる途中で気付いてたし。まぁ、お燐さんを脅かしてしまったのは確かなようだし、一応謝っておこう。尤も、謝罪の意思がほとんど感じられないわたしにお燐さんはまだ怒っているようだけど。…わたしにどうしろと。

わたしを睨んでくるお燐さんの視線から目を逸らすと、曖昧な微笑みを浮かべる妹紅と目が合った。

 

「二人はちゃんと送ったか?」

「えぇ、しっかりと帰しましたよ」

「ならよし。んじゃ、早速だが手伝ってくれや」

 

萃香にそう言われるが、何を手伝えばいいのやら。軽く周囲を見渡してみると、どうやら大きく分けて材木を運ぶ妖怪と家を建てている妖怪に分けることが出来そうだ。勇儀さんは一度に大量の材木を担いで運び、ヤマメさんは蜘蛛の糸を器用に使って家を建てていた。

 

「それじゃ、わたしは運ぶことにしますね。材木は何処にありますか?」

「それならあっちだな。あそこにちょうど取りに行ってる連中がいるから付いていけ」

 

そう言われ、萃香が指差した方向に体格のいい妖怪達がいかにも怠そうに歩いていた。流石にあの中に混ざる気にはなれないので、ちょっと距離を離して付いて行くことにしましょうか。

仮に振り返ってこちらに走ってきたとしても慌てることなく対処出来る程度に大きく距離を取って妖怪達に付いて行くけれど、相当足の動きが遅い。脚の長さだけでも彼らの一歩のほうが大きいはずなのに、わたしの普段の歩幅より小さくなってしまうくらいには遅い。

しかも、耳を澄ませばまたかよとか、だりぃよなぁといった愚痴が聞こえてくる。…まぁ、萃香達が地上からやってきた時に派手に破壊され、その建て直しが済んで間もない頃にまた破壊されては愚痴の一つや二つくらい出てしまうだろう。

 

「…ようやく着いたかな?」

 

ぶつくさと文句を言い合いながらトロトロと歩く妖怪達に付いて行くこと数分。それなりに大きな屋敷の中に入っていくのが見えた。そして、入っていく彼らとすれ違うように材木を肩に担いだ妖怪が出てきている。おそらく、あの中に材木が貯蓄されているのだろう。

そうと分かれば一気に加速し、その屋敷の中に入っていく。中には数百本はあろう丸太。さて運ぼうかと思ったら、出入口の陰に立っていた妖怪に呼び止められた。

 

「なぁにしに来たんだぁ、地上のぉ…?」

「材木を運びに。まだ旧都の建て直しが終わっていませんからね」

「そぉかぁ…。そぉれならぁ、さぁっさと運びなぁ…」

 

そう言いながらシッシと手を払われた。よし、言われたとおり運ぶとしましょうか。

とりあえず、丸太を一本肩に担ぐ。…あれ、軽いなこれ。中身を虫に食われていないよね?そう思って丸太に耳を当てて二、三回コツコツと叩いたけれど、しっかりの中身のあるいい音が響く。…まぁ、中身があるならいいか。もう片方の肩にもう一本担ぎ、愚痴っていた妖怪達を一瞥してから屋敷を出た。

わたしが丸太を持っているからか、道行く妖怪達が自然と道を空けてくれるので、その空いた道を走り抜ける。それにしても、やけに軽いなぁ…。それなりに大きな丸太なんだけど。…ま、軽くて丈夫なのはいいことだ。無駄に重いよりはいいでしょう。

喧嘩跡地まで走り切り、家々の建て直しをしている妖怪の近くに置いておく。わたしに気付いて礼を言ってくれたようだけど、それを聞く前にさっさと走り出す。礼を言ってくれるのはありがたいけれど、今はそれを聴くために立ち止まるよりも少しでも早く一本でも多く運んだほうがいい。

材木が貯蓄されている屋敷まで走っている間に、一度に持ち運べる数を増やす方法を考える。せっかく軽いのだから、一度に二本ずつではもったいない。…まぁ、縄か何かで結べばいいよね。それなりに丈夫な紐を創っておこうかな。あとで回収すれば妖力消費もほぼしないし。…うん、前後の二ヶ所を結ぶために二本創造したし、長さもこれだけあれば大丈夫でしょう。

屋敷に向かう途中で、あの愚痴っていた妖怪達とすれ違った。一人一本肩に担いで持ち運んでいた。…おいおい、せめてもう一本くらい担いでもいいと思うよ?わたしよりも体格いいんだからさ。…いや、わたしよりも前からやっているのだし、疲れているのかもしれない。そんなことをわたしの口から言うのは酷だし、何より面倒なことになりそうだ。止めておこう。

 

「とりあえず、っと」

 

屋敷の中で丸太を四本転がし、それらを先程創った縄で結んで固定する。肩に担ぐには太くなってしまったので、背中に乗せることにした。前に体を倒せば走る際に丸太が足にぶつからずに済みそうだ。

最初と同じように道を空けてくれる妖怪達に感謝しつつ、旧都を走り抜ける。…んー、まだ持てるかなぁ。あと、四本だとどうしても固定が甘くなって丸太がぐらついてしまう。次は七本で結ぶことにしよう。

家々の建て直しをしている妖怪の近くで縄を回収して丸太を転がし、すぐさま屋敷へと向かう。丸太七本を結ぶにはあの縄ではちょっと短いと感じたので、また新たにちょっと長めの縄を二本創造する。

屋敷の丸太を七本転がし、縄で結んで固定して背負う。…んー、まだ持てそうかなぁ。縄を解き、もう三本丸太を追加して結ぶ。…うん、このくらいなら走っていけそうかな。そう思いながら丸太の束を背負い、旧都を走っていく。

喧嘩跡地と屋敷を何度も往復し、材木である丸太を運んでは転がすを繰り返していると、屋敷に走っていこうとしたところを勇儀さんに肩を掴んで止められた。

 

「おい、幻香。もう十分だ。それに、あんたが向かう屋敷の丸太はもうほとんど運び切っただろ?」

「あ、そうなんですか?まぁ、確かにほぼ全部運びましたけれど、本当に十分なんですか?」

「あぁ、あそこ以外にもいくつか材木を溜めてるところはあるしな。…ま、ここ最近で随分使っちまったけど」

 

そう言って勇儀さんは若干遠い目をして喧嘩跡地を眺めた。…うん、ここら一帯は真新し家々で囲まれることだろう。建て直しはまだ終わっていないようだけど、言われてみれば材木はそこら中に転がっているようだし、確かにもう十分かもしれない。

そんなことを思いながら喧嘩跡地を見渡していると、勇儀さんにバシッと背中と叩かれた。…うげっ、かなり痛い…。ヒリヒリする…。

 

「ま、あれだ。ありがとよ」

「こうなった責任はわたしにもありますからねぇ。気にしなくていいですよ」

「あっそうかい」

 

そもそもの喧嘩の相手は妹紅で、わたしがここに来なければ起こることのなかった損害と言える。萃香から手伝えと言われなかったら、もしかしたら手伝わなかったかもしれないから、礼を言われるのは違う気がするし。

もう使わないであろう縄を回収し、大きく伸びをする。…あー、疲れた疲れた。さて、妹紅と萃香を探してこれからどうするか話そうかな。出来れば地霊殿に戻って休みたいけれど、何処かのお店で食事になるかもなぁ。ま、面倒事にならなければ何でもいいや。

 


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