東方幻影人   作:藍薔薇

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第27話

「息子が病気になった!」「昨日まで元気だったのに!」「アンタを見てから急に!」「ああ、かわいそうに…」

 

――関係ない。

 

「お前のせいで祖母が死んだ!」「お前が里に来なければ!」「婆ちゃんは死ぬことはなかった!」「お前さえ来なければっ!」

 

――わたしは、関係ない。

 

「ウチの赤ん坊を返して!」「なんで殺したの!?」「ねえどうして!?」「何とか言いなさいよ!」

 

――そんな子は、知らない。

 

「お前のせいだ!」「殺せ!」「禍が!」「来るな!」「お前が!」「父さんを!」「殺した!」「全部お前の!」「病に伏した!」「返して!」「苦しんだ!」「不幸に」「気味が悪い…」「アンタがいなければ!」「お前さえ!」「お前のせいで!」「息子が!」「殺せ!」「来るな!」「殺した!」「禍が!」「娘を!」「お前が!」「近寄るな!」「殺せ!」「化け物!」「禍が!」「お前が!」「父さんを!」「化け物!」「死ね!」「全部お前の!」「爺ちゃんが!」「殺せ!」「化け物!」「死ね!」「全部お前の!」「病に伏した!」「返して!」「娘が!」「不幸に」「病に伏した!」「返して!」「不幸に」「気味が悪い…」「来るな!」「苦しんだ!」「殺した!」「禍が!」「お前が!」「アンタがいなければ!」「お前さえ!」「アンタがいなければ!」「お前さえ!」「父さんを!」「お前のせいで!」「爺ちゃんが!」「殺せ!」「お前のせいで!」「苦しんだ!」「お前のせいで!」「禍が!」「苦しんだ!」「殺せ!」「来るな!」「殺した!」「禍が!」「お前が!」「娘が!」「苦しんだ!」「殺せ!」「返して!」「近寄るな!」「殺した!」「化け物!」「アンタがいなければ!」「爺ちゃんが!」「お前さえ!」「お前のせいで!」「殺せ!」「婆ちゃんが!」「苦しんだ!」「全部お前の!」「病に伏した!」「母さんが!」「不幸に」「殺せ!」「息子に!」「近寄るな!」「父ちゃんを!」「殺した!」「全部お前の!」「娘が!」「不幸に」「気味が悪い…」「殺した!」「禍が!」「お前が!」「殺せ!」「化け物!」「禍が!」「お前が!」「処刑の準備を!」「返せ!」「消えろ!」「禍が!」「近寄るな!」「お前が!」「殺せ!」「化け物!」「禍が!」「気味が悪い…」「アンタがいなければ!」「殺せ!」「父さんを!」「化け物!」「殺せ!」「お前が!」「息子が!」「苦しんだ!」「母さんが!」「化け物!」「死ね!」「全部お前の!」「病に伏した!」「返して!」「不幸に」「気味が悪い…」「アンタがいなければ!」「お前さえ!」「殺せ!」「来るな!」「殺した!」「禍が!」「お前が!」「殺せ!」「爺ちゃんが!」「化け物!」「娘が!」「近寄るな!」「病に伏した!」「返して!」「父さんを!」「お前が!」「殺せ!」「化け物!」「死ね!」「全部お前の!」「母さんが!」「病に伏した!」「返して!」「娘が!」「苦しんだ!」「不幸に」「気味が悪い…」「化け物!」「苦しんだ!」「殺せ!」「処刑の準備を!」「返せ!」「消えろ!」「禍が!」「お前が!」「殺せ!」「化け物!」「殺せ!」「化け物!」「死ね!」「母さんが!」「全部お前の!」「爺ちゃんが!」「病に伏した!」「母さんを!」「返して!」「息子が!」「不幸に」「気味が悪い…」「アンタがいなければ!」「お前さえ!」「お前のせいで!」「殺せ!」「処刑の準備を!」

 

――うるさい!知らない!関係ないっ!

 

 

 

 

 

 

「――ハッ!………うっ、くぅう………」

 

嫌な夢だ。背筋が凍える。吐き気も凄い。

里の人間の他愛のない雑談。その中によくわたしの話題が出てきたものだ。生気を奪うだの、不運を呼び込むだの、魂を削るだの。わたしが近くを通れば、白い目で見られたものだ。

ああ、何時の間にかあれほどまで嫌われているとは…。

わたしは仮にも妖怪。大抵の人間は、口に出しても攻撃することはない。それは、仕返しされて死にたくないからだ。しかし、それでも攻撃してくるほどになっていたとは。

そういえば、ここは何処だろう?笹の音が僅かに聞こえる。

 

「おっ、やっと起きたか…」

「ん?おー、起きた起きた」

「おはよう、幻香さん」

「慧音…、妹紅さん…、医者さん…?」

 

声がしたほうを向くと、三人がいた。慧音の目の下には薄っすらと隈が出来ている。医者さんがいるってことは、ここは永遠亭かな?

 

「全く、心配させる…」

「え…、わたし、どのくらい…?」

「三日だ、三日」

「み、三日!?そんなに倒れてたんですか!?」

「そうよ。貴女は血液をかなり失っていたわ。正直言って人間なら死んでいたと思う」

 

そこまでヤバい状況になっていたとは…。運んでくれたのは近くにいた妹紅さんかな?ちゃんとお礼を言っとかないと。

 

「妹紅さん、ありがとうございます」

「ん?私は運んだだけだからな…。礼はこっちの永琳に言ったほうがいいだろ」

「あっ、そうですか…。永琳さん、どうも、ありがとうございました」

「ふふ、姫様を見ても気にしないほどだったからねえ」

「ケッ、輝夜とはいつでも出来るが幻香は時間がなかったんだ」

 

私が死にかけている間に何かいざこざがあったらしい。まあ、今はどうでもいい。

それよりも、里の状況だ。

 

「慧音」

「ん?なんだ?――あー、里のことだろう?」

「うっ…、なんで分かるんですか…」

「お前は顔にすぐ出るからな。まあ、演技し始めると分かりにくくなるけど。――まあ、そんなことはどうでもいいか」

 

慧音の目が突然鋭くなる。雰囲気も急に張り詰め、息を呑む。笹の揺れる音が消え、慧音の声しか聞こえなくなったようだ。

 

「里は全体的にお前の排除、処刑を目指している感じだな。大人、老人はほぼ全員、子供は八割くらいか?目撃しだい確保、のちに処刑するって言ってるくらいだ」

「………そう、ですか……」

「ついでに、私に協力依頼が来た。当たり前だがそれらしい理由を言って断った」

 

もう、里には入れないと考えていいだろう。顔を隠しても、わたしの情報はほとんど割れていると言ってもいい。身長、体型、声色は誰が見ても変わらない。複数人いれば、肌色や髪色で判別されるだろう。人目に付かないで里に入るのはほぼ不可能だ。よって、即行確保されるということだ。そして処刑。

そんな暗いことを考えていたら、妹紅さんが口を挟んできた。

 

「そういやさ、なんで幻香は里のやつらにあそこまで嫌われてるんだ?」

「ん?幻香から聞いてないのか?」

「…言ってませんよ。慧音が話してくれると思いましたから」

「あら?アナタ、知らないの?」

「オイオイ、三人とも知ってるのかよ!ていうか永琳!なんでお前まで知ってるんだよ!」

「優曇華が言ってたわ」

 

話が逸れてきている…。無理矢理だが戻させてもらおう。

 

「妹紅さん、わたしが嫌われている理由は『運が悪かった』だけですよ」

「運だぁ?」

「そうだな。あれは確かに運が悪かった」

「オイ慧音、説明してくれよ。流石に分からない」

「そうだな。例え話をしよう。『ある少年がいた。その少年は四日に転んで怪我をした。十四日にも転んで怪我をした。二十四日にも転んで怪我をした。その少年はこう考えた。『四の付く日は不吉だ』と。だから、その少年は四の付く日には家から出なくなった。――」

「は?それがなんだってんだよ?」

「――だが、その少年は二日にも、十八日にも、二十日にも、二十七日にも、三十一日にも転んでいた。しかし、その少年は四の付く日しか見ていなかった。他の日は目を向けることはなかった』」

「だからなんだっていうんだよ?」

「さて、説明しよう。幻香が引いた貧乏くじについて」

 

 

 

 

 

 

数年前、里は大規模感染症が蔓延した。まあ、最初は「何だか風邪を引く人が多いなー」と考えるくらいだったがな。まあ、私もそう考えた。寺子屋に来る子供がちょっと少ないな、と。

そんなときに里にノロノロと入ってきた妖怪がいた。分かるだろう?鏡宮幻香だ。確か言ってきたな。「里には優しい半人半獣の妖怪がいるって聞いたので」だったか?そう言えば、誰から聞いたんだ?

ふむ、天狗に聞いたか。多分その天狗はあの新聞記者だぞ。…おい幻香、何変な顔をしているんだ。…おっと、話が逸れた。

まあ、そのころの里の人間は驚きながらも対応したと聞く。そして、私のところに来たわけだな。とりあえず、何日か泊めてやることにした。

何日か経って、病が里中に蔓延したと誰でも分かる程になった。寺子屋に来る子供は二人か三人くらいになったから、私も分かった。里に出ても、外を歩いている人間はほとんどいない。そんな中、幻香は普通に外を歩きに出た。「ここに定住するなら、どこに何があるかくらい知っておいた方がいいから」と私に言って。

里の中は二つのことでいっぱいになったね。『大規模感染症』『瓜二つの顔を持つ妖怪』の二つだ。お、妹紅、もう分かったって感じだな。しかし、最後まで語らせてもらおうか。

ある日、幻香はその里の偉い人間がいるところに行った。まあ、偶然だろうな。目的地は決めずに歩いたって言ってたし。そして、その偉い人間に顔を合わせた。理由は「定住してもいいか聞こうかと思った」だったか?

まあ、結果を先に言えば、駄目だったわけだ。しかも、ただ反対されるよりも悲惨なことになった。

確か、話し始めたと思ったら、急に胸を押さえながら苦しみだしたんだよな?そう言ってたよな、幻香?…そんな嫌な顔をするな。ただの確認だ。まあ、嫌なことを思い出させたのは悪いと思っている。何?だったら聞くな?…うん、分かった。このことはもう聞かないでおこう。

その偉い人間はその場で倒れた。あわただしくその人間の家族が現れて介抱したが、まあ間に合わなかった。まあ、多分寿命だろうな。あの爺さんはかなり年を食っていたし。しかし、その家族はそう思わなかった。「こいつに会ったから死んだ」。そう考えた。

そして、その噂は里中に広がった。「瓜二つの顔を持つ妖怪に会った爺さんが亡くなった」と。そして、ちょうどよくあった二つの話題がその噂に合わせて変化した。「大規模感染症は瓜二つの顔を持つ妖怪によってもたらされた」というふうに。

つまり、さっきの例えで言うなら『四の付く日』は『鏡宮幻香の侵入』。『転んだ、もしくは不吉なこと』は『大規模感染症、もしくは爺さんの死』。『目を向けられなかった日』は『大規模感染症は鏡宮幻香が来る前に始まっていたこと、爺さんの寿命』あたりかな。

まあ、その妖怪のせいだと信じたわけだ。人間っていうのは理由を求めたがる生き物だ。「これほどの災いをもたらした原因があるはずだ」と。その結果「あの妖怪が原因だ」となったわけだ。

一人の人間が『黒』と言い、九十九人の人間が『白』と言ったら、それは『白』になる。例え、それが本当は『黒』だとしても。

そのことを知った鏡宮幻香は、私に聞いた。「人間がまず来ない場所はありませんか」とな。そして私は言った。魔法の森の場所をな。

まあ、人間は今でも信じている。「大規模感染症は瓜二つの顔を持つ妖怪によってもたらされた」とな。そして、その噂も時と共に変化した。祭りの前は、そうだな…。「瓜二つの顔を持つ妖怪は不幸を呼び込む」とかになっているのかな?

まあ、人間は妖怪に攻撃することはまずない。だから、今まで我慢していたんだろう。世間話とか言い訳の中に使われることはあっただろうけど。

え?言い訳に使うとはどういうことかだって?妹紅、そのくらい分かるだろう?「転んだのはあの妖怪のせいだ」「食べ物が腐ってしまった。あの妖怪のせいに違いない」「息子が病気になった。あの妖怪に会ったからだ」って感じだ。…おいおい、聞いてきてその顔はなんだ。私だって言いたくない。

ん?幻香、どうした?何か聞きたいことでもあるのか?……年寄りが「魂を削る」「生気を削ぐ」と言っていた?

それは多分、こう考えたんじゃないか?「同じ顔になるのには理由があるはずだ。それはきっと、相手の魂の一部を削っているからだ」とか。それに『大規模感染症』が少し混ざれば「魂を削られたから病に伏した」と考えたのかもな。病気になる理由に、精神の落ち込みというものがある。「病は気から」と言うだろう?魂とは人間の根源だと考えられる。その魂を削られれば、生気だって削られると思うだろう?…納得したか。まあ、これは私の勝手な想像だ。妄言と言ってもいい。

ま、大体こんな感じだな。


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