東方幻影人   作:藍薔薇

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第220話

「とりあえず、こうして紅魔館の占領も上手くいきましたし、これからの異変について話しましょうか。まず皆には訊きたいことがあるんです。誰が異変を解決しに来ると思いますか?」

「そんなことわざわざ訊くことか?」

「一応ですよ。わたしが思い付かないような人が出てくるかもしれないし」

 

わたし一人だけで考えるより、視点が多いほうがいい。思いもしないようなものが飛び出すことだってある。

 

「お姉様と咲夜。絶対にここを取り返しに来るよ」

「それなら美鈴も一緒に付いてくるんじゃないか?」

「えっと、まどかさんが何かすれば霊夢さんが来ると思います」

「競うように魔理沙も来るでしょうね。それにアリスが巻き込まれるかも」

「あの時みたいに妖夢さんと幽々子さんが来る、なんて有り得るかなぁ?」

「永琳、はないか。代わりに鈴仙を送り付けるかもな」

 

ふむ。大体予想通りだったけれど、うどんげさんは思い付かなかった。

わたしが手を伸ばしてちょうど届くくらいの高さの大きな薄紫一色の一枚板を創り出し、阿求さんが使っている墨汁を指先に複製し、板に今挙げられた人の名前を全員書き上げる。墨汁が垂れて読めなくなってしまわないように、書き終えたらすぐに水分だけを回収してさっさと固めてしまう。

ここに書くつもりはないが、実はわたしが立てた計画にはかなり大きな問題がある。それは風見幽香が現れることだ。正直、彼女が現れると非常に面倒くさいことになる。負けない手段なら考えてはあるけれど、それだってちゃんと機能するか微妙なところ。それが機能したとしても、飽くまで勝つことは出来ない。願わくは、あの向日葵畑から出ていませんように。

 

「さて、この九人でいいですか?」

「いいんじゃないか?」

 

全員を見回すと、チルノと萃香はまだ考えているように見える。しかし、今すぐに出てこないなら、先に進ませてもらおう。

 

「とりあえず、霊夢さんは除外しましょう。彼女は既に決まっていますから。それで、出来ればこの人と相対したい、という希望とかありますか?」

「私はお姉様。一応、紅魔館の主になったことだし?」

「美鈴だな。途中で打ち切られたし」

「おい妹紅、私にもやらせろよ」

「アタイ魔理沙!」

「え!?私もそうしようと思ってたんだけど!」

「ちょっ、サニー…」

「あらら、取っ組み合いしちゃって」

「チルノちゃん!サニーちゃん!喧嘩しないの!」

「私はレミリア…、は無理かな。代わりに咲夜に挑戦したい」

「私は、んー…。この中から選ぶなんて難しいなぁ…」

「誰でも構わなーい。ばっちこーい!」

「私は魔理沙かアリスかしら。同じ魔法近い同士として、ね」

「非常に分かりやすいですね」

 

そして選ばれなかった妖夢さん、幽々子さん、うどんげさん。まぁ、余っても特にどうってことはないのだけど。来ようと来なかろうと、わたしにとってはどうでもいい。

 

「希望通りいくかどうかは分かりませんが、出来るだけ融通してあげてくださいね。…あと、チルノちゃんは大ちゃんと同伴ね」

「はい、分かりました。任せてください」

「期待してますよ?」

 

わたしと大ちゃんの会話をそっちのけで、チルノちゃんとサニーちゃんはじゃんけんをし始めた。そして、最初の一手でチルノちゃんが負けて非常に悔しがっているご様子。慌てて大ちゃんが慰めにいったけれど、すぐに落ち着いてくれるかなぁ?

この先にやるつもりのことを頭の中で並べていると、ちょいちょいと袖を引っ張られた。

 

「どうしましたか、ルナちゃん?」

「…あのさ。私なんかが、迎え討てるのかな…?」

「何を言っているんですか?」

「え?」

「迎え討つつもりなんて最初からない。強弱も勝敗も善悪も正邪も好悪も賢愚も清濁も美醜も明暗も難易も真偽も生死も加減も白黒も全てを巻き込んでグチャグチャに混ぜ込んで一緒くたにして傍迷惑に後先考えずに盛大に遊び散らかす。…それでいいんですよ」

 

それが貴女達の役目なんですから。

 

 

 

 

 

 

眠気に負けて寝てしまった子が出てきたため、話はさっさと切り上げさせてもらった。起きているのは、フラン、妹紅、萃香、パチュリー、そして阿求さん。他の子は、チルノちゃんとサニーちゃんに付き合うように寝始めた。明日早くから始めるつもりなので、寝てしまうことは非常に正しい選択だと思う。

 

「フラン」

「何?」

「朝日が昇って少し、具体的には一時間経ったらパチュリーの指示に従ってください」

「うん、分かった。任せて」

 

そう伝えると、フランはすぐにパチュリーの元へ向かった。これでよし、と。

 

「それにしても、異変を起こすなんて馬鹿みたいですよねぇ」

「おい、今から起こす奴が何言ってんだよ?」

「私がいる前でよくもまぁそんなこと堂々と言えるなぁ、え?」

 

独り言のつもりで呟いたのだけど、妹紅と萃香には聞こえてしまったらしい。確かに、萃香は異変を起こした者だ。しかし、彼女にも当て嵌まることだ。

 

「言いますよ。だって、異変を起こして、それの原因となることは成功しないと碌な成果を得られない。紅い霧は晴れてしまうし、西行妖は九分九厘咲きで打ち止め。宴会は続かないし、『地上の結界』は…まぁ例外かな。結果論とはいえ、そもそも必要なかったし」

 

レミリア・スカーレットは紅霧で満ちた昼を遊ぶことは出来なかった。西行寺幽々子は春を掻き集めても一歩手前で西行妖の封印を解くことが出来なかった。伊吹萃香は無理矢理行わせていた宴会を強制的に終わらされた。上手くいけば目的は達成出来た。しかし、上手くいかなければそれまで。

 

「だからさ、そもそも異変を起こさないか、異変を目的達成後の事後処理として起こすか、確実に達成出来る状況で異変を起こす。これがあるべき姿だと思うんですよね」

「じゃあ幻香。あんたはどうなんだ?」

「無論、三つ目。一つ目は話になりませんし、二つ目はちょっと考えましたけれど、無理そうでした。…ま、三つ目と言ってもまだ微妙なところですが」

「ふぅん。ま、私達に任されたことはキッチリと熟すからな」

「わたしだって目的を達成するために出来ることを全てやりますよ。あらゆる手段を用意しておきますからね」

 

そして、目的の達成を覆い隠すために全く関係のないこともやらかす。どれがわたしに必要で、どれが不必要かを絞らせないために。

まぁ、つまりだ。わたしも盛大に遊ぶつもりでいる。必死になってやるよりも、そっちのほうが余裕が出来る。張りつめ過ぎず、緩め過ぎない。ちょうどいい緊張具合で。ふふ、楽しみだなぁ…。

 

「…『禍』」

「はい、何でしょうか?阿求さん?わたしに答えられることなら何でも答えますよ」

 

そんなことを考えながら、暇潰しに本でも読もうかと本棚へと歩く途中。阿求さんに呼び止められた。

 

「貴女は何をするつもりですか?」

「異変を起こすだけ。わたしに起こせる災禍を全部」

「ぜ、全部…?」

「そう、一つ残らず全部だ。アハッ、まずは鬼攫いの再来。次は何にしようかなぁ…?」

「どうしてそのようなことを…っ!」

 

憤る彼女を見ていると、面白くて吹き出しそうになる。予想通りのことしか言わない。実に人間らしいよ。一から十まで全部自分達は被害者だと言いたげなところが、特に。

 

「稗田阿求…、いや、人間。そうさせたのは貴女達だよ?自分で言うのも何ですが、わたしはかなり我慢したほうだ。夜な夜な攻められた時は一人で抑えた。そして『黙って里で縮こまってろ』という内容を天狗に言った。けれど、また噴き出した。もううんざりだよ。だからさ、受け身でいるのはもう止めた。『禍』と呼ばれるなら『禍』らしく、災厄の権化と言われるなら災厄の権化らしく、遠慮なしにぶちまけてやろう、ってね」

 

だから、わたしは言ってやる。心の奥底に押し込んでいたわたしの黒い感情を、貴女にだけは包み隠さず言ってやる。真実に虚構を混ぜ込んで、わたしは人間の悪役になってやる。

ズイ、と鼻と鼻が触れ合うほどに顔を近付け、囁くように言った。

 

「喜べよ、人間。これが貴女達がわたしに望んだ姿だよ?」

「そんなことが、許されるとでも思っているのですか!?」

「思ってないよ。思ってたなら、そんなことやらない。だってさ、災厄は許されるものじゃあないでしょう?」

 

眼を見開いて怯えるように後退る彼女に優しく微笑み、聞こえるかどうか分からないくらいの小さな声で言ってからその場を離れた。

 

「期待して待っててね。危殆に瀕する素晴らしいことが起こるから」

 


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