東方幻影人   作:藍薔薇

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第228話

異変を解決するために来た人たちがここに来る直前に、まどかさんはチルノちゃんにとても冷たい氷をあげていた。まどかさんは『分子の熱運動を極限まで零に抑えた理論上絶対零度の氷』と言っていましたが、私にはサッパリ分かりません。けど、それを食べたチルノちゃんは本当に短い時間でしたけれど、ここ最近では考えられないくらい強くなった。ルーミアちゃんの闇の中から魔理沙さんを抵抗させる暇もなく引っ張ることが出来るくらいには。

 

「うおっ!何だこの部屋!真冬かよ!?」

 

そして、チルノちゃんが引っ張ってきたのは保冷部屋。急な『お願い』で非常に申し訳ないと思っていますが、冷気を操る程度の能力を持つ妖精メイドさん達をこの部屋に集めて、さらに温度を下げてもらいました。最早冷蔵ではなく冷凍になっていますけれど、保存している食材は大丈夫でしょうか?パチュリーさんは別に構わない、と言っていましたけれど…。

 

「うぅー…、寒いっ!」

「…こんなに寒いの久し振り、かも」

「私達、暖かい格好してるはずなんだけどねー…」

 

チルノちゃんと一緒に魔理沙さんに挑むつもりの光の三妖精も、この有様。妖精メイドさん達に提供してもらった防寒具を身に着けていても、この突き刺さるような寒さを守ることは出来そうもありません。私も寒くて体が震えてしまいますよ。

 

「何だか不思議と力が湧き出る!今なら何でもカチコチに凍らせれる!」

 

ですが、これだけの状況にしてもらうように頼んだまどかさんの思惑は達成しています。何故なら、チルノちゃんが最も戦いやすい状況に仕立てられているのですから。ですが、今のチルノちゃんはこの極寒であるだけでは考えられないほどの力を急に得たように感じます。さっき食べた氷の力は先ほど終わったはずですが…。まあ、きっとまどかさんが何かしたのでしょう。私達が考えているよりも多くのことを考え続けているんですから、私達に教えていないところで何かしらの援助を施してくれている。そう考えましょうか。

 

「魔理沙!」

「あぁ?…何だよ、こんな寒いってときに!」

「遊ぶに決まってるでしょ?スペルカード戦で!」

 

それにしても、魔理沙さんは私達と違って軽装。まあ、こんな状況になると予想して防寒具を用意しろ、というほうが無理な話ですが。人間である魔理沙さんが、この並大抵の妖怪ですら動きが鈍りそうなこの極寒の場所でいつも通りの動きが出来るとはとても思えません。さらに言えば、この部屋はそれなりに広いですが大図書館と比べると明らかに狭い。箒に跨り素早く攪乱する魔理沙さんにとっては些か不利な場所。

まどかさんはチルノちゃんを上げるだけでなく、魔理沙さんを落とせるだけ落とした。こちら側が出来るだけ有利になるように。

 

「私達と一緒に!タップリと遊び尽くそう!」

「…へっ!舐められたもんだな、この魔理沙さんに妖精が勝てるとでも?いいだろう、受けてやるよ!」

「では、私達は五人ですから、お互いにスペルカードは五枚、被弾も五回にしましょう。私達は一人一枚と一回ではなく、合わせて五枚と五回ということで」

 

私はスペルカード戦を含めた闘争はあまり好みではないのですが、ここまで来てそんなことを言うつもりはありません。私達の勝利がまどかさんの助けになるのならば、私個人の好き嫌いなんて軽く押し退けられます。

 

「いいのか、そんなルールにしちまって?」

 

そう言いながら、魔理沙さんは八角形のものを取り出し、私達に向けてきました。あれは、まどかさんとパチュリーさんが言っていたミニ八卦炉。つまり、魔理沙さんが得意とするあれが来る。

 

「一瞬で勝負が着いちまうぜっ!恋符『マスタースパーク』ッ!」

 

それを見て、サニーちゃんが体を震わせながら前に出る。その震えは、寒さからか、恐怖からか、それとも武者震いなのか。私は、その肩に手を添えた。

 

「サニーちゃん、私も手伝いますから」

「…うんっ!行くよっ!」

 

多分、全部。けど、この瞬間は武者震いだけ。サニーちゃんが両手を前に突き出し、私も同じように構える。

 

「くうぅ…、よいしょおっ!」

「えいっ!」

 

そして、私達は両腕を思い切り右に振るい、膨大な光の放流を僅かに右側に逸らした。…本当に出来ちゃいました。基本は魔力であるが、その本質は光であると言っていましたけれど、こうして出来た今でもまだ驚きです。

 

「う、っそだろおい…。まさか、曲げたのか…?」

 

ですが、私よりも魔理沙さんのほうが驚いているでしょうね。そして、そんな魔理沙さんを見ていると不思議と落ち着いてきます。

 

「チルノちゃん!」

「おうっ!」

 

私はまどかさんにチルノちゃんを任されました。ですが、それはただチルノちゃんの傍にいろ、という意味ではないことは分かります。チルノちゃんは確かに強いです。妖精の中では屈指と言えます。ですが、それでは魔理沙さんに勝てないことは身を持って知っています。だから、好き勝手にやらせるのではなく、私が導いてあげる。チルノちゃんの良さを残して、それに加えて私が補佐をする。

 

「サニーちゃん!チルノちゃんと一緒になって回避の補助を!」

「分かった!」

「ルナちゃんとスターちゃんは確実に避けれると思うくらい遠くからたくさん弾幕を張って!」

「分かったわ。行くわよ、ルナ」

「う、うんっ」

 

そして、それはもうチルノちゃんに限ったことじゃない。サニーちゃんも、ルナちゃんも、スターちゃんも、私が司令塔となって出来る限りのことをする。

サニーちゃんは光に関する弾幕なら曲げられる。だから、チルノちゃんが避ける機会を出来るだけ減らして補佐になってもらう。ルナちゃんとスターちゃんは広域の弾幕を張るのが得意だから、魔理沙さんの動きを少しでも阻害してもらうように頑張ってもらう。仮に攻撃されても、あの距離なら被弾することはほとんどないと思います。

さて、私は不規則に揺れる羽のような弾幕を放ちましょう。まどかさん曰く、不規則性はその曖昧さが武器であり読まれないが故に避けにくい、ですからね。

対する魔理沙さんは、この極寒の中でも箒に跨って飛び出しました。あんな速さで動き回っては、寒くて凍えるどころじゃ済まないと思うのですが…。相手のことを心配することは本当はよくないことかもしれませんが、それでも心配です。

 

「あぁーっ、寒ぃッ!さっさと終わらせてここから出るぞ!黒魔『イベントホライズン』!」

 

先ほどの行動でタネがバレているのか、今度は光がかかわらない弾幕。確かにサニーちゃんに対処は出来ません。

 

「ハァッ!」

「なッ!…おいおい、冗談だろ…?」

 

チルノちゃんに迫る弾幕の一つが氷に包まれ活動を停止する。そして、その近くにあった弾幕が連鎖的に凍りつき、動きを止めていく。そのまま氷は大きくなっていき、最後には中に閉じ込められていた弾幕ごと砕け散った。

チルノちゃんに普通の弾幕を凍らせて無力化し、サニーちゃんに光の弾幕を逸らせて無力化する。たかが妖精と侮った貴女には、いい餞別になったと思いますよ?

二枚のスペルカードが不発に終わり、魔理沙さんはキッと私を睨み付けてきました。

 

「…チルノがここまでやるとは思わなかったぜ。だが、何より厄介なのはお前だな?」

「そう思うのでしたら、それでいいと思いますよ」

 

私に向けて放たれた二本のレーザーを逸らし、流れ星の如く飛来する星形弾幕を紙一重で避ける。チルノちゃんとサニーちゃんが相当近くで弾幕を張っているのに、それは片手間で済ませることが出来てしまっているあたり、やっぱりこの程度の不利で差を埋め切るには至らなかったのでしょうね。

 

「ですが、私は大妖精。大自然を相手に、人間が簡単に支配出来ると思わないでくださいね?」

 

瞬間、私の視界が切り替わる。座標移動。場所は、魔理沙さんの背後。

 

「四元『フォースエレメンツ』」

 

火炎を噴き出し、水流を撃ち出し、旋風を吹き荒らし、砂塵を撒き散らす。火水風土。始まりの四大元素。

 

「うおっ、眼がッ!…熱ッ!」

 

私の宣言で気付いて後ろを振り向いたけれど、その瞬間に砂が目に入ったようで、回避が一瞬遅れた。それでも、闇雲に避けた先には私が操る炎があり、最初の被弾を奪うことが出来た。

深追いはせず、ルナちゃんとスターちゃんがいるところへ座標移動し、自分のことのように喜ぶ二人と手を合わせる。

 

「やったね!」

「凄いわね、大ちゃん!」

「えへへ、ありがと」

 

まあ、これは一回限りの奇策。油断している今だからこそ出来たこと。問題は、ここからですよね、まどかさん?

 

「…もう妖精相手だからって油断はしねぇよ。覚悟はいいな?」

「当然!」

「よーし!盛大に遊び散らかすよ!チルノ!」

 

気合は十分。ただし、魔理沙さんとは違い、私達は飽くまで遊びなのだ。最後の最後まで精根尽き果てるまで全てを巻き込み遊び尽くす。それでいいと言っていた。異変を遊びと言うまどかさん。その真意は分かりませんが、私もチルノちゃん達と一緒にいっぱい遊びましょう?

 


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