東方幻影人   作:藍薔薇

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第26話

まず、刺さっている包丁を勢いよく引き抜く。血濡れの包丁は地面に刺して置き、傷口に妖力を流して無理矢理治癒。うん、多分塞がった。

向かってきている大人は三人。捕まったら面倒だ。残った人間共に袋叩きにされるだろう。それは避けたい。

先頭を走る男を足払いし、下がった後頭部を掴み地面に思い切り叩きつける。さっき怪我はあまりさせないと考えたが、ごめんね、ありゃ嘘だった。こんな状況で怪我させないなんて考える余裕なんてない。そして、その昏倒した男を残った二人に投げつける。後頭部を強打したようで、白目を向いている。三人は無力化した。

手加減っていうものは実力差が大きいからこそ出来るものだ。わたしはそこまで強くないから思い切りやらせてもらおう。

 

「ぐっ…!抵抗してくるぞ!ヤツは手負いじゃ!なんとしても確保するのじゃ!」

 

これで逃げてくれれば楽なのに、あの年寄りは奥に逃げ込んで、大人共に紛れながら士気を高めてくる。が、さっき「殺せ」とか言ってたのに確保になってるあたり、無意識で諦めているのかもしれない。しかし、士気を上げてくるのは面倒だ。その年寄りを無力化したいが、あの年寄りは見るからに貧弱。攻撃したら後遺症、下手したら死んでしまう。それは駄目だろう。

 

「ちょっと!一人で何とかするって言ったのにそんな方法とるの?危ないじゃないの、人間が」

「わたし、意識を刈り取る方法これくらいしか知らないんです」

 

背中から屋台の椅子に座って待機している博麗の巫女の声がしたが、思ったことをそのまま返す。今は、考える時間も惜しい。

何やら長い棒を持った男がわたしに向かってきた。棒の長さは、わたしの二倍くらいの長さで、物干し竿みたいな見た目をしている。その後ろには三人付いてきている。振り下ろしてきた棒を軽く体をずらして回避し、地面に叩きつけられた棒を踏みつける。そして、右手にその長い棒を創り、相手ののど元へ突く。思わず棒を離した男はそのまま倒れて喉を押さえてジタバタしている。何か言っているようだが言葉にならない呻き声で、何と言っているのか分からない。後ろの三人はチラリともがいている男を一瞥してから向かってきたが、一人は鳩尾に突き当て、残り二人は片方のこめかみに向けて振り当て、もう一人を巻き込んで地面に倒れ込んだ。

棒を回収し、残った人間共を見る。さっきわたしに包丁を突き刺した子供と大人が五人、そしてあの年寄りだけ。その表情は、畏怖そのもの。もう逃げてくれればいいのに…。

そう考えていたら、さっきの四人が起き上がった。ああ、気絶してなかったのか。

 

「もう、容赦せんぞ…。ヤツはここで処刑じゃ!者ども!恐れるな!」

 

しわがれた声を張り上げ、指揮する年寄り。するとどうだろう。さっきまで恐れていた大人共が目つきを鋭くしてわたしを睨みつけてくるではないか。ああ、やっぱりこの年寄りが一番厄介だな…。攻撃出来ないのに士気を上げてくる。大人共に囲まれて攻撃しにくい。そして何より、攻撃したら軽く死んでしまいそうなほど貧弱。

それにしても、断罪、殺すから確保になり、処刑とコロコロ変わるわたしへの対応に何故か少しだけ笑いが零れてしまう。

 

「霊夢、私達も加勢したほうがいいんじゃないか?」

「駄目よ。アイツが自分一人でやるって言ってるんだから。それに、人間が人間に攻撃なんてよくない。スペルカード戦じゃないのよ、これは」

 

後ろから話し声が聞こえる。確かに、これはスペルカード戦じゃない。ああ、処刑じゃなくてスペルカード戦ならどれほど楽だっただろうか…。しかし、もしもの話はどうでもいい。今は目の前に集中しないと。

突然、年寄りの視線がわたしを通り越して、後ろに向いた。

 

「おい博麗の巫女!そなたも儂らに加勢せんか!その禍を処刑するんじゃよ!」

 

よくそんなこと言えるなあ…。さっきわたしの前に出てきたのを見ていなかったのだろうか…、痛っ。刺された所が今更痛みが戻ってきた。まずい、早く終わらせないと…。

 

「はぁ?アンタらがこの妖怪に手出ししたのが始まりでしょう?力無き人間は妖怪に手を出さない。これは幻想郷の常識よ?」

「なっ!力有る者がこの禍を殺さぬと言うのか!?それにヤツがこの里に来るから――」

「それに、コイツはやってないって言ったのよ。それを私は信じた」

 

それを聞いて年寄りがなんて言っているのかよく分からない言葉を発した。顔を皺くちゃに歪ませ、真っ赤にしている。年寄りは興奮すると血管が切れてしまうって慧音が言ってた覚えがある。下手したら、それでこの年寄りが倒れたらわたしのせいになってしまうだろう。

 

「あの年寄りが死なずに後遺症を残さずに意識を刈り取る方法…」

 

そんなことを呟いていたら、大人二人がこちらに向かってきた。右脚を勢いよく振り上げ、こめかみにブチ込む。勢いをそのままに回転し、左のかかとをもう一人に当てる。倒れた二人の意識を刈り取るために、二人の頭を軽く持ち上げて地面に振り下ろす。白目を向いてくれたので完了だ。

さて、残りは子供一人と年寄り、大人が――あれ?六人?一人減ってる…。

 

「なっ!何者じゃ!」

「アイツの友人だよっ!」

 

さらに最後尾にいた大人が二人吹き飛ぶ。この声は…。

人間共の上を飛び越えて、わたしの横に着地した。

 

「よっ、騒ぎがあって来てみりゃあなんか凄いことになってるじゃないか」

「も、妹紅さん…」

「まあ、普段は人間を守る側だ。だがなあ、友人が殺されるって聞いたら流石にそっちに付く気にはなれないね」

「なっ!そなたまでそう言うのか!この人でなし共が!」

「人でなしで結構。生憎既に人間とは言えないようなもんでね!」

 

そう言いながら飛び出し、大人の鳩尾に一発ブチ込んだ。わたしもそれに続いて別の大人の脇腹を蹴飛ばす。妹紅さんはさっき殴って気絶させた大人を持ち上げて、残った二人の大人に投げ飛ばした。どうやら当たった二人も気絶してしまったようだ。

さて、残りは子供と年寄りだけ。ハッキリ言って逃げて欲しい。もうそろそろ限界だ。

 

「くっ、くっそぉお!」

「じ、爺ちゃん!俺に任せろ!」

 

そう言って無謀にも突撃してくる子供。その手にはさっきの包丁があるはずもなく、素手だ。

 

「無駄よ、諦めなさいって」

 

足払いをして顔面から落ちたところで、無防備の背中を軽く踏みつける。踏んでいる間はこの子供は無力だ。ああ、視界が霞む…。

 

「くそっ!離せよ!化け物!」

「…離しません。そっちから攻撃してきたのが悪い」

 

さて、一人残った年寄りの判断次第だ。逃げてくれれば楽なんだけど…。

 

「……さて、そこの爺さん。どうします?」

「わ、儂はっ!人間は!禍を里から排除する義務があるっ!ク、クケケケケケーーッ!」

 

奇声を発しながら突撃してくる哀れな年寄り。ああ、どうして逃げなかったんだろう…。

そう思いながら、その頭に拳を振り下ろした。後遺症にならないことを願う。不味いな…。意識が、朦朧とする…。

 

 

 

 

 

 

幻香が足を離したら、子供は年寄りを重そうに背負って逃げていった。あの感じはただの脳震盪による気絶だろうから、明日の朝になる頃に目覚めるだろう。後遺症は残らないと思う。しかし、気絶している大人達は私達が後処理しないといけないのか…?

 

「さて、騒ぎに、なっちゃいました、ね、ぇ……」

「幻香、どうしてこんな――ってオイッ!幻香!?」

 

突然、幻香が倒れた。血塗れということは、その近くの皮膚が斬られる刺される破れるなどしたのだろう。血塗れの服を破き、傷口を探す。……あった。かなり深い刺し傷。地面に刺さっている包丁は少し気になっていたが、あの包丁が刺さっていたのだろう。一度無理矢理治した感じがするが、また開いたようだ。血が止まることなく流れ続けている。

 

「まずいな…」

 

急いで幻香を背負う。事は一刻を争うだろう。が、突然肩を掴まれる。

 

「ちょっと!」

「なんだ?紅白」

「ソイツをどうするつもりよ!」

「医者に連れてくんだよ!邪魔だから後処理でもしてろ!」

 

後ろでなんか言われた気がするが、知ったことではない。あんまり行きたくないが、永遠亭に行かなくてはならない。そこなら大抵の怪我を治せるはずだから。

 


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