東方幻影人   作:藍薔薇

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第23話

遂にやってきました夏祭りー!……まあ、まだ日は落ち切ってないんですけどね。ちょっと早いけれど、慧音の家に着いちゃったし、中に入らせてもらいましょうか。

扉を叩くと、すぐに「入っていいぞ」と言われたので、お邪魔する。

 

「おお、幻香か。いいところに来た」

「いいところ?ちょうど仕事でも終わったんですか?」

「いや、違う。………言いにくいが、お前のことだ。とりあえず、鍵を閉めてくれ」

 

指示通り鍵を閉める。それにしても、わたしのことか。何かあったかな?

 

「さて、先に謝罪をしておこう。もしかしたら、この夏祭りはお前に不快な思いをさせるかもしれない」

「え?…あー、そういうことですか。いいですよそれくらい。分かってましたし」

 

わたしは里の嫌われ者だ。同じ顔っていうものは不吉なものだと思われているらしい。スターちゃんも言ってたじゃないか。『見たら死ぬ』って。……もしかしたら、慧音もわたしのせいで死んじゃうのかな…。いや、そんなわけない。そんなのは里の人の勝手な思い込みだ。

 

「まず、お前を不吉だ(わざわい)の元だと言っているのは大人、特に年を食っている老人達だ」

「はあ…、そうなんですか」

 

屋台って大人がやるものだと思うから、わたし何も買えないような…?それとも子供が開いているところもあるのかな?

 

「そして、子供達は大体三つに分かれる。親を信じてる子達。親を信じない子達。そして、私の寺子屋に通っている子達」

「寺子屋に…?何の関係があるんです?」

「まあ待て。順を追って説明する。まず一つ目はそのまんまだ。親同様にお前を恐れている」

「…ですよねー」

 

大人から教えられたことはそのまま鵜呑みにしているんだろうなー…。それはそれでいいのかもしれないけれど。

 

「二つ目は、まあ反抗期ってやつかな。信じてはいないけれどちょっと怖い。…うーん、ちょっと高いところから飛び降りるのは怖いって感じに似ているかもな」

「わたしには縁のない怖さですね」

 

一応飛べるし。言ってから気づいたけど、咄嗟に飛べないからちょっと分かるかもしれない…。

 

「最後の三つ目は、私とお前が会っているのをよく見ているから『私の知り合いあるいは友達』と思っている。ただし、親を信じているかどうかにもよるな」

「それだと、ほとんど駄目じゃないですか…。知ってたけど」

 

じゃあ、前に慧音の場所を教えてくれた二人の少年は寺子屋に通っていたのかな?あの時話しかけた子供は結構いたんだけど、少年以外全部逃げられたからなあ…。多分、二十人くらい話しかけたような…。あ、服が血塗れだから逃げたのかも。

 

「だからな、これを付けていくといい。視界は少し悪くなると思うが、我慢してくれ」

 

そう言って取り出したのは、白が基本で、ところどころに赤い模様が入っている狐のお面。目の部分は綺麗に刳り貫かれているから、一応前は見えそうだ。

 

「顔が見えなければ多分大丈夫だろう。それに、今日は夏祭りだからこんなお面はそこらへんで売っている。違和感はほとんどないだろう」

「分かりました。とりあえず付けてみますね」

 

顔がちゃんと隠れるように付ける。紐がちょっときついと思ったけれど、まあいいだろう。

 

「これでいいですか、慧音?」

「うーむ、まあ、大丈夫だろう。里の人間は若ければ黒髪、年寄りなら白髪。若い者は若い者で集まり、年寄りは年寄りで集まることが多い。そこを気を付ければ大丈夫だろう」

「分かりました。髪の色に注意、ですね」

「そうだ。お、もう日が落ちてるな。夏祭りの始まりだ」

 

そう言われて窓を見ると、確かに空は濃い藍色に染まっている。星が夜空を飾ってとても美しい。しかし、里はとても明るい。普段はここまで明るくないのに。何でだろう?

 

「慧音、どうして里はこんなに明るいんです?」

「それは、提灯だな。祭りのときはそこら中に飾られているんだ。中には蝋燭が入っている。あと、火は神聖なものと信じられているからな。火を目印に神霊を招きつつ、火の浄化力によって悪霊を払うという意味がある。まあ、妖怪が普通に屋台を開いているが、その妖怪のほとんどが害意が低い。意外と効果あるかもな」

「わたし大丈夫ですかねえ…。里の人達にとって害意ある存在と思われてますよ?」

「なに、心配ないさ。人間を傷つけようなんて考えてないだろう?」

 

当たり前だ。そんな無駄なことをしてる暇があったら、食糧の確保をしたい。……結局、朝のうちに集めようと思ったけれど、めぼしい食糧がなかったからなあ。

 

「なら大丈夫だろ。さあ、行こうか。…おっと、忘れていた。ほら」

 

慧音が手を出したので、わたしも右手を出す。そして、何か硬いものを幾つか渡された。

見てみると、銅色の硬貨が六枚ある。片面に『一銭』と書かれ、その裏面には竜の模様がある。何これ?

 

「一銭銅貨だ。まあ、これだけあれば少しは何か買えるだろう」

「一銭、銅貨…?」

「まずはそこからか…」

 

慧音はわたしが呟いた言葉を聞いて、呆れたような顔をして頭を押さえた。

 

 

 

 

 

 

ふむ、一円が百銭になって、一銭が十厘になるのか。つまり、千厘あれば一円になる、と。この前貰った箪笥は、二円五十銭くらいしたらしい。正直よく分からないと伝えたら、夜雀の屋台で売っている八目鰻は一本五厘、三本で割引の一銭とのこと。もしかしたら、凄く高いものを貰ってしまったのかもしれない。…まあ、慧音に実害はないけど。複製だし。

里の中を適当にぶらつく。ちなみに、慧音とはすでに別れて一人だ。別れるときに「いいか、お金は複製するなよ?」と言われたので、創らないことにする。後で怒られたくない。

里は普段とは打って変わって、活気に満ち溢れている。人の流れに逆らわずに歩く。周りにいる人は全員黒髪。問題ない。

歩きながら、道の脇に建っている屋台を見る。『おでん』『金魚すくい』『お面』『わたがし』『焼き鳥』などなど。うーん、金魚ってなんだろう?金色の魚?それにしては一回一銭なんて安いような…。それとも、里では金色の魚なんて珍しくもなんともないのかな?まあ、魚は興味ない。たとえ金色でも、食べれるとは限らないし。

何となく、焼き鳥の屋台に入る。お客さんがいなかったから選んだ。

 

「らっしゃい」

 

聞いたことある声だ。というか、妹紅さんだった。焼き鳥なんか作ってるのか…。知らなかった。慧音も教えてくれたらいいのに。

 

「こんばんは」

「おう、こんばんは。最近の若いやつは挨拶できないのが多くてねえ。嬢ちゃんはしっかりしてるなあ」

 

おおう、妹紅さんわたしだって気付いてない。お面凄いです。

 

「しっかし、嬢ちゃんは私の知り合いに似てるなあ…。白髪に真っ赤な瞳。本当に似てる」

「はあ、そうですか…」

「ははは、その返し方までそっくりだ」

 

もしかして、分かっててからかってるのかも…。まあ、いいか。どうせならそのまま突き通そうかな。これからの練習になるだろうし。

 

「お姉さん、品書はありますか?」

「ん?おーそうだった、忘れてた忘れてた。えーと、どこだっけ…あったあった。ほらよ」

 

渡された品書には、一本三厘と書かれている。種類は『もも』『はらみ』『つくね』『かわ』『はつ』『肝臓』『砂肝』『白子』とある。あと一本一銭五厘のお酒。普段、鳥は食べていない――飛んでいるから面倒なのだ。おまけに速いし、すぐ逃げる――から、知らない名前が多い。『もも』はもも肉だろう。『はらみ』はお腹の肉かな?『つくね』は、分からない。『かわ』は皮だろう。『はつ』は初めって意味で、産まれたばかりの鳥の肉かな?『肝臓』はそのまま。『砂肝』は内臓の何かだろう。『白子』は、白い鳥の肉だろうか。

うん、とりあえず一本ずつ買おうかな。えーと、三厘が八本だから二銭四厘かな。お酒は買わない。飲んだことないからね。

 

「お姉さん、とりあえず八種類全部を一本ずつ」

「はいよっ」

 

注文すると、すぐに皿を目の前に置かれ、その皿の上に八本の串焼きが置かれた。忘れないうちにお金を渡しておく。お釣りも貰ったので、残り三銭六厘。

さて、食べようかな。これで美味しかったらちょっとくらい無茶してでも鳥を捕まえに行くのもいいかもしれない。

 

「いただきます」

「おう、食べてくれ。嬢ちゃんから見て右から順番に品書順に並んでる」

「そうですか。ありがとうございます」

 

さて、まずは『もも』から食べようかな。と、思ったらお面が思いのほか邪魔だ。うーん、上にずらすと前が見えないし、外すのは何となく嫌だ。よし、口の方をちょっとだけ顔から離して食べようかな。これなら顔は見えないだろう。

『もも』を口に含む。少し熱いが、問題ない。味付けは塩だけのようだ。さっぱりしている。うん、猪とは違う食感だ。

 

「うん、美味しい」

「そうか、それは良かった」

「鳥って普段食べないからちょっと楽しみだったんですよ」

「ん?鳥くらいその辺の肉屋で売ってるだろう?」

「普段は猪とか蛇の肉を食べてるんですよ」

「へー、珍しいな。猪は高いぞ?蛇なんかはほとんど売ってない」

 

知らなかった…。蛇って里じゃほとんど食べられていないんだ。話題選び、ちょっと失敗したかも。

 

「そうだなー、鳥を食べてないならどれがどの部位か知らないだろ」

「そうですねえ。良かったら、教えてくれませんか?」

「いいぞ。さっき食べた『もも』はそのまんまもも肉だ。足の付け根から先の部分の肉だ。『はらみ』は横隔膜の背中側の肉だな。横隔膜ってのは、肺の下にあるやつだな。…まあ、知らなくてもいい事かな、これは。ここの『つくね』は鳥の挽肉と葱を纏めたやつだ。『かわ』は首の皮を使ってる。『はつ』は心臓。『肝臓』は名前通り。『砂肝』も名前通りだが、確か蛇にもある部位だ。『白子』は精巣…って、嬢ちゃんにはまだ早いかな」

 

砂肝って蛇にもある部位らしい。うーん、蛇の肉とかいつも素手で無理矢理開いて干してたからなあ…。残った内臓は洗ってその日のうちにスープの具材。砂肝がどれだかさっぱりだ。

あと、精巣くらい知ってますよ。慧音が人体構造について教えてくれた時があったから。

 

「へえ、どれも美味しそうですねえ」

「美味しくなかったら店は出してないからな。安心していいぞ」

 

『はらみ』を食べる。うん、柔らかい。旨味が滲み出てくる。続けて『つくね』を食べる。普段、肉をこんな感じに加工することがないからちょっと不思議な感じだ。あと、鳥は葱と合うと思った。

 

「それにしても、全然人が来ませんねえ」

「あー、なんでだろうなあ…」

 

まあ、人が来なくて好都合だ。もし来たら、その人は多分黒髪だ。瞳の色は気にしないだろうけれど、それも違う色に映るだろう。わたしだけならまだいいが、妹紅さんの屋台にまで影響が出そうだ。それは避けたい。

 

「まあ、わたしはお姉さんと話しながら食べれるので、いいんですけどね」

「嬉しいこと言ってくれるじゃないか。ほら、酒飲むか?私の奢りだ」

「いいえ、まだ成人してないので…」

「成人してなくても飲んでるやつは飲んでるぞ。ほらほら」

「実はまだお酒飲んだことないんですよ。ここで飲んで変なことしたら困るので」

「そうか…。じゃあ代わりに五本奢ってやるよ」

「わざわざありがとうございます」

 

ここで断っても引き下がらないことは知っている。せっかくだし受け取っておこう。奢ってもらった焼き鳥は『もも』三本と『はらみ』二本。先にまだ食べてないのを食べようかな。

『かわ』は噛み切るのに少し苦労したが、いい味をしている。うーん、鳥って美味しいなあ…。面倒だけど今度から捕まえようかなあ。続いて『はつ』を食べる。これは独特の食感だ。まあ、猪の心臓も食べているから似たような食感だと思った。さて、次の『肝臓』だが、ねっとりとしている。のどとか舌に張り付いている感じ。味もちょっと苦手かな…。

 

「水、ありますか?」

「ほれ」

 

一気飲み。冷たくて気持ちいい。のどに詰まった感じはなくなった。

『砂肝』は、コリコリとしている。そう言われると、蛇の内臓にもこんな食感のがあった気がする。内臓はいつも纏めてスープにブチ込んでるから、どこがどの部位とか考えてないからなあ…。最後の『白子』はトロリとしたものが出てきて不思議な感じだ。

 

「どれも美味しかったです」

「そうか。それは良かった」

 

お面越しだが、笑みを浮かべる。妹紅さんに伝わったかどうかは知らないけれど、伝わっていると思う。

 

「にしても嬢ちゃん、お面付けたまんま食べるなんて行儀悪いぜ。取ったらどうだい?」

「ふふ、秘密は少女を乙女にするんですよ?」

「ははっ!そうかいそうかい。いや悪かった。ちょっと気になったもんだからさ」

 

まあ、この言葉はパチュリーが言ってた言葉だ。「どんな魔法が使えるの?」と聞いた時に言われたことだ。まあ、その後、冗談だと言って教えてくれたけど。

残された『もも』『はらみ』を交互に食べる。うん、決めた。今度、鳥を捕まえよう。これだけ美味しいのだし、苦労するだけの味はあると思う。

 

「ごちそうさまです」

「おう、追加するか?」

「いえ、やめておきます。もっと色んなところに行きたいので」

「そうかい。また来なよ、嬢ちゃん」

「ええ、また来ますよ妹紅さん」

 

わたしは右手でお面を掴み、少し下にずらして視界に収めてから複製する。もうネタバラシしてもいいでしょう?

わたしの顔と右手に全く同じお面があることに眼を見開いている。ふふ、驚いてる驚いてる。

 

「あれ…?私、妹紅なんて…。それにそのお面、まさかっ!」

「アハッ、そのまさかですよ」

「幻香!お前なあ…、言ってくれてもいいじゃないかよ」

「実は今、わたしだとバレないように夏祭りに参加してるんです。ごめんなさいね」

「そうかい、事情があるんだろ?誰かに聞かれてもお前がここに来たこと、黙っといてやる」

「すみませんね、ありがとうございます」

 

右手のお面は回収し、屋台から出る。さて、次はどこに行こうかな。

 


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