東方幻影人   作:藍薔薇

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第365話

ベッドに横になって天井を見上げる。隣ではたてさんがわたしに背中を向けて横になっているが、まぁ気にすることではない。考えることは、さっきまでやっていた結果のことだ。

端的に言えば、成功した。箱の大きさや障害物の配置、球体の大きさの変更をして何度も繰り返してみたが、最終的にはどの球体だろうがどんな箱の中だろうが関係なくほとんど障害物にぶつからないようになった。障害物に対してどのように曲がり、どうすればぶつからずに済んで可を得ることが出来るか。それを学習させることは出来た。

ただ、それをどうやって応用させればいいのだろうか?精神とはそんな簡単なものではない。これと同じように学習させると仮定して、どうやって可と不可を判別する?とりあえず、わたしがその都度やればいいのか?…それは非常に面倒くさいし、そんな時間を掛けたくない。それでは、傷付かなければ可というのはどうだろう?…仮に出来たとして、最終的に憶病に引き籠る結末が見える。なら、最初から出来るだけ大量の基準を並べておくか?…入れていない基準に出くわしたらそこが無採点となって、何処かで齟齬が生まれそうだ。…やっぱ難しそうだなぁ、生命創造って。

そう結論付けたところで視界の端から妹紅の顔がにょっきりと出てきて、わたしの顔を見下ろしながら言った。

 

「なんか妙なこと考えてる顔してるな」

「失礼な」

 

確かに妙なことかもしれないけど、わたしの目標の一つなんだ。わたしなんかがやってしまっていい行為なのか知らないけどね。けれど、まぁ、まだ誰にも止められていないしいいや。止めろと言われてもやると思うけど。

妹紅が退く余裕を作るためにゆっくりと体を起こし、わたしの部屋を見る。フランと大ちゃんは、こいしが持ってきた賽子を使って簡単な遊びをしているようだが、かなりの大差でフランが負けている模様。相当悔しそうな顔を浮かべてるし。…まぁ、しょうがないね。こいしが使っている賽子、あれグラ賽だし。

 

「…今から旧都に出掛けるんですが、一緒に来ますか?」

「何処行くんだ?」

「特に決めてませんよ。ただ暇潰しに行くだけです。行けば勝手に暇が潰れますからね」

 

旧都を歩いていると、喧嘩や弾幕遊戯を挑まれる。賭博場に行くと、イカサマを疑われたり疑われなかったりする。それはそれで楽しい時間だ。…面倒事に発展することも多いけれども、それはご愛嬌ということで。

地上の存在である妹紅達を旧都へ誘うのは、さとりさんがわたしと一緒ならいいと言っていたこともあるけれど、地霊殿に籠り続けるのもどうかと思ったからだ。不可侵条約を破ったとはいえ、せっかく来てくれたのなら旧都を一緒に歩きたい。

 

「少し準備するんで、他の皆にも訊いておいてくれると嬉しいです」

「分かった。…ついでに萃香見つけれねぇかなぁ」

「何処かの酒場にいるでしょ、きっと」

 

とりあえず、無駄に大量にある金属板はここで使うべきだろう。人が多くなりそうだし。

 

 

 

 

 

 

小さな皮袋を軽く投げ上げると、ジャラジャラと金属同士がぶつかり合う音が鳴る。中に入っている金額は約六百。普段持ち歩く金額の二十倍くらいだ。いつの間にかこんなに貯まっていたのか…。正直、自分でもビックリしてる。

わたし達に物凄く微妙な視線が集まっているのを感じる。わたしが投げ上げた金属板の音に惹かれ、そしてわたしも含めた地上の存在に目を見張る。時折殺気混じりの視線をいつもより多く感じるが、こちらに仕掛けてこなければ気にしなくていいだろう。結局こいしも含めて全員出て来ているのだから、妹紅とフランだけでも過剰防衛だろう。

 

「で、お姉さんは旧都の何処に行くの?」

「決めてません。…まぁ、とりあえず優しめの賭博場にでも行ってみましょうかねぇ」

 

大人数で旧都を楽しむとなると、食事処か賭博場くらいしか思い付かない。…酒場もあるけれど、わたしが呑まないから却下だ。

ちなみに、地霊殿を出る間際にすれ違ったお燐さんに、旧都に出掛けることを一応伝えておいた。これでさとりさんにもわたし達が出掛けていることは伝わっているだろう。

 

「賭博ですか…。あの、ここのお金を持っていないのですが…」

「大丈夫大丈夫。わたしが無駄に持ってるお金をあげるから」

「えっ、私にもくれるの?…貰っていいのっ!?」

「その前に、ここの金について教えろ。どれがいくらだ?」

「銅色の四角いのが一でー、銅色の丸いのが十でー、銀色の四角いのが百でー、銀色の丸いのが千でー、金色の丸いのが万だよー!」

「へぇ…。ん?ちょっと待て。銀色の丸が千…?」

 

こいしの答えに妹紅が首を捻っているが、何かあったのだろうか…。

さて、ここで気を付けないといけないのはフランに銀板を手渡さないことだ。吸血鬼が触れると火傷してしまう、致命的な弱点の一つだから。こいしが銀と言ったときに若干震えてたしね。賭博で下手な勝ち方をすると銀板を受け取ることになりかねないが、そのときはどうしようか…。…あ、そうだ。

 

「フラン」

「なぁに、お姉さん?」

「ちょっと両手を出してください」

「いいけど、どうして?」

 

そう言いながらも出してくれた両手から少し離れた、肘と手首をちょうど真ん中あたりを掴む。そして、フランの両手のほうに妖力を薄く流して空間把握。それに並行して、金属板を入れている皮袋にも空間把握。フランの手の形と皮袋の素材を上手いこと合わせ、フランの両手に皮手袋を創造する。

 

「…よし、これで気休めにはなるでしょう。動かし難いでしょうが、そこは我慢してください」

「えっと…。あ、そっか。ありがと、お姉さん」

 

銀が近付くことによる嫌悪感は防げないだろうけれど、接触による火傷は防げると思う。

ところで、はたてさん。どうしてわたしがフランに皮手袋を創っているところをカメラで撮ったんですか?…まぁ、なんか新聞刷っていないみたいだし、さとりさんに面と向かって良識云々言っていたし、妙なことには使わないでしょう。きっと。

 

「賭博にはどんなのがあるんだ?」

「場所によって違いますが、今回行くところは二択を選び続けたり、賽子の出目で勝敗を決めたり、将棋みたいなので勝敗を決めたり…。まぁ、色々ですね」

「将棋か。何が違うんだ?」

「駒が多い」

 

なんか酒を呑んでる奴が次世代の王様に成ったり、大鷲が桂馬以上に自由自在に飛んだり、まぁ色々だ。やったことないし、やっても負ける未来しか見えないので、詳しくはよく分からない。興味もなかったしね。

 

「こいし、貴女はいくらか欲しいですか?」

「貰えるものは貰っとくー」

「分かりました」

 

えぇと、わたし、妹紅、フラン、大ちゃん、はたてさん、こいしの六人がいるから、均等に分けるなら大体百ずつだな。…けれど、それ以外にも使うだろうし、半分の五十ずつで構わないだろう。そう考えながら、皮袋の中を開けて中身を確認する。出来るなら一が五十枚あってほしいけれど、あったかなぁ…?…んー、見た感じ四十枚あるかないか、ってところかなぁ。よし、わたしとこいしは細かい一はなしにしよう。

そんなことをしていると、目的地の賭博場が見えてきた。ここでも賭博場の声が聞こえてくる。おー、賑わってる賑わってる。

 

「…私達が入っても大丈夫でしょうか…?」

「何かあればすぐ言ってください。どうにかしますから」

「はは…。痛くしないでくださいね…?」

「そればっかりは分かりませんねぇ…」

 

そう言いながら右手を軽く握っていると、大ちゃんに苦笑いされてしまった。だって、しょうがないじゃん。結局のところ、勝てば得られる旧都では最終的に力が物を言うんだから。そうじゃなければ、喧嘩に発展することなんてない。

ま、飽くまで最終的には、だ。わたしの前にこいしを出して止めさせるよ。…それでも駄目なら、まぁ、やるしかないよね。うん。

 


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