東方幻影人   作:藍薔薇

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第32話

歩きながらお酒で濡れてしまった手を軽く振りつつ周りを見渡す。うーん、知ってる人は霊夢さんと霧雨さんくらいかー。…まあ、聞いておきたいこともあるような気がするし、話しかけてみようかな。

 

「こんばんは、お二方。随分美味しそうに召し上がっていますね」

「ん?メイドにしちゃあ頭が邪魔じゃないか?」

「違うわよ。声で分かるでしょう?えーと、誰だっけ?」

「おい分かってねーじゃないか」

「わたしですよ、わたし」

 

猪頭を軽くずらして顔を覗かせてみせるとどうやら思い出したようで、二人は食事の手を止めた。

 

「あら、里の手配妖怪がわざわざ私に挨拶なんて」

「あー、一応聞きたいことがー………うん、あるんですよ」

「何だよその間は」

 

うん、聞きたいことあったわ。ざっと三つくらい。

 

「まず、一応確認ですが、あの騒動の後で何か不幸とか不運とか怪我とか疲弊とか病気とかそんなことはありましたか…?」

 

家にいれば週に一回慧音が来て、話し相手になってくれたりスペルカードについて話したり日用品の補充をしてくれたり。暇なときに来る妹紅さんは何故か体術を軽く教えてくれた。

紅魔館に行けば、美鈴さんはいつものように目を軽く瞑りながら門番していたし、咲夜さんも忙しそうに給仕をしていた。パチュリーは喘息気味なのは仕方ないがそれ以外は健康で、フランさんはいつでもどこでもはしゃぎながら話しかけたりスペルカード戦したりしたし、レミリアさんは優雅に紅茶を飲んでいた。

霧の湖に行けば、チルノちゃんの暴走を大ちゃんがいつものように止めて、光の三妖精は悪戯を仕掛けようと必死になっていたことのも微笑ましい。たまにミスティアさんが来て一緒に遊んだこともあった。

わたしが会った人達はこの二ヶ月の間、いつものように過ごし、妙な怪我や不幸は見られなかったと思う。

けれど、もしも里の人間共の言うことが本当に起こることがあれば?と、ふとした時に考えてしまう。その都度自分自身は否定しているが、人間はそうなるかもしれないとか確率がどうとか色々思いついてしまう。まあ、人間だからというのは咲夜さんが健康体だから関係ないといつも否定している。

しかし、もしもこの二人にそんなことがあったら?そう考えてしまう要因である二人に聞いておいて、僅かでも不安は取り除いておきたいのだ。

 

「…ないわ。まあ、お賽銭がものすごく少ないのがアンタのせいだったら今即行でブッ飛ばすけどね」

「博麗神社でしたっけ?場所知らないんで流石に…」

「ま、あそこの賽銭はいっつも空っぽだけどなー。パチュリーのとこの本借りようとしたら捕まったのはお前のせいでいいのか?」

「……よくないですし、そもそも貸出禁止ですよ」

「そう硬いこと言うなって。私が死ぬまで借りるだけだ」

「……それってもう盗むと同じなんじゃ…」

「妖怪の寿命は私よりずっと長いからなー。六十年くらい大丈夫だろ」

 

いいのかそれ…。今度パチュリーに一応伝えておこう。もう知っているとは思うけど。

 

「まあ、里の人間達が言うように本当に魂が削られている可能性を考えて調べたんだけどね」

「調べた…?誰が?誰の?何を?どうやって?」

「私が私の魂、というより霊力をちょっとね。まあ、削られてる感じは一切しなかったから問題ないと判断したわ」

「あの、どうやって?」

「秘密」

 

方法はいいとして、二人とも見た感じは健康そのもののようだし、本人が問題なさそうなことを言っている。どうやら里の人間共の妄言ということでよさそうだ。この認識が里に広がることは…ないだろうな。

 

「もうこの辺でいいでしょう。さて、次にしましょうか。里って今どんな感じですか?」

 

普段は慧音から聞いているけれど、他の人の視点というのも聞いておきたい。何か新しいものがあるかもしれないから。

 

「普段は里に下りることはないからねー…。一ヶ月くらい前に下りたときはアンタの捕縛依頼、討伐依頼、封印依頼が幾つか来たわねえ。まあ面倒だから断ったけど」

「私にも捕縛、討伐依頼来たな。後は、最近里に現れないから外に出て探し出すかって話が一時期持ち上がってた。けどすぐに立ち消えになったな。中に入って来ないならそれでいいとか我らに恐れをなしただか何だか言って」

「はあ、やっぱり出てるんですね。討伐依頼…」

 

妖怪があまりに度が過ぎたことをすると専門家や博麗の巫女に、この妖怪を倒してくれとか、この異変を解決してくれみたいなことを言われる。里の中では大罪人になっているわたしは討伐、つまり殺されろと言われる程らしい。捕縛なんかは絶対後で処刑行きだろうし。

もしかしたら言ってないだけで、慧音にもあったのかも。…いや、前に協力依頼が来たと言っていたから、それが討伐依頼だったのかも。

 

「まあ、大体予想通りですねえ…。封印とかちょっと怖いんですけど」

「かなり強力なのだと千年単位でいけるわよ。もしかしたら万年も」

「やめてくださいお願いします」

 

封印とかされるほど悪いことしてないとは思うけれど、もしされたらどうなるか分かったものじゃない。千年後とか想像出来ないし。

いや、今はそんなことどうでもいい。それよりも里のこと。

 

「えと、他には何か…?」

「ないわ」

「特にないぜ」

 

なら、このことはもう切り上げよう。

 

「そうですか、ありがとうございます。さて、話はガラリと変わりますが霧雨さん」

「ん?私か?」

「ええ、貴女です。実は前に受けたスペルカードのマスタースパークでしたっけ?あれに感銘を受けましてねえ」

「へえ、なかなか嬉しいこと言ってくれるねえ」

「それであれのやり方をご教授願いたいと思ってたんですよねー」

 

あの悪戯兎、てゐとかいうやつにぶっ放すために。あの危険極まりない罠の恨みは忘れない…。

 

「ほう、じゃあ教えてやろうじゃないか。付いてこれるか?」

「おー!やってやりますよー!」

「よし!いい返事だ!いいか!?弾幕はパワーだぜ!」

「パワーだよー!」

「うっさいわねぇ…。そういうのは外でやってなさい」

「あっ、すみません」

 

何だかおかしなテンションになってしまったが、霊夢さんの言葉で落ち着いた。

霧雨さんも落ち着いたようで、ポケットからあの正八角形のものを取り出した。

 

「これがミニ八卦炉だ。実験に使う弱火から戦闘に使う膨大な火力まで何でも御座れだ。本気出せば山火事くらい引き起こせるんじゃないか?」

「へえ、それは凄いですねえ…」

 

そう言いながら軽く手を伸ばすと、その手は叩き落とされてしまった。

 

「おっと、勝手に人のものは盗らないほうがいいぜ?後で返すとか言われても嘘だって分かってるからな」

「……パチュリーが貴女に言うべき台詞なんだろうなあ」

 

とりあえず、叩き落とされた手をさすりながら背中に隠し、そのミニ八卦炉を複製してみる。が、そんな膨大な火力が出るとは思えなかったし、ためしに魔力が出るかやってみたが出ることはなかった。きっと見た目は複製出来たが、中身(性能)が複製出来なかったのだろう。触れてやれば出来るかもしれないが、内側までちゃんと見せてもらわないと駄目かもしれない。

 

「これ使わないと生活成り立たないくらい頼り切ってるからな。盗られたら困る」

「大図書館の本は?」

「盗ってない。借りてるだけだからな」

「それって屁理屈ってやつじゃないですか?」

「屁理屈だって立派な理屈さ。…話が逸れたな。私のマスタースパークはこのミニ八卦路を通して魔力を放っているだけだ。お前はこういう道具ないだろう?だから妖力を溜めてから撃ちだせばいいんじゃないか?」

「それで出来たらいいんですけどねえ…」

 

正直言って、わたしは妖力総量が少ない。あんな膨大な魔力を再現するとなるとどれほど使わないといけないか…。

 

「ま、練習あるのみだな!何事も繰り返し試行錯誤だ」

「…よし、今度練習しますか」

 

もし出来たならば、より少ない妖力で放てるようにするとか、溜めて撃ち出すのならば、その溜め時間を短縮出来るようにするとか。

 

「…そんなの何となくで出来るんじゃない?」

「だー!何でもかんでもお前と一緒にすんな!」

「えー、霊夢さんって何となくで出来ちゃうんだ…」

 

才能ってのは恐ろしい。

 


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