待っている間は二人と雑談しながら、大きめの樹を複製して回収するという、複製回収の特訓を続けた。その結果、心なしか早くなったような気がする。この調子で一瞬で回収出来るようになったらいいな。
お腹が空いて来たかなー、と思ったら大ちゃんが果物を持ってきてくれた。大分楽になったというリグルちゃんも一緒になって食べたが、わたしも何か持ってくれば良かったかなとちょっと考えてしまった。干し肉とか。
食べ終わるとすぐにリグルちゃんは霧の湖の上へと飛んでいき、大きく手を振りながらわたしを呼んできたので、軽く伸びをしてからそちらへ向かった。到着するまでのわずかな間に、周りを確認。複製するのにちょうどよさそうなものを探しておくことも忘れない。
「もう大丈夫なんですか?頭思い切りぶつけたのに」
「大丈夫大丈夫!さっ、始めようか!」
本当に大丈夫だろうか、と考えたが本人が大丈夫だと言っているのなら信じてあげよう。途中でふらついたりしたら無理矢理でも中止すればいいし。
大ちゃん曰く、リグルちゃんはチルノちゃんと大体同じくらいの強さだそうだ。勝率もほぼ五分五分。なら、勝つのは意外と簡単かもしれないと考えてしまうのはチルノちゃん相手に被弾したことがないからだろう。
そんなことを考えていたら、チルノちゃんと大ちゃんが来たので、いつものように大ちゃんに審判をしてもらおう。
「大ちゃん、始めていいってさ。被弾三回スペルカード三枚でお願い」
「分かりました。リグルちゃん対まどかさん。よーい……、始めっ!」
『幻』展開。直進弾用の高速低速を各四個に追尾弾用七個の計十五個。チルノちゃんはこの数で十分だったし、とりあえずはこれでいいでしょう。
「先手必勝!灯符『ファイヤフライフェノメノン』!」
そう言い放つと、緑色の弾幕がリグルちゃんの周りを旋回し、広がってきた。弾幕の間が意外と狭い。チルノちゃんはわたしより小さいからこの隙間を普通に避けられるんだろうけれど、わたしにはちょっと難しそうだ。ちょっと離れつつ安全に避けることにしたが、これ、やっちゃっていいのかなあ…?いいか。
「鏡符『幽体離脱・集』」
「ん?うわっ!ぎゃあ!」
自分を囲むように弾幕を放つと逃げ場がなくなるんだよなあ、このスペルカード。ある程度の実力者になればきっとどこかを相殺させて打ち消し、出来た隙間を抜けて見せるんだろうけれど、リグルちゃんには出来なかったようだ。チルノちゃんは大丈夫そうだったから使ったのだけど、ほぼ全ての複製を受けたリグルちゃんは無事だろうか…?
「痛ってて…。何だよアレ!」
「わたしの自慢のスペルカードです」
「……ちょっとまずいかも…」
「何がまずいんですー?――おっと」
「私のスペルカードに対してそのスペルカードを毎回やられたら私負けちゃうよー」
「分かりました、このスペルカード、鏡符『幽体離脱』はこの試合ではもう使わないと宣言しましょう」
今回限定ルール、鏡符「幽体離脱」系使用不可を追加。まあ、鏡符「幽体離脱」の他に使えるスペルカードは二枚あるので問題ないからいいけどね。
それにしても、会話しながら避けるって難しい。つい、意識が会話のほうに向いちゃって弾幕に当たってしまいそうになる。もうちょっと余裕持って避けられるように離れようかな。
「なら勝てそうだな!よーし、やるぞー!」
「頑張ってくださいなー」
会話終了と同時にリグルちゃんのスペルカードも終了。お互い一枚ずつ使ったが、わたしは被弾していないので有利だ。
右手の人差し指の先端に妖力を溜め、一つの妖力弾を作る。性質は直進弾で速度は自分が出せる最速。チルノちゃんは毎回当たっているこの攻撃。リグルちゃんは避けることが出来るかな?狙うタイミングは瞬きした瞬間。弾幕を避けつつ、機会をうかがう。
「――ッ!」
「っ!うわっとぉ!」
おー、回避して出来ましたか。眉間に向かって進んで行った直進弾は勢いよく体を右側に反らしたことでリグルちゃんに当たることなく、後ろに生っていた木に着弾。遠くて見辛いが、いい感じの弾痕が出来ているように見える。
「リグルちゃん凄い凄い!チルノちゃん、いつもこれに被弾しちゃうんですよねー」
「そうなの?ふ、ふふーん!どうだチルノ!」
「むぅ!このくらい本気出せばアタイだって避けれるしー!いつもはわざと当たってるだけだしー!」
「見栄っ張りは止めようよチルノちゃん…」
リグルちゃんとチルノちゃんがお互いに睨み合ってしまった。勝負中なのに
「おっと、今はチルノなんかに構ってたら負けちゃうな!」
「なんだとー!」
「チルノちゃん抑えて抑えて!」
そう言ってリグルちゃんはこちらに意識を向けたが、チルノちゃんは顔を真っ赤にしてリグルちゃんを睨み続けている。どうやら先延ばしになったようです。わたし、この勝負が終わったら始まるだろうあの二人の喧嘩を止めるんだ…。
「どんどん行くぞ!蠢符『リトルバグストーム』!」
「本当に囲みますねえ…。見た目が凄く綺麗だけど、わたしにはこういうの思い付きそうもないなあ…。動かすのも大変そう」
円を描くように弾幕を放ったと思ったら、リグルちゃんを囲むように停止し、順番に二つに分裂して襲い掛かってきた。こんな感じに統一感とか見た目の美しさを考えないといけないんだろうけれど、わたしは効率を真っ先に考えちゃう悲しい頭してるからなあ…。
だから弾幕が薄い間に急上昇し、右手に見える範囲で最も大きな樹を複製して即行でブン投げてしまう。
「複製『巨木の鉄槌』ッ!」
「えぇ!?また落ち――ガボガボっ!」
スペルカード強制終了。悪いけれど、勝ちに来ているのだからこのくらいは許してほしい。すぐに複製した樹に降り立ち、回収する。するとすぐに霧の湖からリグルちゃんが飛んで出てきて、頭を思い切り振り水を飛ばした。スィーッと滑るように動いて飛んできた水を避ける。
「あー!また濡れたー!」
「ごめんね、悪いけれどこんな感じのスペルカードしか残ってないの。この勝負が終わったら新しい服創ってあげるから」
「…新しい服もいいけど甘いものが欲しい」
「じゃあ今度持ってきてあげますから。さて、続けます?」
「もちろん!」
お互いにスペルカードは二枚使用。しかし、被弾はリグルちゃん二回のみなのでリグルちゃんはスペルカードを使いにくい状況だろう。勝つためには、スペルカードを使って三回被弾させるよりも相手のスペルカードを避けきったほうがいいからだ。
そこでわたしは『幻』を変更することにした。十五個全てを超低速の阻害弾用にすることで、相手の移動範囲を狭めようという腹積もりだ。これから使う予定のスペルカードは相手が移動できる範囲が狭ければ確実に当たるだろうからね。
「うっ、避け辛い…」
「そういう弾幕ですから、頑張ってくださいね」
超低速の弾幕。つまり、密度が圧倒的に高くなるということだ。視界に映る弾幕が多くなると自然に動きが遅くなり、避ける方に意識が向きやすくなる…と思う。わたしはとにかく弾幕が薄いところに逃げようと考えるので違うけれど。
攻撃が疎かになり、リグルちゃんの弾幕が薄くなってきたので、右手に妖力を溜め始める。僅かに光っているが、リグルちゃんは今、わたしの『幻』が放つ弾幕に気を取られて気付いていないようだ。
しかし、このスペルカードの名前決めてなかったなあ…。まあ、名前はあとでちゃんと決めるとして、今はこれでいいかな。
「模倣『マスタースパーク』ッ!」
体を思い切り右側に捻り、一呼吸入れてから勢いよく体を戻しつつ右腕を前方へ突き出し溜められた妖力を一気に解放する。霧雨さんと比べたらまだ弱々しく見えるが、今は十分だ。
「嘘!?避けれな――」
高密度の弾幕を掻き消しながら妖力の濁流がリグルちゃんを襲い、そのまま岸辺に無造作に生えていた木々を薙ぎ倒した。そして光が収束したら、霧の湖に浮かぶリグルちゃんがいた。
あ、やり過ぎたかも…。