東方幻影人   作:藍薔薇

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第22話

「ここまででいいですよ。わざわざありがとうございました」

「いえいえ、これが私達の仕事ですので」

 

布団を魔法の森のわたしの家まで運んでくれた妖精メイドさん三人は、フワリと浮かび上がり、帰って行った。紅魔館からここまではかなり遠いから、相当疲れただろう。腕が。

レミリアさんとのお話が終わり、大図書館に戻ってから昼食――朝食と同じものが出た。フレンチトーストという料理だそうだ――を頂いてから五人の妖精達と布団を持った妖精メイドさん三人を引き連れて紅魔館を出た。五人の妖精達は、それぞれ充実した時間を過ごせたようで、その表情はかなり明るかった。特にルナちゃん。彼女がフランさんとどんなお話をしたのか聞いてみたが「私とフランとの秘密ですっ」と言われてしまった。フランさんのこと呼び捨て出来るくらい仲良くなるなんて、わたし、凄く気になります。レミリアさんのお願い(脅迫)があるからこれからも仲良くしていきたいからね。そして、霧の湖でその妖精達と別れて、わたしは妖精メイドさん達と帰宅したところだ。

とりあえず、布団を中に入れよう。今まで使っていた布団は、昔、人間の里で干してあった誰かの布団を勝手に複製したものなので、回収出来る。

さて、布団も替えたし、慧音のところに行って洗濯してもらった服を返してもらおう。血、ちゃんと落ちてるかなあ…。

そういえば、食糧はもうすぐ無くなりそうだった。慧音から少し貰えたら嬉しいけれど、少なかったら採集しないと。

 

 

 

 

 

 

「幻香か…。とりあえず中に入ってこれを読んでろ」

 

扉を開けた慧音が開口一番に言った。言われた通りに中に入って渡された紙を目に通す。えーと、何々…?

 

 

【文々。新聞】

【紅魔館にて吸血鬼が決闘か!?】

『紅霧異変』解決から間もない幻想郷。その黒幕レミリア・スカーレットさん(吸血鬼)の妹であるフランドール・スカーレットさん(吸血鬼)が妖怪と決闘を行っていることを発見した。

決闘の内容は、幻想郷で広まっているスペルカードルール。しかし、その中身は我々が想像するスペルカード戦とは違った内容であった。但し、ここで明記しておくが、記者である私はこの決闘を始めから見ていたわけではなく、決闘をしている途中から発見したことを承知してほしい。

私が最初に見たものは、妖怪が何処からともなく巨大な木を召喚したところである。その大きさは、樹齢二百年はありそうなほど。その巨木をフランドール・スカーレットさんへと放り投げたのだ。それに対し、フランドール・スカーレットさんは炎を纏う剣を召喚し、その巨木を一瞬で燃やし尽くした。その剣で妖怪に斬りかかったが、全く同じ剣を妖怪も召喚し、互いの剣を百数十合もの数を打ち付け合うほどの激戦を繰り広げた。

しかし、スペルカードルールの制限により互いのスペルカードの制限時間が迫り、別の行動へと移った。フランドール・スカーレットさんが四人に分裂し、妖怪に襲い掛かった。それに対し、妖怪は一瞬で弾幕を全て消し去って見せた。その隙を突いて攻撃をし、この決闘は終了した。

終了して少し経ったのちに、まずは勝者であるフランドール・スカーレットさんに今回の決闘に付いて聞いてみたところ、こう言った。

「勝ったには勝ったんだけどさー、勝ったって感じがしないんだよねー。一回も当てられなかったし。だから、また今度再戦したいかな。今度は勝つよ、私」

どうやら、相手はスペルカードを全て使い切って敗北したが被弾はしなかったようだ。

次に、決闘終了後すぐに去っていった妖怪にも話を聞くことが出来た。

「いやいや、あんなに強いとは思いませんでしたよ。今度やるときは私も負けていられませんね。アッハッハッ」

そう高笑いしながら月夜の輝く星空の中に消えていった。

互いに闘争心を燃やしている模様。今後の展開が気になるところである。(射命丸文)

 

 

ナンダコレ?ちょっと待て。事実と食い違いがあるぞこの新聞。

まず大きなところは、わたしはこの新聞記者さんなんか知らないし、話をしたこともない。しかも、わたし普段こんな口調で話さない…。そもそも誰よ、射命丸文って。

次に、わたしは紅魔館に戻った。何で帰らないといけないのよ。布団も本も置いて帰るわけないでしょう。…まあ、この新聞記者さんが知っているはずないか。

他には、巨木もレーヴァテインも召喚したわけじゃないし、百数十合も打ち合ってない。

ていうか、そもそも決闘じゃない。何で決闘になってるの?約束したから一緒に遊んだだけなのに…。どうしてこうなった。

あと、フランさんに取材したのも嘘っぽい。取材したなら、多分ルナちゃんが見ているはずだから。……もしかしたら、ルナちゃんとフランさんの秘密がこの新聞記者さんに会った事かもしれないけど。

あと、この記事と一緒に掲載されている白黒写真を見て気付いた。わたしとフランさんのレーヴァテインが丁度鍔迫り合いしているように見える写真。上方から撮られているこの写真だが、フランさんは背中が写っていて、わたしの顔が少しだが見える方向から撮られている。真っ白な肌、腰のあたりまである真っ白な髪の毛、白色と言われてもいいんじゃないかと思うほど薄い灰色の瞳。白黒だから分かりにくいが、わたしが知っているわたし本来の姿が写っていると思う。つまり、わたしを撮れば今まで誰も見たことがないと思っていたわたしの素顔が見れるということだろう。しかし、残念ながらこの写真は白黒。色が付けばいいのに。

そんなことを考えていたら、隣に服が置かれた。パッと見、血はちゃんと落ちているようだ。そのまま、上を軽く見上げると、笑顔の慧音がいた。しかし、雰囲気が怖い。

 

「まず、幻香は何で吸血鬼とスペルカードなんかやってるんだ?わたしじゃない別の妖怪、なんて誤魔化しはナシだ。大体、巨木も炎を纏った剣も近くにあったものだからな。この妖怪はお前の能力と同じだ」

「あー、えーと…確かにこの記事の妖怪はわたしです。えと、フランさんとは…、出会ったら仲良くなっちゃってですね、今度来たら一緒に遊ぼうってなって」

「あーそうか、まあ大体分かった。決闘っていうところは嘘なんだな。小癪にも『!?』を付けて誤魔化してるし。この新聞はたまに嘘しかない記事を書くが、この記事からは事実と虚構が入り混じっているように感じるな…。幻香、どれが本当でどれが嘘なんだ?」

「取材は受けてません。夜空に消えないで紅魔館に戻りました。わたしは召喚じゃなくて複製をした。百十数合も打ち合ってない。さっき慧音も言ったけど、決闘じゃなくて一緒に遊ぼうっていう約束。あとは、多分フランさんも取材を受けてない。このくらいかな」

「つまり、このスペルカード戦の内容は大体合ってるんだな?」

「んー…、そうとも言い切れませんけれど、外側から見たらこう見えていたのかも…」

 

わたし自身は、フランさんのスペルカードに対して心臓が縮み上がるような気分でやったのだ。禁忌「レーヴァテイン」は、複製が間に合わなかったら一刀両断、死んでいただろう。もう一つの禁忌「フォーオブアカインド」はそんなすぐに鏡符「幽体離脱・静」をしたわけじゃない。まあ、細かい差だけど。

 

「とりあえず、その炎を纏った剣で何合か打ち合ったんだろう?吸血鬼相手によく生きてられたな。吸血鬼の力は出鱈目だからな」

「一応手加減はしてくれてましたよ。多分。そもそも、一緒に遊ぶ約束なのに、怪我したら駄目じゃないですか」

 

まあ「当たらなければ大丈夫」とか言って振り回してきたけれどね…。

 

「まあ、吸血鬼と友達になったんだったら気を付けて仲良くしろよ。しかも、相手はあのレミリアの妹だろう?」

「そうですねえ…。レミリアさんからもフランさんを頼まれましたし」

「そうか。まあ、無茶だけはしないでくれよ」

「はい、分かってますよ。まあ、慧音に言われてちょっと落ち着きました」

 

そう言いながら、横に置かれた服を手に取り立ち上がる。そろそろ、お暇しようかな。あ、そうだ。

 

「慧音、出来れば余った食糧を貰えたら嬉しいんだけど」

「ん?ちょうど今日中に片付けようと思っていた野菜が一人では食べきれないと考えていたところだ。どうせだし食べていくといい」

「え?いいんですか?」

「もちろんだ。まあ、少し手伝ってもらうがな」

 

そう言われて、二人で調理台に立つことになった。

その調理中にこんなことを言われた。

 

「そういえば、幻香は夏祭りに参加するか?」

「夏祭り?なんですか、それ?」

「人間の里の住民が各所で屋台を開くんだ。そこでは、色々なものが売られる。他にも、射的や輪投げなんかも楽しめる。まあ、屋台を開くのは人間だけじゃない。例えば、夜雀が八目鰻屋台を開くぞ。同様に客も人間が多いが、妖精妖怪もいる」

 

ふむ、それは楽しそうだ。売られるものの中には何かいいものがあるかもしれない。

 

「面白そうですね。それはいつやるんですか?」

「明日、日が降りてからだ。で、参加するか?」

「参加したいですねえ。何か必要なものはあるんですか?」

「屋台を開くなら売り物だが、開かないだろう?ならお金だ、が…」

「え?お金?」

 

わたし、お金なんて一度も持ったことないです。一文無しです。

 

「どうしましょう…?」

「うーん、しょうがない。明日、祭りが始まる頃にここに来てくれ。少額だがあげよう。大事に使えよ?」

「分っかりました!」

 

その後、調理を終えて、一緒に食べる夕食は美味しかった。家に帰るためにここを出ようとしたら、胡瓜と玉蜀黍を数本貰った。感謝しかない。

明日の夏祭り、楽しみだなあ…。

 


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