東方幻影人   作:藍薔薇

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第3話

湖の向こうに目を凝らすと、紅い霧に同化して非常に見難いが、真っ赤な城のようなものが遠くのほうに見えてきた。城の周りには森が鬱蒼としている。きっとあの城が慧音の言っていた『紅魔館』なのだろう。あの中の何処かに図書館があるはずだ。

飛び続けている間の数十分間ずっと考えていたら、一つだけスペルカードのアイデアが思いついた。あとで試してみようかな。

そして、ようやく門の目の前に降り立った。門番をしているだろう女性が門の横で目を閉じている。瞑想でもしているのだろうか…。

普通に歩いて近づいてみる。こちらは突然の来訪者だ。挨拶はちゃんとしたほうがいい。

ある程度近づいたので「こんにちは」と言おうとしたその時。

 

「――グフゥッ!?」

 

門番の目がカッと開かれ、わたしの顔に高速の回し蹴りをぶち当ててきた。相当痛い…。

蹴られた頬をさすりながら、ちょっと様子を窺ってみると、門番さんはかなり緊張していて、空気が張り詰めるようだった。

そんな彼女がかなり怖い顔でこちらを向き、口を開く。

 

「あなた、私に変装してまでしてこの紅魔館に何か用ですか」

 

…なんという『来るんじゃねえ』オーラ!彼女の後ろになんだか黒い靄みたいなのが見える気がするよ!とりあえず笑顔で挨拶と要件の説明をしなければ。

 

「はい、少し調へたいことがございまして…。わたしは鏡宮幻香と申ひます、妖怪ドッペルゲンガーでふ。この紅魔館にあると聞いた図書館で調べごとをしたいのでふが、よろひいですか?」

 

蹴られた頬が痛くてちょっと言葉が変になってしまったが、ちゃんと伝わっただろうか?

すると、急に顎に手を当て、思案顔になる門番さん。中に入れてもいいのかどうか考えているのかな?

いざとなったらスペルカード戦を挑んで勝利し、無理矢理入れさせてもらうか?いや、そもそもスペルカードが一つしかないし、初めてのわたしに勝てるとは思えない。そもそも、そんなことをしたらわたしは侵入者扱いだ。落ちついて調べることも出来ない。

 

「…まあ、多分いいでしょう。中にいるメイド長に許可をもらってくださいね。もらえなかった場合、即帰ってもらいます」

「はひ、分かりました」

 

良かった。中には入れさせてもらえそう。しかし、メイド長にどうやって会えばいいんだろう?

 

 

 

 

 

 

中に入れてもらってすぐ目の前にメイドさんがいた。この人がメイド長なのかな?

 

「ようこそいらっしゃいました」

「あ、はい、どうもありがとうございまふ」

 

お互いにお辞儀をする。しかし、あちらのほうがとても綺麗な姿勢でしているので、とても見劣りがするだろう。

とりあえず、メイド長がいるかどうかの確認をする。もしいないとなると…いや、門番が中にいると言っていたのだから、ちゃんといるはずだ。

 

「あの、メイド長はいらっしゃいますか?」

「メイド長は私ですが、何か御用でしょうか?」

「あ、そうでしたか。えーと、図書館を使いたいのですが…、よろしいですか?」

「少々お待ちくださいね」

 

そう言ってメイド長さんは忽然と消えてしまった。瞬間移動!?

そういえば、あのメイド長、わたしを見ても驚きもしなかったなー。わたしが今まで見てきた人間妖精妖怪達はごく一部で、世界にはわたしを見ても驚かずに普通に対応してくれる人が溢れているのかも知れない。そう思うと、とても気持ちが楽になった。

 

5分ほど経ち、頬の痛みが引いたなー、なんて考えていたら、突然メイド長さんが目の前に現れた。予兆もなく現れるものだから、心臓に悪い。

 

「お嬢様から使用許可を得られました。どうぞ、ご自由にお使いください」

「あ、ありがとうございます!」

 

メイド長さんが歩き出したので、慌てて追いかける。図書館の場所を聞かなくては。

 

「あの、すいません。図書館はどこにあるのでしょうか?」

「では、ご案内しますね」

 

とても綺麗な微笑みと共に答えてくれた。わたしもこんな笑顔を自然と出来るようになれば、友達出来るかな?

 

 

 

 

 

 

かなり歩いた。そういえば、明らかに外見より広い空間が広がっている。どういうことなの?

 

「あのー、ここ、外見からは想像もつかないほど広いんですが…」

「それは、わたしの能力の応用で空間を広げています。さて、着きましたよ」

 

そう言われて見てみると、目の前にとても大きな扉があった。わたしの身長の3倍から4倍はあるんじゃない?これ。

そのまま扉をゆっくりと開けてくれるメイド長さん。ありがとうございます。

 

「中には司書をしていらっしゃる、パチュリー様がいらっしゃいます。詳しくはそちらへお伺いください」

 

そう言うと、また消え去ってしまう。そういえばメイド長さんと門番さんの名前聞いてない!聞いておけばよかったかも…。

ちょっと後悔しつつ、音を立てないよう図書室へ入る。お邪魔します。すると、後ろの扉がひとりでに閉まる。ギギギ…と軋む音が後ろから聞こえてきたから、ビクッとしてしまった。かなり怖い。

入ってみて、まず圧倒的蔵書量に驚いた。これは調べるのにとても苦労しそうだ。目的の本を探すのだけでも一苦労だろう。気合を入れておかなくては。頑張るぞ、おー!

本棚を軽く見回しながら歩いていると、紫色の髪の毛の女性が、ロッキングチェアに座って本を読んでいた。彼女がパチュリーという司書さんだろうか。

 

「こんにちは」

「ん…私…?」

「いいえ、違います」

 

紅魔館にいる人達は、わたしを見ても誰も驚かないなあ…。驚かないのは、わたしなんかよりもっと凄いものがあるのかも。あ、レミリアさんか。もしかしたら、ここなら友達になってくれる人と会えるかもしれない。

 

「ああ、こんにちは。珍しいわね、私にそっくりな人なんて」

「そういう妖怪ですから」

「あらそう。で、この大図書館に何の用?」

「えーっと、紅い霧について調べたいのですが…」

「あー、それならわざわざ調べなくていいわ」

 

何ですと。さっき気合い入れた意味ないじゃないですか…。

 

「え?知ってるんですか?」

「知ってるも何も、レミィがやったんだもの」

「レミィ…?誰ですか?その人」

「あー、レミリアのことよ。レミリア・スカーレット」

「へー、レミリアさんがー……って!あのレミリアさんがやったんですか!?」

「ええ」

 

軽い!言っている内容が凄いことなのに、口調が軽い!ていうか、レミリアさんってそんなこと出来るの!?

 

「そんなことも出来たんですね…。でも、何のために?」

 

人為的にやったことなら、何か理由があるはずだ。愉快犯でもなければ。

すると、何故が「それは…」と言いかけて、続きが話しづらいのか言いよどむ。

 

「昼間でも騒げるから、らしいわよ」

「はい?」

 

やっと教えてくれたと思ったら、想像よりかなり幼稚な答えが返ってきた。確かに、吸血鬼は日光に弱い。太陽が隠れてしまうほど濃い紅い霧が覆っていれば、確かに昼間でも外に出られるだろう。だけど、もっと壮大な理由があったと思ったのに…。

何だか微妙な空気になってしまった…。空気を変えるためにとりあえず、知りたかったことを聞くことにした。

 

「あ、あの!メイド長さんと門番さんはなんというのですか?聞き忘れてしまって…」

「メイド長は十六夜咲夜。で、門番は紅美鈴よ。私はパチュリー・ノーレッジよ」

「教えてくれてありがとうございます。わたしは鏡宮幻香。妖怪、ドッペルゲンガーです」

「そう、だから私にそっくりなのね」

 

ドッペルだし、とパチュリーは付け加えて言った。二人の名前が分かってスッキリした。もし帰りに会えたら、わたしの自己紹介をしておこうかな。

さて、知りたかった紅い霧の真相は分かったから、帰ってもいいのだけれど、どうせなら何か調べごとをしておきたい。何か知りたいことってあったっけ?んー、魔法の森の食用になる茸とか木の実、野草なんかを調べようかな。

 

「それではパチュリーさん、魔法の森で採れる、食べられる茸や木の実、野草なんかが載っている本はないですか?」

「えーと、確か向こうの側の左から3番目の本棚の上から2段目、真ん中あたりに『サバイバルin魔法の森』って本があったはずよ」

「あ、はい。ありがとうございます」

 

何そのタイトル…。

 

 

 

 

 

 

ホントにあったよ。誰だよこんなタイトルにしたの。軽く見てみたが、著者は書かれていなかった。

探すのには少し手間を取った。上から2段目の真ん中あたりと言われても、横幅がとても長い。真ん中と言っても、わたし5人が腕を広げても足りないくらいだった。

とりあえず、ゆっくり読み進めていく。あ、この茸って毒性だったんだ。頭痛、吐き気、嘔吐、手足の痺れなど。あの茸食べたときにおなか痛くなったのはそのせいか。

 

30分ほどで読み切った。何時でも閲覧できるように、複製しておこう。左手に持ち替え、右手を開く。そして、右手に新たな重み。

複製するときは、ちゃんと細部まで見ておかないとおかしなものが出来ることがある。それは、知らない部分は予想想像空想で補うからだ。例えば、板の片面のみを見て複製すると、たとえ裏に何か書かれていたとしても、それが複製されることはない。読んだことのない本を複製すると、表紙などの表面だけを複製し、中身が真っ白かつページ数が全く違う自由帳みたいなものが出来る。だから、こういう複雑なものはよく確認してからじゃないと複製することはあまりない。

また、家に帰ってからでもいいではないか、と思ったかもしれないが、複製するときには複製したいものを視界に入れておく必要がある。好きな時に出せて好きな時に消せるほど便利ではない。

一応、本物と複製を1ページずつ捲って、間違いがないか確認をする。…よし、問題なし。

本物を本棚に戻してから、複製した本を手に持ちパチュリーの元へ戻る。

 

「これ、とても為になりました。だからこの本、貰っていきますね」

「ちょっと待ちなさい」

 

止められた。何故。

 

「ここの本は持出禁止よ」

「そう言われても、これはわたしのものですよ?」

 

わたしが創ったのだ。文句を言われても困る。

 

「駄目なものは駄目よ。さあ、返してきなさい」

「本物はもう返して…あ、そっか、パチュリーさん知らないのか」

 

普段は慧音にしか見せていない『ものを複製する程度の能力』。最近は慧音とばかり話していたから、その調子で話してしまった。失敗失敗。

わたしはこの能力について説明する。一応、本棚から本物を持ってくる。二つになった『サバイバルin魔法の森』を見て、かなり驚いた顔をした。そして、すべてのページを細かく確認してから口を開く。

 

「…これ、本当に複製品なの?私が掛けた魔術結界がなかったら分からなかったわよ。こっちがあなたの創った複製品ね」

「はい、そうです。とりあえず、信じてもらえて何よりです」

「ちょっと見てみたいわね、その能力」

 

興味を持たれたようだ。うーん、何がいいかな…。

 

「じゃあ、今座ってるロッキングチェアを創りましょう!えいっ!」

「あら、さっきほど精巧な出来じゃないみたいだけど」

 

パチュリーさんが座っている隣に新しく創られたそれはあまり見ていないし、対象に触れずにやったから。見えていなかった部分――例えば台座とか――の模様なんかはわたしの想像だ。一度見せてもらえば、その模様でしか創れなくなるけど。

 

「へえ、改めて見せてもらうとなかなか便利そうね」

 

お気に召してもらえたようで何よりです。

他には何かあったかな…。あ、そうだ。こんなに大きな図書館の司書をしているのだ。きっと知識豊富で頭脳明晰に違いない。わたしのスペルカードについて一緒に考えてもらえないかな。

 


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